CONTENTS
・「HELLO! MOVIE」のスマホアプリをもって映画館へ行こう
・映画好きならハマる異色のバックステージアニメ
・『映画大好きポンポさん』の「HELLO! MOVIE」コメンタリー
・「HELLO! MOVIE」は映画館でスマホアプリを起動するだけ
第1回はこちら>>>映画館をもっと楽しもう 新しい鑑賞スタイル「HELLO! MOVIE」
「HELLO! MOVIE」のスマホアプリをもって映画館へ行こう
本稿は、映画館のあたらしい鑑賞スタイル「HELLO! MOVIE」の様々なサービスを紹介する連載シリーズです。「HELLO! MOVIE」はその特徴のひとつに、“映画の副音声サービス”があります。専用アプリを入れたスマートフォン(以下、スマホ)とイヤホンを持って映画館へ行けばOK。スマホのマイクが映画本編の音を拾うことによって、スマホアプリがあらかじめダウンロードされたコメンタリー音声を流す仕組みです。
前回は、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の大友啓史監督や主演の佐藤健による副音声コメンタリーを紹介しました。「HELLO! MOVIE」対応作品は、『るろうに剣心』だけでなく、毎月劇場公開されるラインナップに確実に増えはじめています。通常上映を鑑賞したあとで、さらに映画を深く楽しめるため、作品リピーターを中心にSNSなどで話題になっているのです。
- 「HELLO! MOVIE」は、iOS版、Android版の両方のアプリが用意されています。
- 「HELLO! MOVIE」アプリがアイコン表示されたスマホ画面。
映画好きならハマる異色のバックステージアニメ
第2回目に紹介するのは『映画大好きポンポさん』です。このアニメはタダモノではありません。あなたがもし「映画鑑賞」を趣味と答える人間なら、少なからず心を動かされるはずです。
実際、有名映画評価サイトの評価は、以下の通り。
Filmarks ★4.2点
Yahoo!映画 ★4.3点
映画.com ★4.0点
(2021/7/16現在)
こういった評価サイトの5点満点では、「4点台」というだけで、年に数本しかありません。ふつうの作品の平均は3.5点前後です。本作の評価の高さがわかります。
- 『映画大好きポンポさん』。
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
『映画大好きポンポさん』は、イラスト投稿サイト「pixiv」で発表されて評判となり、単行本にもなった、杉谷庄吾【人間プラモ】の原作マンガの映画化です。映画業界を舞台にしており、主人公のポンポさんの設定は映画プロデューサーです。
そもそも映画ファンは、“バックステージもの”が大好物です。たとえば映画プロデューサーと女優の恋愛や、ベテラン俳優と下積み新人の話、映写技師と映画好き少年の話…。思い浮かぶ“バックステージもの”の多くは、映画史に残る名作ばかりで挙げればキリがありません。
さらに劇中で進行する映画が“劇中劇”となっていることが多く、その“入れ子”構造の脚本が作品の深みを増します。
さらにこの『映画大好きポンポさん』はちょっと珍しく、予告編制作や編集作業など、一見地味なポストプロダクションにも焦点を当てているのが特徴的です。加えてプロデューサーの主たる仕事のひとつであるファイナンス(製作費の調達)にも斬り込んでいきます。
さっそく、本作の“HELLO! MOVIE”コメンタリーを体験してみました。コメンタリー副音声は、平尾監督とキャラクターの声優が各シーンについて延々と語り合う形で進んでいきます。
作品そのものが、映画業界ネタを解説するような主人公ジーンくんのモノローグ(独り言)が多く続きます。なので、そこに副音声でコメンタリー解説が重なると混乱するかもしれません。原作マンガを読了している人には問題なさそうですが、まずは通常版の鑑賞でしっかりストーリーを消化しておくことが大事になります。逆に鑑賞2回目以降の“HELLO! MOVIE”は俄然面白くなります。
『映画大好きポンポさん』の「HELLO! MOVIE」コメンタリー。
祖父に大物映画プロデューサーを持ち、その人脈や才能をも受け継いだポンポさん。そんなポンポさんのもとで、アシスタントとして働いている青年ジーン・フィニくん。誰にも負けない映画通のジーンくんは、ポンポさんに新作映画の15秒CMの制作を任され、映画づくりの楽しさにハマっていきます。
そんなある日、ポンポさんが書き下ろした新作映画『MEISTER』の脚本を渡されます。伝説の俳優マーティンの復帰作でもあるその映画に監督として指名されたのは、なんとジーンくんだったのです。やはりポンポさんの目にとまった新人女優ナタリーをヒロインに迎えて、ジーンくんの初監督作品の撮影がはじまります。
声優がバッグステージを語り、“入れ子”構造がさらに多層化する
作品内に出てくる劇中映画『MEISTER』が、登場人物のストーリーと交錯する“入れ子”構造になっています。さらに「HELLO! MOVIE」のコメンタリーで声優たちが語る、実際のバッグステージを聞くことになるので、なんと“入れ子”が3階建てになります。ちょっとややこしい状況ですが、映画好きならそのテーマに引き込まれていくでしょう。
