CONTENTS
・LDAC伝送を活かしたヘッドホン・シアター
・シンプルな操作感で自分好みの音をつくれる
・映画もライブもひとりじめして没入できる
・ハイレゾ配信本格化に向けポータブルにも注目
・ウォークマンNW-ZX707のマッシブな実力
LDAC伝送を活かしたヘッドホン・シアター
小員のヘッドホン歴は、子供のころソニー「WM-D6」と一緒に買った(というか買ってもらった)「MDR-50L」に始まります。大人になってから、家ではオーディオテクニカ、ゼンハイザー、ベイヤー、スタックス、グラド、オーデジー等々、ワイヤードのヘッドホンを一通り私用し、価格が10万円を超える世界観に到達したところで卒業。外出時はiPhoneでSNSやメールのチェックが日常となったことにともない、イヤホンで音楽を聴くことはほとんんどなくなっていました。手元に置いてたまに持ち出すのはcleer「ALLY PLUS II」。DAPを持ち出してワイヤードで繋ぐヘッドホンフリークを尊敬しつつ、ワイヤレスヘッドホンなんて…と、正直軽く見ていたところもありました。
ところがある取材を通じてLDAC伝送を自宅で体験する機会を得て、オーディオシステムで聴いても一般的なBluetooth接続とは段違いであることに衝撃を受けました。そこで、いまさらの感はありますが、ソニーがハイレゾ音源をBluetooth送信する技術として開発したLDACをいまいちど見直したいと考えました。
2022年5月発売の「WH-1000XM5」の市場価格がこなれてリーズナブルになってきたこともあり、ウォークマンの2023年モデル「NW-ZX707」からのLDAC伝送を中心に、自宅で試したのでレポートします。
- ソニーのワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン「WH-1000XM5」(写真左)とポータブルミュージックプレーヤー「NW-ZX707」(写真右)を試聴していきます
シンプルな操作感で自分好みの音をつくれる
ソニーの製品ページで「最高のノイズキャンセリング性能」ばかりが謳われている「WH-1000XM5」。でも、筆者が使ってみていちばん感心したのは、インターフェイスの秀逸性でした。右ハウジングの表面を指でなぞることで、再生/一時停止、曲の頭出し、音量などが直感的に出来ます。
また、ヘッドホンを外すと近接センサーが感知して再生を一時停止するのも、実際の使用シーンをよく考えているなぁと感心しました。デフォルトは装着検出、設定で変更可能です。
ドライバーユニットは30mmのシングルですが、ネオジウムマグネットを採用。ドンシャリな誇張感が一切なく使いやすい音質です。側圧は強くなく頭頂に載せるようなかけ心地が、長時間の試聴にも耐えます。
ちなみに、付属のヘッドホンケーブルでも聴きましたが、とても静か&なめらかなサウンドで、ドライバーの素性のよさが窺えるものでした。もっとも今回の組み合わせでは、どちらかというとLDAC伝送のほうが、高音域から低音域までの全体がよりフラットかつ濃密に聞こえ、バランスはいいかもしれません。
映画もライブもひとりじめして没入できる
拙宅のUltra HDブルーレイプレーヤーは、ソニー「UBP-X800M2」です。そこで「WH-1000XM5」とLDACで接続して、120インチの大画面ホームシアターを楽しんでみましょう。
4K Ultra HDブルーレイ『宇宙戦争』では、冒頭のドスが効いたダイアローグが閉塞的な音場に怪しく響き、そこから高所恐怖症にはたまらない映像と開放的な空間のサウンド、さらにマスタングが吠えるシーンへと、一気に父親(トム・クルーズ)のプロフィール紹介がおこなわれます。
AVアンプを使ったマルチチャンネル再生ではドルビーアトモスの立体音場に身を置くイメージですが、この「WH-1000XM5」は、2chながらこうした場面転換をわかりやすく整理して、むしろ印象深く伝えてくれます。
“ヤツ”が来るシーンでの地割れや建物の倒壊など、正確な定位と切れ味が激しい衝撃を伝えますが、深夜に一人爆音で楽しんでも、誰にも迷惑をかけません。
音楽ライブBD『Sound Stage Peter Cetera with Amy Grant』では、ピーターとエイミーの声質の特長を堪能でき、バックのアコースティック楽器も映像とマッチした音色で響かせました。ライブならではの拍手や暗騒音もつまびらかに聞き取れ、BLUE NOTE TOKYOさながらの生々しい極上のライブを楽しめました。
ホームシアター視聴は長丁場。なのに、軽快な装着感と相まって、ワイヤレスの取り回しがよく、快適でした。
ハイレゾ配信本格化に向けポータブルにも注目
今回の試聴は、静かな私邸の視聴室でおこないましたが、NC(ノイズキャンセリング)をOFFにしてもさほど音色に変化がありませんでしたので、基本的にONの状態でおこないました。しかも、「WH-1000XM5」はオートNCオプティマイザーという機能で装着状態や環境に合わせて最適化してくれるので、NCがちょっと苦手という人でもそのまま安心して使えるのではないかと思います。
「WH-1000XM5」は、飛行機の移動などで外界音に邪魔されないのはもちろんですが、家庭内でも積極的に活用できます。密閉型ゆえ基本的に音漏れが少ないので、家族が集まるリビングで自分の好きな音楽を聴くのはもちろん、家族が寝静まった夜に一人で映画や音楽ライブを楽しむのにもオススメです。
配信サービス「Qubuz(コバズ)」上陸、さらに「mora ~WALKMAN公式ミュージックストア~」でもロスレス音源の配信開始で、さらにロスレス/ハイレゾサウンドが本格化する今年、ふたたび注目度がアップすること間違いなしです。
ウォークマンNW-ZX707のマッシブな実力
「NW-ZX707」についてもふれておきたいと思います。DSEEなど各種EQはOFFでも、十分その堅実な造りは満喫できました。よくハイエンドDAPにありがちな低音の量的な膨らみがなく、タイトな低音域と極上のSN、決してキツくなることのない解像感が、ハイファイコンポーネント然とした佇まいを醸し出しています。アルミ削り出しの本体からしてハイエンドな据え置きデジタルプレーヤーと遜色なく、オーディオ機器と繋いでDACとしても使うと、さらにその実力が映えます。
- 「NW-ZX707」に搭載されているEQ機能の一つ「DCフェーズリニアライザー」は、低域の位相特性を調整する機能。異なる6つのモードを選択できます
印象に残った機能に「DCフェーズリニアライザー」があります。聞き慣れたビリー・ジョエルの80年代ロック『Allen Town』では、冒頭のドラムのアタックからビリーのピアノに掛けてのイントロのガッツがあるノリが「TYPE B Standard」モードでもっとも好ましく聞こえました。かなりマニアックで、もっと広く知られていい機能だと思いました。