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レビュー

  • KRIPTON「KS-55HG」 映画も音楽も本格派に。クリプトン「KS-55HG」で構築するコンパクトなステレオ・ホームシアターのススメ デスクトップもいいけれどリビング大画面にも

    取材・執筆 / 遠藤義人
    2025年1月24日更新

    • ホームシアター・コンシェルジュ
      遠藤義人

リビングに大画面を迎えたユーザーから、インテリアを阻害しないコンパクトで映像に釣り合うシンプルなオーディオシステムのオススメをよく尋ねられます。そんなとき私は、のちのちサラウンドを組む予定がない方にも、サウンドバーではなく2本のスピーカーからなるステレオシステムから始めることを薦めています。ここでは「ステレオ」の意味、オーディオの愉しさをシンプルに味わえるうえ、のっけからクオリティが高くさまざまなシーンに使い回せる1台として、KRIPTON(クリプトン)のスピーカーシステム「KS-55HG」を紹介します。

  • スピーカーシステム
    KRIPTON「KS-55HG
    ¥OPEN(直販ECサイト価格¥142,780/税込)

密閉型のノウハウを活かしたアンプ内蔵モデル

クリプトンのスピーカーは、わたしが学生のころ一世を風靡したビクターの「SXシリーズ」や「Zeroシリーズ」を開発した渡邉勝さんが礎を築いた製品群で構成されています。同社がスピーカースタンドやインシュレーターといったアクセサリーも広く展開していることから、いい素材や原理原則に則った愚直なものづくりの礎がうかがえます。

ぐるり厚手のアルミが覆うエンクロージャーは、中身が凝縮され実重量よりズッシリとして剛性感があります。小型密閉スピーカーで培ったノウハウが生かされている印象です。

  • アルミニウムの円筒形エンクロージャーは外形寸法109W×159.5H×203.4Dmm。コンパクトな中にクラスDアンプなども内蔵ゆえ、約2kgという実重量よりズッシリ感じます
  • Tymphany社製30mmリングダイアフラム型トゥイーターと、64mmハイレゾ対応コンケーブ・メタルフルレンジ型ウーファーの2ウェイ。各ch、Lowに35W、Highに35WのクラスDアンプでバイアンプ駆動
  • Rch側に入力端子が。USB Type-B(2.0)/光デジタル/ステレオミニを本体に装備するほか、Bluetooth 5.1による無線接続にも対応

本体にディスプレイはありませんが、Rchには必要にして十分なLEDインジケーター群があり、現在の状態を確認できます。

  • LEDのシグナルで情報を知らせてくれます。レゾリューションインジケーター(オレンジがDSD、グリーン1つは48kHzまで、96kHzでは2つ等)の下に入力インジケーター。ボリュームを上げると入力インジケーター群が上手(かみて)に、下げると下手(しもて)に流れるのが洒落ています
  • マグネットキャッチのサランネットを付けるとこのように
  • (写真左)必要にして十分な赤外線リモコン/(写真右)制振効果に定評のあるネオフェード・カーボンマトリクス三層材に、滑り止めのOリングを取り付けたインシュレーターフットが本体と一体化しており、置き台の影響を受けにくい設計

ニュースや相撲中継で「すぐさま声がいいことがわかる」

まず「KS-55HG」をスクリーン下のAVボードに直置きし、テレビ代わりのプロジェクターLGエレクトロニクス「HU915QE」の光出力と繋いで映像作品を観てみます。

  • LRスピーカーの間は専用の有線ケーブルで接続。3mほどあるので大画面と組み合わせても余裕
  • Lchの背面はRchとの間をつなぐシリアルケーブル状の専用ケーブル端子のみ。電源ケーブルは不要

すると、すぐさま声がいいことがわかります。ニュース番組の女性のアナウンスは、声帯の違いまで明瞭に描き分けながら、サ行がキツくなりません。相撲中継ではアナウンスの男声が分厚くて深く「KS-55HG」の中音域の充実度がわかります。一方、力士の張り手がパチパチ弾ける音もリアルで、高音域の繊細な表現力もうかがえます。

観客のわあっという声援は2chステレオなのにサラウンドのような奥行き感をともなってクリア。比較的硬目の反射音がふわーっと回る印象で、会場の福岡国際センターはたくさんの観客が入っているにもかかわらず結構ライブな環境だろうなということまでわかります。

