VGP phileweb

ガイド

  • 今知りたい! 林 正儀のオーディオ講座 第3回
    「スピーカーのタイプと選び方」
    スピーカーから音が出るしくみを知ろう

    取材・執筆 / 林 正儀
    2023年2月7日更新

    • VGP審査員
      林 正儀

サウンドやデザインも多種多様に選べる

第3回は、音の出口であるスピーカー編です。ひと口に「スピーカーシステム」といっても、そのかたちはさまざまで、多種多様なスピーカーたちが個性を競いあっています。主流は「ブックシェルフ」と「トールボーイ」です。しかしそれらは、いわゆるエンクロージャー(筐体)の基本スタイルであって、ハコの素材や加工方法、ユニット構成などが異なれば、サウンドはまったく違うものになります。これが、「好みの音はスピーカーで決まる」といわれる所以ですね。

デザイン性が豊かだと、単に音を出すための装置ではなく芸術品のようですが、肝心なことは、ただ「色々あっておもしろい! 」というだけではなく、このかたちが理想のサウンドを追求した結果であるということ。開発者の情熱と工夫によって、理想のサウンドのために、生み出された形状であるということです。

かつて、スピーカーといえば「四角いハコ」と相場が決まっていました。でも、現在はそれだけではありません。四角いハコでは気流の乱れなどが音を悪くすると考えたメーカーが、角を丸めたラウンド形状を生み出しました。さらに多面体や球体のスピーカーまで登場しています。

こうした変化も、プレス、切削、成型など、さまざまな加工技術の進歩なしには実現し得なかったことです。キャビネットの素材も、ウッドから樹脂、アルミなどの金属まで多種多様なのです。スピーカーユニットの方も、伝統的な紙(パルプコーン)から、金属、樹脂、繊維、セラミックス、あるいはそれらのハイブリッドなど、負けじと進化しています。

  • 小さくてチャーミングなものから、ずらっとユニットを並べたタイプ。そして大型のホーンスピーカーに衝立のようなフラットタイプや、大胆な曲面をもつ斬新なデザインのもの。ユニットがむき出しになったようなスケルトンタイプだってあります。さらに陶器や卵型、ツボ型スピーカーなど、多種多様です。

次回の記事>>>第4回「スピーカーのキャビネットの役割」を読む

好きな音楽ジャンルから見極めるのが吉

多彩な顔ぶれの揃うスピーカーから「この1本」に絞るのは大変ですが、それだけに選びがいもあるというもの。ひとつの目安として、クラシック、ジャズなど好みの音楽ジャンルで選ぶのもよいでしょう。

クラシック向きというのは、ヨーロッパのスピーカーなどに代表される、みずみずしい繊細さをもった潤い系のサウンドです。ハーモニーや余韻、音場感がきれいに聴こえることが何よりも求められます。ジャズはほぼほぼ反対と考えてもよいでしょう。パンチ力があって音がガンガン前に出る。たとえば、ホーンタイプのスピーカーに代表される、エネルギッシュなサウンドがその代表格です。

近年は個性を前面に押し出すというよりも、クセがなくニュートラルでハイスピードな音づくりを目指している時代といわれていますが、それでもメーカーや各モデルによって得手不得手はあるものです。それを見つけて、どううまく向き合うのかが大切です。

スピーカーシステムのタイプと見分け方

では、ここでどんなタイプのスピーカーシステムがあるのか整理してみましょう。
スピーカーは、エンクロージャーの形式とユニット構成のふたつから大別できます。エンクロージャーは箱で、スピーカーボックスのこと。詳細は次回で解説しますが、密閉型とポートをもったバスレフ型がメインです。そのほかにホーンロード型や平面型などの変わりダネもあります。

一方ユニット構成とは、何本のスピーカーユニットを用いるかです。単純なのはフルレンジ1発のシングルスピーカー。レンジ(音の帯域)をより広げるためにと、2ウェイ、3ウェイ、4ウェイなどのマルチウェイスピーカーも多く登場しています。スピーカーのタイプをいうときは「バスレフの2ウェイ」とか「密閉式の3ウェイ」とか呼ぶのは、こういった意味があったのです。

  • スピーカーはエンクロージャーとユニットから成り立っており、エンクロージャーの形式とユニットの構成によって大別できます。エンクロージャーの役割と種類については、第4回で解説していきます。
  • ユニットを複数搭載しているスピーカーを「マルチウェイ」と呼びます。対して、ユニット1発でシステムを構成するのが「フルレンジ」となります。ユニットの構成とタイプについては、第5回で詳解します。

