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レビュー

  • VICTOR/EXOFIELD THEATER(XP-EXT1) 小原由夫が体感!
    ビクター「EXOFIELD THEATER」の真価
    これはヘッドホンではなく、ホームシアターだ

    取材・執筆 / 小原由夫
    2020年9月11日更新

オーディオビジュアル評論家の小原由夫先生が、自宅の200インチ環境、「開国シアター」でビクター「EXOFIELD THEATER」の実力を徹底検証する!

ヘッドホンとスピーカーでは、聴こえ方に違いがある

ヘッドホンとスピーカーでの音楽再生を比べた際まったく違うポイントは何か。それは音場のでき方だ。空間に音が放たれるスピーカーの場合、耳に到達するまでには少なくとも数十cmの距離があり、壁や家具の反射、左右スピーカーの間隔の違いも生じる。一方ヘッドホンでは、右用ドライバーは右耳に、左用ドライバーは左耳に直に当てられ、発音部から鼓膜までの距離はほぼ等しく、しかも数cmと短く、その結果、音場が頭の上部辺りに結合されてしまうのである。ヘッドホン固有のこの問題を一般的に「頭内定位」と呼んでいる。

この問題を解消するべく、これまで多くのメーカーが計測や信号処理を駆使してさまざまにアプローチしてきたが、正直なところ抜本的解決には至っていなかった。しかしながらこの度ビクターが発売したEXOFIELD THEATERこと「XP-EXT1」は、その問題を打ち破る可能性を秘めていることが今回の取材で実感できたのである。

  • ワイヤレスシアターシステム VICTOR EXOFIELD THEATER(XP-EXT1)

では、どんな信号処理によってそれを実現したのか。元々ビクターは2017年春より『WiZMUSIC』なる音場特性カスタムサービスにおいて、人間の頭部伝達関数の計測手法を独自に確立、提供していた。ただしそれはステレオ再生に特化した技術であり、専任スタッフとソフトウェアによる現場個々の計測が必要であった。「EXOFIELD(エクソフィールド) THEATER」はこれを複数のスピーカーによるサラウンド再生に発展させたうえで、さまざまな手間や負担を軽減。プロセッサーを用いたユーザー自身による自動計測で実現したのである。

それを可能としたのが、膨大なサンプルデータの蓄積と、計測用の内蔵マイクを含めた新たなヘッドホンの開発だ。ドライバーから放出されたテスト信号をもとに、ヘッドホンを装着した状態でユーザーの耳穴内でどのような反射等が起きているか、内蔵マイクでデータを計測。それをもとに、蓄積したサンプルデータからユーザの特性に近いデータを抽出、合成して、ユーザに最適な頭部伝達関数を生成、畳み込み処理のデジタル演算等をおこなう仕組みだ。

言うは易しだが、実際にその成果が出るまでにはヘッドホンの形状やマイクの取付け位置など、途方も無いカット&トライが繰り返されたという。しかもXP-EXT1は、マルチチャンネル対応というだけでなく、ドルビーアトモスやDTS:X処理も包含した7.1.4chの上下の高さ方向の表現も可能となるイマーシブサウンドにも対応しているというのだから恐れ入る。バーチャル技術などを応用した単なるサラウンド対応ヘッドホンという次元でなく、ユーザー個々にカスタマイズされたサラウンド再生を行なうという点から、「ワイヤレスシアターシステム」という名称で差別化されているのもむべなるかなである。

これまでのバーチャルヘッドホンとは違う!

XP-EXT1は、ヘッドホンとプロセッサー、オリジナルのスマホアプリから構成されている。

  • 手間が掛からず、ちょっとしたコツさえ押さえれば、誰が測定をおこなっても安定した結果が得られるように工夫を施したパッケージになっている。

ヘッドホン本体はワイヤレスの汎用的なオーバーヘッド型と特に変わりない形状だが、イヤーカップはどんな人の耳もすっぽりと覆うやや大きめで、イヤーパッドは少し厚めに感じる(開発者の新原氏によれば、このあたりにも確かな効果が得られるよう工夫が盛り込まれているらしい)。

  • 4mmほどの大きさの測定用のマイクが内蔵されたヘッドホン部。耳をしっかり覆うことができるように厚めのイヤーパッドを採用したEXOFIELD THEATER専用の仕様となっている

ドライバー部を覗き込むと、本機の肝となるマイクが取りつけられているのがわかる。この固定位置にも試行錯誤があったとのこと。電源のオン/オフが左側のイヤーカップにあり、右側のイヤーカップ側面には、触れて上下にスライドさせることで音量を増減するセンサーが仕込まれている。側圧は決して強過ぎることはなく、フィット感はいたって普通。質量も比較的軽く、これならば長時間リスニングも苦にならなそうだ。

