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  • 今知りたい! 林 正儀のオーディオ講座 第9回「スピーカーの置き方」 スピーカーセッティングには“基本”がある

    取材・執筆 / 林 正儀
    2023年7月12日更新

    • VGP審査員
      林 正儀

前回の記事>>>第8回「スピーカーのつなぎ方」を読む

セッティングで変わるスピーカーの音

同じスピーカーでも、置き方次第でまるで別もののように音がかわります。気持ちよくのびやかに鳴り響くかと思えば、どんよりと濁っていてなんだか冴えない…。そんな経験はありませんか? 今回は機器の使いこなしの中でも、最も興味深いスピーカーセッティングについてその基礎を学びましょう。詳しい説明に入る前に、まずは覚えておくべき5つの項目をご紹介します。

<スピーカーセッティングの基礎項目>
1)スピーカーに気持ちのよい空間をつくってあげる
2)後ろや左右の壁から30cm以上は離そう
3)耳の高さはトゥイーターとウーファーの間くらいに
4)しっかりした床に置く
5)正三角形配置が原則

「ぐらぐらの床に置かない」「床ベタはご法度!」などは常識中の常識。まずこれを頭においてから、説明に入っていきましょう。

ステレオイメージの再現がポイント

まずはステレオ再生の原理から解説しましょう。スピーカー2本でどうやって、左右の広がりを得たり、歌手や楽器をきちんと定位させたりすることができるのでしょうか。たとえば、いま左から右へと、目の前を汽車が通過したとしましょう。目をつぶっても、左、それから中央、最後に右へという動きが音によってわかりますね。ポイントはこのときの耳のはたらきです。

電車が自分から見て左方向にあるときは音源が左耳から近くて、右耳からは遠いため、左耳の方が音を大きく感じますね。それが中央地点までくると、左右の耳から等距離になるので、両耳とも同じ音量に聞こえます。距離が近いために音量そのものも大きく感じるはずですね。次にだんだん右側へと遠ざかっていくと、音が小さくなるとともに、出発地点の場合とは逆の現象が起こります。すなわち右耳に近くて左耳からは遠いために、今度は右耳の方の音量が大きいと感じる。

  • A点は左耳に近く、右耳から遠い状態。B点は、左右の耳から等距離の状態。C点は右耳に近く、左耳から遠い状態。左右で音の大小、位相、音の回り込みなどの情報によって、音の位置を“イメージする”ことができます。

というわけで、あたかも音源が左から右へ連続的に移動するように聞こえるのです。実際には両耳への距離のほか、位相やまわり込みなどさまざまな情報を活用しています。

SLを使ったステレオのデモ再生は、ステレオ初期の頃に盛んに行われたものですが、原理そのものは音楽のステレオ再生でも同じです。あたかも眼前に歌手やオーケストラがずらっと並んで演奏しているかのようなステレオイメージを再現するには、どうスピーカーを配置すればよいのでしょうか。

ステレオ再生の基本は正三角形配置

ステレオ再生には、スピーカーはもちろん2本必要です。1本ではモノラル再生しかできません。そして、セッティングの基本は「正三角形配置」です。左右のスピーカーとリスナーを結ぶ線が、60度、60度、60度の正三角形となるように置いてみましょう。

ここでポイントになるのが、リスナーとスピーカーの相対的な位置関係です。リスナーは必ず左右のスピーカーの正面、軸上で聞くことになり、ステレオ再生の原則が守られますね。これが左右どちらかにズレて座ってしまうとどうでしょう? そちらのチャンネルの音が大きくなり、バランスがおかしくなります。

また、左右のスピーカーの間隔も離れ過ぎず、近づき過ぎず、といった程度がベスト。正三角形セッティグはこのように、ステレオ再生の基本ルールにのっとった方法なのです。

テレビの視聴位置については、高さをHとすると「3Hがいい、いやいや最近は高精細なので2.5Hだ」とか色々説があるようですが、オーディオはもっとシビアです。それというのも、アナログレコードの時代からソフトの制作現場では正三角形セッティングを基本ルールとして守っているからです。

ではこのルールから大きく逸脱したらどうなるのでしょうか。左右を近づけ過ぎた場合は、ステレオらしい広がり感が不足。音が真ん中に集中したモノラルっぽい音になってしまいます。その反対に左右を離し過ぎてしまうと音も広がり過ぎ、センターが薄まった感じの中ヌケのサウンドとなってしまうのです。

  • 左図の(A)が正三角形配置のイメージです。もちろんこれは基本なので、ものさしで計ったようにピタっと合わせる必要はありません。スピーカーや部屋によって多少変わることがあってよいのです。

