CONTENTS
・おうち時間を豊かにするデスクトップオーディオ
・プランA〜スタンダードクラス(5万円未満)
・プランB〜ミドルクラス(10万円台)
・プランC〜ハイグレード(20万円台)
・プランD〜番外編
・机上に収まるほどのシステムでも個性が現れる
・SPEC
・REFERENCE
おうち時間を豊かにするデスクトップオーディオ
近年、据え置きのホームオーディオを持たないという人が急増しています。日本の住宅事情やスマートフォンの普及も相まって、ポータブルオーディオなど個人単位のパーソナルな環境にシフトしてきているのが現状です。かくいう僕もポータブルオーディオ畑出身(というか在住)で、いわゆるホームオーディオといえば学生時代に安価な家庭用コンポを使っていた程度。そのコンポも上京時に一緒に持ってきたものの、大して鳴らすこともなく処分してしまいました。
しかし、転機が訪れたのは半年前です。フリーランスへの転身に伴って自宅で仕事をするようになると、急激にデスクトップオーディオを整えたい欲が湧き上がってきたのです。音楽再生だけでなく、動画編集作業のモニタリング用途としてもスピーカーが欲しくなります。
どうしたものか…。と思っていると、編集部から「デスクトップオーディオの色んなプランを試してみませんか?」という連絡が。渡りに船とはこのこと! 二つ返事でOKし、こうして筆を執ることとなりました。用意するプランに対して、僕が挙げた条件は「筆者宅の環境であるデスク幅にPCと共に収まること」、「USBで手軽にPCと接続できること」、「ヘッドホンの接続&切り替えが容易であること」、「基本は業務用途(動画編集含む)なのでモニター性能を重視しつつ、普段使いもしやすいバランスのサウンド」。“設置のために特別なスペースを作ることなく、ポータブルオーディオ環境から気軽に移行できる”ことを重視した、5万円未満のリーズナブルなシステムから約80万円のハイエンドなシステムまで、全4プランを試聴しました。僕と同じような状況の方も少なくないと思うので、デスクトップオーディオの導入の参考になれば幸いです。
- 今回は筆者である「だいせんせい」こと工藤寛顕さんが挙げた条件に沿った4つのシステムプランを編集部が用意。予算10万円を基準に、その前後となる5万円未満の手頃なものと予算の2倍の価格となるハイグレードなシステム、さらには番外編として至近距離でのリスニングを追求した約80万円のハイエンドなシステムを試聴しました。
- 各システムプランのチェクでは、音楽作品『EXCITE』『Flavor Of Life -Ballad Version-』『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド/メインテーマ』をレファレンスとして使用しました。また、業務用途(動画編集)を想定して、弊社運営のWebサイト「PHILE WEB」公式YouTubeチャンネルの動画、映画『ジョン・ウィック』をAmazon プライム・ビデオで試聴。それぞれスピーカーとヘッドホンで音質のチェックを行いました。
プランA〜スタンダードクラス(5万円未満)
- FOSTEX「PC100USB-HR2」と JBL PROFESSIONAL「104-BTW-Y3」をデスクトップに設置したところ。
- ボリュームコントローラー
FOSTEX
「PC100USB-HR2」
¥11,770(税込)
- アクティブスピーカー
JBL PROFESSIONAL
「104-BTW-Y3」
¥OPEN(実勢価格¥22,600前後)
まずはUSB DAC+アクティブスピーカーのシステム。「PC100USB-HR2」はバスパワーで駆動するため、電源が1本で済むのは嬉しいところ。DACの用途も非常にシンプルなので、ボリューム操作が直感的にできるのが嬉しいです。
音楽再生では、ダンス系のサウンドは1音1音まで粒立ちよくクッキリと鳴らしてくれます。104-BTW-Y3はモニタースピーカーですが、この辺りの音作りの巧さは流石JBLといったところで、純粋なリスニングとしても楽しめました。最も好印象だったのは動画再生。声を中心としてかなり聞き取りやすく、編集にも視聴にも向いています。この辺りはデスクトップスピーカーとしての相性の良さが表れたのかもしれません。ヘッドホンを接続してみると、若干のバックグラウンドノイズがあり、やや硬質気味で高域が少しキツく聴こえるところもありますが、パッキリとした出音でなかなか使いやすいです。どちらの製品もシンプルなデザインでデスクトップ上の収まりも良く、手の出しやすい価格設定も魅力的な組み合わせです。
- プランAの音質傾向
プランB〜ミドルクラス(10万円台)
- DENON「PMA-60」とQ Acoustics「3030i」をデスクトップに設置したところ。
- プリメインアンプ
DENON
「PMA-60」
¥77,000(税込)
- ブックシェルフスピーカー
Q Acoustics
「3030i」
¥51,370(税込/ペア)
