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  • 尾田栄一郎自身が語る、HELLO! MOVIE史上最アツ!のコメンタリー 第12回『ONE PIECE FILM RED』

    取材・執筆 / 永井光晴(ホームシアターCHANNEL編集部)
    2022年12月12日更新

尾田栄一郎自身によるコメンタリーは本編を3分も超える重厚さ

2022年8月6日公開から、メガヒット記録を更新し続けるアニメ映画最新作『ONE PIECE FILM RED』。公開13週目にして1位に返り咲き、11月初週時点でも1位、動員1340万人、興行収入185億円を突破。これは国内歴代興行収入9位に位置し、もちろん記録更新中です。

映画の記録的ヒットを記念して、11月5日(土)から原作者であり総合プロデューサーの尾田栄一郎と谷口悟朗監督による「FILM RED出張版SBS≪副音声上映≫」が、HELLO! MOVIEで開始。

SBSとは『ONE PIECE』コミックスの誌上で掲載されている質問コーナー「質問を(S)募集(B)するのだ(S)」のこと。

尾田栄一郎が読者からの様々な質問に答える大人気コーナーのSBS出張版として、スマホアプリHELLO! MOVIEを使った劇場コメンタリーをイヤホンで聴くことができます。尾田と谷口監督の掛け合いで、今だからこそ語れる『ONE PIECE FILM RED』制作秘話や裏話が明かされ、そしてTwitterで募集されたきわどい質問にも答えていきます。

いつものようにHELLO MOVIE!アプリを起動させたスマホをドリンクホルダーに立てて、イヤホンでコメンタリーを聴きながら鑑賞。なんと作品のエンドロールが終わって、劇場内の照明が明るくなってもなお、本編を3分オーバーする重厚さにとまどいます。HELLO! MOVIE史上 最アツのコメンタリー。そのぶん本編映像に対する直接的な関係性は薄く、まるで独立した「ラジオ番組」を聴いているようです。

  • 『ONE PIECE FILM RED』(2022年8月6日公開)
    ●監督:谷口悟朗
    ●原作・総合プロデューサー:尾田栄一郎
    ●脚本:黒岩勉
    ●キャラクターデザイン:佐藤雅将
    ●総作画監督:佐藤雅将
    ●音楽:中田ヤスタカ
    ●主題歌:Ado
    ●劇中歌楽曲提供:中田ヤスタカ/Mrs. GREEN APPLE/Vaundy/FAKE TYPE./澤野弘之/折坂悠太/秦基博
    ●CV モンキー・D・ルフィ:田中真弓/ウタ:名塚佳織/シャンクス:池田秀一
    2022年製作/115分/G/日本
    配給:東映
    (C)尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会
    1997年より「週刊少年ジャンプ」にて連載開始した『ONE PIECE』。2021年、コミックスの全世界累計発行部数は“4億9000万部”を超え、単行本は“100巻”の大台に乗り、テレビアニメも“1000話”を突破。『ONE PIECE FILM RED』は総合プロデューサー:尾田栄一郎で贈る劇場最新作。谷口悟朗(「コードギアス」シリーズ)を監督に迎え本作のオリジナルキャラクター・ウタをボイスキャスト・名塚佳織、歌唱キャスト・AdoのWキャストで担い、ウタとシャンクスの過去を知る謎の人物・ゴードンを津田健次郎が演じる。さらに世界の歌姫・ウタの楽曲として、主題歌を中田ヤスタカが作詞作曲、劇中歌(6曲)をMrs.GREENAPPLE、Vaundy、FAKETYPE.、澤野弘之、折坂悠太、秦基博が担当し、総勢7組の豪華アーティストが本作の歌唱楽曲を提供する夢の企画が実現。この夏、ウタの歌声が心揺さぶる物語を紡ぎだす。

ONE PIECE FILMの本分こそが、映画エンタメの革新

実は『ONE PIECE FILM』がHELLO! MOVIEサービスを使うのは初めてではありません。2019年公開の劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』(ワンピース スタンピード)で、映画の進行に合わせて作品キャラクター “麦わらの一味” の声優陣9人全員によるオーディオコメンタリーをイヤホンで聴くことができるという試みを実施しています。

当時は「HELLO! MOVIE」という名称ではなく、スマホアプリは「Another Track」という運用技術名でした。まだまだ「Another Track」でコメンタリーサービスを手掛ける映画作品は少なく、いかに『ONE PIECE FILM』に先見性があったかが分かります。
なお、『ONE PIECE STAMPEDE』のAnother Trackサービスはレポートも掲載していますので、そちらも一緒に参照してみてください。

