東京・南青山にある「IDEAL TOKYO(イデアル トーキョー)」はオーディオ&ホームシアターのデザイン、インストール、メンテナンスをはじめ、ヴィンテージ家具の展示・販売、そして空間そのもののデザインと施工までおこなう提案型セレクトショップ。ショールームでは「五感で遊ぶような感覚が生まれる空間づくり」という本店のコンセプトが存分に体感できます。本稿では、ホームシアター・コンシェルジュ遠藤義人氏の体験レポートを通して、単に「おしゃれで心地よい」だけではないIDEAL TOKYOの魅力を紐解いていきます。
- 「IDEAL TOKYO」はインテリア、アート、食、文化などをトータルに発信する「IDEALビル」の3階フロアにあるインテリアサロン。4階には能舞台があり(非公開)、ビルの至る所に観世水をモチーフにした意匠や流水模様の特注ガラスが見て取れます。1階はTomDixonのショールーム兼カフェ、レストラン「Le Table de IDEAL」、2階はSEMPREが運営する展示スペース「LIGHT BOX ATELIER」、地下はminotticucine(ミノッティクチーネ)のキッチン・ショールーム
CONTENTS
・流水モチーフのデザインカルチャー発信地「IDEALビル」
・明るく開放感があり居心地のいい“おとなのサロン”
・等身大シアタールームは180インチにグレードアップ
・「あくまでエンタメ中心の軸は変えたくない」
流水モチーフのデザインカルチャー発信地「IDEALビル」
IDEAL TOKYOは「五感で遊ぶ」をコンセプトに、ホームエンターテイメントを手掛ける小泉裕さんと、ファブリックやヴィンテージ家具の目利き分林実芳子さんが共同代表を務めるインテリアサロン。当初は、コシノビル近くの骨董通りを隔てた別のビル中二階に19年6月オープンしましたが、以来そのコンセプトは変わっていません。
23年5月に、デザイン、食、文化をトータルで発信すべく中村拓志&NAP建築設計事務所が設計を手掛けた「IDEALビル」の新築にともない、その3階フロア全域を使って営業しています。
完全予約制のIDEAL TOKYOには、1階中央のエレベーターホールよりアクセスします。NHK大河ドラマ『真田丸』の題字を手掛けたことでも注目を浴びた左官職人の挾土秀平さんやコシノジュンコさんによるアート作品が迎えます。
- ちなみに、挾土さんはオーディオも好きで私邸屋根裏にある秘密基地では自作ラックに機器を収納。塗り壁の傾斜天井に反射する音が心地よく膨よかで間接照明とともに音像がポッと浮かび上がります。ワンポイントの朱が素敵
明るく開放感があり居心地のいい “おとなのサロン”
3階エレベーターホールに出ると、流水模様のガラス越しに外光が差し込み、数多のヴィンテージ家具がちりばめられているさまが眼前に広がります。柱がなく開口部が天井まである開放的な大空間は、BANG & OLUFSEN(B&O)のオーディオ・ビジュアル機器を核とした複数のリビングシーンで構成されています。
コンクリート造りのビルにタイル貼りの床であるにもかかわらず、飴色の家具の木とヘリンボーン貼りの天井が落ち着きをもたらし、生地を張り替え鮮やかに生まれ変わったヴィンテージ家具たちが華を添えています。
等身大シアタールームは180インチにグレードアップ
ガラス張りのシアタールームは、180インチにグレードアップしてあつらえられました。フロア側からそれと知らない人が見れば、白いルーム・イン・ルームは「ショウケース」のよう。
重い防音扉を開けると、椅子が3脚。タッチパネルをワンタッチすれば暗幕とサウンドスクリーンがツイードのファブリックをまとったLINN Series 5スピーカーの前に下がり、正面一面に180インチの大画面映像が広がります。まさに等身大!
