※こちらの記事は、映画『オッペンハイマー』　本編の内容について触れている箇所がございます。ネタバレを含みますので、ご注意ください。

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• 『オッペンハイマー』　
  ●監督:クリストファー・ノーラン ●出演:キリアン・マーフィー
  ●公開情報：3月29日(金)、全国ロードショー　IMAX劇場 全国50館同時公開
  ●配給：ビターズ・エンド 　ユニバーサル映画
  第96回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、撮影賞、編集賞、編集賞の7部門受賞。
  © Universal Pictures. All Rights Reserved.

※こちらの記事は、映画『オッペンハイマー』　本編の内容について触れている箇所がございます。ネタバレを含みますので、ご注意ください。

クリストファー・ノーランの新作『オッペンハイマー』に私が抱いた最大の関心そして危惧は、ノーランが原子爆弾の発明そして運用という事象に悪魔的な美を見出し、ファンタスティックな映像に昇華させる誘惑に屈しはしまいかということでした。どれほど恐ろしく凄惨なものであっても、その中に美をみいだすのが、視覚芸術家の性（サガ）だからです。欧米その他諸国にとって原爆は戦略軍事的、政治的観念のなかにあります。しかし、私達日本人にとってだけ原爆は事実であり具体なのです。私達はスクリーン上に巨大な炎が開花するのを正視することはできません。

私の危惧は杞憂に終わりました。映画『オッペンハイマー』で原子爆弾が炸裂するのは、ニューメキシコ州の実験施設でのいちどだけ。広島長崎への原爆投下はいっさい映像に描かれません。第二次世界大戦後に繰り返された水爆実験も映像に登場しません。約三時間という長い尺の映画でトリニティ実験はビジュアル上のクライマックスを構成しますが、スペクタキュラーなシーンはこれっきり。この自制に私はクリストファー・ノーランの高度なバランス感覚をみます。彼がCG嫌いなこともあるのでしょうが、『オッペンハイマー』は派手なデジタルの見せ物ではありませんでした。

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• 日本でもファンの多いクリストファー・ノーラン監督。先日発表された、第96回アカデミー賞では監督賞を初受賞しました。原子爆弾の開発に携わった科学者の苦悩というテーマを、スペクタクルに陥ることなく描きました。
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『オッペンハイマー』は、評伝映画という点で異色のノーラン作品かというとじつはそうでありません。アウトサイダーの孤独を描いた点で『ダークナイト』、向こう側の世界に足を踏みいれた者が見た光景を描いた点で『プレステージ』、『TENET テネット』、『インターステラー』と通じ合います。主人公オッペンハイマーはいち科学者であることを貫こうとしますが発明は合衆国政府に奪われ、広島長崎の数十万人の死者を生みだします。第二次世界大戦が終結し冷戦構造が始まるとより強力な水素爆弾の開発を命じられますが、オッペンハイマーは「私の手は血塗られている。」と拒否、トルーマン大統領の不興を買い、しまいには対ソ協力者の容疑をかけられ査問公聴会への出頭を命ぜられます。本作は、世界大戦と冷戦の二十世紀という荒野のさまよい人を力強い筆致の映像で描いた骨太な映画です。先入観を持たずにご覧になることをお薦めします。

クリストファー・ノーランの近作はデジタルでなくフィルムシューティング、IMAX上映を前提に重要なシーンをIMAX70mmフィルムで撮影しています。IMAXレーザー、IMAXデジタルシアター上映、IMAXレーザーGTテクノロジー上映館でご覧になることをお薦めします。公開に先立ってアメリカ盤4K Ultra HDブルーレイで映画を予習してみました。

『オッペンハイマー』公開劇場一覧はこちら

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• 『オッペンハイマー』（アメリカ盤）※日本語字幕はありません
  ●製作:2023年／米 ●ジャンル:ドラマ ●本編ディスク:181分、スコープ、HDR10 ●本編音声:英語DTS-HDマスターオーディオ5.1ch、スペイン語DTS5.1ch、フランス語DTS5.1ch

映画『オッペンハイマー』は物語が時系列にそって進みません。映画（Motion Picture）という芸術が時間運動であり、モンタージュや逆行といった非直線性を活かすことがクリストファー・ノーランの作劇術で本作も例外でありません。人生の出来事の時系列をシャッフルしたもうひとつの理由に、オッペンハイマーが探求したものが数万分の一秒の中の出来事であり、言い換えると彼がみつめていたのは〈永遠〉でした。かれの精神は通俗的な時間のなかになかったのです。

カラー映像とモノクロ映像が混在し、頻繁に入れ替わります。ロバート・ダウニー・Jr.演じるルイス・ストローズ中心のシークエンスでモノクロになることに気付きます。純粋にいち科学者の立場を貫くオッペンハイマーに対し、権力に仕える科学官僚のかれはオッペンハイマーの好一対の「陰画」なのです。ここでのロバート・ダウニー・Jr.はスーパーヒーロー映画のかれと違う抑制した演技がみごとです。