ワンピースの先見性はそれだけではありません。『ONE PIECE 3D 麦わらチェイス』(2011年)では全編フルCGおよびデジタル3D映画に挑戦しています。これも3D元年と言われた2009年(『アバター』の公開年)の直後で、3D上映は『ONE PIECE FILM GOLD』(2016年)でも実施され、さらに『GOLD』では初の4DX・MX4Dでも上映されています。日本映画が3Dや4Dに消極的な中、ワンピースは常に新しい上映形態を貪欲に開拓し続けているのです。

  • 劇場スクリーンの入口には、HELLO MOVIE!コメンタリー上映が行われている告知パネルが掲示

「入場者特典」を社会的現象まで押し上げたのも『ONE PIECE FILM』

一方で、今でこそアニメ映画の当たり前となった「入場者特典」を社会的現象まで押し上げたのも『ONE PIECE FILM』に他なりません。『STRONG WORLD』(2009年)は、劇場版限定コミックの先駆けでした。

今回も劇場限定版コミックから始まり、第7弾プレゼントでは「ワンピの実『FILM RED』“シャンクス”」が限定20万個配布され、第8弾『スペシャルシャンクス104巻掛け替えカバー』(11月12日〜)、第9弾『ゆめかわ♡ウタラバーバンド』(11月26日〜)、第10弾『ぷくぷく♡ウタバルーン』(12月10日〜)が配布されています。

近年のアニメ作品の入場者特典は過剰になりすぎたきらいもありますが、『ONE PIECE FILM RED』がこれだけロングランになることは想定外だったはずです。10週以上公開する作品は、年間数本もない中で、次々とファンの期待に応えていく特典を繰り出していく姿はむしろ清々しいです。

(ここからはネタバレになる記述があります。鑑賞後に読まれることをオススメします)

本作で発揮された音楽映画としての奇跡のバランス

さて、前置き(?)が少し長くなってしまったのは、東映から「ネタバレ禁止」が勧告されているから。HELLO MOVIE!コメンタリーの内容をあまり書けません。しかしながら筆者はサービス開始から1カ月経った現在もその内容に興奮しています。少しだけコメンタリーの魅力に触れてみたいと思います。

今回の185億円という突き抜けたヒットは、前述の「プラスα」のサービスだけに押し上げられたものではありません。というのも、これまでの『ONE PIECE FILM』も大ヒットはしているものの、日本映画の歴代記録更新を成し遂げてはいません。シリーズ中、1番ヒットした『ONE PIECE FILM Z』も興行収入68.7億円。国内公開の歴代トップ100位にも及びません。

劇場版『ONE PIECE』の歴代興行収入上映作品
①『ONE PIECE FILM RED』(2022) 興行収入 185.4億円(公開中)
②『ONE PIECE FILM Z』(2012) 興行収入 68.7億円
③『ONE PIECE STAMPEDE』(2019) 興行収入 55.5億円
④『ONE PIECE FILM GOLD』(2016) 興行収入 51.8億円
⑤『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』(2009) 興行収入 48億円
⑥『ONE PIECE ねじまき島の冒険』(2001) 興行収入 30億円

『ONE PIECE FILM RED』は、『ONE PIECE FILM Z』の3倍近い興行収入。本作がこれほどまでにヒットした理由のひとつとして、比類なき音楽映画に仕上がっていることに疑義をはさむ余地はありません。キャラクターとして登場する歌姫、UTA=アーティストAdoの七色の歌唱表現、そしていま正に脂の乗っているソングライターたちの競作による佳作が揃った絶妙なバランスで成り立ってます。

『ONE PIECE FILM RED』はこれまでのONE PIECEとは毛色が違います。コメンタリーで明らかにされたのは、「ルフィが技の名前を一度も発しない!」こと。(その理由はコメンタリーを聴いてください)

これまでの『ONE PIECE FILM』もそうですが、少年漫画を原作とするヒーロー劇場作品はワンパターンです。作品を重ねるごとに映像や音響のインパクトは増していくものの、正義は必ず勝ち(勧善懲悪)、乗り越えた壁の先にさらなる壁、あるいは「ラスボスは本当のラストではなかった」という肩透かしの連続に、食傷ぎみにならざるを得ません。

