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  • 連載「編集部が行ってみた! 使ってみた!」第3回 ソニーPCLがスタジオをリニューアル
    新世代の3D音響制作を実現!
    Sonic Surf VRの「ボヘミアン・ラプソディ」は圧倒的な没入感!

    取材・執筆 / 長濱行太朗(ホームシアターCHANNEL編集部)
    2020年3月11日更新

新提案の3D音響技術で制作できる

連載「編集部が行ってみた! 使ってみた!」、第3回目は映像・音響コンテンツからイベント・プロモーションの空間設計まで、多種多様なコンテンツ制作に携わっているソニーPCLの制作現場を潜入取材してきました!

  • 今回取材したのは、ソニーPCLの「クリエイションセンター」にあるイマーシブサウンドスタジオ。ソニーの3D音響技術である「360 Reality Audio」のミックス、「Sonic Surf VR」のプリミックスをはじめ、ドルビーアトモスやDTS:Xなどのイマーシブサウンドのミックスが可能です。

いつの時代も最先端の映像・音響技術を採用したコンテンツ制作に挑戦し続けているソニーPCL。「クリエイションセンター」内にある405オーディオマスタリング&サウンドデザインルームをリニューアルしたことによって、3D立体音響技術による没入感の高い音楽リスニングを実現する「360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)」、そしてテーマパークやイベントなど体験型コンテンツでイマーシブサウンドを実現する空間音響技術「Sonic Surf VR(ソニックサーフヴィアール/SSVR)」など、ソニーが提案する3D音響フォーマットに対応した“イマーシブサウンドスタジオ”に生まれ変わりました。

  • <取材協力>
    ソニーPCL株式会社
    技術部門 テクニカルプロダクション1課
    サウンドエンジニア/サウンドデザイナー
    長谷川 有里 氏
    クリエイティブ部門
    コンテンツクリエイション部 デジタルソリューション課
    SXデザイナー
    綱島 洋 氏
    ※写真左から順に

ドルビーアトモスとDTS:Xにも対応

イマーシブサウンドスタジオは、2002年に5.1/6.1chのマルチチャンネルオーディオ対応MA室としてオープンした405スタジオを改修したもの。新たにスピーカーレイアウトを9.1.4chへと大幅な改修を行った背景について、長谷川氏が語ってくれました。

「昨今、映像の高解像度化と多画面のコンテンツが増えていく中、音声においても2次元のマルチチャンネルから、さらに進化した上方向の音声にも対応した3Dオーディオでの音響空間を制作したいという需要が高まってきました。そういった制作者の声に応えるため、405スタジオを改修し、9.1.4chの3Dオーディオに対応したレイアウトにしました。今回の改修により、『Sonic Surf VR』のプリミックス、『360 Reality Audio』のミックス、そしてドルビーアトモスやDTS:Xのイマーシブサウンドのミックス、それらの作業環境が整ったことで、最新世代のコンテンツ制作体制がいっそう強化されました。」

  • 水平方向だけでなく垂直方向のサウンドも再現することで、音に包み込まれているような高い臨場感と没入感を得られる最新世代のイマーシブサウンドにも対応。ドルビーアトモスやDTS:Xの3Dオーディオフォーマットを用いた映像作品の制作も可能に。

「THX pm3」認証を受けた9.1.4chのスタジオ

9.1.4chのスピーカーレイアウトへと大幅に改修された405スタジオは、フロントL/C/Rは既存のものを使用し、ワイドLR、サイドサラウンドLR、リアサラウンドLRのスピーカー、それにトップスピーカーを4ch加え、サブウーファーをフロント下方に設置したレイアウトを実現しているとのこと。

「天井の4chを加えてイマーシブサウンドに対応させただけでなく、ワイドLRを加えることで二次元のサラウンドでも音の繋がりのよいミックスを可能にしました。7.1.4chまでのスピーカー本数の場合、ホームコンテンツのミックスまでの作業になりますが、9.1.4ch対応によって映画のプリミックスまで制作できます。また、スピーカー配置、室内音響特性など高基準の制作を実現できるよう、THX pm3規格の認証、そしてドルビーアトモス規格の推奨スピーカーレイアウトもクリアしている点も、このイマーシブサウンドスタジオの特長です。」

  • スタジオの改修によって追加された4本の天井スピーカー。Procella Audioの「P8」が導入されています。
  • フロントとサイドサラウンドスピーカーの間にワイドスピーカーを配置することで、水平方向のサラウンドでスムーズな音作りを実現。こちらもProcella Audioの「P8」を採用しています。

長谷川氏が、改修された405スタジオならではの特長を教えてくれました。また、スタジオ内の拡散板などは開設当時に精密に調整しながら配置しているため、できるだけ部屋の音響特性を崩さないようにしています。ソニーPCLの中で、9.1.4chのスピーカーレイアウトが設置されている唯一のスタジオならではのコンテンツ制作が実現できたようです。

