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  • 今知りたい! 林 正儀のオーディオ講座 第14回
    「アンプのクラス・動作点」
    素子の動作点によってA~D級までタイプが異なる

    取材・執筆 / 林 正儀
    2023年12月4日更新

    • VGP審査員
      林 正儀

前回の記事>>>第13回「アンプのタイプ」種類と特長まとめ

動作点によってクラスが分かれる

今回はアンプの分類の2回目。「A級、B級…」というアンプのクラスについて学びましょう。「えっ、アンプに能力別クラスなんてあるの?」と驚いてはいけません。製品の優劣ではなくて、これは増幅素子として見た場合の「働かせ方」の違い。専門的にいうと「動作点」の違いで、そのような呼び方をするのです。アンプは電子回路ですから、ある程度のエレクトロニクス的な説明は我慢してくださいね。できるだけ易しく、特性図は最小限にして解説しましょう。

増幅素子といえばトランジスタや真空管ですね。ここでは主にアンプのファイナル段(最終段)に用いる増幅素子がどんな風に働くのか、考えましょう。「そりゃもう、小さい信号から大きな信号まで、直線比例で増幅するんでしょ?」。はい、そのとおり! と言いたいところですが、実は違います。実際は理想的な増幅特性からかなりズレて、ひねくれたカーブになっているのです。増幅特性がまっすぐなのは、中間の直線部だけとなっています。

  • 左図のような直線で表せるのが、理想的な増幅特性です。実際は直線ではなく、カーブしています。歪みが少ないほど“よい音”だとされています。
  • 実際の増幅特性を表した図。アナログアンプのなかでも、A級は直線のみ使うのが特徴で、B級はリニアに立ち上がっていく点を動作点としています。D級はノンリニアな増幅を行います。

低歪みの高音質を求めるならA級動作

さあここで、A、B、C、Dのクラス分けが出てきます。S字カーブの中にそれぞれの動作点を示す文字が打ってありますが、A級は直線のまん中に動作点をもってきた一番ぜいたくな使い方。ここであれば、入力信号が+/-にふっても直線の範囲内なので、出力が歪んで音が割れることはありません。非直線による歪みがないわけです。

このシンプルなA級動作は音がよい反面、弱みもあるのです。振幅がとれないために、小さい出力しか得られません。それにいつも一定の動作点をキープするために、たっぷりと大きなバイアス電流(アイドリング電流といいます)を流し続けなければなりません。クルマでいえば暖気運転のようなもの。A級アンプは発熱量が多くて当然です。「卵焼きができちゃうよ」などと、悪口がきこえてきそうです。

効率よく大出力を得やすいB級動作

そんな小出力・大電流のA級動作に比べて、もっと効率のよい動作はないものかと、考え出されたのがB級動作です。直線部をあきらめて、特性の曲がりっぱなをB点としていますね。ここであれば、どんなにバットをぶんぶん振り回しても飽和点まで余裕しゃくしゃく。つまり入力信号のフルスイングに対して、大出力が得やすいわけです(A級ではフルスイングすると頭がつぶれます)。

おまけにアイドリング電流が少ないから効率は高いし、熱もほとんど出ない。となると、よいことずくめのように思われますが、「でも、これじゃあ信号波形の半分しか増幅しないんじゃないの?」、と、そこに気がついたあなたはアンプのセンスのある人です。そもそもB級アンプは1個のトランジスタでは成立しない回路方式なのです。それと立ち上がりの歪みの問題もクリアする必要があり、そのためにプッシュプル(PーP)という、2個ペアで動作させる回路方式を必ず採用することになります。この話はまたのちほど。

ちなみに、A級とB級の間にAB級というのもありますよ。両者のいいとこどりをした中間的な動作方式で、音質もよく大出力もOKという欲張りアンプ。実際の製品ではAB級アンプが多いようです。

タイプによって回路方式にも差異が

バイアス「ゼロ」をカットオフといい、C級やD級ではさらに左の方に動作点がきてカットオフ以下となります。こうなるとアイドリング電流は流れず、歪みは多いけれど効率の高い増幅となるわけです。一般にオーディオ用として使えるのはA級、AB級、そしてB級まで。C級は高周波数の通信用などで採用されるものです。D級動作については、第15回のデジタルアンプのところで改めて解説します。

