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  • 今知りたい! 林 正儀のオーディオ講座 第5回
    「スピーカーのユニットの種類」
    数/素材/タイプで音の傾向が変わる

    取材・執筆 / 林 正儀
    2023年3月13日更新

    • VGP審査員
      林 正儀

前回の記事>>>第4回「スピーカーのキャビネットの役割」を読む

ユニットの数を増やして再生帯域を広げる

エンクロージャーを家だとすれば、そこに住む住人がスピーカーユニットです。各ユニットが気持ちよく、よい音で歌うことができるかどうかはエンクロージャー次第。特に低音再生能力はハコで決まるといっても過言ではありませんね。さて、エンクロージャーのことがひととおり理解できたところで、今回は集中的にユニットについて解説しましょう。

スピーカーシステムにはなぜたくさんのユニットがついているのでしょうか? 1つで済めばそれにこしたことはないけれど、それでは広いレンジをカバーすることは難しいからです。

ヒトの可聴帯域(聞こえる音の範囲)は、下は20Hzから、上は20kHz以上もあります。そこで帯域をいくつかに分け、それぞれに専用のユニットを受け持たせるようにしているのです。低音用と高音用なら2ウェイで、その間にもう1本、中音用のユニットを追加したのが3ウェイシステムというわけです。

これらのユニット名は、低・中・高をそのままLF(ローフリケンシー)ユニット、ミッドレンジユニット、HF(ハイフリケンシー)ユニットなどと呼ぶこともありますが、これはちょっと味気がありませんね。そこでオーディオファンの間では古くから、動物や鳥の声になぞらえた愛称で呼んでいます。ウーファー(Woofer)、スコーカー(Squawker)、トゥイーター(Tweeter)がそれです。低音はオオカミや犬が低くうなる声に似ているので「ウーファー」、中音は鳥がギャーギャー鳴くことから「スコーカー」、高音は小鳥のチッチッというさえずりで「トゥイーター」というわけです。

  • トゥイーターは高域、スコーカーは中域、ウーファーは低域というように、帯域ごとに役割分担して、ひとつのスピーカーとして鳴らすことで、再生できる周波数帯域の拡大を図れます。さらに、3ウェイにミッドバス(中低音域)を追加した4ウェイ、超高音域用のスーパートゥイーターを加えた5ウェイなども、海外製品などで見かけることがあります。

ユニット構成は音の傾向にも違いが表れる

ユニットを複数使うこれらのシステムを総称して、マルチウェイと呼びます。音の通り道がマルチに分かれているからです。これに対して、ユニット1発でシステムを構成するのがフルレンジ・シングルです。

フルレンジ(全域用スピーカー)のよさは、とにかく構成がシンプルなことです。帯域を分けるネットワークやユニット間のレベル調整なんて不要。レンジが少々ナローなカマボコ型であろうと、ユニットの個性がそのまま音に出るのが魅力でしょう。音源がひとつのため、点音源に近いこと、それによる定位のよさもポイントです。ダイヤトーン「P-610A」、JBL「LE-8T」、グッドマン「AXIOM80」などが、古くから名器として知られていましたね。

一方マルチウェイは、区分された帯域ごとに専用のユニットを用いるもの。リレー競技でいえば、それぞれの区間を短距離、中距離、長距離選手が走るようなもの。一人の中距離ランナーがすべてを走るフルレンジスピーカーよりも、タイム(特性)がよいのは当然ですね。受け持ち帯域に適した設計ができるため、ワイド&フラットな特性で歪みが少なく、大きな音にも耐えられるのです。これのように耐入力が高いことを、パワーハンドリングがよいといいます。

  • ひとつのユニットで全ての帯域をカバーする「フルレンジ」は、ネットワークもアッテネーターも不要で非常にシンプルな構成です。ユニットの数を増やすことでカバーできる帯域を広げる「マルチウェイ」は、各ユニットに帯域を分けないといけないので、ネットワークやアッテネーターに対しても技術力が必要です。

ユニットの口径サイズで再生周波数が変わる

ここで口径の大小と再生周波数の関係を考えましょう。直感的に分かるのは、低音再生なら大口径のスピーカーの方が有利で、高音の再生は小口径ほど適しているということ。理由は何でしょうか。そう、空気を揺する量の違いです。25~38cmという大口径のユニットは、ちょっと動いただけでも面積が広いためにたくさんの空気を揺することができますね。「ドスコイ、ドスコイ!」と、お相撲さんのようにパワーがあって押しに強い。つまりウーファー向きなのです。しかし、コーンが重いために速い動きは苦手。すばやく動くのは3cm程度の小口径で軽量なスピーカーで、これが高音用のトゥイーターに適しているのです。素早いパンチを繰り出す、フライ級ボクサーのような感じといえますね。

