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レビュー

  • ECLIPSE「TD508MK4」 イクリプス新作スピーカー「TD508MK4」をデンソーテン本社で聴いた! よりリアル志向のサウンドになって設置性も高まった

    取材・執筆 / 井田有一(ホームシアターCHANNEL編集部)
    2024年3月7日更新

12年ぶりの新作「TD508MK4」のプロフィール

  • スピーカーシステム
    ECLIPSE
    TD508MK4
    ¥74,800(税込/1本)

イクリプス・ホームスピーカーは一貫して「正確な音の再生」を掲げて開発を行っています。その最新作「TD508MK4」が2024年2月に発売されました。本機は8cmフルレンジユニットを搭載する「508」の名を冠したモデルの第4世代。税込で1本74,800円という価格ゆえに、オーディオやホームシアター問わず使用できることから、イクリプスの主軸といえるスピーカーです。実に12年ぶりに刷新された本機の魅力を深掘りするため、神戸市にあるデンソーテン本社を訪ね、開発者の柴田清誠氏にお話を伺いました。

  • 【取材対応してくださった方】
    株式会社デンソーテン
    ホームオーディオビジネス推進室
    製品開発プロ
    柴田清誠氏
  • 取材は神戸市にあるデンソーテンの本社内にある試聴スタジオにて実施しました。

まず、TD508MK4のシリーズにおける位置付けは、エントリー・ミドルグレードです。ハイエンド帯に10cmユニットを採用する「TD510ZMK2」(275,000円/税込/1本)と「TD510MK2」(137,500円/税込/1本)を、エントリー帯に小型サイズでデスクトップスピーカーとしても利用できる7cmユニット搭載の「TD307MK3」(33,000円/税込/1本)をラインアップします。

TD508MK4の開発のコンセプトは大きく2つ。「上位モデルのテクノロジーを踏襲した『正確な音』のさらなる進化」「角度調整機構と天井・壁取付け構造による設置自由の実現」です。

まずは正確な音の進化について、イクリプスの特長とあわせて紹介していきましょう。

イクリプスの特長1「卵型の外観デザイン」

正確な音の再生に欠かせないのが卵型のシェルデザインです。他にないアイコニックな外観ですが、これは美しさのためだけに採用したのではありません。音の波形を正確に再現するために選択した、いわば機能から導き出されたカタチです。インパルスと呼ばれる音の最小単位を正確に再生することを大切にし、フルレンジユニット1発にこだわっているからこそ到達した、機能美に溢れたシェルデザインなのです。

  • 「エッグシェル・コンストラクション」と呼ばれる独創のフォルム。内部の定在波の抑制や前面のバッフルで発生する回折現象を抑制することで、ドライバーから発生する音に影響が出ないようにする形状です。

イクリプスの特長2「内部でドライバーが浮いている!?」

ドライバーユニットから発生する音波が内部には振動として伝わりますが、それがキャビネット全体に伝わることで、キャビネット自体から音が再生してしまう現象を俗に「箱鳴り」といいます。イクリプスでは正確な音には不要な箱鳴り現象を低減するため、独自の「仮想フローティング構造」を採用します。

具体的にはドライバーユニットを5本の支柱を持つ「ディフュージョン・ステー」で固定しています。さらにキャビネットとドライバーユニット、ディフュージョン・ステーそれぞれの接点で振動をカットする特殊素材を採用することで、ドライバー由来の振動がキャビネットに伝わるのを抑制しているのです。

  • 振動対策を施した5本のステーでドライバーユニットを支えることで、あたかも浮いているかのようにレイアウト。不要振動の低減は、イクリプスのスピーカーに共通する設計手法です。(写真はTD712zMK2)

イクリプスらしい音の強化とさらなる低域再生の挑戦

TD508MK4で新設計したポイントを開発者の柴田氏に伺うと、「『正確な音の進化』のため、まず強みを強化しています。具体的には空間再現性や明瞭度、スピード感をさらに向上すべく、ドライバー設計など細部までこだわり抜いています。一方、強みだけでなく弱みの克服、つまり低域再生の強化も行いました。フルレンジユニット1基で再生しますので、その限界を突き詰めていこうと低域再生は重点的に取り組みんだポイントです」と語ります。

とはいえスペックだけ比較していると、TD508MK4は8cm径のグラスファイバー・コーンという前機種と同じ振動板を採用していて、どこが改善点なのかわかりにくいのも事実。その点を柴田氏に伺うと、「ドライバーは振動板以外にエッジやキャップ、ダンパーなど、大きく9つのパーツに分類され、そのすべてをTD508MK4用にリファインしています」とのことでした。

  • TD508MK4のドライバーユニット。8cmグラスファイバー・コーン振動板を採用しますが、形状をMK4用に設計し直しています。

新しくなったパーツの中で、音に大きく影響したひとつが「ダンパー」です。ダンパーとは振動板の背面に配置するサスペンションのような役割を担うパーツです。もちろん振動板の振幅と一緒にダンパーも動きますので、形状や素材によって振動板が振幅する幅にも影響が出ます。TD508MK4では、前機種と比較して形状を変化させることで、音圧の改善、低歪を実現したそうです。

