VGP phileweb

レビュー

  • FOSTEX「NF06」 FOSTEXの新スピーカー「NF06」はホームシアターでも使いたい次世代ニアフィールドモニター ウーファーは改良型HR形状、トゥイーターはチタン、底面はバスレフ構造

    取材・執筆 / 遠藤義人
    2024年2月5日更新

    • ホームシアター・コンシェルジュ
      遠藤義人

NFモニターの新世代モデルが登場!

フォステクスといえば、ユニットから自社生産できる日本が世界に誇るスピーカーメーカーであるフォスター電機のブランド。フォスター電機は、世界中の有名ブランドのユニットも数多くOEM生産しています。フォステクス創立50周年を迎えた2023年も、自作派の熱望により2015年の仕様を完全再現したスピーカーユニット「FE108ーSol」を追加生産して話題になったり、192kHz/32ビットDACを新規採用しながら、リーズナブルな価格を実現したUSB DAC「HP-A3mk2」や限定ヘッドホン「TH616」も大ヒットしています。

そのフォステクスが、2023年11月のInter BEEで世界初披露し、今年秋のリリースを目標に開発中なのが、プロ向け本格派パッシブ型ニアフィールドスピーカー「NF06」です。

  • ブックシェルフ型スピーカー
    「NF06」
    2024年秋頃発売予定のニアフィールドモニター
  • スピーカーユニット
    FE108ーSol
    胸のすくようなスカッとしたサウンドに感激!
  • USB DAC/ヘッドホンアンプ
    HP-A3mk2
    アクティブスピーカーと組み合わせてコンパクトなデスクトップオーディオに最適
  • 開放型オーバーヘッド型ヘッドホン
    TH616
    黒胡桃無垢材を削り出した限定モデル

完成間近のプロトタイプを初披露

Inter BEEで展示されていた「NF06」はプロトタイプ。とはいえかなり完成品に近く、2024年1月末にアメリカで開催された世界最大級の楽器展示会NAMM(National Association of Musical Merchants)ショウでの反応もフィードバックしつつ、細かいチューニングを経て2024年秋の発売を目指して最終調整中とのことです。

  • 外側に置かれているのが「NF06」。中央にあるのはアクティブスピーカー「NF04R

現時点でインピーダンスは8Ω、再生周波数帯域は40Hz〜35kHzとのことで、鳴らしやすくワイドレンジ。フォステクスらしい3次曲面にひねりが加えられたシワ構造をした振動板(HRダイアフラム)とUDRタンジェンシャル・エッジが、ロクハン(6.5インチ)サイズを超えた低域を再現します。トゥイーターはチタン。コンパクトなサイズながら、ホームシアターのブックシェルフ型のメインスピーカーとしても十分すぎる性能を持っています。

そんな「NF06」は、1999年に登場したニアフィールドモニターの初号機「NF-1」の系譜を継ぐモデル。「NF-1」はその後アクティブ化され「NF-1A」にも繋がっています。

さらに、NHKでも使われている30cmウーファーを搭載した3ウェイスタジオモニター「RS-N2」によって、「NF-1」とともにフォステクスのスピーカーはスタジオモニターとしての地位を確立しました。

  • ニアフィールドスピーカー
    「NF-1」
  • ニアフィールドスピーカー
    RS-N2

こうして多くのスタジオで活躍中の「NF-1」にそろそろリニューアルをという意味もあり、「NF06」が開発されているのです。

初号機「NF-1」からの進化をチェック

そんな視点で「NF06」を眺めると、初代「NF-1」の系譜を継ぎながら、いくつか異なる点も見受けられます。

「NF-1」のウーファーに採用されていたのは、建築構造力学を採用したHP(HYPERBOLIC PARABOLOIDAL/双曲放物面)振動板。それに対し「NF06」のそれは、HPに時計方向のひねりを加えた改良型HR(HP ROTATION)振動板で、最新の技術にアップデートされています。

  • 「NF06」のウーファー。振動板のエッジ素材は最新のノウハウを経てアップグレードされているといいます

紙の振動板を使い続ける理由は、何よりもプロ向けであることによる「正確性」と「メンテナンス性」。紙であれば、長年培ってきたノウハウにより、複合する素材の配合の仕方によって自在に音を作ることができるうえ、経年による素材劣化が少なく信頼性も高いというのです。

