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  • 岩井喬が選ぶ2023年一押しアニメ!
    『葬送のフリーレン』など5作をご紹介
    ホームシアターファン必見の配信アニメ、その見どころは?

    取材・執筆 / 岩井 喬
    2024年2月14日更新

    • VGP審査員
      岩井 喬

2023年配信の国内アニメから選出

いまや世界にも評価されている日本のアニメコンテンツ。旧来のセルタッチを2DCGでも無理なく表現できるようになってから、海外の3DCGメインで製作されるアニメ作品とはまた別の高みを目指した絵作りが行われています。ただ一般的な高画質・高音質の指標である4K HDR/イマーシブサラウンド対応という点での評価軸では、人気のある国内アニメがその枠からは漏れてしまうように感じています。一方で劇場作品である『シンエヴァンゲリオン劇場版』や『すずめの戸締り』はパッケージソフトで4K HDR化され、リファレンスといえる作りになっています。配信でも『PLUTO』はHDR対応であり、クオリティ面でも魅力が高い作品です。

今回は2023年に放送された国内TVアニメにスポットを当てるべく、劇場作品や配信オンリーのもの、またシリーズものとして分割放映されているものを省いたうえでのベスト5を選んでみました。画質・音質面への評価だけでは推し量れない魅力を鑑みたうえでの選出となっています。もしシリーズものも入れるのであれば『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』『盾の勇者の成り上がりSeason 3』『無職転生 II』あたりはランクインするクオリティを持った作品であるといえましょう。

『葬送のフリーレン』

  • 葬送のフリーレン
    ●監督:斎藤圭一郎 ●声の出演:種﨑敦美、市ノ瀬加那、小林千晃 ●制作:マッドハハウス ●映像:1920×1080 ●音声:日本語リニアPCM 2.0ch ステレオ
    各動画配信サービスにて配信中
    ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

静と動のコントラストを描く妥協のない絵作り

老舗スタジオであるマッドハウス制作。 出会いと別れがキーワードともいえ、悠久の時を生きるエルフの魔法使い、フリーレンを軸に、過去と向き合う旅路を描いています。Evan Callが紡ぐ楽曲が物語の奥行きを生み出しており、控えめではありますが、リアルなSEとの相乗効果で、落ち着いた空気感を創り出しています。淡々とした会話の中で生まれる、ほのかな笑いも本作の魅力の一つ。口パクの精度の高さ、赤い宝石のイヤリングから落ちる色影の指定など、非常に細やかな部分まで気を配ったつくりが静かな物語を支えています。特に9話「断頭台のアウラ」では魔族との戦闘シーンに着目。アクションディレクターを立てている本作ならではの重力を感じる戦いの動き、繊細なしぐさに圧倒されました。日常描写でも服を着るシュタルクの動きのリアルさに驚きます。まさに静と動をコントラスト良く描く、妥協のない絵作りに感服しました。

  • ©︎山田鐘人・アベツカサ/小学館/「葬送のフリーレン」製作委員会

『【推しの子】』

【推しの子】
●監督:平牧大輔 ●声の出演:高橋李依、大塚剛央 ●制作:動画工房 ●映像:1920×1080 ●音声:日本語ドルビーデジタル5.1ch
各動画配信サービスにて配信中

ライブシーンの躍動感が見事

近年クオリティの高い作品を数多く手掛けている動画工房が製作。主題歌YOASOBI『アイドル』が世界的なヒットを生み、大きなニュースにもなりましたが、歌詞は原作のマンガにインスパイアされていることを踏まえると、本作あっての楽曲であるともいえましょう。終始丁寧な絵作りで、特徴的な瞳の虹彩の描き分けやまつ毛のハイライト、輪郭線のハイライトなど、細やかな色彩設定とエフェクト処理が見事です。遠近感の表現も自然で、さりげない演出に感じさせる絵作りのコントロールも徹底しています。原作の絵を再現したまま動いているような表現も特徴ですが、1話の後半、主人公アクアが復讐を決意するシーンでは、油絵タッチになる演出の異様さも印象に残りました。また11話「アイドル」におけるライブシーンの躍動感、パフォーマンス後の息が切れて肩が上下するしぐさなど、リアルな動きの追求、光の演出も注目点といえましょう。

