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  • 【SAEC編】スピーカーケーブルでホームシアターの音はどう変わる?3モデルを比較試聴 SUPRA/SAECの計6モデルを比較検討[SAEC編]

    取材・執筆 / 遠藤義人
    2024年11月15日更新

    • ホームシアター・コンシェルジュ
      遠藤義人

ホームシアターユーザーであれば、意外に出費が大きいのがスピーカーケーブル。SUPRA(スープラ)ならびにSAEC(サエク)ブランドからそれぞれ3モデル、計6モデルの比較検討をおこなった拙宅のスピーカーケーブル交換を、試聴インプレッションと合わせてお届け。別記事でお届けしているよりSUPRA編に続き、この記事ではSAECブランド製品3モデルを紹介します。よいケーブル選びの参考になれば幸いです。

好みのサウンドを追求して比較検討する

ホームシアターユーザーにとって、ケーブル代はばかになりません。チャンネル数だけのスピーカーケーブル、セパレートAVアンプですと同ペアのラインケーブルだって必要です。そのなかで、どこに重きを置いて投資するかは切実な問題です。

拙宅でのスピーカーケーブルの交換の際は “サウンドの好み” を重視し、かつて職場としていた雑誌社やオーディオ評論家先生宅で聴いて比較的好みだったスウェーデンのSUPRAが有力候補に。同ブランド製品を取り扱うサエクコマースに、お薦め3モデルの選出と試聴機の貸し出しを依頼、どのグレードが拙宅に合うかを比較検討しました。もうひとつの記事でその際のようすを記しています。

スピーカーケーブル交換記[SUPRA編]

ところでSUPRAは、サエクコマースが国内取り扱いを担当しているブランド。サエクコマースでは、自社ブランドであるSAECでもスピーカーケーブルを展開しています。今回送られてきた試聴機にはSUPRA製品に加えてSAECブランドのものも3本同梱されていましたので、せっかくですからこれも聴いてみることに。

  • 左/下からSAEC「SC-350」「SPC-650」「SPC-850」
  • 拙宅のシステムはKEFのフロア型スピーカー「Reference 5」に、プリメインアンプは独Accustic Arts「POWER 1 MK3」、ネットワークプレーヤーはLINN「SELEKT DSM-K」という布陣

SAEC「SPC-650」ボーカルが前に出て明瞭

ではさっそく聴いていきましょう。SAECケーブルは2014年にローンチし、いまや流行最先端ともいえる「PC-TripleC」(連続結晶高純度無酸素銅)に、独自の鍛造伸延技術を施して採用しています。素材そのものは各ケーブルメーカーで採用されていますが、世界で初めてこの導体を製品化したのがSAECブランドです。今回のテストではまず2017年に発売された中級機「SPC-650」。LF側に繋ぎます。

  • スピーカーケーブル
    SAEC「SPC-650」¥2,530(1m/税込)

アルベルト・ギノバルトによる自作自演曲ピアノ協奏曲第1番『海と空』は、とにかくドストレートな表現が魅力。ピアノのタッチ、弦楽器の響きに雑味がなく、ひたすらになめらかで、オーケストラとしての一体感もストレスなく味わえます。それでいて各楽器の位置関係がとても明確で、ステージの奥行きも感じられます。そして何より、とても静か。SNがいいんです。

  • アルベルト・ギノバルト『Guinovart:Piano Concertos, Nos. 1 & 2 & Valses Poeticos』
    (P) 2014 Albert Guinovart Mingacho Editado y Distribuido bajo Licencia Exlusiva por Sony Music Entertainment España S.L.