紙の振動板というと湿度の影響を大いに受けるように想像するかも知れませんが、フォスター電機は、泥はねが懸念される車載ドアのユニットすら紙で提供するほどのノウハウを持っており、まったく心配ありません。

トゥイーターもソフトドームではなく、一般ユーザー向けGXシリーズなどで使われたマグネシウムでもなく、チタン。これも長期の品質安定性を考慮したうえで、音を追求するためにチョイスされました。

  • 「NF06」のトゥイーター。カタチも、写真ではわかりにくいですが、銀杏の殻のような筋が入ったリッジドーム形状となっています

低音域を司るウーファーが高音域を司るトゥイーターより前にせり出しているのは、伝播速度が遅い低音域の送り出しタイミングを早めて視聴位置での到達時間を揃える(タイムアライメント)ため。ただし、ウーファー周りを一段せり出すだけでは下ぶくれに見えてしまうため、エンクロージャー上部をダイヤモンドのようにカットして全体のフォルムはむしろシェイプアップしています。

  • 「NF06」を上から見ると、せりだしたウーファーの上部がカットされているのがわかります

いちばんの注目点は、「NF-1」ではフロントにあったはずのバスレフポートが「NF06」では見当たらないこと。スタジオコンソールに埋め込んだりする使い方も考慮するとリアバスレフではないはずで、かといって密閉とは思えないと訊くと、張り出したエンクロージャーの下側に、まるでスポーツカーのエアインテークのような横長の開口部がありました。

この変更は、ニアフィールドモニターとしての音色を優先すると有利な手法とのこと。もっとも、背景には、昨今のスタジオではデスクトップ周りがシンプルになり、スピーカースタンドに置く使用スタイルが増えたこともあると説明してくれました。

  • 「NF-1」との大きな違いの一つ、バスレフポートは下側に配置されています
  • 背面のようす

シアターユースを想定して試聴してみた

コレはプロ用のモニターとしてだけではもったいない、高音質化が進んでいるホームシアターユースにも極上なのではないかと踏んだわたしは、東京・昭島にあるフォステクスの試聴室にお邪魔しました。

  • 試聴した機器はアキュフェーズのパワーアンプ「A-60」とプリアンプ「C-2800」、ソースは「DP-800」+「DC-801」
  • 「NF06」を上記システムで試聴

そこで耳にしたサウンドは、中域のリップノイズが立つようないわゆるカリカリの“アラ探し”用のフェティッシュなモニターというより、フラットでクセがなく、パースペクティブのように音場が広大に拡がる“新世代”リファレンスの姿でした。

もちろんモニタースピーカーとして「正確な再現性」は承前。それ以上に、どの位置にどの楽器がどんな音色で…という、引いて達観する美学が印象的。大袈裟ではなくスピーカーの存在が消え、音場が奥へ奥へと広がるさまは、まるで信州・安曇野の夜空に拡がる無数の星を眺めているかのようでした。と同時に、これで最新のドルビーアトモスサウンドを聴いたら、それこそ没入できるだろうな…とも。

「NF06」はロクハンサイズのブックシェルフスピーカー。であってもサブウーファーなど使わず単体で、質的にも量的にも十分な低域再現能力を持たせたい…そのためのアンダーバスレフだったのかと気づかされました。

  • 試聴させていただいたソフト。チューニングには様々なジャンルの曲を使うそうですが、とくにマゼール指揮・クリーヴランド管弦楽団SACDの定位と音場感は、空間のずっと奥に大型スピーカーがあるかのようなスケール感、そして各楽器の位置や音色が詳らかに指さしして目に見えるようで印象的でした

「NF06」は、プロ用モニター「NF-1」からの置き換えのみならず、いまや超ハイクオリティな音作りとなっている映画やゲーム、立体音響やマルチチャンネルソースにも使ってみたい! と思わせるものでした。

価格はペアで40万円ほどを想定しているとのこと。使っている材料からいくと「そのぐらいでいいよ」ということなのでしょうが、思わず「安い!」と声を上げてしまうほどの完成度。プライベートなホームシアター空間でひたすら音に没入したい人なら、ぜひとも自室に誘いたくなるに違いない逸品といえるでしょう。

お問い合わせ先