アナログとデジタルで信号の処理が異なる
さあ今回は実践的な話で、光ディスクプレーヤーの端子とそのつなぎ方についてです。CDプレーヤーやSACDプレーヤーの内部の仕組みは第20回で学んだので、ディスクの情報を読み取ってから出力するまでの流れはわかりましたね。
早速CDプレーヤーから、背面端子を覗いてみましょう。プレーヤーなので色々な機能を持ったアンプとは違い、シンプルそのものですね。アナログ出力と、デジタル出力については同軸と光の2系統を持つタイプがポピュラーで、通常使うのはアナログ出力の方です。読み取ったCDのデジタル情報はプレーヤーの内部でA/D変換され、もとのアナログ音楽信号としてこの端子から出てきますから、そのままRCAのピンケーブル(ラインケーブル)で、アンプのCD入力につないであげればよいのです。
- CDプレーヤー側のD/Aコンバーターを使用して、CDプレーヤーからプリメインアンプへとアナログ接続する場合と、CDプレーヤーから外部のD/Aコンバーターまでデジタル接続し、そのD/Aコンバーターでアナログ信号に変換し、プリメインアンプへと接続するのとで、音を比較することができます
出力レベルは一定(ラインレベルにて規定)で、ボリュームはアンプ側での操作になりますが、中には出力レベル付きの端子を持つ製品もありますよ。さらに端子の形も通常のアンバランス型とは別に、XLRのバランス出力を装備している場合もあります。これはよりノイズに強いバランス伝送が可能です。アンプまでの距離が遠い場合などに有利ですね。
一方デジタル出力の方はどうでしょう。同軸はCOAX.(コアキシャル)、光の方はOPT.(オプティカル)などと記載されています。いずれもD/Aコンバーターの前から、0、1のデジタル情報のまま取り出すのですが、このままアンプにつなぐことはできません。通常のオーディオアンプにはデジタル入力がないからです。前回も話したとおり、この場合は外部に単体のD/Aコンバーターをつなぎ、アナログ音声に直してからアンプのライン入力端子などにインプットすればよいのです。
デジタル信号は1本のケーブルで伝送が可能
ところで、アナログ伝送ではL/Rという2本のケーブルでステレオ信号を送るのに、なぜデジタル伝送の場合にはケーブル1本で済むのでしょうか。「そりゃデジタルからだよ!」では答えになりません。
デジタル伝送の場合は、もとのアナログ波形をサンプリングという処理によって、左右別々にトビトビの情報としてピックアップしているのです。その際LとRをそれぞれ「1、2、3、4……」とピックアップするのではなく、上下(LとR)を交互にスイッチングするように拾い出す。「L1、R2、L3、R4、L5……」といった具合です。
この交互のデジタル信号はケーブル内を「L、R、L、R……」と仲よく交互に並んで伝わっていき、最後にD/A変換される際に「L、君たちは左だよ、R、君たちは右だよ!」という感じで、正しくチャンネル配分されてステレオ再生するのです。デジタル伝送のもとになるサンプリングについては、第22回に詳しく解説します。
- アナログ伝送は、左右の独立した音声を別々のケーブルで送るのが原則です。実際に音楽を聞いていると、左と右とでは楽器の位置や音そのものが違って聞こえます。デジタル伝送の場合は、1本のケーブルで左右の音声信号を伝送できます
SACDプレーヤーを使ったマルチシステム例
次にSACDプレーヤーです。CD/SACDプレーヤーでも、2ch専用モデルであれば、CD専用プレーヤーの場合と基本な端子や接続方法は同じです。問題はSACDのマルチチャンネル再生のできる、5.1ch対応プレーヤーの場合です。
ここで注意したいのは、アナログの出力端子が、ステレオ用のL/Rと、マルチチャンネル出力との2系統になっている点です。通常のステレオアンプで2ch再生をするだけならば、5.1ch出力に何にもつなぐ必要はないのですが、せっかくSACDのマルチに対応するプレーヤーなら、ここはぜひ5.1chのサラウンド再生に挑戦したいもの。
5.1ch対応プレーヤーでの再生にあたり、SACDのフォーマットでは、100kHzまでの高帯域信号がサブウーファーを除く5本のスピーカーへ送り出されます。サブウーファーへは100~120Hzの超低域信号のみが出力される。これはホームシアターなどのマルチチャンネル再生と同様ですが、SACDはあくまで音楽再生なので、全てのディスクが5.1chとは限りません。サブウーファー信号を省いた5.0chや、センターなしの4.0chなど、色々なパターンがありますよ。
ではアンプをどうするかですが、ホームシアターを楽しんでいる人なら簡単です。AVアンプと5.1chのスピーカーが用意されているので、プレーヤーとAVアンプのアナログマルチ端子同士を6本のピンケーブルでつなぐだけ。本数が多いので接続ミスには注意が必要です。ステレオ用の同じケーブルを3組用意して接続しましょう。
でもケーブルを6本なんて大変だなあ。デジタル1本で簡単につなげないのでしょうか。できます! HDMI端子を搭載しているAVアンプであれば、接続することができます。また、i-Linkや同じメーカー間のローカルなインターフェースとして、デノンのデノンリンクやアキュフェーズのHSリンクなども使用できます。
というわけで一般的にお勧めなのは、アナログの5.1ch。デジタル伝送は、AV用ということを承知の上で、HDMI接続で行うのがベターでしょう。プレーヤーについては、SACDマルチも映像付きソース(DVD)もこなすユニバーサルプレーヤーでもOK。この場合はピュアダイレクトなど映像OFFの機能で、純度の高いサウンドが得られるでしょう。
ITU-R配置で音の包囲感をステップアップ!
最後にSACDマルチでの、スピーカー配置の研究です。大ざっぱにいってしまえばホームシアターのシステムをそのまま使えばOKということですが、実はSACDの場合はある決めごとがあるのです。ITU-R配置って聞いたことがありますか? ITUとは国際電気通信連合。そこで推奨するのは、別名「サークル配置」とも呼ばれるものです。
一般のAV配置が長方形の部屋の四隅を基本にスピーカーを並べるのに対して、ITU-R配置ではコンパスで円を描くように、リスナーから各チャンネルへの距離をイコールにとります。さらに正面からみた各スピーカーの開き角まで、センターとフロントL/Rとは各30度。リア2基は各100~120度となるよう規定されています。実際にはフロントの3本が近く、リアがぐっと広がっている感じです。
- ITU-R配置は設置場所が限られる家庭ではちょっと実現しにくいですが、これはSACDの制作現場の配置なので、無理にあわせることもないのです。ホームシアターと兼用で、AVアンプの自動音場補正を使ってきちんと調整をすれば、十分にSACDらしい自然な包囲感が得られるはずです
次回はサンプリング周波数と量子化ビット数、クロックなどについてじっくり解説しましょう。