AVアンプやサウンドバーの機能として定番ともいえる「自動音場補正」。手軽によりよいサラウンド効果が期待できる反面、完璧とはいえない部分があるのも事実です。音場補正の必要性や仕組みといった基本を解説しつつ、自動音場補正の落とし穴、そして自動音場補正の上手な使い方および手動調整のコツをご紹介します。
音場補正の基礎知識
サラウンド環境では複数のスピーカーを用います。究極の理想は、同じスピーカーを用い、リスニングポジションから各スピーカーまでの距離がすべて等しいことですが、スタジオならともかくホームシアターでは非現実的です。そのギャップを埋めるのが「音場補正」、という考え方です。
音場補正機能では主に、スピーカーまでの「距離」と「音圧」の補正を行います。まず距離は電気的には「ディレイ」(時間遅延)で補正されます。リスニングポイントから 近くのスピーカーから出る音を遅らせ、遠くのスピーカーから届く音とタイミングを合わせることで、各スピーカーまでの距離が異なっていても 「同じ距離」とみなすことができます。
音圧の補正は、遠く離れたスピーカーからの音は、近いスピーカーと比べて小さく聞こえることから、それらの音圧差を整えます。このように、リスニングポイントから各スピーカーまでの「距離」と「音圧」を等しく整えることで、制作スタジオに近い状態になり、製作者の意図した立体表現を忠実に再現できるというわけです。
「距離」と「音圧」から、さらに一歩進んだ補正機能が「周波数特性」の補正です。スピーカー固有の周波数特性だけでなく、リスニングポイントにおいて、定在波によって変化する周波数特性も整えることで、スピーカー間の「音色差」も小さくしようとするものです。
- DENONのAVアンプ「AVR-X4800H」に付属する測定用のマイク。サラウンド環境の理想配置の一つがITU-Rが推奨する高さや距離も等しい同心円状のスピーカー配置ですが、そこから位置がずれていても、各スピーカーの距離、角度、音圧、周波数特性などの補正をおこなうことで制作スタジオに近い環境を再現しようとするのが音場補正機能です。
自動音場補正機能のメリット
自動音場補正機能を搭載したAVアンプやサウンドバーでは、主に付属のマイクをリスニングポイントに設置するだけでマイクから各スピーカーからまでの距離を把握して、「距離」と「音圧」そして「周波数特性」を自動で調整してくれます。ユーザーの聴感に頼らず、短時間で正確な補正が期待でき、多くのユーザーがよりよいサラウンド体験をできるのは、大きなメリットといえます。
- 自動音場補正機能は各ブランドによってプロセスや機能もさまざま。たとえばヤマハの音場補正技術「YPAO」は、視聴環境や好みの音に合わせて「YPAO:低周波数領域」などモードの切り替えも可能。音場創生技術「シネマDSP」との連携で、より豊かな空間表現を実現できるといいます。
自動音場補正機能が登場するまで、ユーザーは「距離」と「音圧」を手動で調整していました。距離はメジャーなどで測定し、音圧はテストトーンを鳴らして騒音計を用いるか、あるいは聴感に頼ったものでした。手間がかかるだけでなく、特にサブウーファーは周波数帯域が低く聴感での正確な判断は難しいもの。音場補正を行わないまま使用するユーザーも多かったのではないでしょうか。
自動音場補正機能には注意点も
自動音場補正機能を用いると「距離」と「音圧」は比較的高精度に補正が可能ながら、「周波数特性」については疑問が残ります。定在波の影響でピーク(音が大きく聞こえる帯域)が生じた場合、イコライザーで小さくなる方向には調整が有効ですが、極端なディップ(音が全く聞こえない帯域がある)の場合は電気的増幅しても、聴感としては変化が無いためです。
またAVアンプやサウンドバーの場合、イコライザーは操作できるバンド数が限られるため、ピークを小さくする方向で補正が働くと、その周波数の前後の帯域も不必要に小さくしてしまう可能性があります。自動音場補正機能はメリットがある反面、副作用ともいえる落とし穴があることにも留意したいものです。
上手な使い方と手動調整のコツ
「距離」と「音圧」については、自動音場補正に頼るとよいでしょう。ただし高品位なサラウンドを求めるなら、補正結果の確認はしておきたいものです。距離は可能であれば実測値との比較を。レーザー式の距離計を使用すれば、一瞬で正確に測定できます。音圧は機器に搭載されているテストトーン機能を利用し、聴感での確認を。すべてのスピーカーから聞こえる音の大きさが等しければOKです。さらに上を目指すなら、騒音計の利用を。無料あるいは数百円で利用できるスマホアプリもあります。
「周波数特性」を厳密に確認したり調整するには専門的な技術が必要でハードルが高いものです。一般ユーザーの場合、製品の機能として搭載されているイコライザー「オン」と「オフ」で聞き比べ、自身の感覚でどちらかよいか選択するとよいでしょう。折角の自動音場補正機能ですが、イコライザーで補正された「オン」よりも「オフ」の場合が好ましく感じる可能性があるかもしれません。
もはや当たり前となりつつある「自動音場補正機能」ですが、仕組みや注意点を知り、上手く使いこなせば、機器の性能をより多く引き出すことができます。調整は無料。ひと手間かけて、よりよいサラウンドサウンドを楽しみましょう!
- 周波数特性の補正のコントロールは、製品に搭載されている機能を利用することになるので、ブランドや製品ごとに操作は異なります。一例としてDENON、MARANTZのAVアンプに搭載されている自動音場補正機能「Audyssey MultEQ」では、有料の専用アプリを使い、チャンネルごとの周波数特性の比較と適用周波数の設定などを行うことができます。
- SENNHEISER「AMBEO Soundbar | Mini」
設置性に優れたサウンドバーは、本体に内蔵されたマイクを使用して自動音場補正ができるモデルも増えつつあります。