- フロントスピーカーはLINN「Series 5」を採用
インテリアを大切にしつつ、ワンタッチでシアターへとシーンチェンジできるワクワクする仕掛けは細部までおよびます。スクリーンの対面にあるプロジェクターは、ふだんは昇降機で隠されています。
また、音響的配慮から吸音材を施す必要がありますが、壁やドアに縦ルーバーを張り巡らし、いわゆる “音楽室っぽさ” を消しています。しかも、このルーバーの間隔は、視聴位置から “視覚的に” 等間隔になるように、スクリーン側に向かって徐々にピッチを広くしています。
奥の打ち合わせ室には大きな丸テーブルがあり、普段は鏡で映像を映すとテレビになるミラーテレビ「GLAS LUCE(グラスルーチェ)」が配置されています。ここでは、商談だけでなく、パリにあるCHANEL傘下の刺繍学校で技術を習得した分林さんが世界中から買い付けてきた素材を使い、2025年度中に教室を開催する予定。
- 普段は鏡としてつかえるハナムラのミラーテレビ「GLAS LUCE(グラスルーチェ)」をビルトイン
「あくまでエンタメ中心の軸は変えたくない」
(遠藤) IDEAL TOKYOが手掛けるホームシアターやオーディオのお客さんは、7割が個人の方。建築・インテリアとの融合を念頭に置いたお客さんが多くを占めるようですが、最近では「テレビは要らない」「オーディオなんて」という人も多いのだそう。ホームシアターのカスタムインストーラーとしての腕を持つ小泉さんは、この事態をどう捉えているのでしょうか?
(IDEAL TOKYO 小泉 裕さん) 最近ではよく『テレビを観ない方が増えた』と耳にしますが、これは従来のような一方的に放送されるテレビ番組に興味を持たない方が増えた、ということであって、必要な情報やエンターテイメントに対してはサブスクで費用を払ってでも愉しみたいと思う方が増えたということだと思います。以前はどんな豪華なオーディオシステムがあってもCDソフトがなければ音ひとつ出ませんでしたが、今はネット環境さえあれば無数のコンテンツにアクセスできますので、より自分にとって必要なコンテンツにフォーカスできる、スマートな視聴スタイルへ変化してきました。
(小泉さん) それにともない、ホームエンターテイメントシステムに対しても音や映像のクオリティを維持しつつもミニマムなスタイルが求められるように変化してきたことで必然的に居室インテリアと親和性の高いインスタレーションが増えてきたのだと思います。
“人が快適な時間を過ごす” という意味では、自動車も住宅に通ずる部分があると思うのですが、自動車の場合は国内外問わず、どの価格帯の車でもナビゲーションのディスプレイやスピーカーが美しく車内インテリアに調和したビルトインがなされています。そのことを思うと、住宅・インテリアにおいてもホームエンタメを美しく設えることが居室インフラとして必須となるべきではないでしょうか。
(遠藤) 度重なる災害や増加する犯罪を背景に、近年見直されているホームオートメーションについては、積極的に取り組まれていますか?
(小泉さん) 確かに、セキュリティに重点を置くホームオートメーションが注目されています。もちろん、それもあっていいとは思いますが、私たちの活動の軸は、あくまでエンタメ。自分自身が音楽やインテリア好きということもありますが、家での時間を豊かに愉しく過ごすことに重きを置いてこれからも活動していきます。
家に帰ればさりげなくいい音が流れている。手に馴染み人肌の温もりがあるラグやヴィンテージ家具に腰掛け飲食を愉しみ、疲れを癒やす非日常を演出するシアター空間がワンタッチで現れる……。その空気感は、実際にその空間に身を置いて体感してみなければわからないでしょう。
完全予約制ではありますが、決して敷居の高い店ではありません。IDEALビルには1階にレストランやカフェなどもあります。今後周囲にはMolteni&C(モルテーニ)の新ショールームがオープンするなど、青山地区でもさらに活況を呈するのが確実なエリアです。自分の感覚を研ぎ澄ますために、あるいは豊かな過ごし方のヒントを探しに、訪れてみてはいかがでしょう。
[店舗概要]
- 「IDEAL TOKYO」
代表:小泉裕、分林実芳子
東京都港区南青山6-13-1 IDEALビル3階
TEL:03-6426-5027
営業時間:11:00 – 18:00(予約制)
定休日:水曜日、日曜日
https://www.ideal-tokyo.jp/