そんな中で『ONE PIECE FILM RED』で流れる楽曲シーンは本作を、質のよい音楽映画に昇華させることに成功しました。

コメンタリーでは、原作者の尾田栄一郎が惚れ込んで依頼した7組のアーティストだったことが語られます。それぞれのアーティストに対する思い入れも垣間見られます。また一方でアーティストたちが『ONE PIECE』ファンであり、尾田栄一郎のオファーに応えるべく、並々ならぬ実力を発揮した手抜きのない名曲揃いになった状況を察することができます。観客は、書き下ろされた楽曲が収録されたアルバム『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』を聴きこんで、また映画館に足を運ぶ意味が生まれるのです。

付け加えるとしたら、原作コミックが最終章に近づき注目が高まっていること。また少年冒険記としての『ONE PIECE』は結局、シャンクスとルフィ、あるいはエース、ルフィ、サボの物語が原点であり、本作はその最もデリケートな部分に風穴を開けるストーリーです。連載も30年に迫り、小学生だった読者もアラフォーになり、しばらく無沙汰していたファンも足を運ぶキッカケになったことが想像できます。

コメンタリーも『ONE PIECE』のコミック最終回に関するネタがいくつか出てきます。最終回を知る人(尾田が結末を教えた人)は担当編集者以外に、谷口悟朗監督もそのひとりです。しかも谷口監督によると20年以上前から構想が変わっていないことがわかります。

  • 素性を隠したまま発信される歌声が「別次元」と評され、世界でもっとも愛される歌手UTAが、初めて公の前でライブを開催することに。しかし、UTAが「シャンクスの娘」であるという事実が明らかになったことから、事態は大きく動き出していきます。
  • 少年冒険記としての『ONE PIECE』は結局、シャンクスとルフィの話が人気エピソード
  • 歌姫UTAとルフィは幼なじみ

HELLO MOVIE!コメンタリーで知る、原作と劇場版の関係性

コメンタリーでは、尾田栄一郎の「映像の創作論」や「原作コミックと劇場版ストーリーとの関係性」にも踏み込んでいます。とても興味深いのでぜひコメンタリーで聴くべき内容です。尾田は総合プロデューサーでありながら、分業制を徹底していて、実はアニメーション制作現場にはあまり干渉していないことがわかります。そのうえで尾田自身は最終的に「ONE PIECE」の世界観を守ることに集中しています。また、原作コミックだけしか読まないファンに矛盾が起きないよう最大限の配慮をしていることが明らかになります。これは原作ファンには嬉しいことでしょう。

さらに本作の企画段階では尾田栄一郎自身が本作を「音楽映画」にすることに消極的だったこと、それがどうやって「上質の音楽映画」になりえたか、その紆余曲折が語られています。

  • 尾田栄一郎の原作ファンに対する配慮が、劇場版とTVアニメ版、そして原作コミックに描きこまれるコマの隅々まで行き届いています

また公式ウェブサイトで公開されているコメンタリーのダイジェストから、質問のいくつかを紹介。
<「負け惜しみィ」の候補は他にありましたか?>
<ジャンプ本誌の第1055話“新時代”に出てくるシルエットはウタでしょうか?>
<ルフィがずっと音楽家を欲しがるのはウタの影響ですか?>
<尾田っちフィガーランド家について説明してください!>

などの質問に尾田栄一郎が本音を語ったり、語らなかったり…。

通常、HELLO MOVIE!コメンタリーは、作品公開の舞台挨拶直後に出演者を揃えて収録するタイミングになります。なので作品公開から2週~4週空けてからのコメンタリー上映が多い特徴があります。『ONE PIECE FILM RED』の場合は、メガヒットのおかげもあって10週目くらいの収録になったため、twitterで質問を公募したうえ、十分にマーケットの反応を汲み取った体制で収録に臨んでいます。コメンタリーを数えてみると、35問前後の真髄をついた質問がズラリ。とてつもない充実度です。

普通のコメンタリー収録では、出演者が映像を見ながらしゃべります。そういう意味では映像とのリンクは取れているのですが、その場しのぎの表層的なコメンタリーになりがち。谷口監督と尾田のコメンタリーは、準備された進行脚本があるのではないかと思われ、どの質問がどのシーンにマッチするかは考えられています。ただし映像に集中できないほど、二人の会話の内容が深く濃いためにラジオ番組的な印象になります。それほどまでに「HELLO! MOVIE史上最アツ」のコメンタリーなのです。やはり通常版上映をしっかりと消化してから、コメンタリー版を観にいくことをお薦めします。

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【HELLO! MOVIEの楽しみ方】

映画館へ行くまえに、お持ちのスマートフォンで「HELLO! MOVIE」を検索して、アプリをダウンロードしてください。
動画で解説します。「HELLO! MOVIE」公式YouTubeでアプリの使い方をご覧ください。