CONTENTS
・スピーカーユニットそれぞれに適した音声信号を振り分ける
・コイルとコンデンサーで通す帯域を分ける
・クロスオーバー周波数は低域と高域が分かれる目印
・最後はヒアリングで値を調整していく
スピーカーユニットそれぞれに適した音声信号を振り分ける
2ウェイや3ウェイなどのマルチウェイシステムに欠かせないのが、ネットワーク(Network:NW)という電子回路です。コイル(L)やコンデンサー(C)で構成されるので、LCネットワークとも呼びますね。ではどうやってそんな電子パーツたちが帯域を分ける働きをするのでしょうか。今回は2ウェイシステムを例に、基本的なネットワークの知識を学びましょう。
フルレンジは1本のスピーカーユニットで全帯域を受け持つので、そもそも帯域を分ける必要がなく、ネットワークなんて不要なのです。でも2ウェイの場合は、そうはいきません。そもそもウーファーは低音専用で、トゥイーターは高音専用というように分かれています。アンプで増幅された全帯域の音楽信号は、ただつなぐだけにしてしまうと、そのまま両方のユニットに同じ信号がダイレクトに入ってしまいます。これは低音・高音のバランスがおかしくなる以上に、まずいことです。デリケートに設計されたトゥイーターに、ド~ンと大きな音が入ったら一瞬で壊れてしまうからです。
そこで2ウェイシステムの場合は、スピーカー端子と各ユニットの間にネットワークが入るのです。音声信号はネットワーク回路を介すことで、低音と高音に振り分けられて、ウーファーとトゥイーターそれぞれに対して、それぞれに適した帯域の音だけが入力されるようにできます。
このようなはたらきをする回路を、フィルター(Filter)と呼びます。そう、2ウェイシステムのネットワークとは、低音だけ通すLPF(ローパスフィルター)と高音だけを通すHPF(ハイパスフィルター)がセットになったものだったのですね。3ウェイの場合は、さらに中域のみを通すBPF(バンドパスフィルター)が加わるのです。
- フルレンジと2ウェイシステムの内部構造を比べてみると、スピーカーユニットの数だけじゃなく、マルチウェイならではのパーツである「ネットワーク」が搭載されています。
- ネットワークは「キミキミ、そっちへいっちゃダメだよ。こちらこちら!」と、交通整理をするおまわりさんの役目をイメージしてみると信号の流れも見えてきますね。
コイルとコンデンサーで通す帯域を分ける
ここで実際のネットワーク基板を見てみましょう。コイルやコンデンサーは基板に配線されていることが多く、まったく反対の性質をもっているのです。ずばり、コイルは低音を通すが高音は通さない。一方のコンデンサーはというと、低音をカットして高音だけ通すという関係です。
コイルとは銅線をくるくる巻いたものですが、これによって内部を流れる信号電流の変化が速いほど、それに逆らおうとする「あまのじゃく」な性質が生まれるのです(レンツの法則)。言いかえると、ゆっくりと信号電流が変化する低音ならそのまま通すが、高音は速く変化するのでストップよ、というわけです。
一方コンデンサーは2枚の電極の間に絶縁物をはさんだもの。なので直流はカットし、低い周波数(つまり低音)ほど通しづらいという性質です。難しい理屈は省きますが、+/-の電荷の移動によって、高音域はフリーパスで通してしまうのです。その結果、対照的なフィルター特性となるわけです。
電子工学の勉強みたいですが、コイルは周波数でいうと低音を通過させるLPF(ローパスフィルター)としてはたらきますし、一方コンデンサーは高音を通すHPF(ハイパスフィルター)の役目をするのです。これでウーファー用にはコイル、トゥイーター用にはコンデンサーを用いるわけが理解できたでしょう。これらの性質をうまく利用したのがLCネットワークというわけです。
- 左図でインピーダンス特性としてかかれたグラフは、コイルとコンデンサーそれぞれのインピーダンス特性で、交流抵抗(Ω)で表記されます。このインピーダンスの特性によって、コイルは低域の信号を通しやすく、コンデンサーは高域の信号を通しやすいことがわかります。
