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  • 『スター・ウォーズ』を4K/HDRとアトモスで
    コンプリートBOXを徹底レビュー PART3
    EP4/5/6「オリジナル」をチェック!

    取材・執筆 / 伊尾喜 大祐
    2020年5月15日更新

ホームシアター文化を開花させた「オリジナル」三部作

シリーズの大いなる原点である、1977年公開のEP4『新たなる希望』、80年公開のEP5『帝国の逆襲』、83年公開のEP6『ジェダイの復讐(帰還)』の、通称「オリジナル」三部作。当時の最高峰のビジュアルとサウンドで描かれたスペースオペラに世界中の映画ファンが熱狂!その興奮を自宅で味わいたいファンたちがホームシアター文化を開花させた、記念碑的な三部作とも言えるでしょう。

そして97年、SW公開20周年記念と「プリクエル」への助走として、当時の最新CG技術で数々のシーンを改訂・追加、音声も5.1chにリミックスされた『特別篇』が公開に。これが現在観ることができる、オリジナル三部作の基本形となりました。この時に「35mm撮影のオリジナル素材」「2Kスキャンされた撮影素材と2K未満で制作されたCGの合成カット」などを組み合わせてフィルム出力されたものが、その後のオリジナル三部作のパッケージ用マスターとなります。04年のDVD化にあたっては、97年版を10bit/2Kスキャンした後、VFXの改訂やカラーグレーディングをルーカスが実施したDIマスターを制作。11年のブルーレイ(以下、BD)化でも改めてこのプロセスが行われ、BD用の新規2K DIマスターを制作。これは15年のHDデジタル配信版にも使用されました。

そして12〜14年にかけて、ディズニー売却にあたり、ルーカスフィルムはサーガの映像資産である「オリジナルの撮影素材」「VFXフィルム素材」「フィルム出力された『特別篇』のデジタルVFX素材」などの16bit/4Kスキャンデータを作成。ここにルーカス自身の手による最後のVFX改訂やカラー調整が施され、4K DIマスターが制作されました。これが今回の4K Ultra HDブルーレイ(以下、UHD BD)と本国の動画配信サービス「Disney+」での4Kデジタル配信版のマスターということになります。前置きが長くなりました。それでは前回のプリクエルと同様に、11年に発売されたBD-BOX版と比較しながらレビューしていきましょう。もうすっかりお約束ですが、UHD BDの再生前に字幕の輝度を下げておくことと、アトモス鑑賞の場合にはAVアンプの音量をやや上げておくことをお忘れなく(詳細はパート1をチェック)。

  • 1977年公開『新たなる希望』、1980年公開『帝国の逆襲』、1983年公開『ジェダイの帰還』で構成される通称「オリジナル」三部作。プリクエル、シークエル同様に、各エピソードの本編ディスクとボーナスディスクがまとめられて収納されています。

エピソード4『新たなる希望』

  • 『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』
    ディズニー
    ●製作:1977年/米
    ●本編ディスク:約125分、シネマスコープ、HDR10
    ●本編音声:英語ドルビーアトモス、日本語ドルビーデジタルプラス7.1ch
    (C) 2020 & TM Lucasfilm Ltd.

「デジタルライクなBD」と「フィルムライクなUHD BD」

まず驚いたのはプリクエルから一転したストイックな色彩です。BDはプリクエルに近づけるためか濃厚な色彩で、現代的なデジタルシネマ調。対してUHD BDは仄かにセピアさえ感じるフィルムライクなトーンに仕上がっています。さらなる驚きは、シークエルさえ凌駕するレベルの高精細映像です。CH3の錆や汚れにまみれた3POとR2を筆頭に、CH4のベイダーのマットな質感のスーツ、CH6の砂漠の風紋、CH25のファルコンやCH43のXウイングの外観など、全編で緻密な映像情報が浮き彫りになり、視力が向上したかと思うほどです。その分、CH19の宇宙港のクリーチャーなど、特別篇からのCGカットは解像度の不足が際立ちましたが…。

HDRはプリクエル同様、ハイライト部分の明度を無理に上げず、暗部ディテールはしっかり掘り起こす、絶妙なバランスの仕上がりです。CH9、R2のホログラム投射ランプ。CH27、暗がりまで克明なファルコンの船室では、モンスターチェスの存在感がより強く。そしてCH38のオビ=ワンとベイダーのライトセーバー戦など、随所で確かな効果を実感できました。CH36の吸引ビーム装置など、マットペインティングと実写合成の馴染みも飛躍的に向上しています。ところがCH11、あの二重太陽のシーンで問題発生です。ルークが家から出るロングショットをよく見ると、ルーク以外の映像要素がフリーズして見えるのです。この現象は三部作の随所で頻発しており、大画面再生では看過しがたいほど。かつてのTHX認証プロセスがUHD BD化にも採用されていたら、おそらく再エンコードを要請されていたことでしょう。

