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  • 連載「編集部が行ってみた! 使ってみた!」第2回 国内生産の“技”が光る!
    プレミアムイヤーチップ
    JVC 「Spiral Dot ++」

    取材・執筆 / 長濱行太朗(ホームシアターCHANNEL編集部)
    2019年12月18日更新

イヤーチップのベストセラー!

連載「編集部が行ってみた! 使ってみた!」、第2回はプレミアムなイヤーチップとしてイヤホン・ヘッドホンファンから大好評のJVC「Spiral Dot ++」の魅力をお届けするため、開発工場に突撃してきました!

イヤーチップの内壁に丸形のくぼみを螺旋状に配列することで、イヤーチップ内で起こる反射音を拡散。イヤホンからの直接音とのバランスの最適化を図るという、画期的な高音質技術が採用されているJVCのイヤーチップ「Spiral Dot」。そして、Spiral Dotをさらにブラッシュアップさせ、ハイグレードモデルとして誕生した「Spiral Dot++」は、そのフィット感のよさと手軽に音質向上が図れることから、交換用イヤーチップとして、他に類を見ないベストセラーになりました。

  • JVC イヤーチップ
    Spiral Dot++ EP-FX10
    ¥OPEN(実勢価格¥2,500前後)
  • 幅広いイヤホンファンが快適に楽しめるよう、全5サイズのイヤーチップをラインアップしており、S/MS/M/ML/Lの中から選ぶことができます。

Spiral Dot++ならではの特長はどのようにして生まれたのか、Spiral Dot++への進化の過程、そしてモデルに込められた技術力の高さに迫るべく、誕生の場である国内工場へ。開発陣のインタビューと共に、Spiral Dot++ならではの魅力を紐解いていきます。

  • 今回の取材では、(株)SMPテクノロジーズ部長 小川慎太朗氏(左)、(株)JVCケンウッドメディア事業部技術統括部 技術2部 美和康弘氏(中央)、(株)名南ゴム工業所代表取締役工学博士 岡本敏宏氏(右)、3名の方々にご協力頂きました。
    本開発は、(株)JVCケンウッドが製品Needsを提案、(株)SMPテクノロジーズが基本材料設計、(株)名南ゴム工業が具体的材料配給、という役割分担で行われました。

ふたつのプレミアムな素材を組み合わせた!

Spiral Dot++へと進化を遂げていくうえで、どのような部分を向上させていったのでしょうか。開発者である(株)JVCケンウッドの美和氏が、その秘密を明かしてくれました。

「初代のSpiral Dotは、イヤーチップの音の通り道である内側に、音のにごりを抑えるディンプルを初めて螺旋状に設けたモデルです。現在は、交換用イヤーチップ『EP-FX9』として販売しています。初代モデルをベースに、新開発の素材である『SMP iFit』を使用したのが、『Spiral Dot+』です。こちらはビクター『HA-FW10000』など、弊社の上位クラスのイヤホンに同梱するイヤーチップとして開発されました。そして最上位の交換用イヤーチップとして新開発されたSpiralDot++は、傘の部分にSMP iFitの特長をさらに向上させたもの、軸の部分に高強度タイプの高品質シリコン、ふたつの素材を採用したことが最大のポイントです。“++”という名称も、ふたつのプレミアム素材を使用していることを意味しています」

  • Spiral Dot++は、傘の部分にSMP iFit、軸の部分に強度のある高品質シリコン素材、ふたつの素材をくっつけたことが最大の特長。波状の接合部を持つのも本モデルならではで、音質的なメリットを持ちます。また、ドット状のくぼみは、SpiralDotでは、SとMSが2個×7列、他が3個×5列でしたが、SpiralDot+から全サイズとも3個×5列で統一されています。

最大の鍵は人肌に近いフィット感の「SMP iFit」

素材の高品質化が、Spiral Dotの進化を辿る上で最大の鍵となったとのこと。そのキーアイテムがSMP iFitです。Spiral Dot+から採用されている素材ですが、その特長について素材開発の立役者である(株)SMPテクノロジーズの小川氏が語ってくれました。

