ホームシアターユーザーであれば、意外に出費が大きいのがスピーカーケーブル。サラウンドのほかにトップスピーカーまで加わるとかなりの長尺が必要となり、2chオーディオユーザーよりもはるかに出費がかさんでしまいます。そのため、どこに重きを置いて投資するかは切実な問題です。ここでは、SUPRA(スープラ)ならびにSAEC(サエク)ブランドからそれぞれ3モデル、計6モデルの比較検討をおこなった拙宅のスピーカーケーブル交換を、試聴インプレッションと合わせてお届け。まずはSUPRAの3モデルからご紹介します(SAEC編はコチラ)。
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好みや環境に合わせ重視したいポイントを見極めよう
ホームシアターユーザーにとって、ケーブル代はばかになりません。チャンネル数だけのスピーカーケーブル、それに加えてセパレートAVアンプですと同ペアのラインケーブルだって必要です。そのなかで、どこに重きを置いて投資するかは切実な問題です。
拙宅でも長年課題としていたスピーカーケーブルの交換に着手。“サウンドの好み” を重視し、かつて職場としていた雑誌社やオーディオ評論家先生宅で聴いて比較的好みだったスウェーデンのSUPRAを候補にしていました。
わたしもかつてはたいへんなケーブルマニアで、「勉強勉強」と自分に言い聞かせながら電源やインターコネクトケーブルなど含め、日本で取り扱いのなかったブランドを海外から個人輸入したりしていました。
なかでもSUPRAは、わたしにとってたいへん馴染みのあるケーブルブランド。クセがないのにちょっと心地よくてリッチで優しい、という “ずっと一緒にいて落ち着く伴侶” とでもいいましょうか、どんな試聴機にもよく馴染み、編集部員時代は定番中の定番として使っていました。
そんなわけで、今回スピーカーケーブル入れ替えのタイミングでSUPRAにしようと決めていたものの、どのグレードが拙宅に合うかはかりかねていました。そこで同ブランド製品を取り扱うサエクコマース(株)さんに、お薦めモデルの選出と試聴機のお貸し出しを依頼しました。
- 拙宅のシステムはKEFのフロア型スピーカー「Reference 5」に、プリメインアンプは独Accustic Arts「POWER 1 MK3」、ネットワークプレーヤーはLINN「SELEKT DSM-K」という布陣
SUPRAは艶やかで見通しのいい音楽的な傾向が魅力
ではさっそく聴いていきましょう。お預かりしたのは「CLASSIC 2.5H」「LINC 2.5」「LINC 4.0」の3モデル。ここでは「LINC 4.0」を中心に記します。SUPRAのスピーカーケーブルは、導体に錫メッキを施した0.1mmという極細の高純度無酸素銅を何百本も使った多芯構造が特長。メートルあたり1,430円の「CLASSIC 2.5H」ですら204本、シールド付きの「LINC4.0」で511本です。
- スピーカーケーブル
SUPRA「SUPRA LINCシリーズ」
左/上から「LINC4.0」¥3,300(1m/税込)、「LINC2.5」¥4,180(1m/税込)
「CLASSIC 2.5H」は、編集部員時代に幾多のAVアンプサラウンド試聴で定番として使っていたこともあり、安心してお薦めできます。ただ「LINC4.0」を自宅で使用するのははじめて。果たしてどうかと思いましたが、まったく期待通りドンピシャのまろやかサウンドでした。
「LINK 4.0」は「Reference 5」と「POWER 1 MK3」のような誇張感がなくマイルドながら見通しのいいシステムにピッタリ。高域にきつさがまったくないのに常に艶やかで、ケーブルを太くしていっても低域や音像が膨れることなく、むしろバランスがよくなりどっしり安定方向に向かうイメージです。アタックに対しても高域から低域まで全体がフワっと拡散し、長時間聴いていても疲れることがありません。
たとえば、アルベルト・ギノバルトによる自作自演曲ピアノ協奏曲第1番『海と空』は、金管もオーケストラの重厚なアンサンブルもまったく誇張感がなくなめらか。ガサツいたところがなく音色にツヤがあります。どれが前に出てどれかが引っ込むということがなく、見事なアンサンブルで音楽的です。
誇張感がないとか無味無臭というと面白くないのではないかと思うかも知れませんが、飽きさせないどころか、聴けば聴くほど心地よくうっとり音楽を楽しむことができます。いわばこの浄水器を通したら軟水になる、とでもいいますか、いくらでも飲めちゃうおいしい水、という感じです。
- アルベルト・ギノバルト『Guinovart:Piano Concertos, Nos. 1 & 2 & Valses Poeticos』
(P) 2014 Albert Guinovart Mingacho Editado y Distribuido bajo Licencia Exlusiva por Sony Music Entertainment España S.L.