トランペット奏者アリソン・バルサムのクリスマスアルバム『Jubilo』では、トランペットもオルガンも非常に抜けがよく、アンプがスピーカーをストレスなく駆動している様子がうかがえます。オルガンが教会内を轟かせる低音と、トランペットの清々しい抜けのコントラストをバランスよく表現。システムによっては混濁しがちな音場を、誇張感なくクリアに整理して見せてくれるので、音楽の骨格を掴みやすいのだと思います。

村治佳織のクラシックギター『カヴァティーナ』では、とにかくギターの響きが美音。抑揚すなわちダイナミックレンジも十分で、作品性をじっくり味わえるよう整理するバランス感覚を持っています。

  • アリソン・バルサム『Jubilo -Bach, Corelli, Torelli, Fasch』
    (p)(c) 2016 Warner Music UK Limited, a Warner Music Group Company

POPSでもそのバランス感覚は健在。BUMP OF CHICKEN『プラネタリウム』では冒頭のアレンジのなんと煌びやかなこと。そこにドスッと入ってくるドラムスとベースラインが鮮やかで、ボーカルも明瞭。マスタリングエンジニアの意図通りのバランスを思わせます。

上原ひろみのフュージョン『MOVE』も、ピアノの小気味いいアタック、そこにドラムスとベースが絡み合うマリアージュは、音そのものよりも音楽がリズムとして入ってくる感じで、とても芸術的です。バスドラもすべてを強調するのではなく、ほんとうにアタックがあるところだけグンと押し出してきます。抑揚豊かでニュアンスの表現力がたくましいのです。

  • BUMP OF CHICKEN 『BUMP OF CHICKEN II』
    (p)(c) TOY’S FACTORY / LONGFELLOW / MOR

大貫妙子の『Tema Purissima』も、作品のイメージ通りですが、とにかくクリアで晴れやか。大貫のボーカルを中心に、各楽器がバランスよく取り囲み、清々しく奏でます。とにかく鮮度が高く感じます。

  • 大貫妙子『Tema Purissima』(『PURISSIMA』より)
    (p)(c) MIDI INC.

BABYMETALはドラムスやギターの切れ味がよく、リズム感抜群。鮮度のよさと解像感があるのですが、だからといって音が硬かったりキツかったりすることがないのが不思議。楽器の音に埋もれがちなところ、やはりここでもSU-METALのボーカルがちゃんと前に出て、立ち位置の違いも明確に聴き取れました。

それはYOASOBI『アイドル』も同じ。ソースのセンセーショナルなニュアンスは残しながら、うるさいと感じさせず素直に聴かせます。ちゃんとikuraの明るいボーカルを主体的に聴かせるのが上手い。

  • BABYMETAL『BABYMETAL』
    (p)(c) TOY’S FACTORY INC./ AMUSE INC.

とにかくストレートで味付けなく、耳に付くうるさい音もザラつきもないスムーズな出音が印象的。それは、ストレスなくアンプがスピーカーをドライブしきれているからだと思われます。

最後にUltra HDブルーレイプレーヤーで映画『TAR/ター』を観ます。主人公ターのセリフがよく通り、感情によって異なる声質をニュアンス豊かに解像します。今回は2chで聴いているのですが、センタースピーカーで聴きたいと思わせる表現力です。

  • 4K Ultra HDブルーレイ
    『TAR/ター』(海外版)
    (c) 2022 FOCUS FEATURES LLC.

SAEC「SC-350」エントリーと思えないクオリティ

ストレートに吹き上がる感じの出音にSUPRAとは異なる魅力を発見しつつ、こんどは格安な「SPC-350」をLF側に繋ぎます。

  • スピーカーケーブル
    SAEC「SPC-350」¥1,320(1m/税込)

アルベルト・ギノバルト『海と空』は、見た目かなり細いのに、一聴してストレスない明朗な表現力が魅力的。晴れやかでなめらかかつ雑味のない音色で、ピアノの低音域にもグッとさせる力を持ち合わせています。そして何よりとても音楽的に聴かせる部分は「SPC-650」と似たニュアンスで「コレで何か問題ありますか?」です。

アリソン・バルサム『Jubilo』でも、オルガンが教会内に響かせる轟音をきちんと表現し、音階も明瞭。意外に「SPC-650」と落差を感じるのは高音域で、「SPC-650」の方がやや安定感で上回ります。それでもA-B比較でなければ聴き分けられるのかといったレベルです。

村治佳織『カヴァティーナ』の爪弾く音色や響きはひたすらに美しく、位相再現の正確性を感じさせます。高音域においてやはり「SPC-650」よりやや上ずる感じですが、ニュアンスとしては同方向です。

