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  • 今知りたい! 林 正儀のオーディオ講座 第22回「音声フォーマットの種類」 アナログ音楽信号をPCMデジタル化してCDに記録する

    取材・執筆 / 林 正儀
    2024年9月11日更新

    • VGP審査員
      林 正儀

前回の記事>>>第21回「プレーヤーの端子と繋ぎ方」

サンプリング周波数と量子化ビット数の関係

CDではどうしても知っておく必要のあるフォーマット上の専門用語があります。ずばり「サンプリング周波数」と「量子化ビット数」です。それに絡んで、CDの「クロック」についてもあわせて学んでおくと理解が深まるでしょう。次回「スペックの読み方・光ディスク編」を学ぶ際にも、スラスラと頭に入りますよ。

CDに記録されているデジタル音声って、「サンプリング周波数が44.1kHz、量子化ビット数が16ビット」なんでしょ? はい、そのとおりです。これまで何度か出てきましたが、基本からじっくり解説するのは初めてですね。

まず、イメージから入りましょう。サンプリングだの量子化だの難解な感じだけど、そもそもは信号の「縦切り」と「横切り」です。大根をカットすると考えてください。包丁でまずはサクサクと縦にカットしていきますね。たくさんの輪切りができますが、もともとは連続していました。連続したカ-ブがアナログ音声で、これをデジタル化するときにまず行うのが「縦切り」=「サンプリング」のイメージです。サンプリングは標本化ともいいますが、まずサンプリングありきで、サンプリングしないことには次の量子化という作業ができないのです。

次は量子化という作業です。カットはカットでも、包丁を横にしてカタカタと「横切り」していくのが量子化。すると大根は細かい四角に分かれるでしょう。四角が細かいほど、もとのアナログ信号に近くなるなあとイメージできましたか?

  • どんな細かさで大根(アナログ信号)をカットするかの決まりがCDのフォーマットとなります。「サンプリング周波数が44.1kHz、量子化ビット数が16ビット」というのは、まず1秒間に44,100回のスピードでサンプリングし、次にそのレベルを16ビットの精度(2の16乗ステップ)で読み取るという仕組み。

アナログ音楽信号がCDに記録されるまで

ではアナログの音楽信号がどのような手順でPCMデジタル化され、CDに記録されるかをまとめましょう。PCMとはパルスコードモジュレーションの略。日本語ではパルス符号変調方式と訳されます。

音楽信号はもともとアナログの連続信号です。波のようにうねって連続した波形、そのままではCDのピットに収まるデータにはならないので、まずはサンプリングをします。うねった波のうちどのあたりをサンプルにしようかな。もちろん一定間隔であることが必要で、CDの場合は44.1kHzサンプリングと決められていますね。kHz(キロヘルツ)は周波数の単位で、1秒間のくりかえし回数のこと。1秒につき44,100回という猛烈な早さで、サンプルを取りにいくのです。サンプル採取の作業が標本化で、別に波をズタズタに切っているわけではありません。

このように時間軸方向にサンプリングしたら、次はそのとびとびのデータ(点)を、どのような精度で読み取るかです。これが量子化。あまり使われませんが、英語ではクオンティゼーションといいます。グラフの縦軸は信号レベル、つまり大きさですから、波の一番高いところまでを何ステップのキメ細かさで読み取るかが精度のポイントとなりますね。その単位がビット数です。

ビットはデジタルの数え方で2進数です。2進数とは倍々ゲーム、ビット数が増えるほど加速度的表現できる数字(ステップ数=サンプリングの精度)が増えるのが特徴です。計算は「2のビット数乗」になります。例えば3ビットなら2×2×2=8ステップだったものが、5ビットでは2×2×2×2×2=32ステップ……という感じ。このままいくとすごいことになりそうですね。そう16ビットは2の16乗なので、2を16回掛け算して65536ステップ。およそ「6万5千ステップ」と覚えましょう。

  • 元のアナログの音声信号を、デジタル信号にする際、まず標本化(サンプリング/Hz)を行い、次に量子化(bit)を実施します。サンプリング周波数は周波数レンジに、量子化bit数はダイナミックレンジに関係します。そして符号化(コーデック化)を行います。

