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  • プロの評論家が解説! いますぐ無料でできる、YouTubeで画質チェックする方法とは?

    取材・執筆 / 鴻池賢三
    2023年12月28日更新

    • VGP審査副委員長
      鴻池賢三

みなさんはスマホやテレビで映像作品をご覧になっていて、「もっとキレイな画質で見たい!」とお考えになったことはありませんか? 「高画質」とは、具体的にどういう状態を示すのでしょうか。いますぐ無料で楽しめるYouTube映像を例に、プロが画質チェックのポイントを解説します。

もっとキレイな映像が見たい!

「キレイな映像を見たい」のは、映像マニアに限らず、多くの方に通じるごく自然な欲求でしょう。最近のコンテンツは、4K/8Kといった高解像化に加え、HDR技術により明暗や色のダイナミックさも飛躍的に向上しています。

YouTubeでは、そういった高画質の映像を無料で手軽に利用できます。有機ELディスプレイ搭載スマホなどの普及により、誰もが簡単に「超高画質」で「超美しい映像」を体験できるようになっているのです。

この記事では「胸をすく」「心に沁みる」といった言葉がぴったりの映像体験を、手軽に味わえる高画質コンテンツをご紹介します。そして専門家がどのような視点で「高画質」と判断しているのか、その要素を解剖して解説します。

また、「高画質」の要素が理解できれば、映像装置を選ぶ一助にもなるでしょう。多くの方に高画質による感動が伝われば幸いです。

  • 無料で視聴できる動画共有プラットフォームとして有名なYouTube。今回の記事では、YouTubeで見られる高画質コンテンツをご紹介します。

プロが画質評価で使う、YouTube動画とは?

百聞は一見に如かず。細かな説明は後回しにして、まずはYouTubeで見ることができるお薦めの高画質コンテンツをご紹介しましょう。今回は「Uzbekistan 8K HDR 60p」を取り上げます。高画質映像を素材として販売する「Jacob + Katie Schwarz」のビデオクリップの中でも、高画質の要素がぎっしり詰まった作品です。

タイトルのとおり8K/HDR/60pとハイスペック撮影および配信されていて、再生機器が対応していれば最大8Kで、テレビやスマホでは性能に応じた解像度で再生できます。技術スペックのみならず、優秀な撮影機材を使用し、撮影場所、天候と時間、アングル、カメラワークなど、細部までプロの徹底的なこだわりが見てとれる傑作。解像度だけでなく、特にHDR映像がもたらすダイナミックな映像美は、何度も見返したくなるほどです。

基本編〜映像の画質評価要素を分解

ここからは作品の中からシーンを抜粋し、技術的な視点から「感動の成分」を解説します。筆者はHDR対応の4K有機ELテレビにて視聴と選定を行なっているため、基本的には同等の映像装置で見ることをお薦めします。とはいえ、iPhoneなどHDR表示対応の有機ELスマホでも充分に高画質のエッセンスをご理解いただけると思います。パネル方式や製品の特性による見え方の違いにも触れますのでご参考に。

まず、基礎知識として、画質を判断する主な要素と、評価方法を簡単に整理しましょう。
※画像はイメージです(右側が「高画質」)

1)コントラスト

  • 明るいところと暗いところの「明暗の差」 。明暗のダイナミックな表現は、感動に直結する基本かつ重要な要素です。一般的にHDR映像は、ピーク輝度が高く、輝きの表現が可能であるため、コントラストの高い映像が楽しめます。

2)暗部階調

  • 暗部階調が豊かだと、映像の暗い部分の立体感が増します。黒が沈み、コントラストが高いほど、暗部の色も維持され、画質面で有利な傾向があります。液晶ディスプレイはバックライトの光漏れにより、黒が浮いて階調や色が失われることがあります。黒の表現が得意とされる有機ELディスプレイも、制御によって「黒潰れ」を起こしているケースがあり、重要な評価ポイントといえます。

3)明部階調

  • 明部階調が豊かだと、映像の明るい部分の立体感や色が維持されます。HDR映像では、パネル性能に加えて、パネル性能に応じたトーンマッピングの巧妙さ(映像エンジン)も鍵を握ります。

4)解像度

  • パネルの解像度を充分に発揮できているかがポイント。シャープネスが過多でシュート(境界の不自然な輪郭線)が目立つと、元映像の情報量が減り、映像が硬くなったり立体感が失われます。動画に残像があるのもマイナス要素です。ジャギーやモアレといった不自然さがある場合、高画質とはいえません。厳密には色の解像度も重要です。

5)色表現

  • パネルの基本性能として、色域が広く、色鮮やかな表現ができるかは重要です。また、単純に色域が広いだけでなく、不自然に感じないようにマッピングされるかも重要な要素です。HDR映像では特に、明部の色乗りの鮮やかさが映像体験を大きく左右します。

解説編〜お薦めシーンと見るべきポイント

それでは、ここからは実際のYouTube動画「Uzbekistan 8K HDR 60p」を例に、画質チェックにお薦めのシーンをピックアップして解説していきます。

要素:ピーク輝度/暗部階調

  • 0:00-0:06
    尖塔「カラーン・ミナレット」が中心の夜景。暗い街並みを背景に、尖塔の灯りの輝きが印象的なシーンです。

有機ELタイプでは、暗い街並みの様子と色もきちんと見えて、奥行きも感じられつつ、中央の塔の灯り(ピーク輝度)にも発光体としての実在感が感じられるなど、肉眼で風景を見るかのような美しさを感じられます。