POPSでも位相再現の正確性が際立ちます。BUMP OF CHICKEN『プラネタリウム』ではドラムスやベースラインにおいて「SPC-650」と比べ殊更に貧弱とは感じません。強いて言うならやはりボーカルが時折上ずるか。

上原ひろみ『MOVE』も、ドラムスとベースを過不足なくバランスよく再現。ストレートな表現力は「SPC-650」譲りで、リズムも明瞭で小気味よく楽しめました。大貫妙子の『Tema Purissima』も作品のイメージ通りの清々しいさ。大貫の若々しいボーカルが際立ちます。

BABYMETALは、ドラムスの量感、切れ味に「SPC-650」とさして遜色ないのですが、「SPC-650」より高音域がややキツく感じるところも。もっともこの部分は、こういったジャンルでは聴きようによってはストレートな表現力や切れ味として好感を持つ人もいると思います。

それはYOASOBI『アイドル』も同じ。ソースのセンセーショナルなニュアンスを残して、ちょっとハイ上がりな仕上がりになります。ストレートに吹き上がるPC-Triple Cの面目躍如といったところでしょう。

ストレートで味付けない「SPC-650」と比べ、低音域は痩せませんが高音域においてやや強調気味に聴こえるところもあります。それがキレ味に繋がって好きという人もいるので、ご自分のお好みを念頭に選ばれるといいと思います。

それがとくに確認できるのが映画作品。『TAR/ター』を観ると「SPC-650」と比べ、女声のサ行のニュアンスにちょっとクセっぽさが残る場面があり、ビックリさせる暗騒音の切れ味などはほんとうにシャープです。そうしたハイ側のクセっぽさも、同価格帯の他のケーブルに比べればかなり少ないほうで、1000円台の価格設定は破格と思わせます。

SAEC「SPC-850」低音域の鋭い押し出しが見事

最後に上位モデル「SPC-850」を試します。ケーブルの断面を見ると、他のモデルとは異なり、真ん中に太い単線が一本通っているのがわかります。

  • スピーカーケーブル
    SAEC「SPC-850」¥5,060(1m/税込)

アルベルト・ギノバルト『海と空』は、LF側に繋ぐと中低域の押し出し感が強め。ストレートに蛇口全開で押し出してくるようなマッシブさで、音が、波というよりみっちり詰まった濃厚な粒として飛んでくるかのよう。しかも重層的なオーケストラの低音域は、ズーンと深く低く伸びていきます。そうしたピラミッド型の音場の上に、なめらかでメロディアスな中域と、アクセントとなるトライアングルのような高音域が載ってきます。

一方、HF側に繋ぐと、まずピアノの艶やかさ、鉄琴や金管などの高音域がストレートに表現され、オーケストラの重厚なアンサンブルが華やかに広がります。全帯域にわたり、まったく誇張感がなくなめらかで音楽に没頭できます。各楽器の位置関係が明瞭で曖昧なところが一切なく、それでいて重層的。位相管理がしっかりしている証拠ではないかと思います。弦の低音域のブルンという震えがリアルで、おもわずうっとりと聞き惚れてしまいます。

アリソン・バルサム『Jubilo』では、従来から抱いている作品性を、より彫り深く表現しているイメージ。まずオルガンの教会の轟々として響きがどこまでも伸び、しかも不思議とヌケはよく、フットペダルの音階が明確なのです。一方のトランペットの伸びは、天に向かって真っ直ぐというより、絶妙にトルネード状に昇っていくイメージ。音色の微妙な揺らぎがもたらす位相の変化までを丁寧にすくい取っているのでしょう。収録時のノイズまでも詳らかにするかのようでたいへん生々しいサウンドです。

その生々しさは村治佳織の初期の作品『カヴァティーナ』でも遺憾なく発揮され、右手による弦の多彩な弾き方による音色の違いが分かりやすくしかも艶やかでありながら、左手の弦の上を這う指先のキュキュッという痕、さらには村治の息づかいや収録時の擦れるようなノイズまでも詳らかにしてしまう解像度に驚かされました。