音の高さによって指向性も異なる

次はスピーカーの高さや壁との距離などですが、先にスピーカーから出る音の性質を学んでからにしましょう。というのも周波数(音の高さ)によって、音の進み方や広がり方が違うのです。これを指向性といいます。一般的には「波長の長い低音域では指向性が広く、スピーカーの背後まで回り込む。中音から高音域になるほど音のビームが鋭くなって直進する性質がある」というものです。これはフルレンジのスピーカーでも、また2ウェイ、3ウェイということに関係なく、音そのものの性質と覚えましょう。

オーケストラの楽器でいえば、ドンと太鼓が鳴ったときの低音は方向があいまいで全体から聴こえる感じ(包み込む感じ)なのに対して、トランペットやピッコロなど中~高音楽器では、音がそこから突き進んでくる感じに聴こえることを想像すると、理解しやすいでしょう。

スピーカーシステムでは、低音をどう鳴らすかがとりわけ重要です。低音はエネルギーも強くあらゆる音の土台。床や壁の影響も受けやすく、だからこそセッティングの工夫が必要なのです。

  • 音は周波数の高さによって、リスナーへの音の届き方が異なります。そのひとつを示すのが指向性です。音の指向性は水平方向/垂直方向で性質の違いが表れます。低音域は範囲が広く、高音域は直進する特性を持っています。

耳の高さにトゥイーターを合わせる

ここからは実践編です。正三角形配置を目安に6~8畳間程度の部屋を想定し、ブックシェルフのスピーカーをセットしてみましょう。ヒントは、できるだけ気持ちよく鳴るように「自由な空間を確保してあげること」。言いかえると、周囲の床や壁からできるだけ離れた位置がグッド。それと「リスナーの耳の高さとの関係」も重要ですね。

リスナーが椅子やソファに座ったときの耳の高さに、トゥイーターの中心軸がくるようにするか、またはトゥイーターとウーファーの中間くらいにするのがベターでしょう。こうしないと指向性の強い中〜高域がクリアに抜け出してくれないのです。

スピーカースタンドを使うのは、リスナーの耳の高さにスピーカーの音の出る位置をキープすることに加え、床からの影響をできるだけ少なくするという狙いがあります。B&W「606 S2」のようなコンパクトモニタースピーカーなら60cm前後のスタンドがベストでしょう。トールボーイタイプであればもちろんスタンドは要りません。しかしその前提として、床はしっかりとして平らであることが条件です。

背後や左右の壁からもできれば50cm、少なくとも30cm以上は空けるようにしたいものです。特にリアにバスレフポートをもったスピーカーは、背後をふさぐようなことはご法度ですよ! こうした注意をすればほぼフラットな、自然でバランスのよいサウンドが得られるはずです。

床がヤワだったり、ぐらぐらガタカタしてはいけません。ましてやそこにべたっとスピーカーを床置きするのは禁止です! 耳の位置に中~高音が届かないばかりか、床からの音圧の反射や回り込みで、膨らんだブーミーな低音になってしまいますよ。

音のバランスを意識してセッティング

オーディオボードやインシュレーターを使うのも効果的でしょう。スピーカーから発生する不要な振動がスピーカースタンドや床へ伝わるのを抑えて、音の締まりをよくしてくれます。インシュレーターとして、まずは10円玉を使ってみるのも面白いですね。スピーカーの下に左右4枚ずつ敷くだけ。わずか80円で、効果を実感できるはずです。

少し上級のテクニックとして、スピーカーの振り角を説明しましょう。どの程度スピーカーをリスナーにむけて振るかです。一般的には平行セッティングが、自然でバランスのよい広がり感や得られるのですが、必ずしもこれがベストとはいえません。

たとえば、もっとエネルギーを集中させたい、ビシバシと飛び出してくるようなジャズプレイを楽しみたいというときなどは、少し内振りにしてみてください。よりクリアーな音調となるはずですね。これは音軸がリスナーの方を向くことに加え、左右の壁の反射などの影響を緩和する効果もあるのです。ただ極端な内振りはかえって全体のバランス上好ましくない場合も出てくるので、ケースバイケースで対応しましょう。

部屋の使い方として、長手方向にするのかそれとも短辺方向を使うのかというテーマもあります。これは部屋そのものの音響学(ルームアコースティック)にも関わるので、初級ではとりあげませんが、意外と長辺方向の壁にセットした方が、音がクリアになるケースがあります。これも色々試して、好ましい音のバランスになるよう、セッティングを研究してください。

次回はスピーカー編の最後で、スペックや用語をまとめて解説します。

次回の記事>>>第10回「スピーカーのスペックの読み方」を読む

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