  • 写真中央の茶色のパーツがダンパーです。よく見るとドライバー中心部と外側とで波の形状が異なっています。前機種では均一だった波を変更したことで、最大振幅や「直線動作領域」と呼ばれる「歪まずに動作できる幅」を拡大させています。

もうひとつ音に大きく影響したパーツがあります。それが「ボイスコイル」です。線材を4N銅(99.99%の高純度銅)にしたり、巻幅を変更したり、線径を上げたりしています。細かいところでは、ボイスコイルのボビンを補強するために通常クラフト紙を巻くそうですが、TD508MK4ではシリカ含浸したセルロースナノファイバーを採用。その効果として、低域の厚み、中高域の歯切れのよさを改善したそうです。

「音決めは様々なパーツの組み合わせを比較検討することが大切です。理想の音になるように、測定はもちろん、試聴テストも繰り返して吟味を重ねています」と柴田氏は解説してくれました。

  • TD508MK4(左)とTD508MK3(右)。一見すると差がわかりにくいですが、スピーカーとベースとのつなぐネック部分が変更され、剛性が高められています。また、スピーカーの外形も5mmほどアップし、容積が400cc増えたことで、より豊かな低域再生も実現させています。

取り付け角度をフレキシブルに調整できる

さて、イクリプスといえば、高い設置性も魅力です。ホームシアターで、壁や天井に取り付けるスピーカーとしても定番です。もともとスピーカー部の角度調整の幅は大きかったのですが、MK4に進化して、さらに設置性が高まり、壁、天井問わず0〜90度まで設定できるようになりました。また取り付け時に、これまでは専用のブラケットを用意する必要がありましたが、それも不要になり、取り付け作業もシンプルになりました。

  • ベースに対してスピーカーの向きを前後反対にも取り付けることができます。そのため角度をフレキシブルに調整でき、壁、天井設置問わず0〜90度まで設定できるようになりました。

ネックとスピーカー部の調整方法も簡略化されています。以前は六角レンチで固定する方法でしたが、手で調整できるネジを使用する方法になっています。安全面のために、レンチを使った増し締めは必要ですが、簡単にスピーカー部を仮止めできるようになったのは、インストーラーの声を反映した結果だそうです。

  • 角度調整用のネジ。

「ドルビーアトモス環境をつくる際、天井スピーカーはユニットが真下に向くように設置するのが理想とされています。そのため90度まで角度調整ができるようにしたいと考えて設計しました。前機種は天井取付け時で10〜-75度、壁取付け時で20〜75度までの設定でしたので、より柔軟な設置方法を選択できるようになりました」(柴田氏)。

編集部が実際に聴いた音の印象は?

今回の取材は開発途中のサンプル機を使用して、ステレオ再生で前機種TD508MK3との比較試聴を行いました。前機種のMK3は空間再現性の高さが売りだけあって、スピーカーの存在を感じさせずに左右スピーカーの中央にボーカルが見事に定位します。設置の都合でセンタースピーカーも置いてあったのですが、まるでセンタースピーカーが鳴っているのかのように錯覚するほどでした。前に出るボーカルの背後に生々しく楽器が浮かび上がり、これが12年前のスピーカーなのかと驚きました。比較しなければ、MK3でもじゅうぶんに満足できる自分がいました。

しかし、TD508MK4は確かな進化を実感できるサウンドです。まず、高い空間再現性の向上という意味では、バシっと中央に揃う定位感はそのままに、聴感上のS/Nが高くなった恩恵もあり、音場が透き通るように自然に広がります。付帯音も少なく、ドラムのキックはドンという低域が深く、それでいて素早く収束します。楽器帯の音も団子にならず、一音一音がくっきりと聴こえます。実に解像度の高いサウンドです。ボーカルはクールな印象ですが、ドライではなく瑞々しさがあります。テイラー・スウィフトのような現代的なPOPSとの相性もよく、歯切れのよさが実に心地よいものでした。

TD508MK4は幅185mm、高さ289mmと一般的なブックシェルフ型スピーカーと同じくらいのサイズです。トールボーイスピーカーのようにフロア置きで使いたい場合には、タオックが展開している専用スタンド「WST-C60EC」(33,000円/税込/1台)の利用がお薦めです。また、サイズ的にデスクトップで使うのもお薦めです。小音量にしても音のバランスが崩れませんので、ホームシアターの新定番としてはもちろん、それ以外にも様々なシチュエーションで利用できる、まさに「万能」と呼べるスピーカーだと感じました。

  • スピーカースタンド
    TAOC
    WST-C60EC
    ¥33,000(税込/1台)

2024年3月、イクリプス「TD508MK4」を7.4.6chで試聴できる体験イベント開催!

SPEC

  • スピーカーシステム
    ECLIPSE
    TD508MK4
    ¥74,800(税込/1本)
    カラーバリエーションはブラックに加えてホワイトもあります。

SPEC ●型式:フルレンジ・バスレフ型 ●ドライバー:8cmグラスファイバー・コーン・フルレンジ ●再生周波数帯域:50〜27,000Hz(-10dB) ●能率:82dB/W・m ●許容入力(定格/最大):17.5W/35W ●インピーダンス:8Ω ●角度調整:通常時/-20〜35度、天井面取付時/0〜90度、壁面取付時/0〜90度 ●外形寸法:185W×289H×264Dmm ●質量:約5kg

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