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  • 鴻池賢三のホームシアターTips 遮音と調音の違いを知ってサウンド体験をステップアップ! シアタールームの音響特性を整えよう

    取材・執筆 / 鴻池賢三
    2023年12月8日更新

    • VGP審査副委員長
      鴻池賢三

音質やサラウンド効果といったサウンド体験は、機材のみならず「部屋」の音響特性に左右されます。「部屋」は「スピーカーの裏返し」とも考えられる要素。音を受け止める側の環境づくりも、サウンド体験の向上には重要な意味を持ちます。今回は、ホームシアターをつくろうとした際にキーワードとしてよく挙がる、けれど似て非なる「遮音」と「調音」について解説します。

「遮音」によって充実感が大幅アップ

「遮音」は文字通り「音を遮る」ことですが、ホームシアターでは2つの考え方があります。

まずひとつ目は、近隣への音漏れ防止。騒音はトラブルのもとになりやすいので「防音」には注意したいものです。逆に、充分な遮音(防音)ができていれば、自身が好きな音量で、安心して心ゆくまでコンテンツを楽しむことができます。家庭内でも、遮音(防音)がしっかりしたシアタールームがあれば、家族の就寝後や、仕事・勉強中などに関わらず、好きな時間に楽しむことができるというメリットがあります。

  • 部屋から音が漏れるポイントは、窓、ドア、ダウンライト、埋め込みスピーカー、エアコンの換気口、電源コンセントなどさまざま。簡易的に遮音を試みるなら、面積が大きい窓やドアを対策するのがお薦めです。

ふたつ目はサウンド体験の向上。宅外からの環境騒音、あるいは宅内で発生する生活騒音が視聴中に聞こえると、コンテンツに集中できなくなることがあります。セリフが聞きとりづらいレベルはそもそも視聴に支障をきたしていますが、たとえば小さな音量の効果音が騒音に埋もれて聞こえなくなると、シーンやストーリーが理解できない可能性もあります。また、サラウンドの広がり感を左右する残響音も、音量としては小さく騒音に埋もれがちなので、注意が必要というわけです。

注意すべきは、音漏れを気にしなくてよい住環境でも「遮音」は検討の余地があるという点です。たとえば周囲に住宅のない場所で一人暮らしなら、大音量が漏れ出しても他人の迷惑にはなりません。しかし交通や工場の騒音など、宅外からの環境騒音が大きい場合は、サウンド体験アップの観点から、遮音が重要な意味をもちます。

  • 宅外からの環境騒音もさまざま。住環境や部屋の位置よっても音響特性は左右されるので、まずは自分の部屋にどんな要素があるか、を多角的に考えるところから始めてみましょう。
    出展:株式会社ヤマハミュージックジャパン制作「音の手帳」

高音質とサラウンド感を追求するなら

遮音(防音)とは別の要素で、よりよい音質とサラウンド効果を目指すなら、シアタールーム内の音響を整える方法があります。「調音」にはいくつかの要素がありますが、あまり話題に挙がらず、かつ重要なのは残響時間のコントロール。これを整えることで、サウンド体験がぐっとステップアップします。

残響音が長過ぎる例としては、コンクリート製のトンネルの中。声にエコーが付き過ぎて言葉が聴き辛くなる、といった経験はありませんか? 残響音が短すぎる例としては、スキー場などの雪原。少し離れた人と会話がし辛いのは、雪が声を吸収してしまうためです。シアタールームの場合、いろいろな研究機関や学者が、部屋の容積に応じた残響時間を推奨しているので、参考にしてみるのもよいでしょう。

  • 残響音が長い状態を「ライブ」、その逆に響きが短い状態を「デッド」と表現します。たとえば映画館は吸音率の高いデッドな環境。音の響きをコントロールする高度な調音が施されているのです。

また、残響は「時間」に加えて、その「質」も重要です。ありがちな問題は、高域の残響時間が短く、低域の残響時間が長いといったバラつき。この場合、音の艶が失われ、こもった鈍い印象の音になってしまいます。理想は高域から低域まで残響時間を推奨範囲内に整えること。技術的には「拡散」と「吸音」を組み合わせることで調整できます。

ほかにも音響障害として、平行する壁面間で音が何度も反射することによって生じるフラッターエコー(鳴龍現象)や、スピーカーから放たれた音が壁面を反射することで、まるで壁の反対側にもう1台スピーカーが現れ、位相乱れを引き起こす鏡像現象などがあります。

調音を施した実例>>>「ルームチューニングで理想の音を追求」を読む!

今回の記事で触れた遮音や、残響時間の長さと質、各種音響障害のサウンド体験への影響、そしてそれらの対策方法も、シリーズ記事で詳しくご紹介していきます。次回の更新もお楽しみに!