省スペースで美観も保ちつつ、映像作品の臨場感をもっと追求したいなら「センタースピーカー」の採用がお薦め。画面側への設置ですから生活動線や美観への影響は最小限に、しかし音は効果的にクオリティアップできます。仕組みと効果の観点から、メリットと設置のコツをTHX社認定ホームシアターデザイナーが解説! 高さの問題で物理的に設置が困難という方も、基本を理解しておけば理想へ近づけるアイデアの一助になるはずです。
配信コンテンツの視聴にはとくにお薦め
現在、リビングで大型テレビにサウンドバーやステレオ2chのスピーカーシステムを組み合わせて楽しまれている方は多いことでしょう。テレビの内蔵スピーカーからステップアップした迫力や臨場感を体験して満足されているなら、さらなる上を目指したくなるのではないでしょうか? 一方で、リアスピーカーまで含むマルチチャンネルサラウンドは大袈裟で手が出しづらい…そのような心境の方にお薦めしたいのが「センタースピーカー」の追加です。
映画/ドラマ/ミュージックビデオといった映像をともなう配信コンテンツの音声は、多くがDolby Atmosを含め5.1ch以上のマルチチャンネルサラウンドで収録されています。とくに映画やドラマではセリフ、音楽の場合はボーカルと、大切な情報の大半が「センター」チャンネルに収録されていて、情報量としては全体の70%を占めるともいわれています。つまり、センター成分を高品位に再生することは、サウンド体験の向上を狙う上で効率がよいというわけです。
- Netflixをはじめとする各種サービスでは、5.1ch以上のマルチチャンネルサラウンドで配信されているタイトルもしばしば
定位が安定すると没入感がアップする
具体的にセンタースピーカーを独立して備える最大のメリットは、定位が安定すること。2chスピーカーを用いる場合、センター成分は虚像のような「ファントム定位」に。視聴位置が左右どちらかのスピーカーに偏ると、定位位置もシフトするなど乱れやすい性質を持っています。1人で中央から視聴する場合にはあまり問題になりませんが、2人、3人と複数名で同時に視聴する際は、場所によって聴こえ方が変わってしまうことをご想像いただけるでしょう。
また、センタースピーカーが独立すれば、左右スピーカーとの干渉が少なく明瞭度が増すのもメリットです。映画やドラマではセリフが明瞭でニュアンスも豊かになると、俳優により近く、ストーリーへの没入度も増すものです。センターには立体情報も含まれているので、奥行きや左右の広がりを増す効果も得られます。
- KEFのスピーカーシステム「Qシリーズ」より、LCRスピーカーとしても使用可能な「Q6 Meta」によるイメージ
必要な機器とスピーカー選びのポイント
サウンドバーの中にもセンタースピーカーを搭載している製品はたくさんあります。ステップアップをねらうなら “サウンドバー超え”を目指したいものです。3chのスピーカーシステムを採用する場合、セッティングに必要な機器はスピーカーとアンプ、ケーブルなど接続用のアクセサリー。
センタースピーカーはフロント左右と同様に重要と考え、同等のグレードの製品を選びましょう。まったく同じスピーカーや、同じシリーズの製品を組み合わせると、音色も揃ってスピーカー間の音の繋がりがスムーズに。立体感もよりナチュラルに感じられます。
- アンプは5.1ch対応モデルであれば比較的手軽に入手できるはず。そのうちの3chを利用できます。画像は5.2ch対応のDENON「AVR-X580BT」
おさえておきたいスピーカー設置のコツ
スピーカー設置の際のコツとして、次の2つを守るとセンタースピーカーを追加した価値をより発揮できます。1番目は高さ。トゥイーターの高さがフロント左右と揃うのが理想ですが、スクリーンやテレビ画面の都合でセンターのみ下げざるを得ない場合は、フロント左右に対して10°以内に収める努力を。詳細は、記事「センタースピーカーのベストな置き場所は?世界品質で知られるTHX流の推奨位置」でご紹介していますので、参考にしてみてください。
2番目は仰角。低い位置に設置せざるを得ないケースが多いはずですが、その場合トゥイーターが視聴者の「耳」に向くよう仰角を設けましょう。スピーカーはトゥイーターの鉛直線上で聞こえる音を基準に設計されているので、音色を正しく、また左右スピーカーとのマッチングを図る上でも重要です。仰角を設けると、床面反射の影響も受けにくくなりますよ。
逆にありがちなNG例としては「床置き」。高さが大きく異なり、床面反射の影響も大きく受けるので、センタースピーカーが足を引っ張ってしまうことも。ラックの中に押し込めるのも音色の変化の原因になるので、吸音対策などを充分におこなわないなら推奨されません。
センタースピーカーの追加はリアスピーカーに比べると圧倒的に導入が楽で、かつ生活動線や美観に影響を与えにくいもの。コスパが非常に高いアイデアといえるので、ぜひ取り組んでみてください。映画、ドラマ、音楽に、もっとのめり込めるはずです!
- 上述の関連記事では、スクリーン・シアター向けのさらにくわしい解説をおこなっています
- 鴻池賢三 氏。VGP審査副委員長、オーディオ・ビジュアル評論家。メーカーにてAV機器の商品企画職、アメリカ・シリコンバレーのデジタルAV機器用ICを手掛けるベンチャー企業を経て独立。THX/ISF認定のホームシアターデザイナーとしても活躍しています