  • 無料の専用アプリ「EXOFIELD THEATER 」で測定と設定が可能だ

設定もかんたんだ。プロセッサーとヘッドホン本体を付属のケーブルで接続し、2種類のテスト信号を15秒ほど再生するだけでアッという間に完了。もちろん一度で両耳を計測する。iOSまたはAndroid対応のスマホにあらかじめ専用アプリをダウンロードしておけば、その計測結果に最も近似な特性を膨大なデータベースの中から割り出してプロセッサーにメモリーしてくれるのである(信号伝送にはBluetoothを使用)。なお、メモリーは4つまで登録できるので、家族全員ぶんの設定を残しておくことも可能だ。

また、この専用アプリはEXOFIELDの動作のオン/オフだけでなく、センターチャンネルやLFE(超低域)のレベル調整、さらには各種音場モードの切替えなども行なえる便利なものだ。

  • 実際に測定をおこなう際には、耳がイヤーパッドで覆われているか、ヘッドバンドが頭部に沿うように装着できているか確認しよう。メモリーが4つ用意されているので、EXOFIELD THEATERの効果を確実に楽しむために、何度か測定してみるのも手だ。

スピーカーで聴いているような音の軌跡

それでは実際に視聴してみよう。自宅のホームシアタールームにある、JVCのプロジェクター「DLA-Z1」と200インチのサウンドスクリーン、パナソニック「DMP-UB9000」とHDMIケーブルで接続して、視聴をおこなった。ドルビーアトモスの信号を受けると、プロセッサー部は青く点灯する。上下方向のサラウンドを最大限に味わうためには、この表示をまずは確認してほしい。

  • 写真は小原先生の「開国シアター」。いつも大画面とサラウンドを楽しんでいる環境で、どこまで比肩する結果が得られるか、実際に試すことにした。

まずは、Ultra HDブルーレイ「フォードVS.フェラーリ」からチェックしよう。新車発表会にシェルビー自ら飛行機の操縦桿を握るシーン。前から後ろに上空を飛び去るエンジン音がしっかりと頭上を抜ける感じがして驚かされた。ドルビーアトモス・コンテンツのオブジェクトの効果、イマーシブサウンドがしっかり実感できたのである。別のシーン、フォードの首脳陣が相談をしている背後で主人公ケン・マイルズがテストコースで周回を重ねる場面では、セリフが額の先辺りに定位しつつ、レースカーの微かなエキゾーストノートが緩急をつけて横や後ろから明確な軌跡を伴って聴こえるのである。こうした音の感触はバーチャルサラウンドでは体験できない次元にあり、我が家の200インチ大画面と組み合わせても充分な迫力と臨場感が味わえた。

同じくドルビーアトモス収録のUltra HDブルーレイ「ボヘミアン・ラプソディ」は、クライマックスのウェンブリー・スタジアムでのパフォーマンスを視聴。大観衆で埋め尽くされたスタジアムの熱気がサラウンドサウンドから伝わってくる。拍手や歓声、手拍子がグルッとサラウンドしている感じがとても自然だ。フレディが弾くピアノの明晰さはもちろん、ドラムのキックの音もどっしり安定している。フレディと観衆との掛け声のコール&レスポンスの様子もグルッと回り込み、まるで私もこの会場に居合わせているような空気感の共有を感じた次第である。

XP-EXT1は、深夜に大きな音が出せない時の映画観賞というだけでなく、2chオーディオシステムの占有スペースのためサラウンドシステムが組めないという人にとっても、大きな福音を齎らす本格的なシアターシステムに比肩し得る印象を持った。

  • JVCケンウッド株式会社 メディア事業部 ライフスタイルビジネスユニット 技術部の新原寿子氏(右)と筆者(左)

(取材協力:JVCケンウッド)

SPEC

 

VICTOR
EXOFIELD THEATER(XP-EXT1)

¥OPEN(市場予想価格¥110,000前後)
※初回生産限定特典で「Dolby Atmos®」体験デモディスクと、「ボヘミアン・ラプソディ」(4K ULTRA HD+2Dブルーレイ2枚組)を同梱。(なくなり次第終了)

<ヘッドホン部>●型式:密閉型 ●ドライバー口径:40mm ●電池持続時間:約12時間 ●充電時間:約4時間 ●質量:約330g <プロセッサー部>●接続端子:HDMI出力×1(eARC対応)、HDMI入力×3、光デジタル入力×1、アナログ入力×1 ●外径寸法:266mm×154mm×30mm ●質量:約530g ●付属品:ヘッドホン収納専用ポーチ、充電用USBケーブル、個人測定用ケーブル、ACアダプター

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