つまり、結局のところA級、B級…という分け方は素子の動作点をどこに持ってくるのか、ということなのです。それぞれに得手不得手があり、A~Dの順で効率が高くなる反面、歪みもどんどん増えてくるのです。効率をとるか、歪みの少なさをとるか。それによって回路方式が違い、アンプとしてのキャラクターが異なってきます。

A級とB級はまさに対照的です。小出力で高品位な音がほしければ、A級アンプが有利です。ただしムダ(アイドリング)が多いため、出力はB級の1/4ほどしかありません。A級で50Wといえば相当な大飯食いで、ヒートシンクや天板に手が触れられないほど熱くなりますね。いいかえると同じ規模の電源を積んで、クラスBのアンプをつくると4倍の200W相当となるのです。これは小電流・高出力タイプの代表。AB級なら100W前後といったところでしょう。

またA級アンプを名乗る製品でも、20W程度の小出力時はA級で、大出力になるとAB級にオートで切り替わるダイナミックバイアス方式のアンプも存在します。これに対して切り替えなしのA級は「純A級アンプ」などといって区別することがありますね。

  • オーディオアンプのA級とB級、さらにAB級の特長をまとめてみました。AB級はA級とB級の間に動作点を置き、効率と音質をバランスよく両立した中間的な動作方式。B級アンプより歪みが少なく、A級アンプよりも効率よく大出力を得られます。

プッシュブル動作のしくみと特長

では次にシングルとプッシュプル動作です。シングル動作を独身とすれば、共働きの夫婦のように、2人ペアで増幅動作を完結させる回路がプッシュプルといえるでしょう。実際にはA級アンプがシングル動作の代表です。交流信号の上下(+と-)を1本のトランジスタで動作させるのですから、シンプルといえばこれ以上シンプルなアンプはないわけです。

さてプッシュ(Push)とプル(Pull)の動作。この押したり引いたりをひとりでやるのは大変と、作業を2人の分業にしたらどうでしょう。下の図(b)プッシュブル動作では、上下にTR1とTR2がペアを組んでセットされていますね。始めの半サイクル(+)はTR1が「ボクの番さ」とばかりに働くと、その間TR2は休んでいます。次の半サイクルではこれが逆転。寝ていたTR2がムクリと起き出して働き、今度はTR1がおネムの時間。その繰り返しです。このTR1とTR2の動作をつなぎ合わせることで、大きな出力が得られるという仕組みです。

  • プッシュブルの場合は2つのパーツが作業を分担しているので、より大きな出力を得ることができます。ちなみに2つのパーツはトランジスタのタイプが違っていて、上がPNP型、下がNPN型となっており、矢印マークの向きが違います。

でもON/OFFのつなぎ目がスムーズにいきません。バトンタッチはそう簡単ではないのです。B級のプッシュプルでは、クロスオーバー歪みというヒゲ状のスイッチングノイズが出たりしますね。スイッチが離れる瞬間にスパークが飛ぶようなもの。ここがB級アンプのウイークポイントです。そこでAB級アンプでは、アイドリング電流を多めに流すことで信号の上半分と下半分の一部を交差させ、クロスオーバー歪みを打ち消しているのです。

ではA級の場合シングル動作しかないかというと、実際の製品ではほとんどがA級のプッシュプルアンプ。これは2個のトランジスタが常にカットオフしない条件にて動作するので、寝たり起きたりがありません。いつも起きた状態なので、「ほいきた!」と立ち上がりが早く、バトンタッチがうまくいくわけです。A級アンプが素直で音がよいといわれる理由は、非直線歪みやこうしたクロスオーバー歪みがないためなのです。

さあA級、B級、AB級の違いや特徴がわかりましたか? アンプ選びのポイントにもなりますね。実際の製品では、さらに大出力を得るために上下に2個ずつ使ったパラプッシュ(計4個)や3本ずつのトリプルプッシュ(計6個)がありますし、さらにずらっとパワートランジスタを並べた8パラ、12パラなんていう超ド級アンプもあるわけです。

今回は難しい用語もたくさんでてきました。初級から中級という感じでしたね。でもここである程度のしくみを理解しておけば、あとがラクになるのです。次回もお楽しみに!

次回の記事>>>第15回「デジタルアンプの動作・仕組み」

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