内部の基本構造とネットワークのしくみ

では、箱の中はどうなっているのでしょう。バスレフ型の3ウェイの例を挙げると、下にあるポートが空気を通すバスレフ孔です。3ウェイですから、ユニットは高音用、中音用、そして低音用の3本が装着されていますね。それぞれトゥイーター、スコーカー(ミッドレンジ)、ウーファーとも呼ばれます。

ユニットが固定されている板がバッフルです。実際は中に補強のための桟(さん)が入っていたり、ウーファーの音圧の影響を受けないためにスコーカーやトゥイーターにはカバーを被せたりしています。また音質調整のため、グラスウールなどの吸音材も入っています。

内部の配線やネットワークにも注目してみましょう。音の帯域を振り分けるのがネットワークで、2ウェイ以上のシステムには必ず入っています。スピーカー端子は、アンプから送られてくる電気信号の入り口です。増幅された音楽信号がスピーカーを鳴らすわけです。構造的には+/-の1組で成立しますが、さらにH(高音用)とL(低音用)を別々にして2組のターミナルをもつバイワイヤー対応も多くなっています。

  • 左図が本文中で例に挙げた、バスレフ型の3ウェイ・スピーカーのカットモデルです。空気を通すポートがあるのが密閉型との大きな違い。ユニットの素材によっても音の傾向は変化します。

ダイナミック型は電磁力によって発音する

ラッパは吹けば鳴りますね。バイオリンは弓でこすります。ピアノは鍵盤をたたく。これが楽器の音を生み出すのですが、スピーカーはどうやって音が出るのでしょうか。スピーカーは楽器ではありません。入力された音声信号(電気信号)を忠実に音として再現するトランスデューサー(変換器)なのです。

その発音原理によっていくつかのタイプに分類されるのですが、ここでは最もポピュラーなダイナミック・コーンスピーカーのしくみを解説します。これは理屈っぽくいうと「電磁力で動くコーンタイプのスピーカー」のこと。電磁力とはマグネット(磁石)と、コイルの中を流れる電流との間に生まれる力を利用したもの。ドーム型やホーン型スピーカーでも基本のしくみは同じですね。

ダイナミック・コーンスピーカーのユニットはNSのマグネットとボイスコイル、そしてコーンと呼ばれる振動板の3つで構成されています。コーンを前後にゆさぶって空気をふるわせ音を出すには、その元になる駆動力が必要です。その力を生み出すのが電磁力というわけです。

  • ダイナミック・コーンスピーカーのユニットの断面図です。(a)→(b)→(a)→(b)と素早く繰り返すことで、ボイスコイルが前後に激しくピストン運動し、接着されたコーンが空気を揺さ振ることで音を出すしくみになっています。

マグネットは中心のNから外側のSへと磁力線が流れていきます。その狭い隙間(ギャップ)にボイスコイルを吊し、そこに音声信号を流すのです。音声信号は+/-に変化する交流ですが、今回は話を簡単にするために、直流であると仮定して実験しましょう。

電流をコーンが前に出る方向、次にコーンが後ろに下がる方向にすれば、ボイスコイルに流れる電流の方向はそれぞれで逆になりますね。

左手の3つの指を広げ、磁界のNSと電流の向きに対応させる有名な「フレミングの左手の法則」に当てはめると、親指が上を向きますよね。そう、電流をコーンが前に出る方向に流したとき、ボイスコイルには上向きの力が発生したのです。ちなみに、ここでもし電流を流すのをやめたら力はゼロになり、磁石だけでは電磁力は起きません。

では電池の+/-を反対にした、コーンが下に下がる場合はどうかというと、電流そのものが逆向きなので、力も下向きに発生しますね。この2つの運動を、交互に素早くくり返すことで、ボイスコイルが前後に激しくピストン運動をする。このままでは音にならないので、コーンと一体化(接着)することで、大きな面積で空気をゆさぶり、音楽が鳴るというしくみです。

  • 左の図はコーンが前に出る場合を示していて、コイルの様子を◎と×のマークであらわしています。ちょうど弓矢を見ている感じで、×マークは奥に流れていく電流、◎マークは手前に向かって流れていく電流を表します。

この基本がわかれば、ひきつづきエンクロージャーや各ユニットの特徴、ネットワークの役目、さらにスピーカーのつなぎ方やセッティング方法なども、すんなり理解してもらえるはずです。では次回は、エンクロージャーについて解説していきましょう。。

第2回「オーディオの楽しみ方〜ソフト編〜」