BDの6.1chからドルビーアトモス化された音声は、40年以上前の音声素材であることが信じられないほどにクリアでワイドレンジ。CH3、あまりにも有名なスター・デストロイヤー登場シーンでは、その轟音が頭上を聾します。CH27、フォースの訓練装置の浮遊音。CH35、天井高くまで響くゴミ圧縮装置の稼働音。CH39、タイ・ファイターの縦横無尽な飛行音。CH45〜の最終決戦では、ドーム音場に広がる無数の戦闘機の飛行音、飛び交うレーザー、爆発音が圧巻です。ちなみにSW名物「新たなる改変」は今回も健在で、CH22、ハンとグリードの撃ち合いがまたまた改訂されていますよ(笑)

  • 『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』
    画質評価/音質評価
  • HDR化により、暗がりまで緻密な映像情報が浮き彫りになったミレニアム・ファルコンの船室。シークエルとの船室比較も楽しめるかも?!
    (C) 2020 & TM Lucasfilm Ltd.

エピソード5『帝国の逆襲』

  • 『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』
    ディズニー
    ●製作:1980年/米
    ●本編ディスク:約127分、シネマスコープ、HDR10
    ●本編音声:英語ドルビーアトモス、日本語ドルビーデジタルプラス7.1ch
    (C) 2020 & TM Lucasfilm Ltd.

オリジナル三部作の中で最高画質!

EP4をも凌ぐクリアな映像と精細感で圧倒する本作。CH14〜の雪の中の戦いでは、スノースピーダーの細かく上下するフラップや、操縦席の窓外を飛ぶ僚機などが恐ろしく鮮明です。CH20のアステロイドチェイスでは、隕石の数も立体感も大きく向上。CH30で乱れ飛ぶ帝国軍の戦艦など、目が眩むほどの超絶ディテール! 映像トーンはEP4同様にフィルム調に。BDでは青空の印象が強いホスの光景も、UHD BDでは極寒の白夜のイメージです。フェイストーンは温かく、CH9の生還したルークやレイアたちの会話シーンなど、肌合いがナチュラルで立体感も豊かです。

HDR化と広色域化の効果も絶大。CH2のオープニングでは、黒がずっしり沈んだ宇宙空間に星々が立体的に輝き、EP4とは別物の印象です。ベイダーのスーツはピアノブラックの光沢が美しく、黒で統一されたパーツの描き分けも克明に。CH42のルーク対ベイダーでは、空色と赤のセーバーの輝きが冷凍室の暗がりに実に映えます。CH46の巨大通風孔の壁面はマットペインティングですが、画材で描かれた照明が発光して見えるようになり、奥行きある空間に進化。CH49、ファルコンが旅立つ銀河もさらに美しく立体的に! ただCH13の雪原やCH35のクラウドシティなどで、EP4と同様のフリーズ現象が頻発しています。

BDの6.1chからドルビーアトモス化された音声は、音像の移動感が三部作で随一の楽しさです。聴きどころはCH14のウォーカー戦やCH19〜のファルコン逃亡シーンで、音像が頭上を飛び抜ける立体感が大きく向上しています。Xウイングを沼からヨーダが引き揚げるCH31では、頭上に浮かんだ機体から水音が滴り、ジョン・ウィリアムズの音楽も実にエモーショナルに響きます。

  • 『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』
    画質評価/音質評価
  • 白い巨体のAT-AT ウォーカー。惑星ホスでのスノースピーダーとの雪の中の戦いが、4K/HDR化で驚くほど鮮明に蘇ります。
    (C) 2020 & TM Lucasfilm Ltd.

エピソード6『ジェダイの帰還』

  • 『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』
    ディズニー
    ●製作:1983年/米
    ●本編ディスク:約135分、シネマスコープ、HDR10
    ●本編音声:英語ドルビーアトモス、日本語ドルビーデジタルプラス7.1ch
    (C) 2020 & TM Lucasfilm Ltd.

驚異的な映像密度のスペースバトルは「NO」CG!

オリジナル三部作は実写部分は35mmカメラで、ミニチュアなどの特撮部分は高密度なビスタビジョン(フィルム2コマ分を1コマとして使用する高密度方式)で撮影されました。本作では実写パートの撮影レンズが前2作と異なるためか、仄かにザラついた画調に見えます。しかし4K化でクリーチャーの着ぐるみのディテールや質感が浮き彫りにされたことも相まって、ジャバ宮殿のエイリアンどもやイウォークたちに思わぬ生命感が生じているのが面白いところです。逆にCH6のバンドやCH11のサルラックなど、特別篇からのCGキャラは解像度の不足が目立ちます。そしてビスタビジョンで撮影された特撮パートは、CGかと錯覚するほどの超絶ミニチュアワークを高精細に映し出します。特にCH33、ファルコンに無数のタイファイターが襲来するカットは、星空・無数の戦艦と戦闘機・レーザー光線・ファルコンの窓枠など、画面に映るすべての要素がクリアに描かれて驚愕でした。CH45の最終決戦でも、デススター内部の複雑な構造のディテールが克明になりました。

