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  • ジャニーズ主演作初の ”HELLO! MOVIE”コメンタリーの解禁 第7回『真夜中乙女戦争』

    取材・執筆 / 永井光晴(ホームシアターCHANNEL編集部)
    2022年2月16日更新

第6回はこちら>>>2種類のコメンタリーで楽しむリピート鑑賞の醍醐味

King & Princeの永瀬 廉主演の”HELLO! MOVIE”解禁

”HELLO! MOVIE”のメジャー作品への採用もずいぶん当たり前のようになりました。そんな中ついに、ジャニーズ事務所タレント主演作初の”HELLO! MOVIE”コメンタリーの解禁です。しかも、今をときめくKing & Princeの永瀬 廉主演の話題作『真夜中乙女戦争』です。2022年1月21日の全国公開につづき、”HELLO! MOVIE”コメンタリーは2月1日からサービス提供されました。

キンプリ(King & Prince)メンバーの映画出演は、各々の個性を生かした作品選びで、なかでも平野紫耀が5作(うち主演4作)、永瀬 廉が主演4作(うち主演3作)と映画出演に積極的です。人気アイドル主演ということだけで、いわゆる“アイドル映画”と侮ることなかれ。本作は格差社会のなかでもがく、繊細な若者たちの心を描く、青春・恋愛・犯罪の要素がバランスした映画となっています。

『真夜中乙女戦争』は、10代、20代に人気の作家Fによる同名小説を原作とした実写映画です。本作で永瀬 廉が演じるのは、上京したばかりの大学一年生の”私”。”私”は奨学金と深夜のバイトで生活をやりくりする苦学生です。

現実社会に漠然とした不満を持ちつつ、恋愛や友人作りもうまくできず、講義にも身が入らない”私”がふとしたことから、”かくれんぼ同窓会”というサークルで知り合った聡明で美しい”先輩”(池田エライザ)に惹かれていきます。また”私”は、同時にカリスマ性を持つ謎の男”黒服”(柄本佑)と出会うことになります。人の心を一瞬でつかむ不思議な魅力のある”黒服”とつるむうちに、キャンパス内での他愛のないイタズラが徐々にエスカレートしていき、仲間が増えて、いつの間にか過激な東京破壊計画に加担していくことになります。

  • 真夜中乙女戦争Main
  • ©2022『真夜中乙女戦争』製作委員会

映画をしゃぶりつくす! 監督・俳優による重厚なコメンタリー

さて本作は、映画ファンならすぐに気づくことがあります。主人公の”私”が、自分を変える存在”黒服”に出会い、社会の破壊活動へ傾倒していくプロットです。これはデヴィッド・フィンチャー監督の名作『ファイト・クラブ』(1999)を彷彿とさせられます。エドワード・ノートン演じる”僕”が一人称視点で語り、徐々に過激派行動に移っていく展開が類似しています。実際、原作者Fもインスパイアされたことを明言しています。”HELLO! MOVIE”コメンタリーでも、この作品で何がどのように意図されているのかが詳しく語られます。これこそが今回の”HELLO! MOVIE”のポイントのひとつです。

コメンタリーを担当するのは、二宮健監督と、メインキャストの永瀬廉、池田エライザ、柄本佑の3人です。二宮監督はたっぷりと演出意図を語り、俳優陣は自身が演じた役柄の解釈を明らかにしていきます。これほどまでに作品の真髄に迫っていくコンテンツは、HELLO! MOVIEのなかでもかつてないほど 超ヘビーなコメンタリーセッションです。 作品の理解を深めるために価値あるコンテンツとなっています。

かつての名画をオマージュしているとはいえ、『ファイト・クラブ』は20年以上前の小説・映画であり、時代背景が大きく異なります。同作は、20世紀末の欧米資本主義・経済的なグローバリズムに対するアンチテーゼであり、資本主義を象徴するビルを破壊するという結末は、現実でも2001年9月11日のアメリカ同時多発テロを予見してしまったとされるほど時代を象徴する作品です。実質的な主人公はたったひとりです。

対して『真夜中乙女戦争』は、時代が変わり、物質主義からSDGsが叫ばれる現代において描かれる、若者が抱える現実社会と個人に折り合いをつけられない心の葛藤です。おそらく観る世代によって印象がまったく違うものだと思います。いまを生きる10代、20代にはストレートに響くでしょうし、よくも悪くも”折り合い”をたくさん学んでしまった大人には、「東京破壊計画」はナンセンスに感じる人がいてもおかしくありません。けれども、かつて自分も若者だった人に、封印してしまったあの頃の”訳も分からない苛立ち”をフラッシュバックさせてくれるかもしれません。そういう意味では、万華鏡のように見え方の変わる映画です。

HELLO! MOVIEコメンタリーでは、永瀬廉が『ファイト・クラブ』の公開年生まれであること、池田エライザも20代で、その二人が解釈した役柄としての”私”と”先輩”が大変興味深く語られます。ふつうコメンタリー音声というのは片耳で聞き流しながら、本編鑑賞を楽しめたりしますが、今回はどうしてもそのディープな解説に聞き入ってしまうほどです。

撮影術と表現意図を丁寧に解説する

二宮監督のコメンタリーで多くの部分を割いて解説されているのは、撮影術についてです。作品冒頭の東京タワー。逆さまの見たことのない世界を表現したというファーストショットから、大学構内の教室の反転映像に切り替わっていきます。永瀬廉演じる”私”が教壇の先生に詰め寄って放つ、長セリフのシーンのエピソードが語られます。

