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  • 8K最前線インタビュー 連載 第3回 撮影方法をこだわり抜いたNHK・8K番組
    自宅に居ながらルーブル美術館
    『ルーブル美術館 美の殿堂の500年』

    取材・執筆 / 松井泰裕(ホームシアターCHANNEL編集部)
    2019年10月28日更新

8K制作現場から高画質の映像を紐解く

9月から「BS日テレ 4K」が開局になり、全18チャンネルとなった「新4K8K衛星放送」。日本開催で盛り上がりをみせたラグビーW杯が4K8Kで放送され、新4K8K衛星放送の視聴可能機器の出荷台数は200万台(10月にA-PABが発表)に迫るなど、高画質な映像体験はいま大きなトレンドになろうとしています。
その高画質映像の最高峰となる“8K”を、世界で唯一放送するのがNHKです。8K放送開始からまもなく1年が経とうとしていますが、今回は日々進化するその圧倒的な映像世界を、NHK BS8Kで放送された大好評シリーズ『ルーブル美術館 美の殿堂の500年』の制作現場から紐解いていきます。

  • 8Kとアートの融合を推進する第一人者である株式会社NHKエデュケーショナル 特集文化部(美術) 専任部長 倉森京子氏(写真、左)、8K番組の制作を統括している日本放送協会 制作局 <第6制作ユニット>新領域開発 8K制作事務局長 村山 淳氏(写真、右)に、8K番組制作についてじっくりとお話を伺いました!

NHKとルーブル美術館で共同制作した『ルーブル美術館 美の殿堂の500年』(4本シリーズ)。NHKとルーブル美術館の親交は深く、8K放送の開局日には2016年制作の『ルーブル 永遠の美』も放送されました。

村山氏「8Kは世界最高の画質です。だからこそ“世界最高峰のコンテンツを残したい”という強い想いがあり、最高峰の美術館であるルーブル美術館と一緒に番組制作ができれば、ということから始まった企画でした。」

提案当初、ルーブル美術館側からのリアクションは薄く、8K番組制作の実現までに難航が予想されましたが、来日した責任者に8Kコンテンツを観てもらったことで状況は一気に好転。ルーブル側が“歴史的な文化財を8Kで残す意味がある”と意識を転じ、NHKとの共同制作が実現したとのこと。

  • 『ルーブル美術館 美の殿堂の500年』は、収蔵数68万点、ルーブル美術館500年の歩みを全4集でたどるシリーズ。共同制作ということで、休館日はもちろん平日の閉館時間にも特別に撮影許可が下りたとのこと。8Kならではのシビアな機材調整を行いながら、1日におおよそ1作品撮れるかどうかという状況下で番組が制作されています。
    Coproduction 8K NHK – Musée du Louvre

絵画も彫刻もさらに立体的に表現できる

肉眼では気がつかなかった新しい発見を与えてくれる緻密で高精細な8K映像は、美術作品と非常に相性がよく、細かいニュアンスまで堪能できます。

倉森氏「実は『モナ・リザ』は、ポプラの板に書かれています。また『聖母戴冠』は、本物の金やラピスラズリという蒼の宝石を砕いた絵の具を使って描かれています。ハイビジョンでは伝えることができなかった、そういった絵画の質感、さらには高精細な写真でもわからないような作品の空気感まで、8K映像であれば感じとることができますね。」

  • 広大なルーブル美術館の中でも、圧倒的な存在感を放つレオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』。普段は大勢の鑑賞者に囲まれていて、近づくことも困難な作品です。
    Coproduction 8K NHK – Musée du Louvre
  • 『サモトラケのニケ』は、クレーンなどの特殊機材などを駆使して、普段みられない角度から作品を撮影しています。8K映像により、潮風を伝えるようにはためく衣も鮮明に表現します。

8K映像は、彫刻作品に限らず絵画の撮影でも力を発揮します。動画で観ることは視覚から得る情報量が意外なことに多く、平面の絵画であっても臨場感が増す効果があります。そのため、本物の絵を前にしているような楽しみ方を提供できることが大きなメリットなのです。

村山氏「絵の具の凹凸や筆のちょっとした跡など、8Kの映像でしか表現できないようなディテールまで浮かび上がり、絵画の持っている“力”が不思議と伝わってくるんです。視聴する度、そのすごさに驚かされますね。」

  • 「小ギャラリー」の2階部分全体を占める『アポロンのギャラリー』。豪華な天井装飾の数々を、8Kの高精細な映像でじっくり堪能できます。
    Coproduction 8K NHK – Musée du Louvre

8Kならではの“引きの視点”に注目!