HDR効果も絶妙です。CH8、ハンの蘇生シーンは明暗が拡大してさらに劇的に。CH12、眩しい陽光が砂漠を照らすセール・バージの戦い。CH21のスピーダー・バイクのチェイスは、森の光と影が強調された分、スピード感までも増した印象に。CH26のイウォークの村は、マットペインティングの馴染みが大きく向上。CH39、ルークとベイダーのライトセーバー戦は、オリジナル三部作でも群を抜く激しさに。ですが件のフリーズ現象は本作でも頻発。特にCH13の皇帝の到着シーンでは、マットペインティングで描かれた兵士たちが、グレインと共に完全静止。映像の安定感が各段に増したデジタルならではの副作用とも言えます。

ドルビーアトモス化された音声は、本作の興奮をさらなる高みに。CH12のセール・バージの大乱戦。CH14、ヨーダの死と共に頭上に轟く鎮魂の雷鳴。CH21のスピーダー・バイクは、シャープな音像が前後をめまぐるしく駆け抜けます。CH34、森に響き渡るイウォークたちの雄叫び。CH33やCH45のスペースバトルではEP4以上に音場が拡大し、無数の戦闘機が頭上を飛び交って最高にエキサイティング。そしてCH43、BD版で追加され、賛否を呼んだベイダーの「NO」の叫び。これがEP3のCH47、パドメの死に対する「NO」と呼応させる改変だったことに気づき、つい目頭が熱くなりました…。

  • 『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』
    画質評価/音質評価
  • 星空や無数の戦艦、戦闘機のディテールなど、映像の隅々まで見えるので、今まで気がつかなかった発見も! ぜひ大画面でご堪能ください。
    (C) 2020 & TM Lucasfilm Ltd.

特典も盛りだくさんだが旧盤も手放せない

各作品の特典BDには、BD-BOX版の未公開シーンやデジタルアーカイブ、配信版の特典ドキュメンタリー、本国「Disney+」版の新作ドキュメンタリーなどが収録されましたが、DVD版の特典はほぼオミットされたようです。150分の長編ドキュメンタリー「夢の帝国」や、世界で初めてメイキング映像が単品発売された「メイキング・オブ・SW」(DVD収録タイトルは「製作秘話」)や「メイキング・オブ・帝国の逆襲」(DVDでは「特撮のすべて」)など、サーガの歴史的な変遷を追える貴重なコンテンツの収録が見送られたことはやはり残念です。そしてプリクエルやシークエルと同様に、本国で配信中のドルビービジョンにはUHD BDは非対応。さらに本編UHD BDには音声解説がなく、音声解説付きの本編BDも収録されませんでした。熱心なファンであればあるほど、やはり旧盤が手放せないようです。

もういちど「フォース」を信じさせてくれた4K版サーガ

「この3作品のために映画館は作られた」…これは97年の『スター・ウォーズ特別篇』、そのアメリカ版ポスターにあった宣伝コピーです。この言葉を借りて言うなら、「この9作品のためにホームシアターを作りたくなる」ほどに、4K/HDRで観る『スター・ウォーズ』サーガは、オーディオビジュアルの魅力に満ちあふれたものでした。

個人的に非常に興味深かったのは、ルーカスが最後に手を入れた4K版オリジナル三部作の映像トーンが、最初の劇場公開版への回帰に見えたことです。もし手元に06年版のリミテッドエディションDVDをお持ちであれば、特典ディスクに収録された「オリジナル劇場公開版」と比較してみて下さい。驚くほどにルックが似ているはずです。その懐かしいトーンの映像を見ながら、それぞれの映画本編はもちろん、一緒に楽しんだ家族や友人、そして映画館の記憶までも、筆者の脳裏に次々と甦ってきました。正直、ここ数年で荒んでしまっていたSWへの思いですが(苦笑)、夢中だったあの頃の思い出と再会したことで、もういちど「フォース」を信じてもいいのかなと思えたことが、このレビューの最大の収穫と言えるかも知れません・・・

そう書いていた矢先に、日本での「Disney+」のローンチが決定したという情報が入ってきました! 早ければ6月からSWサーガやスピンオフが4K/ドルビービジョン映像、そしてドルビーアトモス音声での配信がスタートします。傑作スピンオフドラマ『ザ・マンダロリアン』やアニメ『クローン・ウォーズ』新シーズン、そしてオビ=ワン・ケノービを主役に据えた新作ドラマの製作も噂される、ファンにはたまらないプラットホームと言えるでしょう。こうなると、HDR10収録のUHD BD映像とドルビービジョンの配信映像を徹底的に比較視聴しない限り、僕の「スカイウォーカー・サーガ」レビューは終われないようです。果たしてその日が来るのかどうか? 期待しないでお待ちください…!

  • 2004年に伊尾喜氏がSWサーガのVFXスタジオ、「インダストリアル・ライト&マジック」を訪問した際の写真。トルーパーの衣装もエンドアのマット画も、映画に使われた本物です。

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