元「東京JAZZ」プロデューサーが立ち上げたジャズレーベル「Eight Islands Records(エイトアイランズレコーズ)」。立ち上げから1年で6枚のCDアルバムをリリース。ストリーミング配信もスタートし快進撃を続ける、この気鋭のレーベルについて魅力を紹介します。
ボトムアップで実現した、ジャズ&フェス好き乙女のプロジェクト「東京JAZZ」
Eight Islands(エイトアイランズ)は、アジア最大級のジャズフェスティバル「東京JAZZ」の元プロデューサー・八島敦子さんが2020年に設立した会社です。「世界を旅するジャズ」をテーマに、コンサートやイベント、コンテンツをプロデュースしています。22年3月、長年の夢である「音楽と文化を通じて日本と世界を結ぶ」ことを目指し、満を持して立ち上げたレーベルが「Eight Islands Records」です。
第1弾となったアルバムは、2022年6月にフランスのジャズレーベル終了で埋もれかけていたShahin Novrasli(シャヒン・ノヴラスリ)の『Bayati』。それから2023年6月までで、実に6枚のアルバムリリースという脅威のハイペースで発売、合わせて凱旋公演も活発に行われています。その精力的な活動からは、八島さんの積年の強く熱い思いが見てとれます。
作品紹介
ここでリリースされている6作品を紹介します。
- CD
Shahin Novrasli『Bayati』
¥2,970(税込)
第1弾Shahin Novrasliの『Bayati』は、ジャズ、クラシック、ムガム(アゼルバイジャンの伝統的な民族音楽)が絡み合う、融合と越境の音楽です。
Shahinはアゼルバイジャンの首都バクー出身。11歳にしてオーケストラと共演するなどクラシック音楽の神童として注目を浴びたというその実力は、ジャズピアノの巨匠アーマッド・ジャマルが「彼は私が今まで耳にした中で最も素晴らしいピアニストの1人」と語るほど。フランスのBee Jazzレーベルの終了により入手困難となっていた1枚です。
CDのほか、ストリーミング(Spotify、Apple Music、LPでもリリース済みです。
- CD
Bob James & Sam Franz『2080』
¥2,970(税込)
第2弾はBob James & Sam Franz(ボブ・ジェームス&サム・フランツ)の『2080』。ジャズ・フュージョン界の巨匠ボブ・ジェームスがコロナ禍のさなか出会ったサム・フランツと共作。サムはミシガン大学在学中にMEMCO(ミシガン電子音楽集団)でDJを始め、ミシガン南東部の歴史的でアンダーグラウンドな音楽に触れる学生時代を過ごした若きDJ/エレクトロニックアーティスト。
実はボブも約60年前ミシガン大学卒業後、当時最先端のアヴァンギャルドミュージックに挑み斬新なサウンドでセンセーションを巻き起こしていました。まさに“時代を超えて”2人は同じ場所、同じスピリッツを持って音楽に挑んでいたというわけです。タイトルの『2080』は、2人の年齢を掛け合わせた数字と、2人が目指す音楽世界「2080年のサウンド」に由来します。「まるで映画のサントラを創るように制作した」と2人が語る時空を超えた挑戦と実験の音楽は必聴です。
CDのほか、ストリーミング(Spotify、Apple Music、LPでもリリース済み。
- CD
Steve Gadd&Mika Stolzman
『Spirit of Chick Corea』
¥2,970(税込)
第3弾は、Steve Gadd&Mika Stolzman(スティーヴ・ガッド&ミカ・ストルツマン)『Spirit of Chick Corea』。たびたび来日し日本の文化や人々をこよなく愛し21年2月9日逝去したジャズピアニスト、チック・コリアのスピリッツと共に音楽の旅を続ける盟友たちによるトリビュートアルバムです。
ドラムスのスティーヴ・ガッドのプロデュースのもと、日本が誇る国際的マリンバ奏者ミカ・ストルツマンや、チックが敬愛した世界最高峰クラリネット奏者のリチャード・ストルツマン、チックを長年支え続けたジョン・パティトゥッチとエディ・ゴメスをベースに、ヴォーカルにチックの愛妻ゲイル・モラン・コリア、さらにチックの音楽世界を彩ってきたミュージシャンたちも参加。録音エンジニアは、チックが絶大なる信頼を寄せ、共に音楽世界をつくってきたバーニー・カーシュ。マスタリングは、名匠・グレッグ・カルビ。
収録曲は、世界中で愛され続ける『Armando’s Rhumba』『Crystal Silence』『Spain』など、いまやスタンダードといえる名曲に加え、チックがミカのために作曲した2曲、ジョン・パティトゥッチがチック・コリアに捧げるために書き下ろした『Chick’s Groove』のほか、リチャード・ストルツマンとチック・コリアによる幻のデュオ音源『Japanese Waltz(1985年録音)』も収められています。
「音楽家の人生は旅であると教えてくれたのもチック」とライナーノートで自ら記すとおり、八島さんが「アーティスト自身の『音楽探究の旅』の途上で生まれたさまざまな音楽をとりあげる」ことをテーマに立ち上げたレーベルがEight Islands Recordsであることを、最も象徴する1枚といえるでしょう。私も繰り返し聴いています。
CDのほか、ストリーミング(Spotify、Apple Music、LPでもリリース済み。
- CD
Marco Mezquida『Letters to Milos』
¥3,300(税込)
