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レビュー

  • “音が出るスクリーン”の開発秘話に密着!国内導入進むBloomsbury Lab 韓国本社にてブランドCEOの映画に対する想いを聞く

    取材・執筆 / 鴻池賢三
    2024年9月6日更新

    • VGP審査副委員長
      鴻池賢三

製品背景の奥深さを直感し韓国本社へ

スピーカー機能を内蔵した「音が出るスクリーン」として注目を集める韓国のスクリーンブランドBloomsbury Lab(ブルームズベリー ラボ)。オーディオビジュアルの総合アワード「VGP2024 SUMMER」では、そのコンセプトと画音質が高く評価され、部門金賞のみならず、栄えある“特別大賞”も授与されました。

筆者はVGP審査過程で同社の製品に触れ、単に機能として「音が出るスクリーン」ではなく、作品に没入できる「特別な体験」から、奥深さを直感し大いに関心を持ちました。

どのようなヒトがどのような想いで作った製品なのか。このように製品のバックグランドにも興味を持った筆者は、居ても立っても居られず、韓国のBloomsbury Lab本社を訪問。製品の開発を主導する社長のキム・ヨソプ氏にインタビューをおこないました。

そこには、同氏の映画に対する想い入れと長年に渡る真摯な取り組みがありました。また、オフィスに併設されたデモルームや、商業施設内に入居しているショールームも美しく整えられていたのが印象的で、この記事であわせてご紹介します。

  • Bloomsbury Lab本社が入居するビルは、ソウル特別市内でも経済の中心地といえ、勢いを感じる江南区に所在。観光客にも人気の「COEXモール」のすぐ隣と好立地です
  • Bloomsbury Lab本社オフィス(韓国・ソウル特別市)にて。社長キム・ヨソプ氏(写真左)と筆者(右)

自社工場で素材から完成品まで製造

Bloomsbury Labは2003年に韓国ソウルで創業したスクリーンメーカー。自社工場を持ち、映画劇場用のスクリーンと家庭用製品を、素材から完成品まで一貫して製造しているのが特長です。

とくに映画劇場用のスクリーンは韓国国内で約70%超のシェアを獲得するに至り、最近では日本の大手シネマコンプレックスにも導入が進んでいるとのこと。そうした実績のあるプロブランドが作る家庭用スクリーンは、ホームシアターファンにとっても興味深いのではないでしょうか?

  • 韓国の大手映画館「MEGABOX」を中心に、劇場用スクリーンで70%のシェアを獲得しているといいます。日本でもシネコン大手の「T」や「I」で導入が進んでいるそうで、すでに同社のスクリーンで映画を鑑賞している読者もいるかもしれません

同社が家庭用スクリーンで日本初上陸を果たしたのは2023年、アンプ内蔵2chアクティブスピーカー機能付きスクリーン「Liberty 52」(52型)。幕面がグレーの抗外光タイプで、おもにフロントプロジェクター(長焦点)との組み合わせを想定した製品です。

第二弾は2024年に発売を開始し、VGP2024 SUMMERでも高い評価を得た「Liberty Wide Pro」。パッシブタイプのスピーカー機能を3ch分内蔵した抗外光タイプで、102インチと120インチの2モデルをラインナップしています。超短焦点プロジェクターとの組み合わせを想定して最適化された製品ですが、長焦点タイプとの組み合わせも可能です。

  • 抗外光スクリーン
    Bloomsbury Lab「Liberty Wide Pro」(102インチ/120インチ)
    VGP2024 SUMMER映像音響部会にて、部門金賞と特別大賞を獲得しました
  • 抗外光スクリーン
    Bloomsbury Lab「Liberty 52」(52インチ)

取材に応じて下さったのは、開発を主導するBloomsbury Lab社長のキム・ヨソプ氏。対談を通じて、「アイデアが豊富」「思いついたら即行動」「最後までやり遂げる」という印象を受けました。自称“無免許デザイナー”というユーモアを合わせ持つ興味深い人物でした。

同氏が現在につながる事業を始めたきっかけは、約20年前に旅行で訪れたモンゴルでの体験。首都のウランバートルでさえも娯楽が皆無という状況に遭遇しました。すると同氏が幼少の頃、両親に連れられて行った映画館の楽しい思い出が蘇り、モンゴルの人々にも夢を見てほしく、映画館の整備を決意したといいます。

当時モンゴルに存在した映画館は設備が老朽化し、上映されている作品も出元が不明でただ流れているだけの状態。観客も少なく閑散としていたそうです。そこでキム・ヨソプ氏は、現地行政に働きかけたり同志や出資者を募ったりして、映画館を美しく改築、作品も吟味しました。

当時、2ドル(USD)に設定した鑑賞料は周りの誰からも「高額すぎる」といわれたそうですが、映画館が「憧れの場所」となることで着実に業績を伸長。結果、メジャー配給会社を引き寄せるに至って好循環が生まれ、映画館が続々と誕生したそうです。

「モンゴルの人々が映画館で楽しそうにしている姿を見て幸福でした」という同氏の言葉が印象的でした。

  • モンゴルの映画館の改装前(上)と改装後(下)外観。改装後は電飾が加わり、明るく近代的な雰囲気に(写真提供:Bloomsbury Lab)

同氏の2番目の節目といえるのが、劇場用スクリーン事業への参入です。3D作品として大ヒットとなった映画『アバター』は、ハイゲインのシルバースクリーンを必要とするものの、当時の既存メーカーは製造が追いつかず供給不足に。非常に高価格かつ納入に時間が長くかかることに疑問を持った同氏は、自らスクリーンを生産することを決意しました。