  • イマーシブサウンドスタジオの入り口には、THX pm3規格の認証ロゴが貼られています。今回、スピーカーを増設したレイアウトで、アップグレード認証を取得しています。
  • 写真左上:前面にはサウンドスクリーンが貼られており、フロントL/C/R、サブウーファーはスクリーンの裏に配置されています。
    写真右上:DAWの機材としてAvid Technologyの「Pro Tools HDX with Ultimate」、プロセッサーにYAMAHA「MMP-1」を導入。
    写真下:主に作業を行う卓には、コントロール・サーフェースにAvid Technology「Artist Mix」、JLCooper Electronics「MCS Panner」が設置されていました。
  • ディスプレイに映る「Dolby Atmos Renderer」の画面では、現在再生されているオブジェクトの移動、音の定位を確認することできます。

イベントからホームまで3Dオーディオの感動を

現在、イマーシブサウンドが採用されているコンテンツは映画などが多い中、「360 Reality Audio」や「Sonic Surf VR」によって音楽や体験型のコンテンツでも、イマーシブサウンドで楽しめるようになりました。両フォーマットの制作を叶えるイマーシブサウンドスタジオが、今後どのように活躍していくのか、綱島氏が語ってくれました。

「米国ではすでに『360 Reality Audio』フォーマットによる楽曲が、ストリーミングサービスから配信されており、ソニーの推奨ヘッドホンとスマホ専用アプリ『Sony | Headphones Connect』によって頭部伝達関数を基にした数値を導き出し、ユーザー個人に最適化されたリスニング、デコーダーを搭載したスピーカーで楽しめる環境が揃っています。国内でも訴求が進んでいけば、今後はこのスタジオで制作された3Dオーディオフォーマットの音楽コンテンツに触れて頂ける機会が増えると思います。
『Sonic Surf VR』は、空間を鳴らすような技術です。そのため3Dオーディオに対応したスピーカーレイアウトのスタジオでプリミックス作業が行えることで、イベント会場などでアウトプットした際にどのように空間が鳴っているか、実際に体感するサウンドに近い環境で作業ができることがこのスタジオで制作する大きなメリットです。
イベントなどで3Dオーディオの良さを感じて頂いて、そこで体験した感動をホームでも楽しむことができるよう、イマーシブサウンドスタジオが3Dオーディオコンテンツのさらなる活性化への橋渡しになっていくことを目指しています。」

  • 「360 Reality Audio」は、オブジェクトベースによる3D立体音響技術で、コンテンツの制作時にアーティスト/クリエイターと共にボーカルや楽器などの位置情報を球状の空間に配置することが可能で、制作者の意図を汲みとった音楽リスニングを実現します。Amazon Music HDを含む、4つのストリーミングサービスから楽曲が配信されています。
  • 波面合成アルゴリズムを用いたソニー独自開発の空間音響技術である「Sonic Surf VR」は、まるで音に“触れられる”かのようなサウンド体験を味わうことができる技術です。空間上に自由に音を置く、空間上で自在に音を動かす、空間で音を区切る、これらのユニークな音作りが可能で、音響における空間表現の幅を大きく広げてくれる、創造性に富んだ技術です。
  • GMOインターネットグループが運営する「待ち合わせスポット GMOデジタル・ハチ公」には、Sonic Surf VRを採用したデジタルアート空間が設けられています。
    施設名:「待ち合わせスポット GMOデジタル・ハチ公」
    所在地:東京都渋谷区道玄坂1-2-3 東急プラザ渋谷 2F(渋谷フクラス内)
    営業時間:10:00~21:00

Sonic Surf VRで「ボヘミアン・ラプソディ」を体験!

現在、東京銀座にあるGinza Sony Parkで開催されているイベント「#013 QUEEN IN THE PARK クイーンと遊ぼう ※注1」では、ソニーPCLのイマーシブサウンドスタジオにてプリミックスされた(最終的なミックス作業は、ソニー厚木第2テクノロジーセンター内にGinza Sony Parkでの再生環境と同様のスピーカーとソフトウェアのセットを組んで実施)、Sonic Surf VRの「ボヘミアン・ラプソディ」を「BOHEMIAN RHAPSODY/Sound VR」で体感できます。

  • 伝説的なロックバンド「QUEEN(クイーン)」の音楽を聴くだけでなく、“観る”、“奏でる”、そして楽曲の世界に入り込むような体験を味わうことができるイベント「#013 QUEEN IN THE PARK クイーンと遊ぼう」を開催中。
    会場: Ginza Sony Park GL/地上フロア~PARK B4/地下4階
    開催期間:2020年3月15日(日)まで
  • B2/地下2階にある「BOHEMIAN RHAPSODY/Sound VR」では、クイーンの名曲をSonic Surf VRによる3Dオーディオで体験できる展示スペースを設置しています。

「BOHEMIAN RHAPSODY/Sound VR」の展示スペース内に入ると、壁一面に吸音材が貼られており、そこに前方と後方にスピーカーが列を並べ、下にはサブウーファーを設置。映像などの飾りがないため、スピーカーから聞こえる音に、よりいっそう集中できる空間になっています。Sonic Surf VR専用のスピーカーを前方に24本と後方に24本(計384ch)、サブウーファーは前方に2台、後方に2台設置されており、スペース全体に余すことなく音が届くようなレイアウトが構築されていました。

