昨年夏、ビジュアル・アートに革命をもたらしたブライアン・イーノによる音と光のインスタレーションとしてスタートした、京都が舞台の音楽の祭典「AMBIENT KYOTO(アンビエント・キョウト)」。その2回目が現在開催中です。本来12月24日までの会期が好評につき延長され、12月31日(日)まで行われることになり、いてもたってもいられず京都まで足を運びました。
坂本龍一「async(アシンク)」6.6.5.2.1.2chイマーシブサウンド!
小員が年の瀬に時間を作って足を運んだ理由は、坂本龍一の2017年のアルバム「async」をベースに、長年の盟友・高谷史郎による映像と、ZAKによる立体音響で表現した、インスタレーション作品「async – immersion 2023」を体感したかったから。
京都新聞ビル地下1階の広大な印刷工場跡には、幅26.4mのLEDパネルに、一部テキスト部分を除いて音とは“同期しない(async)”、坂本のスタジオの機材やピアノ、庭、空・雲や水の波紋、アイルランドやモロッコ、東京、ドイツの風景、東日本大震災の津波で被災したピアノなどをモチーフにした、高谷による映像のほか、35本ものスピーカーを使った音声が流れています。
- 巨大な横長映像を正面にベンチが並べられ、観客は1ロール1時間ほどのリピート作品を眺めます。スピーカーは、スクリーン上と後方上に6台づつ、その前に5台とサブウーファーが6台
- 後方上に取り付けられた10台のNEUMANNのスピーカーは基本的にステレオ再生。ただし曲によっては他のスピーカーと連動しており音が動き廻る仕掛けとのこと
これらは、ブルーレイ版「async」(5.1ch DTS-HDMA)収録のものと同様の素材がもとになっていると思われますが、改めて本展のために再編集されたもの。
とくに「6.6.5.2.1.2ch」システムのイマーシブ音響は尋常じゃありません。「async」ブルーレイ版の没入感もなかなかのものですが、地下1階のコンクリート打ちっぱなしの会場のあちこちに設置されたスピーカーから個別に放たれる異なる実音源に打たれる体験は、ほんとうに自然界の音さながらの「アンビエント・ミュージック」です。
CDなどの複製物で音楽を広く共有することを生業としてきた坂本が「async」で見いだした“音楽の一回性”の価値、つまり「芸術作品が、このときこの場所だからこそ放つ輝きを持つ」というイミを、見事に表現したインスタレーションといえるでしょう。
- 「async」にはCDのほか、LP、ブルーレイがあります。坂本の言う“音楽の一回性”の考えは、生物学者・福岡伸一との対談「音楽と生命」にヒントが表れています
入場にあたり、和泉侃によるオリジナルフレグランスを吹き付けたカードが手渡されます。「聴覚のための香りのリサーチ」と呼ばれるこのフレグランスは、音楽作品の体感を高めることをテーマに、嗅覚から聴覚へアプローチする香りとなっており、帰京してからも脳に刻まれることとなりました。
音響ディレクション:ZAK
映像プログラミング:古舘健
サウンド・プログラミング:濱哲史
音響:東岳志、山本哲哉、渡邉武生、細井美裕
照明ディレクション/デザイン:髙田政義(RYU inc.)
美術造作:土井 亘(dot architects)
展示設営:尾崎聡
グラフィック・デザイン:南琢也
プロデューサー:竹下弘基(TOW)、中村周市(Traffic)
プロジェクト・マネージャー:關秀哉(RYU inc.)
企画協力:Kab Inc./KAB America Inc./Dumb Type Office Ltd.
「アンビエント・ミュージック」とは
「アンビエント」とは私たちの生活の周りにあるものであり、「アンビエント・ミュージック」はそこに流れる、いわば環境音楽。パイオニアも1999年「サウンドバム」プロジェクトとして世界各地の音を収録、聴かせる活動を続けてきた歴史がありました。
- 「サウンドバム」のCD “Traveling with Sounds”(廃盤)
アンビエント・ミュージックは、オーディオ再生のようにスピーカーに対峙するというよりは、場の雰囲気を体感するという聴き方を提示してきます。それゆえに、聴く時点での聴く側の“姿勢”、ひいては社会情勢までもが、作品性をどう味わうかに関わってくるのが面白いところです。再生反復であるオーディオ再生と、生演奏の一回性、その狭間にあるアンビエント・ミュージックの関係性を考えるいい機会ともなります。
残りの会期もわずかですが、ぜひチャンスをみつけて京都に足を運んでいただきたいと思います。その価値は十分ありますよ!
「AMBIENT KYOTO 2023」開催概要
AMBIENT KYOTO 2023(アンビエント・キョウト2023)
参加アーティストおよび会場:
[展覧会] 坂本龍一 + 高谷史郎:京都新聞ビル地下1階
コーネリアス、バッファロー・ドーター、山本精一:京都中央信用金庫 旧厚生センター
[ライブ] テリー・ライリー:東本願寺 能舞台 日程:10月13日(金)、14日(土)終了
コーネリアス:国立京都国際会館 Main Hall 日程:11月3日(金・祝)終了
[朗読] 朝吹真理子:ポッドキャスト配信
会期:2023年10月6日(金)- 12月31日(日)9:00〜19:00(入場は18:30まで)
チケット:一般¥3,300/専・大学生¥2,200/中高生¥1,800 小学生以下無料
チケット購入ウェブサイト:https://ambientkyoto.com/tickets
公式ウェブサイト: https://ambientkyoto.com/
X(旧Twitter): https://twitter.com/ambientkyoto
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