もちろん開発は一筋縄でいかなかったものの、試行錯誤を繰り返し、高品質と低コストを達成。この成功は、韓国国内でシェア70%という数字で裏付けられます。

研究に基づいた技術が“体験”をより特別に

同氏が強調するのは「技術」ではなく「体験」が重要であるということ。もちろん、目指す「体験」を達成するために技術は必要ですが、主役ではないという考え方です。とはいえ、オーディオ・ビジュアル機器メーカー出身の筆者は、どうしても「技術」が気になりがち。技術詳細をお聞きしました。

まず「Libertyシリーズ」の特長といえるスピーカーシステム。「Liberty Wide Pro」では1chあたり3個、3ch×3個で合計9個のアクチュエーター(加振器)を搭載しています。筆者の聴感として、音が非常にクリアで聴きやすいことから技術的な工夫をたずねると、対称にならない配置、つまり共振を避けている、との回答が得られました。

社外秘とのことで写真ではご紹介できませんが、開発風景をイメージでご紹介します。パネルに数十個もの多数のアクチュエーターを取り付け、放出される音の周波数特性を分析。非常に多くのパターンから、最適な配置の組み合わせを選択していることが見て取れました。

  • 映像と音の一致の大切さについて力説するキム・ヨソプ氏

単に音が出るスクリーンではなく、研究開発に基づいた「いい音がするスクリーン」だったという訳です。こうした本来ならアピールしたくなる詳細を公表しないのも、「体験」が重要であって、技術はその立役者という考えによるものでしょう。

画質面では、シルバー塗装に秘訣が。独自の金属配合塗料の使用に加え、ロボットの導入によって均一な幕面を形成。安定して大量生産することで、コストダウンにもつながっているようです。品質面で要求が厳しい劇場用スクリーンで培った技術が「Liberty」シリーズにも活かされています。

デパートやオフィスに視聴の場を用意

Bloomsbury Labは現在、販売店を兼ねるショールームを韓国にて4店舗運営中。単に製品として販売するだけでなく「よりよい体験」ができるスペースを設けている点に、同社のフィロソフィーを感じます。今回は、水原市の「ギャラリアデパート」内にある同社ショールームを訪問しました。

  • 水原市はソウル市内から車で約1時間の場所。今回訪問したBloomsbury Labのショールームが入居する「ギャラリアデパート」(水原)の外観は著名デザイナーによるもの。特別感が漂います

プレミアムなライフスタイルを提案するラグジュアリー路線のデパートで、韓国国内に数店舗存在します。著名デザイナーによる内外装も注目されており、水原市の「ギャラリアデパート」も外観から異質です。

Bloomsbury Labのショールームは1階でハイブランドと肩を並べるように入居。広々とした店内空間を贅沢に使用してゆったりと展示をおこないます。実際に、映像とサウンドをじっくりと体験できました。ふらっと来訪したお客さんが、その場で購入を即決されることもあるそうです。

  • ギャラリアデパート(水原)の1Fで、ハイブランドと肩を並べて入居するBloomsbury Labショールーム。洗練度が高く存在感が印象的でした
  • ショールームの内観。Bloomsbury Labによるスクリーン製品のほか、関連するプロジェクター製品の展示や販売もおこなっています
  • 日本で未発売の「音が出るアート」(「LIBERTY FRAME S8」限定品)の展示。スクリーン幕面の代わりにアート作品が張り付けられていて、音楽を聴くスピーカーとして機能します。写真はアーティスト「mitsume」(X @3eyes_takahashi)の作品で、購入者は画の選択も可能。1,195×690mmサイズは1,490,000ウォン、2060×1200mmサイズは2,990,000ウォン

また、江南の本社オフィスにはデモンストレーションスペースを併設。複数のタイプの部屋が設けられ、各製品の特長がわかりやすいように工夫されていました。一等地ともいえる場所で広い空間が割かれ、内装も洗練度が高く同社の方向性や勢いが感じられました。

  • 照明のあるリビングを意識したスペース。各種サイズの抗外光スクリーンを用意し、映像の見え方を確認できます
  • 暗室にもできるスペース。スクリーンタイプによる映像の見え方を比較体験できます。写真右手は幕面に穴のある、映画館用の音響透過型スクリーン
  • 実際の住居の雰囲気が感じられるスペース。自宅に導入した際のイメージができ、夢を持てる空間となっています

人々が夢を見られる映画体験を叶えていく

製品にふれた際に直感した「驚き」の源泉は、やはり「ヒトの想い」でした。今回の取材で、キム・ヨソプ氏の映画に対する思い入れと長年に渡る真摯な取り組みが「Liberty」シリーズを、単に「音が出るスクリーン」ではなく、映像と音が一致して生まれる「Cinematic Sound」、いいかえると作品に惹き込まれる「没入体験」へと昇華させたようです。

「音が出るスクリーン」と聞くと、コストとスペースの節約に目がいきがちですが、実は奥深いねらいと技術が込められた「Liberty」シリーズ。映画ファン、ホームシアターファンに体験をおすすめしたいプロダクトです。

  • 鴻池賢三 氏
    VGP審査副委員長も務めるオーディオ・ビジュアル評論家。メーカーにてオーディオ・ビジュアル機器の商品企画職、米シリコンバレーのデジタルオーディオ・ビジュアル機器用ICを手がけるベンチャー企業を経て独立。THX/ISF認定のホームシアターデザイナーとしても活躍

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