第4弾Marco Mezquida(マルコ・メスキーダ)の『Letters to Milos』は、マルコが息子へ宛てた愛の手紙であるとともに「今の自身の心境を芸術的に最もよく表現している心からの証言」と語るアルバムです。ドラムスとパーカッションはアレイクス・トビアス、そしてチェロはマルティン・メレンデスが担当。
「調性的な音楽からフリーならではの自由さまで、作曲、即興、演奏というそれぞれの場面において感じる喜びを交錯させた作品」とマルコが語るとおり、16曲にも及ぶ収録曲は実に多様な彩りの音に溢れ、一瞬たりとも聴き逃せまません。
現在CDのほか、ストリーミング(Spotify、Apple Music)でもリリース済み。
- CD
Makoto Ozone and Park Street Kids featuring Eiji Kitamura
『PARK STREET KIDS』
¥3,300(税込)
第5弾は、小曽根真の『PARK STREET KIDS』。小曽根が幼いころ心を奪われジャズを志すきっかけとなったディキシーランド・ジャズのルーツを辿るスペシャル・プロジェクト「Original Park Street Kids(元祖 公園道りの若者たち)」が、渋谷公園通りにある老舗ジャズクラブ「BODY&SOUL」で開催した演奏のライヴ・レコーディングです。
フロントメンバーにトランペット・中川喜弘とトロンボーン奏者・中川英二郎。スペシャル・フィーチャリング・ゲストに小曽根が音楽だけでなく人生の師としても仰ぐクラリネット奏者・北村英治が参加。本物のディキシーランド・ジャズにしてノスタルジーにとどまらない音楽と人生の素晴らしさと幸せにあふれるライヴとなっています。
現在CDのほか、ストリーミング(Spotify、Apple Music)、LPでもリリース済み。
- CD
TBN『THE BIG NEWS』
¥3,300(税込)
第6弾は、6月2日発売の“TBN”Takeshi Ohbayashi Trio feat. Ben Williams and Nate Smith(大林武司 featuring ベン・ウィリアムス&ネイト・スミス)『THE BIG NEWS』。ピアノのTakeshi ObayashiとベースのBen Williams、ドラムスのNate Smithのトリオです。
大林武司はバークリー音楽院を経てグラミー賞受賞ドラマーのテリ・リン・キャリントンのバンドに参加。米「Jacksonville Jazz Piano Competition」において日本人として初優勝したのち、ホセ・ジェイムズ、黒田卓也とのコラボレーションや、MISIAのバンドマスターを務めるなど、国やジャンルの枠を超えて活躍中です。
ベン・ウィリアムスは2009年セロニアス・モンク・コンペティションで優勝しレコードデビュー。13年パット・メセニー・ユニティ・バンドに参加し初のグラミー受賞。ロバート・グラスパーやカマシ・ワシントン、渡辺貞夫と共演し、20年のネオ・ソウル作品『アイ・アム・ア・マン』も大きな話題に。ジャズのルーツに根ざしつつ変幻自在に活躍するファースト・コールのベーシストです。
ネイト・スミスはこれまで3回のグラミー賞ノミネート。マイケル・ジャクソンへの楽曲提供やポール・サイモンからノラ・ジョーンズまで数々の豪華共演で知られ、ジャズ、R&Bからヒップホップまで自身が選び取った音楽を自分の音楽世界に取り込んでしまいます。演奏動画の再生数が数100万にもおよぶ最も影響力のあるドラマーのひとりです。
そんな世界を旅する中で培われた3人の演奏は、ソウルフルでひたすら躍動感にあふれ、聴いているコチラにまで生きている喜びを感じさせるもの。そのサウンド・クオリティも、眼前に彼らの動きが映像として浮かぶような生々しさ。ぜひご自宅のオーディオシステムで堪能していただきたいです。
デジタルストリーミングおよびLPも発売予定とのことです(6月10日現在)。
© 2023 Eight Islands Co, Ltd. All Rights Reserved.
「国境を越えて、時空を超えて」
Eight Islands Recordsの躍進において、「東京JAZZ」での経験と人脈を生かし…といえば簡単なようですが、ここに至るまでには八島さんご自身のパワーのみならず、様々な人との縁が積み重なっています。
八島さんは8歳から11歳までをアメリカ・シアトルで育ち、日本と海外の架け橋となるような仕事に就きたいと早稲田大学政治経済学部国際政治へ進学。卒業後はNTTでの仕事を通じ都市計画に興味を持ち、こんどは慶應義塾大学大学院で建築・都市デザインを学びます。98年、パビリオンなど大きな映像空間の設計をするためにNHKエンタープライズに入社するも、それとは縁遠い部門に配属されてしまいます。
そんなある日、八島さんは会社の廊下に貼られた「オーシャンブルー・ジャズフェスティバル」のポスターに釘付けに。担当者を訪ねると、語学を買われてアーティストの通訳に駆り出され、そこでジャズフェスの魅力にハマります。やがて同僚を巻き込んで、02年の立ち上げから17年までアジア最大のジャズフェスティバル「東京JAZZ」に携わり、「国境を越えて、世代を超えて」をテーマに、企画立案や出演交渉を行ったのです。
世界各地で進化・発展を続けるジャズとともに、様々なアーティストの「音楽探求の旅」で生み出されたユニークなプロジェクトを紹介すべく、世界のジャズシーンを追い続けたことが、いまの八島さんの活動を支えているのです。
- 国境を越え、世代を超えて、現在進行形のジャズを届け続けている「東京JAZZ」。2019年からはプロデューサーとしてジャス作曲家・指揮者である挾間美帆さんを迎え、毎年夏季に開催されています。