映画は音楽モノも戦争モノも音の魅力がアップ

続いて、プロジェクターと、MAGNETARのUltra HDブルーレイプレーヤー「UDP800」とを本機につないで映画作品を観ていきましょう。音声はプロジェクターからの光出力を受けています。

  • 試聴時の設置イメージ。映像にはぼかし加工を入れています

エイミー・ワインハウスの伝記的映画『BACK TO BLACK』(海外盤ブルーレイ)。室内ライブで結婚報告するエイミーが幸せいっぱいに歌う「(There Is)No Greater love」と、その後夫ブレイクが逮捕され屋外スタジアムで自虐的に歌う「Me & Mr.Jones」を「Me & Blake」にする替え歌のコントラストが際立ちます。ライブ会場のエア感の違い、艶やかでふっくらした歌声とキレ気味にシャウトするかすれた無機質な歌声…いずれもクリアながら刺々しさや誇張感が一切なく、音楽的で透明感のある高音域や、バックの演奏との遠近感も適切。カリカリと特定の音を分析的に聴かせるタイプのサウンドとは真逆です。

架空のアメリカ内戦を描いた『CIVIL WAR』(海外盤Ultra HDブルーレイ)では、さすがに戦車の重低音までは出ませんが、その分、乾いた銃撃の音、記者の興奮した呼吸、負傷者の呻き声がクリアで、冷徹かつ不気味に響き、えも言われぬシニカルな味わいです。

ネットワーク音楽再生も楽しむ

こんどは「UDP800」のネットワーク再生機能を使い、宅内NASの音楽ファイルを再生。ここでもプロジェクターを介して光デジタル接続で「KS-55HG」から音楽を再生します。

内蔵するDACの特性にもよると思うのですが、この光入力からの、ピアノなどアコースティック楽器の音色はなめらかながらクリーン&クリア。格別アナログっぽい味付けは感じませんが、誇張感のないナチュラルで透明感のある高音域と奥行きのある音場が特長で、リスニングポジションがAVボードから3メートルほどでややオフセットした場所にいても、しっかり聴きとれる浸透力があります。

そのサウンドは、キレキレの打ち込み系の曲を圧力で押し切るというよりも、ナチュラルなバランスで艶のある高音域から繋がるように中低域をクリアに聴かせ、帯域を欲張りません。誤解をおそれずに言えば、フルレンジと2ウェイのいいとこ取りしたようなナチュラルサウンドです。

いろいろ聴いて意外と曲の魅力を引き出していたのが80年代一世を風靡したロックバンドDURAN DURANが分裂した片割れArcadia。本家DURAN DURANよりちょっと高尚なシンセロックを演出しているのですが、どうしても目立ってしまうシンセよりも、代わりに入った土屋昌巳のメロディアスなギターに妙に耳が向くのです。それほどに音楽的。

  • クリプトンのスタンド「SD-5」に置くとさらにクリアに聴きとれます

MacとUSB接続してハイレゾ再生。Qobuzともマッチ

次に場所をデスクトップに移し、Apple「MacbookAir(2022、M2)」とUSB接続して音楽再生を楽しみます。再生アプリはAudirvana。

  • Apple「MacbookAir(2022、M2)」とUSB接続
  • まず宅内NASのファイルをAudirvanaアプリを使って再生します

第一印象はとても静か。至近なのにSNがいいのが分かります。また、高音域を繊細に再現するのにサ行が耳に付くことなく、とてもマイルドです。たとえば、大貫妙子のDSD64『Tema Purissima』では、若い大貫の少し揺らめく儚げな声がしっかり中心に立ち、ハープやトライアングルなど繊細なアレンジがその背後をぐるりサポート。レースのカーテンのようにフワリ広がります。

  • 大貫妙子『Tema Purissima』(『PURISSIMA』より)
    (p)(c) MIDI INC.