クロスオーバー周波数は低域と高域が分かれる目印
ここで質問があるのではありませんか。低域と高域の境目にあたる帯域はどうなっているのかと…。そう、いかにフィルターとはいえ、ある特定の周波数でスパッと切れるのではなく、緩やかな傾斜で下がっていくのです。そして両方の傾斜が交わる点がクロスオーバー周波数(fc)です。
どこでクロスさせるかはスピーカーシステムによって異なりますが、ここでは3kHzクロスの例を示しましょう。3kHzから下がウーファー領域、上がトゥイーター領域です。実際はクロスオーバー付近では両方のユニットが鳴っているわけで、いかに不自然にならずにスムーズにつなげるかが設計の腕の見せどころです。
注目したいのは、ウーファーやトゥイーターに直列に入っている素子。ウーファーにはL(コイル)、トゥイーターにはC(コンデンサー)が信号の通り道にしっかり入っています。この素子によって基本的なフィルター特性が決まり、3kHzを境にしてそれぞれにふさわしい帯域の音声信号がユニットに入力されるのです。では並列に入っている方の素子は何かというと、余計な信号を逃がすためのバイパスと考えましょう。
ウーファー側では余分な高域成分(残りカス)をユニットの直前でバイパスさせて、ウーファーにいかないようにする。一方トゥイーター側では、低域の残り成分をユニットの直前で迂回させるのです。これによってよりきれいな成分がウーファー、トゥイーターに供給され、両方の再生帯域を合成したフラットなサウンドが聴けるというしくみです。
- 左の図は実際の2ウェイシステムに用いられるネットワーク回路の代表例です。ウーファーやトゥイーターに投入されている素子によって、基本的なフィルター特性が決まります。ウーファーには低音を通過させるコイル、トゥイーターには高音を通過させるコンデンサーが入っています。
ところで、クロスオーバー周波数はLとCの値によって決まります。オーディオに詳しい人は、「コイルの持つインダクタンスの単位がmH(ミリヘンリー)で、コンデンサーの方はμF(マイクロファラド)さ。」などと知識を披露するのでしょうが、入門者はその必要はありません。ただ、スピーカーのカタログなどに「クロスオーバー周波数」や「インピーダンス」とあったら、その意味がおおよそわかればよいのです。
最後はヒアリングで値を調整していく
ネットワークについては、「dB/oct.」の意味を知っておけばベターでしょう。これはフィルターの傾斜特性でデシベル・パー・オクターブ、つまり1オクターブあたり何デシベルの割合で減衰するのかを表わしています。
オクターブは音楽用語のオクターブです。「ラから上のラまで」…という感じで、周波数でいうと「2倍高い音、または1/2の周波数の音」をいうのです。オーケストラのチューニング(音合わせ)ではラは440Hz。1オクターブ高い音は上のラで、440×2=880Hzとなるのです。下のラは440/2=220Hzという関係。オクターブごとに、2倍、2倍、2倍の関係がどこまでも成立する、有名なバッハの平均律というものです。
オーディオの場合も同様ですが、数字をf=1kHzとしましょう。1オクターブ上は2kHzですね。この間に何デシベル下がるのかは、L、Cの素子の数で決まるのです。1番シンプルな1素子型だと-6dB/oct.の減衰。2素子型ではそれが-12dB/oct.さらに3素子型になると-18dB/oct.と、フィルターの切れ方がシャープに急傾斜になります。これは急であればよいというのではなく、あくまでユニットとの適性や最後はヒアリングによってベストな値に決めるのです。スピーカーは奥深いですね。
- 「dB/oct.」はフィルターの傾斜特性を表すもので、1オクターブあたり何デシベルの割合で減衰するのかを示しています。オクターブとは「2倍高い音、または1/2の周波数の音」を表す音楽記号。デシベルとは「音の強さ(大きさ)や電力の減衰」を表すときの単位です。
次回は3ウェイネットワークのしくみや、レベル調整のアッテネーターについて研究しましょう。