高度な専門知識でホームシアターマニアを唸らせてきたショップとして、私が真っ先に思いつくのが、愛知県・豊橋にある第一無線です。創業80年の老舗で、オーディオクラブハウスと、ホームシアターを中心とした本店が並んでいます。今回紹介するのは、オーディオビジュアルにおいて吟味した品揃えが充実した本店です。
意匠や機能に合わせて “おもしろい” 空間をつくる
「ようこそいらっしゃいました。どうぞどうぞ」代表の尾川晴彦さんが、いつも通りの柔らかい語り口で奥のシアタールームに迎えてくれました。
創業昭和19年。もともとオーディオビジュアルの知識が豊富ということもあり電子パーツの修理からオーディオ機器のレストアまでこなすこともあって人気のお店ですが、近年は団塊の世代を中心としたトレードインが活発だといいます。
一方ホームシアターは、依頼件数は減ったものの、スポーツクラブや大型商業施設、ショールームのサイネージなどは依頼が増加しているそうです。お風呂で大型テレビを観たいという方がいらっしゃれば、壁面をガラス貼りにしてテレビとグラススピーカーでシアターにしたり、中庭にサイネージのように映像を配置したり。尾川さんがそうした活動の中で痛感するのは “ブランディング” の大切さだといいます。
「販売する製品自体はどこでも買える商品ですが、わざわざ当店にご依頼いただけることへの努力は怠ってはいけないなと」
とくにホームシアターは、建物に備え付けるもの。建築は何十年もともに過ごす住処です。
「誰に企画デザインしてもらったかがとても大事。ホームシアターのインストールは、建物の設計図の段階から観察し、最後に機器を収めます。インストーラーは、その過程をずっと見守り続けるので、施工職人さんたちの真剣度もわかってしまうんです」
そのため、共同作業する設計事務所や建築業者、職人さんたちとの連携がとても大切だといいます。
「ホームシアターならではのおもしろいエンターテインメント空間にしたいと思っても、堅実な職人さんたちと組むと平凡な空間になってしまいがち。とくに若いひとたちは情報をたくさん持っているので、私たちのセンスも活かせるのですが…そんな葛藤を抱えながら、うまくバランスを取るのが醍醐味です」
売場では生活や文化背景からスタイル提案&実演も
シアタールームを出て、常時売り場にてお客さんと接している井川毅さんに話を聞くと、現場ならではの声が聞けました。
「いまのお客さまは、ディスクメディアにしか興味がない方と、ネット動画にしか興味がない方に大別されます。それに応じて、MAGNETARのUltra HDブルーレイプレーヤー『UDP900』であったり、Apple TV 4KにEDISCREATIONの光アイソレーター『FIBER BOX』の組み合わせをお薦めしたりしています」
そして、そうした機器選びのアドバイス以上に、実は世代ごとの文化的な背景を理解して接することを心がけているといいます。
「趣味の世界はひとそれぞれで『こんなことやっているのは自分だけだろう』と思い込んでいる方が多いんです。お客さまの話を伺って、わたしが知らないことに接すると勉強して…そうしたお客さまとのやりとりが、わたし自身も好きなんでしょうね。最近ではかつての名作がレストアされ、4K UltraHDブルーレイディスクとして続々発売されています。たとえば国内盤ではSDRでも海外盤ではHDRだ、といった情報をお客さまと共有しながら、いっしょに愉しんでいます。一例として黒澤明監督の『七人の侍』『用心棒、椿三十郎』はUK盤がHDRです。5月に発売される『蜘蛛巣城』もどんな画になっているのか楽しみです。社長には『いつも遊んでばかりで』といわれますが(笑)」
20代の息子さんの日々の生活からも学ぶことが多いという井川さん。店頭でそうした若い人たちと接していていちばん刺さるのはレコードだそう。
「日々スマートフォンで音楽を聴いている若い人たちに、綺麗なハイレゾ音源に続いてレコードを再生すると、レコードのよさが伝わるんです」
実際にデモしながら、終始対話を繰り返す井川さん。共通の趣味を一緒に愉しんでいる姿勢が伝わってきて、こちらまで嬉しくなってしまいます。じっくり静かに話を聞く代表の尾川さんとまた違い、ズバズバ意見を言ってくれる井川さんの対応もまた魅力なのです。

- 詳細は店舗ブログも参照
[店舗概要]
第一無線
愛知県豊橋市萱町17
営業時間:10:00 – 19:30
定休日:水曜日、第1・第3木曜日
TEL:0532-54-5245
http://www.daiichimusen.co.jp










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