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  • 今知りたい! 林 正儀のオーディオ講座第4回
    「スピーカーのキャビネットの役割」
    低音表現に対して密接に関わる要素

    取材・執筆 / 林 正儀
    2023年2月24日更新

    • VGP審査員
      林 正儀

次回の記事>>>第5回「スピーカーのユニットの種類」を読む

エンクロージャーは低音の再生と関わる

エンクロージャーとはスピーカーユニットを収納する箱のことで、キャビネットともいいます。なぜユニットを収納するかについては、デザインや機能的な面もありますが、もっと本質的な理由があるのです。

スピーカーユニットを箱から外した裸の状態で鳴らせば一聴瞭然です。ジャズもクラシックもあれほど豊かな低音が響いていたのに「どこへ消えたか!」と驚くほど低音が出なくなります。そこで、もう一度箱に取りつけると…。水を得た魚のように、朗々とした低音が復活します。そう、エンクロージャーは本来の低音を出すための仕掛けだったのです。

キャビネットでユニットの音の打ち消しを防ぐ

  • 左の図では、エンクロージャーの形によって音が変わるしくみを説明しています。ユニット単体だと、コーンが前に動いて空気を押しても、背面側の空気圧が下がり、互いにキャンセルしてしまうのです。波長の長い低音ほど、キャンセル効果は顕著になります。

これを説明したのが上の図の[A]です。ユニットは前回学んだダイナミックコーン型だと仮定して、ウーファーを例にするとよいでしょう。本来は低音再生が得意のはずのウーファーでも、ユニット単体では本来の性能を発揮できません。その理由は、コーンの前面と後面とでは、出る音の位相(向き)が反対になっているから。そのために+/-で打ち消されてしまうのです。しかもこのキャンセル効果は波長の長い低音ほど強く現れ、再生しにくくなるのです。

次に、[B]のように広い板に取りつけてみましょう。かなり低音が出始め、ベースがブンブン響いてきます。これは前後の空気の移動をバッフル板が遮っているからです。しかし周囲からやはり音の移動が発生するため、十分ではありません。どこまでも続く無限大バッフルが理想ですが、これは実用にはなりませんよね。そこで、バッフル板を壁のように大きくした平面バッフルが考案されました。

次に考えられたのが、バッフルを後ろに折りまげるというアイディアです。これが[C]の後面開放型で、小さい面積のバッフル板でも、平面バッフルに近い効果が得られます。またユニットの背面がオープンになっていることから、開放的で自然な音がすると好むユーザーもいるのです。昔のユニットにはこのタイプのエンクロージャーとマッチングがよいものもみられました。

ここまでくれば、次はどうなるかおわかりでしょう。[D]のように、どうせならユニットをリアまで全部覆って完全に閉じ込めたらどうか。これなら空気の出入りもなく安心、と考えたわけです。これが密閉型エンクロージャーのはじまりです。

エンクロージャーの方式と内部のしくみ

では、実際にどんなエンクロージャーの方式があるのでしょうか。主力は何といっても密閉と、バスレフ方式です。低音のコントロールの仕方によって、空気を完全に閉じ込めてしまうのか、それともポート(ダクト)というパイプ穴を設けて、そこから空気を出入りさせるのかに分けられるのです。「せっかく密閉にしたのにまた穴を開けるのはなぜ?」という疑問には、のちほどお答えしましょう。

その他にはバスレフ式から発展したドロンコーン方式、キャビネットをホーン状にしたホーンタイプがあります。また、図にはありませんが、コンデンサー型スピーカーなどの平面ユニットを用いた平面方式などもあります。

ドロンコーンのドロンは怠け者という意味です。パッシブラジエーターとも呼びますが、これは通常のポートの替わりに、磁石やボイスコイルなどの電磁気回路を省いたユニット(つまりコーンだけ)を装着しています。つくりはウーファーとソックリな、低音を増強させるというタイプです。JBLの往年の名機「オリンパス」にはこの手法が用いられており、現在でもBluetoothスピーカーなどで採用されています。

