前回リポートしたのは、日本が世界に誇るバスタブメーカーJAXSON(ジャクソン)。そのデザイナーである清水秀男さんが、最新素材を得て次に取り組んだ新ブランドがHIDEO(ハイデオ)です。その東京ショールームはJAXSONと隣接して東京・赤坂にあります。
前回の記事>バスタブ専門ブランドが提案するモダンリビングとは? 世界のJAXSON旗艦店を訪問
単なる設備でなく家具としてのバスタブを
デザイナー自らの名を冠したHIDEOは、完全に「家具としてのバスタブ」。単なる住宅設備ではなく、高級インテリア家具です。その名は世界ですでに広く知られており、7モデルがドイツのデザイン賞German Design Awardにて受賞しています。
特長は、日本らしい凝縮された機能美と流麗なフォルム。まだ国内では製造できない素材を主原料にしているため、製造はアジアとイタリアの工場に委託していますが、名だたる高級家具を手掛けてきた彼らですら難易度は高く舌を巻くほど。アジアの工場では非常に精緻な表現が可能なLAR(リキッドアクリリックレジン)、イタリアの工場では高純度の水酸化アルミニウムを主成分とする鉱物フィラーと、トウモロコシ由来の植物性樹脂で構成されたサステナブルな素材を用いています。
HIDEOは、光沢あるフレッシュでボリューミーな白磁といった趣のJAXSONとはある意味真逆。マットでシルキーな手触りと、透け感を持つ薄くて口当たりのいい茶碗のようなテイストを感じます。
- HIDEO「TRONO-BIO」「ESSENZA」「PICCOLA」が、German Design Award 2025の「エクセレントプロダクトデザイン-バス&ウェルネス」部門において金賞および優秀賞をトリプル受賞
最新モデルには映画視聴に適したタイプも
まずは最新のモデルを見てみましょう。HIDEOの最新モデルからも、入り心地こそが重要で、そのためには安全性が保たれなければならないというJAXSONと底通する根本理念が窺えます。「アームレスト」や「フットレスト」といった工夫が、ジェットバスや金物類を廃したHIDEOに至ると、より明確になります。HIDEOには「座り心地」「安全性」「デザイン」の融合する “家具” としての “造形” がシンプルかつ力強く表現されており、JAXSON以上に清水さんの矜持を感じるのです。
- 「INFINITY-BIO」(型番IN-2000-E)
アーキプロダクツ・デザインアワード2024受賞。JAXSON以来の流れを継ぐ、体を預けたとき背中にフィットする曲線と、アームレスト、フットレストは承前。包み込まれるような安心感を生むフォルムが特長の「Infinity」(型番IN-2160/23年German Design Award受賞)に改良を加え、リサイクル可能なトウモロコシ由来のサステナブルな素材を採用。海外、とくにヨーロッパで進むサステナブルな思想に沿ったもの
JAXSONと異なるのは、直線と曲線、コーナー部分のメリハリある処理。それでいて、むしろJAXSON以上に温かみが感じられるのはなぜでしょう。注型成形という型に流し込む技術が基本で、特別な型技術によってシャープな立体造形を実現しているのですが、一方で、最終工程の2・3割は熟練の職人が手仕事で仕上げているとのこと。それが、工業製品でありながら茶碗のように肌馴染みのいい工芸品のようなぬくもりの所以なのだと合点がいきました。
- 「TEATRO」(型番TT-1770)
Theaterをコンセプトとした3シーターのバスタブ。まさしくリビングシアターのようにコミュニケーションを楽しむためのバスタブで、アームレストも装備され、映画視聴や足湯などさまざまなシーンが想定できます
シンプルながら入り心地を吟味した製品群
HIDEOにもJAXSONの「VENTI」同様、シンプルながら入り心地を吟味したタイプもあります。素材の特性により薄く成形することが可能なため、見た目以上に容量があるのもHIDEOの特長です。
またJAXSONショールームでも度々見られた、近くにベッドルームがあるバスルーム「ベッド&バス」というコンセプトは、取材時のHIDEOショールームでも見受けられました。実際、メインバスルームのほかにサブバスルームを備える住宅も増えているとのことです。