『好きな子がめがねを忘れた』

  • 好きな子がめがねを忘れた
    ●総監督:工藤進 ●監督:横峯克昌 ●声の出演:早見沙織、若山詩音 ●制作:GoHands ●映像:1920×1080 ●音声:日本語リニアPCM 2.0ch ステレオ
    各動画配信サービスにて配信中
    ©藤近小梅/SQUARE ENIX・製作委員会がめがねを忘れた

より良い映像環境で見たい細やかな描写

第1話の冒頭からカメラ位置のレイアウトの尋常のなさ、これまでにない絵作りに惹き込まれました。登校して教室に向かうまでのワンシーンワンカットの映像はTVアニメシリーズで“良くぞここまで”というクオリティのものです。3DCGを駆使した写実的な背景美術と埃を含めた空気感のエフェクトの細かさ、パースを駆使したリアルな奥行き感も素晴らしいです。地上に落ちる雲の影や、入射光のエフェクトも実に丁寧。ヒロイン・三重あいのウェーブがかったロングヘアーの細かい毛の動きも、一般的な作品では考えられないほど動いているのが気持ち良いです。黒目の細やかな描写やグラデーション、本作の大事なアイテムであるメガネのレンズの反射など、全般的に解像度は高く、情報量の多い絵作りになっています。そうした点で1位や2位に推した作品よりも、より良い映像環境で見ていたいと思える描写の細やかさを持っています。

  • ©藤近小梅/SQUARE ENIX・製作委員会がめがねを忘れた

『冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた』

  • 冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた
    ●監督:村田尚樹 ●声の出演:早見沙織、諏訪部順一 ●制作:颱風グラフィックス ●映像:1920×1080 ●音声:日本語リニアPCM 2.0ch ステレオ
    各動画配信サービスにて配信中
    ©門司柿家/アース・スター エンターテイメント/Sランク娘製作

独特の手書きが美しい背景美術

本作での注目点は背景美術ですが、もう一つは多くの作品で麗しい大人の女性の声を当てている印象のある、早見沙織が演じる主人公、アンジェリンの幼く甘ったれた演技の目新しさです。背景美術は、樹木や花、建物や山岳、空など、自然の理を見つめ、その本質の輪郭を取り入れており、新海誠監督作品の写実的な背景とは違う、独特な手書きの美しさがあります。なかでも特殊効果を入れず、入射する光の軌跡を入れ込んだ描写は、画面に抜群の安定感を生んでいます。美術監督及び美術設定はスタジオパインウッド所属の加藤賢治氏。加藤氏は2022年に逝去された小林七郎氏が主催していた小林プロダクションの出身であり、筆者も大好きであった小林氏のエッセンスを色濃く継承されているお一人です。小林美術監督のもと、数多くの作品で背景を手掛けてきた実力によって、画面の中の説得力、物語世界におけるリアルな空間性を創り出しています。

  • ©門司柿家/アース・スター エンターテイメント/Sランク娘製作

『お兄ちゃんはおしまい!』

  • お兄ちゃんはおしまい!
    ●監督:藤井慎吾 ●声の出演:高野麻里佳、石原夏織 ●制作:スタジオバインド ●映像:1920×1080 ●音声:日本語リニアPCM 2.0ch ステレオ
    各動画配信サービスにて配信中
    ©ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

コマ送りで見たくなるエンディングの作画

ディフォルメされたキャラクター描写ではありますが、日常的な生活のなかの動きは丁寧に描いています。3話の料理のシーンは調理の手さばきなど、ぱっと見のポップな絵柄とは対照的なリアルのもの。シリーズ構成や脚本の多くはテンポよく緩急つけ、コミカルな描写にも定評のある横手美智子氏。オープニングは絵コンテ・演出に渡辺明夫氏が担当。特に注目しているのはエンディングの作画です。サビに合わせ、一コマずつ描写した独特でテンポの良い動きは癖になる表現です。配信視聴では難しいと思いますが、パッケージソフトを入手してプレーヤーでじっくりコマ送りして分析してみたくなる面白さです。最終話の旅館の細やかな描写、電車のなかの抒情的な表現など、場面のシチュエーションを生かした演出のうまさも光っています。

  • ©ねことうふ・一迅社/「おにまい」製作委員会

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