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• エンドクレジットの最後に「この映画はすべてフィルムで撮影された。」という文言が見えます。少しでも条件のいい映画館（設備）で鑑賞するのがお薦めです！ 撮影は、IMAX撮影の名手ホイテ・ヴァン・ホイテマ（写真左下、カメラを覗く人物）。本作でアカデミー撮影賞を受賞しました。
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• 水爆実験を巡ってオッペンハイマーと対立することとなるルイス・ストローズ原子力委員会委員長を演じるのは、アイアンマンでお馴染み、ロバート・ダウニー・Jr.。大橋先生も称賛する今回の演技で、アカデミー助演男優賞に輝きました。
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劇場もアメリカ盤のパッケージも、音声はドルビーアトモスでなく、4K Ultra HDブルーレイではDTS-HD5.1CHが採用されています。本作はLFEの使用機会が非常に多く、家庭で見る場合は、サブウーファーの使用をお薦めします。筆者はDTS-HDをNeural:Xのイマーシブサウンドにアップスケールして視聴しました。ロスアラモスの荒涼とした原野、主人公を苛む心の内圧の表現が多チャンネル化で大きく進展します。

本作は原子物理学のイメージ映像がしばしば挿入されます。CG嫌いで知られるノーランのこと、フィルムの光学処理（アナログVFX）で作り上げたのでしょうか？ 『2001年宇宙の旅』でダグラス・トランブルが手掛けたスターゲートを思い出させる素晴らしい映像で、特典映像としてこれだけ連続してみられたらと願うほどです。

本映画「オッペンハイマー」は全篇が見どころです。その一方、ニューメキシコ州ロスアラモス実験場でのトリニティ実験シーンにビジュアルのパワーを集中した感があります。4K Ultra HDブルーレイのチャプター13、完成間近の原子爆弾の実使用を懸念するオッペンハイマーをよそに、ロスアラモス実験場で準備が加速していく様がモンタージュされ、緊迫感が高まります。

チャプター14（１：４６：１０）、1945年7月16日夜更のトリニティ実験は、カウントダウンから爆発の閃光、以後無音となって当事者の息遣いだけが聞こえ、遅れて紅蓮の炎、次にきのこ雲が見上げるような高さでスクリーン上に立ち昇ります。十数秒後に爆発音が視聴室をどよもし衝撃波が揺さぶります。このシークエンスもCGでなく光学的手段で製作したものと推察されます。映画のエンドクレジットにCGアーティスト名の列記がないのです。しかし、ドラマが緊迫の度を高めていくのはこのあと。

チャプター15（２：０７：５６）、公会堂に集まった民衆が足踏みで英雄を迎えますが、彼の心の中にすでに罪悪感が芽生えています。無音状態ののちに不安をかもす低音、女の悲鳴が聞こえ、画面に閃光が走り溶けていく女、画面に死の灰が降り注ぎ、心の内圧の高まりを表現した重低音が連続するなか、足元に黒こげの死体が横たわる幻視シーンが積み重ねられていきます。

これくらいにしておきましょう。3月29日の劇場公開まであとわずか。あいにく米国盤の4K Ultra HDブルーレイディスクには日本語字幕がありませんが、予習をしてからIMAXシアターに乗り込むのもいいでしょう。映画は見て体験しなければはじまりません。近年最大の問題作があなたの参加を待っています。

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• 原子爆弾を開発した理論物理学者、オッペンハイマーの苦悩を重厚感ある映像と音響で表現しています。オッペンハイマーを演じたキリアン・マーフィーはアカデミー主演男優賞を受賞しました。
  © Universal Pictures. All Rights Reserved.

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• 開発の舞台はニューメキシコのロスアラモスの荒涼とした原野。そこにある実験場でのトリニティ実験シーンは、本作のビジュアル面におけるクライマックスです。
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オーディオ・ビジュアル評論家、大橋伸太郎先生の自宅ホームシアターを拝見！

3月29日の劇場公開に先立つ3月25日、特別先行上映となる「トリプル“TOKYOプレミア”」の開催が決定しました。大橋先生もおすすめする「IMAX版」、フィルム撮影にこだわるノーランの映像を特別な質感で鑑賞できる「35mmフィルム版」、最先端技術による映像と音響でかつてない没入感を味わえる「Dolby Cinema(ドルビーシネマ)版」の3つの劇場と上映形態で開催されます！ 先行上映が３つの劇場で同日同時刻開催されるのは史上初。開催される劇場とスケジュールは下記をご参照ください。IMAX版か、35mmフィルム版か、ドルビーシネマ版か、お好きな上映形態を選んで、ぜひ足をお運びください！（編集部）

チケットの発売は3月19日(火) 0:00より各劇場ホームページにて受付予定。
詳細は映画公式サイトからチェックしてみてください！　『オッペンハイマー』公式サイト

●IMAX版特別先行上映

日時：3月25日(月)　19:00開演
会場：TOHOシネマズ新宿
TOHOシネマズ新宿HP

●35mmフィルム版特別先行上映

日時：3月25日(月)　19:00開演
会場：109シネマズプレミアム新宿
109シネマズプレミアム新宿HP

●Dolby Cinema版特別先行上映

日時：3月25日(月)　19:00開演
会場：新宿バルト9
新宿バルト9HP