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  • 今知りたい! 林 正儀のオーディオ講座 第26回「RIAAとフォノ端子」 レコード再生に使用する機器&端子とその仕組み

    取材・執筆 / 林 正儀
    2025年3月19日更新

    • VGP審査員
      林 正儀

みなさんはレコードプレーヤーとアンプをつなぐとき、どの入力端子にさしますか? そう、フォノ端子というアナログレコード専用の端子にインプットするでしょう。CDやチューナーの音を聞くときに使うライン端子に、いくらレコードの信号を入れても、蚊の泣くようなちっちゃな音しか聞こえません。でもその逆にCDの音をフォノ端子に入れたら大失敗。スピーカーを壊してしまうほどの大音量に驚きますね。ここにアナログ再生の秘密があります。今回はRIAAとフォノ端子の話です。

前回の記事>「アナログレコードの聴き方」

レコードの記録&再生における統一規格が「RIAA」

レコードの音溝はとても微細です。カートリッジで拾った信号は、あとで解説するように、CDのラインレベル(1V程度)の1/1,000ほどしかないのです。だったら1,000倍に増幅すればいいじゃないか! と思うでしょうが、そう単純ではありませんよ! そもそもレコードに記録する際、「RIAA」という特殊な補正のかかったカーブで音溝に刻んでいるのです。

RIAAはアナログ再生にとって避けて通ることのない規格用語ですが、CDや圧縮オーディオ世代の人には、馴染みが少ないかもしれませんね。読み方は「リア」です。そのまま「アール・アイ・エー・エー」の方が正式なのですが、ポピュラーに「リア」と呼んでしまいましょう。

これは「Recording Industry Association of America(アメリカレコード工業会)」のことで、アナログレコードの標準化を目的として1952年に設立。54年には今日のスタンダードとなっているRIAAカーブを制定しました。当時はモノラルからようやくステレオに移行(1958年~)する少し前。ほかにもデッカ、コロムビアなどレコード会社によって、微妙にカーブの違う規格が乱立していたのですが、それではかけたレコードと再生のイコライザカーブが異なっていたりしていてうまくありません。そこでひとつに統合されたのです。

  • レコードディスクの音溝には音楽信号がそのままの形で記録されており、その振動をカートリッジで拾うことで再生が可能に。非常に微細な信号のため、RIAA補正による増幅が必要

フォノイコライザーがレコードの微小な出力を増幅&補正

RIAA補正のしくみをもう少し掘り下げてみましょう。元の音楽信号は低音も高音も、フラットなバランスのはず。ところがエネルギーでいうと低域ほど強まる傾向なので、カッティングのときにド~ンと太鼓やベースのような低い音がくると、隣の溝までハミだしたり、トレースしきれないような大振幅の溝が彫られてしまいますね。これでは長時間録音どころではありません。そこで面積の決まったディスクを有効活用するためにも、低音のレベルを思いきって下げた方がよいのです。

一方、高音域は振幅が小さいために、ノイズの影響を受けやすくなります。そこで記録時にはハイ側を増強してノイズに強くし、再生時にはその逆操作をします。この考え方はテープレコーダーやFM放送のプリエンファスシス/ディエンファシス(送信時にハイ上げ、受信はハイ下げ)でも用いられていますよ。このRIAA補正の流れを漫画風にしたのが、下の図です。

低音くん、高音くんが同じ背の高さ(レベル)で、揃っているのが元の音楽信号としましょう(上図A)。フラットでいいバランスだなあ…。でもカッティングする際には、低音くんにぐっと小さくなってもらい、高音くんには大きく背伸びをしてもらいます。数字でいうと低音くんが-20dB、高音くんが+20dBにも匹敵します(1kHzを0dBとして)。この大胆な「ロー下げハイ上げ」の補正がRIAAカーブなのです(B)。ここまでがレコードに記録された状態です。

いよいよ再生に入ると、今度は立場が逆転。縮こまっていた低音くんが、ぐーんと背のびをし、一方高音くんの方は小さくなってもらいましょう。これが再生イコライザーと呼ばれる「ロー上げハイ下げ」の逆RIAAカーブというわけです(C)。

(B)と(C)とは重ねあわせると互いにキャンセルするような特性なので、最後に低音くんと高音くんの背が揃って、(D)=(A)。つまりフラットな音楽信号に戻るというしくみです。「これで元どおりだね!」とふたりが握手していますよ。

  • RIAAは厳密には図のような連続したカーブで、20Hzから20kHzまで、周波数ごとの細かいポイントが規格で定められているのです

機器選びの選択肢はフォノ端子搭載アンプ以外にも

フォノ端子、もといフォノイコライザーの役目をもういちど整理すると、アナログの微小な出力をラインレベルまで増幅し、周波数特性をイコライズ(補正)するということはわかりました。では、アンプのフォノ端子のなかみはどうなっているのでしょうか?

CD、チューナーなどのライン端子との違いは一目瞭然で、RIAAの補正と増幅をするためのフォノイコライザー回路を内蔵しているのです。この回路を通ることで、レコード盤から拾い出した信号は、他のライン端子と同様、1V程度のラインレベルで揃うことになります。あとは聞きたいソースによって、アンプの入力セレクターを切りかえればよいわけです。また、フォノ端子付きのアンプはそのままレコードプレーヤーがつなげるのですが、ライン端子のみのアンプの場合は単体のフォノイコライザーを別途購入する必要があります。

  • フォノイコライザー内蔵、ならびにフォノ端子搭載のアンプは、レコードプレーヤーからの信号をほかの入力信号と同等に増幅してくれるので、そのままプレーヤーをつなぐだけでセッティングが完了します
  • レコードプレーヤーにフォノイコライザーを内蔵しているモデルも。アクティブスピーカーやヘッドホンなどと直接接続して、手軽にレコード再生を楽しむスタイルです。画像はAUDIO-TECHNICA「AT-LP120XBT-USB

アンプの前に、もう一段フォノイコをかませて、アナログソースに対応するとき、さらにカートリッジのタイプがMMかMCかによって、フォノイコの入力端子を使い分けるのですが、これは次回にお話しましょう。第27回はカートリッジのしくみと、「MM型」「MC型」といったカートリッジのタイプの違いや、その使い方を解説しましょう。

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