これでもアナログそのものではありませんが、これをCDプレーヤーにかけて再生すれば元の連続アナログ波が再生されるからデジタルはエライのです。実際は量子化のあとに符号化(コード化)という作業を経て、めでたく「010011……10」というような16ビットのPCMデジタル信号が得られます。

デジタルとは厳密なもので、実はあるルールがあります。「CDは20kHzの周波数レンジで、ダイナミックレンジは96dB」とよくいいますね。これはフォーマットによって一義的に決まるもの。ズバリいうと、高域20kHzはサンプリング周波数からきたもので、一方16ビット量子化によってDレンジ96dBと規定されるのです。

少し理屈っぽいのですが、「シャノン(エライ学者です)の標本化定理」というもので、サンプリング周波数(fs)のほぼ1/2まで高音域が記録できる。また量子化の方は1ビットあたり6デシベルという目安があり、6×16=96デシベルとなるのです。頭のスミっこに入れておきましょう。

CDプレーヤーから高音質化を図ることも

ところがCDプレーヤーには、メーカーによって色々な音をよくする技術が入っています。メーカーごとに名前は違っていても、基本的にはハイビットやハイサンプリングなどの拡張技術によって、CDではカットされていた本来のアナログ音声特有の微妙なニュアンスや空気感を再現するもの。あくまでCDフォーマットの中での工夫ですが、聞いてみると確かにクリアで情報量が増えたように感じられますね。

ではどのような処理をしているのでしょうか。下図の右はかつてデノン製品に搭載されていたAL24プロセシング技術の例をイメージ化したもので、通常の16ビットから24ビットへと、専用チップによってビット拡張しているのです。すると単純計算で2の8乗倍、すなわち256倍のキメ細やかな音の表現ができるという仕組み。上位と下位のビットを動かしたり高度なことをしているようですが、このようなビット拡張や、また横軸方向についても4fsや8fs…といったハイサンプリング化(高域レンジがのびる)によって、マス目がぐっと小さくなる。CDでありながらCDを越えた高音質が楽しめるというわけです。

  • 図の左は普通のCDフォーマットです。横軸をfs=44.1kHzで刻み、そのサンプルデータを16ビット精度で読み取る。これは先ほど説明したとおりで、プレーヤ側での特別な処理がなければ、そのままのCD音声で再生されますね。

CDプレーヤーの「クロック機能」とは

CDプレーヤーには体内時計が入っている。ホントかなあと思うでしょうが、事実です。時計は「クロック」といって、実際は正確な時を刻む水晶振動子(水晶クロック)を積んでいるのです。これはタイマーのためじゃありません。CDに記録されている情報を読み込むにはタイミングが大事で、その役目を体内時計である水晶クロックが仰せつかっているのです。これはものすごく高い周波数のパルス(クロックパルス)なので、分周(カウントを遅くする)をして、プレーヤー内の色々なブロックに必要な指令を出すという仕組み。

耳学問として自慢のタネを教えましょう。「クロックはCDのピット長に関係する」のです。プレーヤーがピットの0、1情報を読み込むには、ピットの長さと体内時計のタイミングがぴったり合うことが条件ですが、そのためにはいいかげんな長さじゃダメ。ピット長がクロックの整数倍になるよう決められているのです。実は盤上には最短(3T)から最長(9T)まで9種類のピットしかありません。Tはクロックパルスで、つくづくよく研究されたフォーマットだとわかりますね。

そのクロックがプアだと、テキメンに音が濁ります。パルスの時間軸が揺らいでジッターが発生するからです。そこでマニアの間で話題になっているのが、外部クロックです。体内時計がプアなら、はるかに高精度なセシウムクロックやルビジウムクロックが他にある。このパルスを使ってプレーヤーを動かせばいいじゃないか! というわけで、一部の高級CDプレーヤーでは外部クロック入力を備えています。

次回はこれまで出てきた用語解説や光ディスクプレーヤーのスペックの読み方をおさらいしましょう。

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