トランペット奏者アリソン・バルサムのクリスマスアルバム『Jubilo』も、従来から抱いている作品のイメージはそのままに、深くなめらか。トランペットがどこまでも天に向かってスーッと伸びて、神様と対話するような崇高さで、立ち上る空気の粒もきめ細かいイメージです。オルガンの唸るような教会の響きは「LINC 2.5」よりも「LINC 4.0」の方が深遠です。
- アリソン・バルサム『Jubilo -Bach, Corelli, Torelli, Fasch』
(p)(c) 2016 Warner Music UK Limited, a Warner Music Group Company
POPSのBUMP OF CHICKEN『プラネタリウム』でも、柔らかくフワリ拡散するイメージはそのままです。星空を連想させるキラリとするアレンジが美しく、ボーカル藤原の声質もリアル。ドラムスとベースも無理に押し出すことなく安定しており、ベースラインのパッセージもキチンと聴き取れます。
- BUMP OF CHICKEN 『BUMP OF CHICKEN II』
(p)(c) TOY’S FACTORY / LONGFELLOW / MOR
ジャズ・フュージョンの上原ひろみ『MOVE』も、硬質なところがなく耳に優しい美音系。もっとも、調味料を足したような意図的な美音ではなく、それぞれの音が鳴るべき位置に精確に定位していること、それぞれの音域に偏りがなく、バランスよく鳴っていることがキチンと確認できます。ヘビーメタルのBABYMETALも、サシスセソやギターやドラムの速射もうるさく感じることがまったくなく、耳に優しい。それなのに細かいリズムや音階、定位がしっかり伝わるのはさすがとしか言いようがありません。
- BABYMETAL『BABYMETAL』
(p)(c) TOY’S FACTORY INC./ AMUSE INC.
大貫妙子『Tema Purissima』も、フワリとしたエコーの聴かせ方、ゆったり包み込むようなアレンジの聴かせ方が、楽曲のイメージ通り。村治佳織のクラシックギター『カヴァティーナ』では、可憐な響きが、弦を這う指の痕や息づかいも包み込むように優しく濾過して、作品性を高めているようです。
- 大貫妙子『Tema Purissima』(『PURISSIMA』より)
(p)(c) MIDI INC.
驚きはYOASOBI『アイドル』。ソースのドンシャリなところはちゃんと表現しているのですが、低音域の誇張感が不思議と整えられ、キンキンして耳に付きがちな高音域もまろやかに収まり耳が痛くなく、むしろ心地よく聴き流せるから不思議なのです。
拙宅のシステムや趣向に合っているとはいえ、尖ったところを濾過して整え、音楽にして伝えてくれる表現力。それが、どのジャンルでも遺憾なく発揮されることに改めて驚かされました。
さいごに、Ultra HDブルーレイプレーヤーで映画『TAR/ター』を観ます。次第に追い詰められていく主人公ターの主観で描かれる心理サスペンスで、背景の暗騒音が心理描写として効果的に使われています。オーケストラのユニゾンはたいへん美しいのですが、サスペンスフルなシーンで音量を上げても、ざらついたりバタンと低音が響くはずの場面でも音色はまろやかなため、正直、さほど怖くありません。場面ごとに異なる「ブーン」「ゴー」といった不穏な暗騒音も強調されないからでしょうか。
- 4K Ultra HDブルーレイ
『TAR/ター』(海外版)
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