  • 入口のカーテンを抜けると、一面吸音材で張り巡らされた空間に。前方と後方にスピーカーとサブウーファーが設置されていて、波面合成の効果を得やすいようスピーカーは壁の上部に、サブウーファーは足元にレイアウト。映像などを使用しないことで、Sonic Surf VRのサウンドに没頭できるスペースになっています。
  • 前方と後方合わせて48本設置されているスピーカーには、Sonic Surf VRの特長である波面合成に最適化された専用スピーカー「RYZ-AS108」を採用。個別に駆動される39mmのフルレンジ・ユニットを8基搭載しているため、全部で384チャンネルのスピーカーユニットによって、サウンドステージが描かれています。また、サブウーファーは前方に2台、後方に2台の全4台が設置されていました。
  • Sonic Surf VR専用のプレーヤーソフトウェア「RYZ-PSW/RYZ-SL」によって、「ボヘミアン・ラプソディ」を再生。「BOHEMIAN RHAPSODY/Sound VR」では、2台のPCを同期させて、前方と後方の音をコントロール。オブジェクトが計32個、BGMが計32個の音声が入っており、BGMは従来のチャンネルベースで再生し、オブジェクトはボーカルや楽器などの音を“点”として認識し、音の点を座標で配置させ、音の位置から移動まで自在に表現できることが、Sonic Surf VRの最大の特長です。

まるで音楽の中に入り込んだ没入感!

「BOHEMIAN RHAPSODY/Sound VR」では、どのようなサウンドで「ボヘミアン・ラプソディ」に触れることができるのか、Sonic Surf VRのリミックスに携わった岩名氏が聴きどころを教えてくれました。

「楽曲の中に没入していくような、また大きな音像の中に入り込んでいるようなサウンドイメージで『ボヘミアン・ラプソディ』を体感してもらえると思います。例えば、フレディ・マーキュリーとコーラスの対話のようなオペラパートでは、コーラスの音を厚めに配置させて回り込むようなサウンドに対し、フレディのボーカルパートは“点”で表現することで、没入感をさらに高めるミックスになっています。それによって、フレディと“天の声”とが対話しているようなイメージを体験してもらえると思います。また、フレディの声やピアノ、各楽器パートの音の位置など、ステージ上を想起させるようなミックスも、Sonic Surf VRならではのサウンドを堪能できる音作りです。映画『ボヘミアン・ラプソディ』をご覧になった方も多いと思いますが、ライブエイドのステージ上で歌うフレディと、思わずリンクするようなサウンドもお楽しみ頂けます。」

  • ソニーPCL株式会社
    技術部門
    制作技術部 テクニカルプロダクション1課
    録音/MAエンジニア/サウンドデザイナー
    岩名路彦 氏

編集部も実際に体感してみました。空間の中央で試聴してみると、アカペラから始まるイントロは、前方の壁一面からフレディの声が押し寄せ、またコーラスは後ろをぐるりと回っているような移動感によって、音に挟み込まれているような音場で、音の波に引き込まれます。
バンドサウンドが始まると、フレディの声と奏でるピアノは左から、ブライアン・メイのギターソロが右から、リズム隊のジョン・ディーコンのベースとロジャー・テイラーのドラムは一歩後方から、各パートの位置が手に取るようにわかり、クイーンのメンバーと一緒にステージに立っているような感覚に。目を閉じて試聴すると、楽曲に包まれている没入感がよりいっそう高まった印象を受けました。

今までの音楽の楽しみ方とは一味違う、音楽性とエンターテイメント性がマッチングした新しい音楽体験を味わうことができました。クイーンファンはもちろん、新世代の音楽再生を楽しんでみたい方も、ソニーPCLのイマーシブサウンドスタジオから誕生したSonic Surf VRによる「ボヘミアン・ラプソディ」をぜひ体感してほしいですし、今後登場する新たなコンテンツにも注目して頂きたいです!

※注1)新型コロナウイルス・インフルエンザ等感染予防および拡散防止対応として、2月27日より「BOHEMIAN RHAPSODY/Sound VR」を含む一部コンテンツの展示が中止されています。詳細はGinza Sony Parkホームページのお知らせをご確認ください。https://www.ginzasonypark.jp/info/20200226/

SPEC

■ソニーPCL イマーシブサウンドスタジオ
[コントロール・サーフェース]
Avid Technology 「Artist Mix(8ch Fader)」
JLCooper Electronics 「MCS Panner」
[プロセッサー]
YAMAHA 「MMP-1」
[DAW]
Avid Technology 「Pro Tools HDX with Ultimate+MTRX I/O」
[スピーカーシステム]
・フロントL/C/R
 JBL 「LSR-32」
・ワイドLR、サイドサラウンドLR、リアサラウンドLR、トップフロントLR、トップリアLR
 Procella Audio 「P8」
・サブウーファー
 M&K 「MPS-5310」