本作ではカメラが回転する映像がひんぱんに使われており、”私”の繰り返される日常を表現していたり、唯一、主要キャスト3人が一緒に登場するボウリング場でのシーンでは、ワンカット撮影(編集なしの撮影)が行われたことがわかります。ほかにも、狭いロケーションでは特殊な撮影機材を自作したことや、あるいは人力でカメラを回したことなども紹介されます。

”黒服”のアジト的な隠れ家には、プロジェクターのホームシアターがあり、そこで最初に投影されているのは100年前のドラキュラ映画「吸血鬼ノスフェラトゥ」(1922年)です。ネズミによる疫病ペストをまき散らすシーンは、現実のコロナ禍を想像させます。パンデミックの名画モチーフは『アウトブレレク』(1995年)のサルの絵の登場なども意図したものです。撮影時期がちょうどコロナ禍に突入したばかりだったこともあり、人の姿のない大学構内は、作品のパラレルワールドとリンクし、劇中の世界観との共鳴を試みているのです。

また本作にはオーケストラのチューニング音が鳴るシーンが3回あります。それは「”私”、”先輩”、”黒服”の登場音である」と二宮監督。脚本チームや撮影クルーのカメオ出演がいくつかあることも明かされています。

  • ”黒服”(柄本佑)のアジトにはホームシアターがある。©2022『真夜中乙女戦争』製作委員会

三度おいしい映画。映画パンフレットも大切

まだまだここでは紹介しきれませんが、映画を読み解く答えが満載です。この良くできたHELLO! MOVIEコメンタリーのおかげで、本作は“三度おいしい映画”となるのです。

余計な先入観なしで作品を鑑賞する初回につづき、2回目はHELLO! MOVIEコメンタリーを聞きながら見てください。デリケートな作品とは正反対の重厚な解説なので、おそらく映画がBGVになってしまうかもしれません。だからこそHELLO! MOVIEコメンタリーで俳優・監督の意図を理解したあとで、じっくりと3回目の鑑賞を楽しめるようになっています。

本作は恋愛映画でもあります。社会との折り合いに苦しむ”私”を現実に引き戻してくれる存在こそが、”先輩”であり、ニュートラルな誰かとの接点やコミュニケーションが”私”を変えていくことが描かれます。

最後に、池田エライザが劇中で歌う『Misty』歌詞の内容を確認することも必須です。“黒服”(柄本佑)の存在により“先輩”(池田エライザ)と“私”(永瀬廉)、お互いの気持ちが見えず疑心暗鬼になりつつある中、クリスマスイブの前日に、バーで“先輩”が、ジャズのスタンダードナンバー「Misty」をしっとりと歌い上げるシーン。 HELLO! MOVIEコメンタリーでは、映画パンフレットに日本語訳が掲載されていると触れられており、鑑賞後のパンフレット確認も楽しみのひとつとなります。

映画予告動画で公開されている部分だけを紹介します。

Look at me.(ねぇ、こっちを見て)」
I’m as helpless as kitten up a tree.(木の上から降りられなくなった子猫みたいに無力な私。)
And I feel like I’m clinging to a cloud.(そして、雲にしがみつくような気持ちです。)
I can’t understand.(どうしたらいいかわからない)
I get misty just holding your hand.(あなたの手を握るだけで、うるうるしてしまいます)。

”先輩”と”私”の関係性も本作の見どころです。

  • ”先輩”を演じるのは池田エライザ。
    『真夜中乙女戦争』©2022『真夜中乙女戦争』製作委員会
    監督・脚本:二宮健/原作:F/主題歌:ビリー・アイリッシュ
    出演:永瀬廉(私)/池田エライザ(先輩)/柄本佑(黒服)
    ©2022『真夜中乙女戦争』製作委員会

要チェック! 2022年2月公開中の最新HELLO! MOVIEコメンタリー

  • 『Pure Japanese』(2022年1月28日公開/Hello! Movieコメンタリー2月4日開始)
    ●コメンタリー出演者:ディーン・フジオカ(企画・プロデュース・主演)、松永 大司(監督)
    ●俳優のディーン・フジオカが企画・プロデュース・主演を務めた、自身のアイデンティティをテーマにしたバイオレンスアクション。過去のトラウマを抱えるアクション俳優・立石(ディーン・フジオカ)が孤独な少女アユミ(蒔田彩珠)と出会い、彼女を守るために狂気を暴走させていく
  • 『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 後章 -STASHA-』(2022年2月4日公開/HELLO! MOVIEコメンタリー2/11開始)
    ●コメンタリー出演者
    □本編序盤(約30分):桑島法子(森 雪役)、安田賢司(監督)、福井晴敏(シリーズ構成・脚本)
    □本編中盤(約30分):チョー(ヤーブ・スケルジ/薮 助治役)、安田賢司、福井晴敏
    □本編終盤(約30分):山寺宏一(アベルト・デスラー役)、井上喜久子(スターシャ役)、福井晴敏
    ●アニメ「宇宙戦艦ヤマト」をリメイクした「宇宙戦艦ヤマト2199」「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」シリーズの続編で、1979年放送のテレビスペシャル「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち」をモチーフに描いた全2章の後章

【HELLO! MOVIEの楽しみ方】

映画館へ行くまえに、お持ちのスマートフォンで「HELLO! MOVIE」を検索して、アプリをダウンロードしてください。
動画で解説します。「HELLO! MOVIE」公式YouTubeでアプリの使い方をご覧ください。

第8回はこちら>>>開発者に聞く。HELLO! MOVIEを支える技術の秘密とその可能性