有機ELタイプでも製品によってはピーク輝度が低く「心に沁みる」感じが得られなかったり、また暗部が黒く潰れたように階調表現が乏しく、平面的に見えるケースがあるので、評価の指標にするとよいでしょう。

ちなみに液晶タイプは原理上、こうした極小部の輝き表現が苦手です。光の周りにフレア(光が漏れたように見える現象)が生じがちなので、高コントラストな液晶パネルと精密な局所輝度制御が可能なバックライトが、より重要性を増してきます。それらを備え、より精密な表現が可能か。ハイエンドモデルとスタンダードモデルとの画質の違いを感じることができます。製品選びの際のご参考に。

要素:明部階調/ピーク輝度

  • 0:29-0:33
    「ホワイト・マイナー・モスク」の屋内。日差しが織りなす光景を、光がやって来る方角が手に取るようにわかる、印象的な構図で魅せます。

窓から差し込む太陽光が白飛びせず、光線の方向や重なり具合などの様子まで把握できたり、光を照り返す床の色と柄が極力白飛びせず、明るい部分の明暗差(明部階調)も繊細に感じとれると、画質としては最良の状態といえます。

また、0:31付近で窓から覗く太陽の力強さも見せ場です。輝度性能が高く、またピーク輝度の表現に優れる映像装置で見ると、変化もわかりやすく感動的です。ピーク輝度が低く明部階調の表現が不足している場合は、明暗の変化が把握しづらく、映像としては平面的に感じられます。

要素:コントラスト

  • 0:52-0:58
    薄暗い地下鉄「コスモナウトラル駅」内の様子。

列車のボディーに淡いブルー色が感じられつつ、照明を反射する金属らしい光沢感、また車内の明るさに実在感が感じられるかがポイント。ほか、列車が通過した後のタイルの色の深みと艶やかさが印象的なシーンです。

コントラストが高い、ここでは黒が引き締まる映像装置の方が、暗いシーンでも色がしっかりと残り、繊細な色の違いも豊かに感じられます。タイル特有の光沢も、コントラストが高い映像装置ほど艶やかさを増すなど、質感が豊かでリアルに感じられます。

要素:色表現

  • 2:03-2:16
    複数の人物がアップで登場するシーンです。

すべての色を正確に再現できるのがよい映像装置の条件ですが、測定器なしに判断するのは難しいもの。視聴者が目視で判断するには、人物の顔(肌の色)がわかりやすいとされています。「記憶色」という言葉がありますが、ヒトは色の記憶を鮮やかに置き換えがち。たとえば空や海のブルーは、映像装置で忠実に表示すると物足りなく、鮮やかに拡張された色調を好ましく感じられます。一方で肌の色が誇張されると違和感を覚えやすく、これは実験でも証明されています。

映像では、どの登場人物の肌の色に違和感を覚えず、表情の陰影もナチュラルで立体的に見えるのが好ましい状態といえます。ほか、民族衣装の鮮やかさにも注目を。高色域かつHDRによって色鮮やかさが進化していて見応えがありますが、赤色が飛び出して感じるなど不自然な場合はNGです。

要素:解像度/色階調

  • 2:57-3:07
    ブルーのタイルが美しい「シャーヒ・ズィンダ廟群」をゆっくりと移動する映像。

このシーンに限りませんが、解像度が高い映像では、小さなタイルがビッシリと敷き詰められている様子はもちろん、青色系タイルの繊細な色の違いもより豊かに感じることができます。3:03~のレンガ造りの建物「イスマーイール・サーマーニー廟」は、幾何学模様を基調に、陰影がクッキリとしていて解像度の確認用パターンのようにも見えますが、4K大画面テレビで見ると、レンガの一つ一つまで鮮明に見てとれます。

遠くから見ても、細部に注目しても、ピントがピシッと合った尖鋭さで美しさを感じつつ、ジャギーやモアレが見えないのが理想的です。また、このシーンはゆっくりと動きがあるため、残像が多めの映像装置では解像度や色階調が均されるように低下してしまい、情報量の少ない「甘い」映像に感じられます。

コンテンツや映像装置を選ぶ一助に

「Uzbekistan 8K HDR 60p」はいかがだったでしょうか?

有機ELテレビや、HDR表示対応の有機ELディスプレイを搭載したスマホなら、きっとご満足いただけたことでしょう。また液晶タイプも、ハイエンド製品はコントラスト性能、ピーク輝度性能がアップしています。特に明室で画面全体が明るい場合など、有機EL以上に見応えがあるシーンもあるはずです。

今回の記事で、高画質への気づきがあり、より優れた映像装置にもご興味を持っていただけたなら嬉しいかぎりです。今後も、見て「感動」する作品をご紹介したいと思いますので、お楽しみに!

  • ご自身の評価基準とレファレンス映像の一例を紹介してくれたオーディオビジュアル評論家の鴻池賢三先生は、THX/ISF認定のホームシアターデザイナーとしても活躍、当サイトでも数々のガイド記事や、製品レビューを執筆されています。
  • 「Uzbekistan 8K HDR 60p」でキレイな映像で高画質を実感できるのはもちろん、画質の理解が深まることは満足のいく映像体験にも貢献してくれるはず。ぜひ実践してみてね

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