両者の間にあるのが12~20cm程度の中型スピーカーです。これは大型ウーファーのような重低音も得られませんし、トゥイーターのような繊細な高音も出ません。でも、ボーカル帯域を中心に、中音域がしっかり再生できるため、スコーカー用にぴったり。またフルレンジ・シングル用としても用いられるのです。

ユニットの型も音の傾向に大きく影響する

以上は主にコーン型スピーカーを中心に見てみたのですが、スピーカーユニットには他にもいくつか方式があり、得意とする再生帯域や音の特徴があります。

まずコーン型スピーカー。コーン(Cone)とは円錐の意味で、振動板がお椀のような形をしている最もポピュラーなタイプです。コーンの形状も色々で、コーンの浅いものや深いもの、ストレートコーンに逆カーブをしたものなどさまざまです。このように振動板をフラットにしないのは強度をキープするための工夫。コーンの大きさを色々と変えることで、ウーファーからトゥイーター、フルレンジ型まであらゆるタイプに対応できるのが特長です。特に大口径ウーファーはコーン型ならではのもので、他方式ではほとんど見あたりませんね。

ドーム型はその名のとおり、ボイスコイルにドームをかぶせたような形状で、中音以上の再生が得意。主にトゥイーターに用いられるタイプです。この型の最大の利点は、振動の仕方。ちょうどドームが膨らんだり萎んだりする、一種の呼吸運動に近くなることです。このために音が広がって指向性がよくなるというメリットがあるのです。弱みはその分能率が低めになりがちなこと。音の傾向はドームの素材によって違います。布地を素材にしたソフトドーム型は柔らかくて繊細。アルミやベリリウムなどの金属をドーム状に加工したハードドーム型になると、シャープでくっきりした音調となるのです。

最後にホーン型です。ドーム型のユニットにラッパのようなホーン(horn)を組み合わせたのがホーン型スピーカーです。音を出すのはあくまでドライバーの部分(磁石、ボイスコイル、振動板)。ではホーンは何のためにあるのかといえば、音波になってからそれを空中に能率よく放射するためのしくみなのです。金属や樹脂でできており、ホーン自体は振動しません。

口の両側に手をあてて「ヤッホー!」と呼んだり、メガホンを使ったりすると音が集まり遠くまで届きますね。これをオーディオ用語ではホーンロード(負荷)がかかるといいます。これによって、振動板の動きを空気中に有効に伝達できるほか、能率やトランジェント(過渡特性)が向上するのです。タイトで歯切れのよい音がホーン型の音の特長です。しかし、再生できる帯域が狭いためにトゥイーター、スコーカーなど帯域を限定して使います。スコーカーはかなりの大型ホーンとなりますね。指向性を広げるために、セクトラルホーンと呼ばれる仕切り板をつけるとしたものもあります。

  • ダイナミック型スピーカーでも、スピーカーユニットがコーン型/ドーム型/ホーン型などによって、音の傾向や得意とする再生帯域が異なります。そのため、フルレンジからトゥイーターまで搭載しやすいもの、トゥイーターに特化して採用しやすいものなど、違いが出てきます。
  • ダイナミックスピーカーについては第3回に詳しく解説しましたね。マグネットとボイスコイルをもち、そこに流れる音声電流と磁界との間に生じる力(電磁力)を利用するものです。フレミングの左手の法則を思い出しましたか?

高音域の再生を得意とするユニットも

最後にリボン型とコンデンサー型の話をして締めくくりましょう。どちらも極めて薄い振動板を用い、高音域まで伸びた繊細な音を特徴とするスピーカーですが、発音メカ二ズムは全く違います。

リボン型はその名のとおり、短冊状の金属リボンを磁界中に置き、これに音声電流を流して直接音を発生させるしくみ。基本的にはダイナミックタイプの仲間ですが、100kHzにも達する超高域再生を得意とします。

コンデンサー型は、コンデンサーのように静電現象を利用することからこう呼ばれます。磁石は不要、でも数千ボルトの直流バイアス電源をもっています。2枚の電極をピンとはった状態にしてそこに信号を加えれば、電圧の変化が膜面の動きとなるしくみ。面全体が発音体のため、フルレンジの平面スピーカーとしても使うことができます。

  • リボン型の構造イメージ図です。海外の高級ブランドでリボン型トゥイーターを搭載するケースが目立ちます。得意の超広域再生を活かした高音質なハイレゾや、SACDなどのワイドレンジ再生に対応したものでしょう。
  • コンデンサー型も構造イメージ図です。老舗メーカーの「QUAD」の採用例が有名ですね。「Martin Logan」なども第一線でコンデンサー型スピーカーの開発を続けています。クラシックファン好みの繊細なサウンドがポイントです。

これでスピーカーのユニットについてはお分かりいただけたけたでしょうか? 次回は、音楽信号をこれらユニットに振り分ける働きを持つ「ネットワーク」について見ていきましょう。

次回の記事>>>第6回「スピーカーのネットワーク(前編)」を読む

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