超高精細な表現が没入感を高めてくれる8K映像の世界。被写体を広角で撮ると空間全体もとらえられるため、その空間に居合わせているような体験を味わうことができます。制作現場でも、8Kの“引きの視点”の撮影を重視したことで新しい発見があったそうです。

倉森氏「ハイビジョン制作では作品を解説する際に伝えたい部分をアップにして、ナレーションが必要な尺ごとにカットを切り替えて紹介することが多かったのです。しかし超高精細な8Kであれば、引きの視点からでも作品を隅々まで見渡せるため、カットを切り替えないフルショットからこれまで気が付かなかったようなたくさんの情報が得られます。私たち自身も、8K制作を経験したことで“視聴者にもっと自由な視点から番組を楽しんでもらえる”ということに気付かされました。」

そのような8K映像は、やはり大画面でこそ真価を発揮するもの。また、8Kならでの豊かな情報量は高精細であるが故、ピント合わせも大変。視聴者が隅々まで作品を堪能でるように万全の体制で撮影されています。

倉森氏「8K番組に限っては、超高精細な映像ですので必ずフォーカスマンがついてピントを確認しています。もちろんピントが合うことが全て正解ではなく、ボカシも表現の一部ではありますが、今回は徹底的に打ち合わせをして、どのようにフォーカスの演出をするかを決めて撮影に臨みました。」

  • ルーブル美術館の中でも最大級の絵画作品であるジャック・ルイ・ダヴィッド『ナポレオンの戴冠』。人物はほぼ等身大で描かれているため、美術館でもその大きさのあまり全貌を把握するのは極めて難しい作品ですが、8K画面からは衣装の細部まで伝わってきます。
    Coproduction 8K NHK – Musée du Louvre

HDRとBT.2020で再現性も大幅に向上

8K作品の映像美は、解像度の高さもさることながら、HDR(ハイダイナミックレンジ)による高いコントラストやBT.2020による色域の広さにも注目です。

倉森氏「黄金の輝きが美しい『聖母戴冠』は、SDRでは黄色に見えてしまうかもしれません。HDRやBT.2020だからこそ、黄金ならではの輝く質感まで見えるのだと思います。」

  • 前期ルネサンスの宗教画の傑作、フラ・アンジェリコ『聖母戴冠』。惜しげもなく使われた黄金は、立体的な細工の質感もありのままに映し出されています。

HDRの効果は、黄金や宝石の煌めきを描写できることだけにとどまらず、SDRでは決して視認できていなかった景色も克明に残すことができるようになりました。

倉森氏「『ミロのヴィーナス』は大きな窓がある部屋に展示されていますが、その窓の向こうにはセーヌ川越しの建物が見えます。SDRだと白潰れしていた窓の向こうの建物が見えることによって、“ルーブル美術館はパリの街中にあるんだ”という感覚を視聴者の感性に訴えられたのではないでしょうか。美術作品とは直接の関係はない部分かもしれませんが、コンテンツの豊かさに与える影響は多大にあるでしょうね。」

実体験以上に楽しめるコンテンツに!

ルーブル美術館に行きたくても行けない方がたくさんいると思います。そんな方に『ルーブル美術館 美の殿堂の500年』はピッタリ。しかも、実際にルーブル美術館へ足を運んでも気が付かないような情報まで詰まっています。

村山氏「どうしてルーブル美術館は世界最高峰のコレクションを作ることができたのかを時代ごとに紹介しているため、ルーブル美術館へ行ったような感覚はもちろん、それをさらに超えて、まるで時代や空間を自在に旅しているような、実体験以上に楽しめるコンテンツになっています。8Kの番組だからこそできる“特別な体験”をぜひ味わってほしいです。」

  • 美術館内のグランドギャラリー。350メートルにも及ぶ長い回廊の壁を埋め尽くす名画の数々に圧倒されます。実際にルーブル美術館を歩いているような感覚を味わえます。
    Coproduction 8K NHK – Musée du Louvre

8Kだからこそ実現した、最高峰の芸術を高画質で堪能できる『ルーブル美術館 美の殿堂の500年』。8K番組は、想像を超えるほどの撮影時間と細部へのこだわりによって、ようやく一つの作品として完成するのです。このような世界最高峰の8K番組を日々放送しているNHK、ぜひ8Kの美しい映像を一度堪能してみてほしいです。

番組情報

『ルーブル美術館 美の殿堂の500年』
●放送チャンネル:
NHK BS8K 

●シリーズタイトル:
『ルーブル美術館 美の殿堂の500年』

「第1集 それはレオナルド・ダ・ヴィンチからはじまった」(59分)
12/3(火)午後7:00
12/5(木)午後9:00
12/7(土)午後5:00
12/9(月)午後3:30
12/11(水)午後2:00
12/13(金)午前11:00
1/2(木)午前10:00

「第2集 太陽王が夢見た芸術の国」(59分)
12/10(火)午後7:30
12/12(木)午後9:00
12/14(土)午後5:30
12/16(月)午後5:00
12/18(水)午後2:00
12/20(金)午前後11:00
1/3(金)午前10:00

「第3集 革命とナポレオンのルーブル」(59分)
12/17(火)午後7:30
12/19(木)午後9:00
12/23(月)午後5:00
12/25(水)午後2:00
12/27(金)午前11:00
1/4(土)午前10:00

「第4集 「永遠の美を求めて」(59分)
12/24(火)午後7:00
12/26(木)午後9:00
1/5(日)午前10:00

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