次に配信を。AudirvanaからQobuzを選びます。もともとQobuz自体が縁取りのない自然な音という印象で、お気に入りのサービス。そのナチュラルトーンはクリプトンのテイストにも通ずるところがあり、なかなかにマッチします。

  • Audirvana経由でQobuzをつかい、いわゆる80年代POPSを試聴

これまで聴いてきた印象から打ち込み系の激しいものよりも、アコースティックのバンドモノなんかがとくに気持ちよさそうだと考え、いわゆる80年代POPSをさまざま聴いてみました。

Huey Lewis & The News『I Want a New Drug』(192kHz/24ビット)、Christopher Cross「Ride Like the Wind』(96kHz/24ビット)などは、ボーカルの声質とバックバンドのバランス、奥行き感が絶妙で、世界観をよく表現しています。Lionel Richie『All Night Long』も「KS-55HG」がカリビアンな打楽器の細かい配置までつまびらかに再現してくれるので、仮にボーカルがなくてもノリノリで楽しめます。

このように「KS-55HG」は、凝ったアレンジの作品ほど高音域に含まれる繊細な仕掛けを拾って再現してくれるので、音楽のエッセンスを存分に堪能できます。それでいてキツい音がないので長く聴いても疲れません。Qobuzのような配信で次々と流すのにはピッタリです。

iPadと繋いで手軽に動画再生

製品の肩書きが “ワイヤレス・コンパクトオーディオ” という「KS-55HG」。カジュアルな再生も試してみます。Apple「iPad(第10世代)」をBluetoothで繋ぎAmazonPrimeVideo『沈黙の艦隊』を再生。

iPadとのBluetooth接続はAAC。潜水艦やまなみの圧壊音がリアルで、大沢たかおや夏川結衣のセリフも十分クリアです。もっとも、USB Type-C端子を持つiPad(第10世代)とUSBで直接接続してみると、この二人のセリフ使いにいっそう温もりと厚みが出て、沈着冷静なキャラクター設定が際立ちます。劇伴オーケストラもぐっと重心が下がり重厚感が出てきます。

  • クリプトンのUSBケーブル「UC-HR」をUSB Type-BからUSB Type-C変換端子で接続
  • Apple「iPad(第10世代)」をBluetoothで繋ぎ、映像配信サービスで映画作品を試聴

BluetoothでLDACは凄かった

「KS-55HG」のBluetoothは一般的なSBCのほか、さきほどのiPadのようなAppleのAAC以外にも、apt-Xなど広範なフォーマットに対応しています。

ソニーのハイレゾ伝送規格LDACにも対応するので、ソニーのUltra HDブルーレイプレーヤー「UBP-X800M2」からのLDAC接続を試してみましょう。これならネットワーク上の音楽ファイルも、別室にあるレコーダー内の録画コンテンツの音声もワイヤレスで楽しめます。

  • 「UBP-X800M2」とBluetooth接続

NAS内の音楽ファイルAlanis Morissette『Ironic』を聴きます。冒頭アコースティックギターとともにゆったりアラニスが “皮肉な出来事” を切々と語るソフトなパートと、ドラムスらが一斉に加わってアラニスがセンターに鼎立して、こちらに向かってパワフルに癖のある喉声がダイレクトで生々しく放たれるサビの緊張感、そして最後にまた「そうは言ってもね」と懐柔する下りでフワッと広がりとろける音場感のコントラスト。ガチャガチャ喧しくなりがちなサビもポイントを押さえてスムーズにまとめ、リラックスさせる下りとの差異を丁寧に再現してくれます。

もっとも、先ほどのウォームテイストで中低域厚めな光接続よりも、クリアさではこのLDAC接続の方が引き立ちます。

映像作品の印象も同様にクリア。K-POPの祭典『2024 MAMA AWARDS』では、司会の男女のスピーチが明瞭。一方で、京セラドーム大阪のホール感は両方のスピーカーの外側まで豊かに広がり、BIGBANGが登場したときの悲鳴にも似た大歓声ですら決して耳に痛くなく、会場の大興奮と熱狂を伝えます。

リビングからデスクトップまで使い方いろいろ

このように、シンプルながら豊富な入力を持つ「KS-55HG」は、リビングからデスクトップまで多彩な用途が想定できます。

リビングで使う場合、テレビ再生は光、音楽はBluetoothと決めてしまい、リモコンの入力で切り替えるスタイルがシンプルで使いやすいように思います。光接続はとてもウォームでクリプトンらしいサウンドですが、LDAC接続のシャープな音も捨てがたい。ちなみにBluetoothは最大9台までペアリングしておけます。

一方、音質はUSBがもっとも能力を発揮する印象なので、デスクトップ周りをシンプルにしつつ高音質もねらいたいなら、最上の選択肢の一つであることは間違いありません。

  • テーブルトップに置いても低音が反射しづらいようにやや上方にスラント。もっとも、できればスタンド設置がお薦め
  • Rchを付属ACアダプタと接続。サイズはよくPCにある一般的なサイズよりやや小さめ

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