- 左から「CHIAVE-BIO」(型番CH-1500-E)/「CUPOLA」(型番CP-1500)
長さが150cmのコンパクトサイズで、JAXSONの160 – 170cmサイズの製品に匹敵する容量を持っています。アームレストもあり175cmの人でもゆったり入浴。JAXSONブランドのソファと組み合わせると、バスタブ自体にグリップバーを設けないHIDEOを補うことにもなります。取材時には奥に1926年創業のスウェーデンのブランド・DUXIANAのベッドが配置
- 鍵穴をモチーフにした「CHIAVE-BIO」の内部。円形とスクエアを融合させつつ、アームレストとフットレストを設けて入り心地にも配慮しています。BIOとあるとおり植物由来のバイオベース樹脂を採用したイタリア製
- 「PICCOLA」(型番PC-A900)
通称 “五右衛門風呂” のミニバスタブは内径800mmのコンパクトサイズで、サウナ後の水風呂としても好適
- 「PICCOLA」と同様のコンセプトのJAXSON「Vetro Nuova Primo」。周囲のタイルはイタリア製のホワイトゴールドであるため写真のモデルは高価ですが、リゾートスタイルの置き型バスタブ「Barco Nuova Primo」ならHIDEOと近いプライスレンジ。エンドユーザーに適正な価格で提供できる価格設定にしているとのこと
- 「MOON」(型番MN-1450)
24年German Design Award受賞作。月の満ち欠けを表現したもので、どの面を取っても直線がない絶妙なライン。へこんでいる部分と膨らみを組み合わせ複数のバスタブを連結することで一層魅力が高まります。モックアップを制作しているときの清水さんの愉しそうなお顔が目に浮かびます
「諦めない」「我慢」人脈が支えるブランドの真価
JAXSONという誰もが知るバスタブブランドを生み出しておきながら、清水さんはなぜHIDEOという新ブランドを立ち上げたのでしょうか?
「JAXSONを手放してからも、自分の中で終わらなかった。じぶんの名前を付けて、もう一度やってみよう。そう思って、海外で開発された新しい素材で世界進出したんです」
そう切り出した清水さん。まだHIDEOがないときに、ジャカルタで10年ぶりにばったり会った財閥のオーナーから、唐突に「400台つくってくれ」と依頼されたのがキッカケだったと明かします。
「『清水のものなら信頼できる』と、打ち合わせの際にはすべて先方負担で招聘してくれました。切れたと思っていたものがまた繋がり、繋がっていた縁は太くなっていく。商品とともに人脈が支えてくれているんだなぁと実感しました。うれしかったですね」
ちょうど取材したときは、HIDEO主催の恒例のクリスマスイベントが催されていました。クリスマスリースもすべてスタッフたちの手づくり。まるでアロマを炊いているように芳醇な香りが、広い空間いっぱいに広がっていました。
「昔から、自分たちでつくっておもてなしする気持ちが強いんです。もう一段、もう一段と積み上げていく。何事も最後まで諦めないことで、最後の仕上がりがまったく違うんです」
オリジナルのカスタムモデルを数多く手掛け、海外のデザイナーからのオファーを受けて次々と形にしてきた清水さん。そうして蓄積された経験が、新素材を得て、さらに未来へと羽ばたきます。
- HIDEO TOKYO正面の壁を飾るのは、実際に空を飛んでいた飛行機のプロペラエンジン。これは、ひとつたりとも無駄なところがない “用の美” の象徴であるとともに、プロペラは僅かな重量ムラがあるだけできちんと回転しないことから、会社が均衡を保って回り、高く羽ばたいてほしいとの願いが込められています
- 恒例となっているクリスマスイベントには、リラクゼーションという理念で共通し五感に訴えるLINNも初回から参加し今回が4度目
[店舗概要]
HIDEO TOKYO
東京都港区赤坂3丁目3−3住友生命赤坂ビル1F
TEL:03ー5797ー7507
営業時間:10:00 – 18:00(予約制)
定休日:土曜日、日曜日、祝日
https://hideo.design/