前回の記事>>>第14回「アンプのクラス・動作点」A~D級までタイプ解説
アナログアンプとデジタルアンプの違い
さあ今回は、アナログアンプとデジタルアンプの違いを学びましょう。ディスクでいえば、LPレコードがアナログで、CDやSACDは「0、1」(2進数)のデジタル方式というのは常識ですね。アンプにもアナログアンプとデジタルアンプの区別があるのです。
昔からあるのがアナログアンプ。黙ってアンプといえば、アナログアンプを指すくらいポピュラーですね。音楽信号のアナログ波をそのままの波形で大きくしてスピーカーに送り込むものは、第14回でお話ししたA級もB級も、また一番多いAB級だってすべてアナログアンプなわけです。真空管アンプはもちろんアナログアンプの代表!
一方デジタルアンプはというと、音楽信号を「0、1」のパルス信号、つまりデジタル信号として扱います。でも最後はアナログ信号に戻してスピーカーを鳴らすのです(デジタルのままではスピーカーは働きませんからね)。実際はアナログアンプのA級、B級よりさらにうんと深いカットオフ領域というエリアを使って「0、1」信号をそのまま大きくして、スピーカーを動かすだけのエネルギーを得ているのです。
- アナログアンプは、アナログ信号にそって増幅する際に、うまく活用されずに失われてしまう動作が発生しますが、デジタルアンプの場合は、デジタル信号のまま扱い、無駄なく高効率に使うことができます。
デジタルアンプは高効率&低発熱がメリット
デジタルアンプの流れは、入力信号をいったん0、1のパルス信号へ変換し、パルス信号のまま増幅して最後にアナログの音楽信号のみを取り出し、増幅された信号の再生を行う…というもの。デジタルアンプのカギを握るのは、スイッチングとD級アンプです。D級アンプそのものがスイッチングアンプで、その前に必ずデジタル信号に変換するためのPWMなんていう回路が入っているのが特徴。PWMはパルス幅変調で…なんていう難しい話は後回しにして、まずは簡単にデジタルアンプの長所、短所をまとめましょう。
- D級動作を採用しているデジタルアンプの長所と短所をまとめたもの。高効率で小型軽量化を実現する反面、ノイズが発生したり、電源の変動に弱いといった点があります。
デジタルアンプのメリットは高効率、低発熱、小消費電力なこと。結果としてアナログアンプよりずっと小型軽量になりスマートです。オーソドックスなアナログアンプではそうはいきません。アナログアンプは一般に効率が悪く、ムダになった電力がすべて熱に変わるのであんなに熱くなり、またボディ自体もヘビーで大きいのです。これはA級もB級も基本的にはそう変わりません。
アナログアンプは増幅素地のリニアな領域を使うために、そこできれいなサイン波の増幅が行われている以外の部分では、すべて熱となって失われるのが欠点といわれています。「えっ、リニアだからこそきれいな増幅ができるんじゃないの?」。わっはっは。それは増幅の古典というもので、素子にはリニア(直線的)に働く動作と、もうひとつノンリニア(非直線)にはたらくスイッチング動作というふたつの“顔”があるのです。その代表が「D級動作」です。
- スイッチングとは、電源をON/OFFするためのスイッチ回路のことです。そして、ON/OFFの比率によって生じる、平均出力の変化を利用したのがD級アンプ。D級アンプとは、スイッチングアンプを意味しています。
PWM方式とD級動作による増幅の仕組み
ここでデジタルアンプの一般的な構造を確認していきましょう。入力部のPWM変調回路、続いてD級増幅のパルスアンプがきて、最後に元のアナログ信号をとりだすLPF(ローパスフィルター)がくるという「ホップ/ステップ/ジャンプ」の三段跳び動作。これがデジタルアンプの基礎と覚えましょう。
まずPWMです。アナログの信号のままだとその後のD級アンプの良さが活きないので、まずはアナログの元信号を0、1に変換してあげます。これがスイッチング動作です。スイッチングは単純に電源をON/OFFするためだけのスイッチ回路と考えてよいでしょう。スイッチは閉じるとONになり、最大の電力が供給され、開くと0となって電力消費はゼロとなります。
「でもスイッチングしただけじゃ“0と1”になるだけじゃないか?」という疑問が湧くかもしれませんが、それだけじゃありません。実はONとOFFの時間(パルス幅)を信号の大きさと対比させながら、リアルタイムで変化させているのです。幅はWIDTH、MはMODULATIONで変調。これをPWM方式、パルス幅変調と呼んでいるのです。
こうして得られたPWM波はいよいよD級アンプに入ります。ここからが巧妙です。D級アンプの出力はプラスの最大電圧である+Vか、マイナスの最大電圧である-1Vの2値しかとりませんね、2値とはデジタルそのもの。ではどうやって中間の細かいレベルのアナログ信号を表すのでしょうか。
例えば出力0は、+Vと-Vとを短い周期で交互に出力します。出力を慣らしてみれば(これを平均化といいます)、+/-ゼロとなる。もうわかりましたね。+を出力したければ、ONの割合が多くなるようにする。また-の信号についても同様で、正負のスイッチングを小刻みにして出力をコントロールするのです。スイッチングといっても、手で入り切りするようなレベルではなく、数百キロからメガヘルツオーダーの神ワザ的な高速動作なのです。これがPWMの役目。このPWMパルス信号のままD級増幅するのがデジタルアンプの真髄といえるでしょう。
- デジタルアンプの動作をイメージした図です。初めにPWM変調回路で入力信号をデジタルに変換、続いてD級動作の増幅回路を通り、LPFによって元のアナログ信号をとりだす流れになっています。
高品位パーツの採用と電源対策が不可欠
最後の関門が、+/-にちぎれたパルス状態の音楽情報をどうやって復元するのかです。D/Aコンバーターなんて使いません。D級アンプの後にくるのは、実はスピーカーのネットワークのところでも学んだL(コイル)とC(コンデンサ)のLPF(ローパスフィルター)だったのです。
この回路は緩和作用みたいなもの。変化を慣らす働きがあるので、パルス幅の微細なところは「まあこんなもんでしょ」と出力をケチり、パルス幅の広いゆっくりした動作のときに大きな出力として取り出す役目です。これできれいに増幅された元のアナログ波が得られますね。
デジタルアンプの内部を見た人は、巨大なコイルが出力段のところに入っているのを覚えているでしょう。デジタルでいかにハイスピードな信号がつくられようとも、音質を握るのは出力部のコイルやコンデンサー。それに電源の出来不出来とスイッチングによる高周波ノイズにどう対処するかどうかにかかっています。アナログアンプ以上にパーツへの気配りや電源対策が必要なのです。
第16回ではアンプの端子の話とつなぎ方を学びましょう。