この辺りの価格帯のパッシブスピーカーとなるとかなり大柄なサイズとなり、小さなデスクではちょっと主張が強い、というのがパッと見の正直な感想です。もしかしたら、ひとつふたつグレードを下げたモデルでもよかったかも……?そんな杞憂は再生を始めた瞬間に吹き飛びました。これは”正解”です。
バラードなどの生音系のサウンドに艶やかで味わい深い響きが加わり、オーケストラは段違いに勇ましいです。楽器同士のハーモニーも立体的、かつ粒立ちの良さはプランA以上。音楽的な魅力が格段に向上していることがわかります。そして、映画の視聴では銃声や跳弾の質感がリアルで一気に迫力が出ました。映画の迫力はサブウーファーなどのパワフルな音ありきかと思っていましたが、1音1音の表現をしっかり鳴らすことによる没入感もあるというわけです。スピーカーのサイズ感に対してプリメインアンプがコンパクトに写ってしまいますが、その能力は十分。機能を絞ったシンプルなUIで使いやすくまとまっています。ヘッドホンアンプとしての性能も優れており、リスニング・モニタリングどちらにも抜群の耳あたりの良さを覚えます。デスクトップオーディオとして総合的にポイントが高い組み合わせと言えるでしょう。
- プランBの音質傾向
プランC〜ハイグレード(20万円台)
- MARANTZ「HD-AMP1」とMONITOR AUDIO「Bronze 50-6G」をデスクトップに設置したところ。
- プリメインアンプ
MARANTZ
「HD-AMP1」
¥154,000(税込)
- ブックシェルフスピーカー
MONITOR AUDIO
「Bronze 50-6G」
¥66,000(税込/ペア)
「HD-AMP1」の存在感が非常に大きく、今回設定したスペースだとかなりギリギリになります。モニターアームを使用するなどして、デスクのスペースを大きく取っておくと良いでしょう。そこまでしてでも設置する価値があると感じたのがこのプランCです。
音像のメリハリが鮮烈に引き立っており、奥行きがしっかりと感じられます。ダンスミュージックのような音数の多い楽曲でも、バラードのようなジャンルでも細やかな部分までキッチリ描写され、1音1音のディテールが引き立ちます。オーケストラのスケール感も一際素晴らしく、情緒的に響かせる、シビアな表情の変化に胸を打たれました。また、意外だったのが動画再生との相性の良さ。良い意味で平面的で、トーク動画の声などへのスポットの当て方も巧みです。同様に映画視聴への相性も良く、銃声の低い部分の無機質な響きや、ガラスが割れて細やかに弾け散る音など、2chとは思えない立体感があり音の質感が素晴らしいです。ヘッドホンアンプとしても文句なし。ハイエンドヘッドホンにも全く引けを取らないであろう余裕のある鳴らし感は流石です。このオールラウンダーな性能は流石に惹かれるものがあります。ううん、悩ましい…。
- プランCの音質傾向
プランD〜番外編
- SONY「SA-Z1」をデスクトップに設置したところ。
- アクティブスピーカー
SONY
「SA-Z1」
¥858,000(税込)
「SA-Z1」はアンプからスピーカーまで一体型のシステムであり、かつデスクトップ専用の設計というのが面白いです。もっとも、値段を見てなお「面白い」といえるほど、僕の懐事情は暖かくないのですが…。
気を取り直して聴いてみると、上述の3プランとは全く異なるように感じられるサウンドに驚きました。「デスクトップ上で完結する音作り」を極めており、ニアフィールドという空間上における聴かせ方を突き詰めているのがわかります。音の分解能力や立体感といった要素要素をひとつずつ取り上げてみれば他のスピーカーでも戦えるかもしれないですが、ことデスクトップにおいては無類の強さを発揮しているのがSA-Z1の魅力です。それこそオーケストラのようなジャンルにおいては「若干手狭か?」と感じる部分もあれど、むしろ極めて精巧なジオラマを見せられているような異質な美しさがありました。例えばポータブルオーディオは、その発展の中でホームオーディオとは異なるアプローチを築き上げており、それと同じことが、デスクトップオーディオというカテゴリにも言えるのかもしれません。単に高級なスピーカーを選ぶだけでなく、デスクトップならではのシステム構築という考え方は、他の製品を選ぶ際にも重要なファクターとなりそうです。
- プランDの音質傾向
机上に収まるほどのシステムでも個性が現れる
元から「ホームオーディオを聴き比べる」という機会があまり巡ってこなかったため、どれほど違いを聴き分けられるだろうか、というオーディオ初心者よろしくな不安もあったものの、蓋を開けてみればこれほどハッキリ個性が分かれるものかと驚きました。いわゆるオーディオルームから構築するような大規模なシステムでなくとも、スピーカーやアンプの違いによる恩恵は如実に現れます。新しい生活様式が普及する昨今、1日の大半を自宅のデスクと向きあう、という方も少なくないはず。デスクトップオーディオがあれば、こうした日々を彩るスパイスとなってくれることでしょう。拙筆ながら、そんな魅力の一端を皆様へお届けできたなら幸いです。