「SMP iFitはSMPテクノロジーズにおいて、これまで実用化されたアイデアが基本になっています。弊社が開発している素材の特長のひとつとして、 “生体フィット性”が挙げられます。生体フィット性とは、粘弾性特性(力学的tanδ)の数値が人肌と非常に近いため、素材に人肌と近似した粘性と弾性を持たせることができます。このコンセプトに則り、なおかつシリコン素材で実現させたものがSMP iFitです。耳にずっと押し込んで使っていても、押し込まれている感じが和らぎますし、肌に触れていても違和感がなく、異物感もないです。肌の延長線上に近い感触で楽しんでいただける素材です」

  • 写真は、右に従来のウレタンフォーム、左にSMPを採用したウレタンフォームを並べたもの。実際に両素材を指で押してみると、従来のものは瞬時に形が戻りますが、SMPを採用したものは1~2秒掛けてゆっくりと形が戻り、人肌の弾力に近似していることがわかります。

SMP iFitの採用は、生体フィット性による圧倒的に耳馴染みのよい装着性が決め手であり、このフィット感の高さが開発の出発点になったようです。耳の内側の肌に吸い付くような感覚は、SMP iFitだからこそ体感できるフィット感になっています。SMP iFitによるメリットは、フィット感に止まらず、音質向上にも表れていると美和氏はいいます。

「SMP iFitは、長時間使用していると耳の内側が拡げられてしまう感覚があるSpiral Dotの装着性を改善し、より装着性の高いイヤーチップを開発するために採用したことがスタートでしたが、音質向上にも繋がりました。SMP iFitによって、余計な振動が抑えられ、届けたい音がさらに直接的に伝搬できるようになったのです」

国内工場ならではの技術力が光る!

耳へのフィット感を高めることが、自然に音質のブラッシュアップへと繋がったようです。またSpiral Dot++は、モチモチとした触感、表面にはサラサラとした肌触りに改良したSMP iFitを採用しており、最上位モデルならではの素材に改良。そしてSpiral Dot++は、傘のパーツだけでなく、軸の部分の素材、ふたつの素材を接合させたことも見逃せません。SMP iFitと軸のパーツの開発、そしてふたつの素材の接合を叶えたのが、ゴム成型のプロフェッショナルである(株)名南ゴム工業所の岡本氏です。

  • 生産工場 「(株)名南ゴム工業所」
    創立50年を越える歴史があり、各種ゴム製品製造から販売、金属/樹脂/加硫ゴムとゴムとを接着させるインサート型、ハーネス事業など、ゴム製造の技術を活かした取り組みを実施。近年、材料、成型など分業化が進む中、材料の開発から成型、そして生産まで一挙に担うことができる確固たる技術力を持っています。

「SMP iFitはとても柔らかい素材ですが、軸の部分は色々なイヤホンと組み合わせてもズレや緩みが低減でき、なおかつ着脱ができる程度に硬い、そういったある程度の強度を持ったシリコン素材を使用しています。このように、素材の硬度に差があると、シリコン素材という共通点があっても、接着させることがとても困難です。実際に成型する際、先に軸の部分を成型して、その後にSMP iFitを使用した傘の部分と軸の部分を含めて一体成型させるのですが、試作段階で軸の部分に亀裂が入ってしまうこともあり、何度も微調整を繰り返しました。傘と軸が接着している面積がかなり小さく、そして接合部も波状になっているため、非常に難度が高い接面技術が必要になります」。

  • 傘の部分に使用されているSMP iFitよりも強度のあるシリコン素材を使用した軸の部分は、37t成型機を用いて成型しています。専任の方が作業することで、正確性の確保も実現しています。一度のプレスでワンサイズの成型がまとめてでき、サイズを混合してプレスされません。
  • 軸の部分のシリコンは一度のプレスで成型できる分量に、均等に区分けされています。
  • 実際に出来上がった軸の部分のパーツ。ひとつひとつのパーツが均等、波状の部分も精度高く出来上がっているのが目で見てわかります。写真は、MLサイズのもの。