POPSのBUMP OF CHICKEN『プラネタリウム』では、冒頭の鮮やかなアレンジの煌びやかさと、そこにドスッと入ってくるドラムスのタムのずっしりした重さのコントラストが見事。ボーカルもクッキリセンター定位ししっかり前に出てマスタリングエンジニアの意図通りでにんまりしてしまいます。

上原ひろみのフュージョン『MOVE』も、ピアノのアタックに続き、ドドドドッと入ってくるバスドラにみっちり詰まったベースが小気味よさと重量感を両立。大迫力ながら耳に付くところがなくメロディアスで、しっかりと音階とリズムを刻み、ストレスなく躍動的な音楽のエッセンスを伝えます。BABYMETALも、ドラムスの速射が質量ある鉄球が飛んでくるかのように切れ味抜群。それでいて、サシスセソやギターも一切うるさく感じることがないのは、潰れずに解像している証拠。ほんとうに目の前で鳴っているようにドラムスのリズムやギターの音階が明瞭で抜けがよく、ボーカルの立ち位置の違いも明確。アンプがストレスなくスピーカーをドライブしていることを感じさせます。

大貫妙子『Tema Purissima』は、多くのシステムではふわっとしたロマンチックなイメージ止まり。しかし「SPC-850」で聴くと、冒頭のトランアングルのチリリリリリ、ハープのルルルルルが夢見る乙女心を映すかのように煌びやかかつ流麗なのが明らか。幾層にも施された背景のアレンジが手に取るようにわかり、音色も立ち位置も非常に明瞭に整理されて映ります。また、肝心の大貫のボーカルはシステムによっては多分にエコーがかって全体として曖昧模糊になってしまうこともあるのですが、今回は厳然とセンターで歌い遂げています。あざとさやこれ見よがしな主張がまったくないのに、聴かせるべきところはキチンと伝えるところに凄みを感じます。

そしてYOASOBI『アイドル』。ソースのドンシャリなところは残しながら、音量高めでもなぜか聴けてしまうのが不思議です。グリグリえぐるような低音域、キンキン耳に付きがちな高音域もキチンと解像しこなしてみせます。ikuraのボーカルも埋もれることなくクリアに聴かせます。

低音の押し出し感はかなり予想外で繋ぎ始めはちょっと過剰ではないかと思ったのですが、数日鳴らしているうちに拙宅のシステムになじんだのか、いい塩梅に落ち着きました。これは、はじめからHF側に繋げばかなり緩和されます。

最後に『TAR/ター』を観ます。普通は不気味なオーケストラ劇伴で不穏さを煽るところ、本作はさりげない室内での対話のシーンでも “忍び寄る影” と心理描写を、その空間の暗騒音として描きます。

「SPC-850」で聴く本作のいちばん恐ろしいのは、どこかで唸っている低い音。とくにLF側に繋いだときのダイレクトな低音域の沈み込みと押し出し感が鋭く、とにかくゾゾッとするほど怖くて、シビアな位相の変化にクラクラします。

スピーカーケーブル交換は満足感が高い結果に

というわけで、気づいたら「SPC-850」を発注していました。

ケーブルを通ることでそれまでロスしていた電力がスパーンとストレスなくスピーカーまで伝わりドライブする力が、量だけではない深い重低音と切れ味ある出音に繋がっているように思います。オーケストラや映画の静寂な間や、各音場の響きの違いがたいへんリアルです。それは、ボリュームを絞っても印象が変わらず、むしろ音楽のエッセンスが伝わりやすくなる不思議。

従前よりちょっと中低域が出るのでLF側でなくHF側に挿すか、セッティングを多少変える必要はありますが(わたしはちょっと変更しました)、出ないものは無理矢理出すより出ているものを整える方がいい。ちょっとした出費になりましたが、それでもコンポーネントを1個買い替えることを考えれば安いもの。何より、すべてのソースに関わるサウンドシステム全体がグンと向上するスピーカーケーブルのグレードアップは、かなり満足度が高いことを再認識する結果となりました。日々ケーブルも進化しているのですね…。

スピーカーケーブル交換記[SUPRA編]