ホーン型のエンクロージャーには、フロント・ロード・ホーンとバック・ロード・ホーンとがあります。両手でメガホンがわりに音を集めると、音の拡散が防がれるため、音量が上がって遠くまで届きますよね。スピーカーではスロート(のど元)からホーンの開口部まである曲線で、徐々に開いていくように設計されています。それによってより大きな面積の空気を揺することができるわけです。

  • 密閉型やバスレフ型、さらにドロンコーン型やホーン型など、スピーカーのエンクロージャーの方式はさまざまです。また、バスレフ型でもフロントダクト/リアダクト、ホーン型もフロント/リアなどに分かれます。ホーン型の2つの形式はユニットの前と後ろのどちら側にホーンを設けるかの違いですが、どちらも元々はコンサートのPAなど、業務用で用いられた方式で、音の能率がぐっと高くなるのが特長です。

密閉型とバスレフ型の比較と音の特長

ここで密閉型とバスレフ型の違いをまとめてみましょう。密閉型では閉じ込められた空気がバネの作用をして、スピーカーの動きをコントロールします。このためタイトでダンピングのよい、締まった低音が得やすいのが特長です。

ただ、密閉で十分な低音を得るには、大きな容積を必要とします。これをカバーするのが、ポートを設けたバスレフ型、位相反転式とよばれるタイプです。同じ低音、たとえば50Hzを出すにも、バスレフ型なら密閉型と比べて60%のサイズでOK。音のイメージは、締まりというよりは、伸びと量感が特徴的。ドラムやベースや低音がぐんとリッチになり、サイズ感が出てきます。ただこれは一般的な傾向ですから、上手に設計されたスピーカーであれば、どちらの方式も良質な低音が得られます。

  • 密閉型とバスレフ型の比較表です。同容積であれば、バスレフ型は密閉型と比べて×1.6倍まで低音を伸ばすことができます。
  • それぞれの低音特性を表した図です。ダラ下がりの密閉型に比べ、もう一息のびてからストンと落ちるのがバスレフ型の特長。密閉型はダラっと下がりながらもかなり低い方まで伸びている、自然な低音であることがわかります。

位相反転のしくみを活かしたバスレフ方式

ポート(ダクト)は筒になっていて、その面積と長さで共鳴するポイント(周波数)をコントロールできます。その場所によってフロントダクトやリアダクト、あるいは底面にポートの出口を設けたタイプなど様々です。ではなぜポートで低音の増強ができるのでしょうか?

ざっくりといえば、エンクロージャー内の空気バネの強さとポート内の空気の質量(重さ)によって共鳴がおこるからです。ポート内は空気の塊とみてよく、これがユニットの背圧によって激しく出入りします。その際の方向(位相)は、共振点(ƒ0:エフゼロ)を境に反転することから、バスレフ(バス・レフレックス)型は「位相反転型」とも呼ばれるのです。

位相反転のしくみは難しいのですが、一種の逆振動と思えばよいでしょう。バスレフ方式ではユニットとポート2ヵ所の空気がもつバネ性が、特定振動(周波数)でうまく釣り合うように設計されています。

エンクロージャー内で繰り返し与えられる圧縮と膨脹。これには実はおもしろい性質があります。エンクロージャー内の空気が圧縮されたとき、共振点においてはポート内の空気は反比例して膨脹するのです。この逆振動のために、ユニットからの直接音とポートからの音(低音)が反転するわけですね。オーディオの本などに書いてある、「ƒ0よりも上では同相になるために互いが強めあい、ƒ0よりも下では逆位相となって打ち消しあう」とは、このことです。

  • 左の図は、ユニットの直接音とダクトからの低音(ƒ0にピークがあります)を合成した特性を示しています。ちなみに位相反転とは音の波形が180度ひっくりかえることで、これによって低音が増強されるバスレフ効果が生み出されるのです。

今回はかなり詳しい内容でしたが、ユニットやエンクロージャーのしくみがわかればしめたものです。なぜスピーカーを後ろの壁に近づけ過ぎてはいけないのかという、セッティング術も理解しやすくなるでしょう。

前回の記事>>>第3回「スピーカーのタイプと選び方」を読む

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