硬さが異なる素材をくっつけるだけでなく、超小面積の接着面、波状の接合部という多数の困難を乗り越えてSpiral Dot++が完成しました。この波状の接面部も音質向上の背景を持つと美和氏はいいます。

「接合部が波状なのも、他の製品にはないSpiral Dot++ならではの特長です。接合部を円筒形状で繋げてしまうと、素材による音の特性が接合部を境目にして急に変化するため馴染まないのです。それは音質に対しても影響が出てしまうので、もっとスムーズに特性を変化させたいという意味があって、特別に波状にしたのです」。

国内生産することで信頼度を格段に高めた!

このようにパーツの素材から形状に至るまで、装着性や機能性に伴い、音質向上を追求した意図が図られているのです。しかし、細部まで作りこまれているからこそ、開発するだけでなく、生産まで成し得ることが非常に困難だったようです。他の生産工場へと依頼しても同等のものを作ることができず、開発の美和氏も頭を抱えてしまったといいます。それをまたしても解決したのが、名南ゴム工業所の岡本氏です。素材、成型の開発だけでなく、製品生産においても任されることとなりました。

「素材を開発する段階から成型まで携わり、またSpiral Dot++を作る上で、どういった部分で微調整が必要なのかということも熟知しているので、生産まで任せてもらえてよかったです」。

開発から携わっている名南ゴム工業所が生産を担ったことで、安心感、そして信頼度の高い製品造りが実現できたのです。Spiral Dot++は、開発、素材、生産におけるまで、国内の技術が集まった結晶と言っても過言ではないでしょう。

  • 傘のパーツの成型、軸と傘のパーツを接合する過程を一挙にできる200t真空成型機。一度に作れるイヤーチップは、サイズ、数ともに限りがあり、ふたつの素材をくっつけることがどれだけ難易度の高いことかわかります。こちらも作業担当者が選任されています。
  • 実際に傘のパーツと軸のパーツを一体成型している場面。成型機の中央部にイヤーチップの型があり、素材をセットし、一度のプレスに掛かる時間は10分程度。
  • 傘のパーツとなるSMP iFitが成型される前の形。形は異なっていますが、ひとつひとつ分量が揃えられており、一度の成型に使用する分量に区分けされています。
  • 傘と軸のパーツの一体成型が済み、出来上がったもの。今回の工場取材では、Sサイズ、SMサイズ、Lサイズが出来上がったところを実際に見ることができました。
  • できあがったSpiral Dot++の検品も行っています。実際に一個ずつ製品を触り、外観や接合部分などを確認しています。検品においても、担当作業員の方が固定されています。

手軽にイヤホンの音質も向上させてくれるイヤーチップである「Spiral Dot++」、その音質改善効果を改めて美和氏に伺いました。

「音に雑味がなくなり、すっきりとするため、イヤホンの音がダイレクトに感じられると思います。音像も凄くシャープに出ますし、定位感の表現も高まる傾向です。イヤーチップを変えるだけで驚くほどに変化するのです。弊社の対応モデルをお持ちの方、そしてイヤホンファンに、ベストな音質であると自信を持って提供できるSpiral Dot++を、ぜひ試してみてほしいです」。

手持ちのイヤホンを、一段上、いや数段上のサウンドへと、少しでも手軽にブラッシュアップさせたい、そんなイヤホンファンは一度Spiral Dot++を手に取ってみてはいかがでしょう。きっとその想いに応えてくれるはずです!

SPEC

[Spiral Dor ++(EP-FX10)]
●材質:SMP iFit、シリコン ●サイズ:S 直径約10mm、MS 直径約11mm、M 直径約12mm、ML 直径約13mm、L 直径約 14mm ●数量:1パック 4個入り

取材協力

  • (株)JVCケンウッド
    メディア事業部
    技術統括部 技術2部
    美和康弘氏
  • (株)SMPテクノロジーズ
    部長
    小川慎太朗氏
  • (株)名南ゴム工業所
    代表取締役
    工学博士
    岡本敏宏氏