[筆者]
- 工藤寛顕
ライター/MC。オーディオ専門店でのスタッフ経験を生かした、親しみやすい語り口のレビューやインタビューの動画作成と執筆を得意とする。弊社運営のWebサイト「PHILE WEB」でも記事執筆のほか、公式YouTubeチャンネルにてレビュー動画のアップもおこなっている。
SPEC
FOSTEX「PC100USB-HR2」
●定格出力:0.03W+0.03W(32Ω) ●入力:USB-B×1 ●出力端子:アナログ音声(RCA)×1、ヘッドホン×1 ●最大対応サンプリングレート:最大96kHz/24bit ●外形寸法:66W×44H×70Dmm ●質量:210g
JBL PROFESSIONAL「104-BTW-Y3」
●型式:2ウェイ・バスレフ型 ●アンプ出力:30W+30W Class D ●使用ユニット:同軸ドライバー(LF 114 mm、HF 19mm) ●再生周波数帯域:60Hz~20kHz ●クロスオーバー周波数:1725Hz ●入力:アナログ音声(標準バランス×1、RCA×1、ステレオミニ×1)、Bluetooth5.0 ●外形寸法:153W×247H×125Dmm(突起部を除く) ●質量:2.1kg(マスタースピーカー)、1.8kg(エクステンションスピーカー)
DENON「PMA-60」
●定格出力:25W+25W(8Ω)、50W+50W(4Ω) ●S/N:110dB ●全高調波歪率:0.004% ●入力:アナログ音声(RCA)×1、USB-B×1、同軸デジタル×1、光デジタル×2、Bluetooth3.0 ●出力端子:アナログ音声×1、サブウーファープリアウト×1、ヘッドホン×1 ●最大対応サンプリングレート:PCM 最大384kHz/32bit ※USB-DAC使用時、DSD 最大11.2MHz ●外形寸法:200W×86H×258Dmm(横置き時) ●質量:2.7kg
Q Acoustics「3030i」
●型式:2ウェイ・バスレフ型 ●使用ユニット:トゥイーター 22mm×1、ウーファー 165mm×1 ●再生周波数帯域:46Hz~30kHz ●クロスオーバー周波数:2.4kHz ●感度:88dB ●インピーダンス:6Ω ●外形寸法:200W×325H×329Dmm ●質量:6.4kg
MARANTZ「HD-AMP1」
●定格出力:35W+35W(8Ω) ●S/N:105dB ●全高調波歪率:0.05% ●入力:アナログ音声(RCA)×2、USB-B×1、USB-A(フロント)×1、同軸デジタル×1、光デジタル×2 ●出力端子:アナログ音声×1、サブウーファープリアウト×1、ヘッドホン×1 ●最大対応サンプリングレート:PCM 最大384kHz/32bit ※USB-DAC使用時、DSD 最大11.2MHz ●外形寸法:304W×107H×352Dmm ●質量:5.8kg
MONITOR AUDIO「Bronze 50-6G」
●型式:2ウェイ・バスレフ型 ●使用ユニット:トゥイーター 25mm Gold dome C-CAM×1、ミッドレンジ 140mm C-CAM Bass/Midドライバー×1 ●再生周波数帯域:40Hz~30kHz ●クロスオーバー周波数:2.5kHz ●感度:85dB ●インピーダンス:8Ω ●外形寸法:166W×281H×268Dmm ●質量:5.0kg
SONY「SA-Z1」
●型式:2ウェイ・5スピーカーシステム ●アンプ出力:106W+106W ●使用ユニット:メイントゥイーター 19mmソフトドーム×1、アシストトゥイーター 14mmソフトドーム×2、メインウーファー 100mmコーン×1、アシストウーファー100mmコーン×1 ●再生周波数帯域:51Hz~100kHz ●入力:USB-B×1、アナログ音声(XLR×1、RCA×1、ステレオミニ×1)、光デジタル×1、ウォークマン/Xperia専用×1 ●最大対応サンプリングレート:PCM 最大768kHz/32bit、DSD 最大22.4MHz ●外形寸法:199W×207H×326Dmm(スピーカーA)、199W×205H×326Dmm(スピーカーB) ●質量:10.5kg(スピーカーA)、10.5kg(スピーカーB)
REFERENCE
[主な音楽作品]
『EXCITE』三浦大知
『Flavor Of Life -Ballad Version-』宇多田ヒカル
『メインテーマ』ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド/片岡真央
[主な映像作品]
『ジョン・ウィック』
[試聴ポイント]
今回の試聴にあたって、ダンス系・バラード系・オーケストラ系の3つを中心とした音源を試聴。そのほか映像作品として、アクション映画『ジョン・ウィック』、ファイルウェブ公式のYouTube動画をそれぞれリファレンスに用意しました。プライベートを想定したカジュアルなチョイスですが、それだけ僕の「本気(マジ)の欲しさ」を全面に押し出したレビューなのでご容赦ください。