- ポンポさんのアシスタント、ジーン・フィニ。『The Meister』で初監督を任されます。
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
古い映画人のような言葉のポンポさんの、少女的な容姿にギャップ萌え
ポンポさんの魅力のひとつは、古くさい映画人のような言葉をポロッと漏らすところです。
「結局、映画ってのは、女優が魅力的に撮れれば、それでOKでしょ」とか、「90分で終わる映画がいちばん」とか、ポンポさんのその少女的な容姿とのギャップがたまらないのです。
その容姿から、序盤はどうしてもポンポさんを軽んじて見てしまいますが、中盤から大きく認識が変わっていきます。ジーン監督が映画『The Meister』の追加撮影を懇願するとき、ポンポさんが初めて敏腕プロデューサーとしての顔を見せます。ここからが面白くなります。
- ポンポさんの本名は、ジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット。幼少期の体験から、長い映画が嫌い。
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
名画のオマージュや、対比シーンなどの仕掛けもある
「HELLO! MOVIE」コメンタリーでは、平尾隆之監督がたくさんのウラ話をしてくれます。前述の“入れ子”構造についても、リハーサル中のバイオリニストにマーティンが楽譜を投げつけるシーンがリピートされるとき、投げつけていた“楽譜”が、“映画の台本”に差し替わっています。これは編集作業が難航するジーン監督と、音楽家マーティンの状況を重ねて暗示していると解説されます。
また、いくつかのシーンが名画のオマージュであることが明らかにされたり、エピソードの元ネタが別の撮影現場で生まれていたことなども知ることができたりします。主要キャストが臨んだ現実のオーディションの話や、声の演技ポイントなども紹介されます。
劇中、仕事がうまく行かない銀行マンのアランは“日陰”にいて、対面で会話をしているジーン監督は“陽向(ひなた)”にいます。2人が登場するシーンは必ず光の対比になっていることが明かされます。また、撮影現場シーンで登場する裏方スタッフ一人ひとりにも設定上の名前があることや、映画会社の受付嬢が双子設定(髪形のお団子が左右違う)だったりすることも分かるのです。
- 映画のバックステージを描く本作は、撮影現場のスタッフにも設定上の役名が与えられていました。
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
“90分の美学”を追求するあまり、作品もちょうど90分で終わる
本作では、“映画の出来は編集が左右する”ことが重要なポイントとして出てきます。そのため膨大な撮影素材の72時間を、ジーン監督が90分の尺にまとめるという地獄のような編集作業が動きのあるアクションシーンのように描かれたりします。
なんとこのアニメ作品、ポンポさんの語る“90分の美学”を追求するあまり、現実の尺もちょうど90分で終わるのです。これが本作の持つ究極の素晴らしさですが、それゆえシーンの取捨選択などの苦労もあり、それが「HELLO! MOVIE」の平尾監督のコメンタリーで初めて知ることができるのです。
敏腕プロデューサーでありながら、めったに映画を最初から最後まで見ることがないというポンポさん。完成した劇中映画『The Meister』をエンドロールまでしっかり観終えてから、ジーン監督に一言、“監督になったね。君の作品、好きだよ“。このセリフに感動します。
映画業界を舞台にしつつも、登場人物の夢の実現を描く本作は、“自分にとっていちばん大切なのは何か”という、夢を追う人々を応援する映画なのです。そして“HELLO! MOVIE”コメンタリーが作品の厚みをさらに増す効果を生み出していて、思わず3回、4回と足を運んでしまいます。
- TOHOシネマズ池袋のシアター前に掲示された「HELLO! MOVIE」を説明する看板。
●取材環境:『映画大好きポンポさん』TOHOシネマズ池袋/Screen8/シネスコ/使用機材:スマートフォン SONY Xperia1 Ⅱ/イヤホン:SONY WI-1000XM2SM
「HELLO! MOVIE」は映画館でスマホアプリを起動するだけ
「HELLO! MOVIE」ってどうすれば聞けるの? 難しくないの?と思われるかもしれませんが、普段からスマホでSNSや音楽再生アプリを使っている人なら簡単。しかも無料で楽しめます。
- Xperia 1 IIにインストールした「HELLO! MOVIE」アプリのホーム画面。
- 「HELLO! MOVIE」対応作品リストからスクロールで選択できます。
まず事前に「HELLO! MOVIE」アプリをスマホにインストールします。そしてアプリ内の音声作品リストから、鑑賞する作品の音声データをダウンロードしておくだけです。あとは、上映時にアプリが起動していれば、自動的に「HELLO! MOVIE」が再生されます。
アプリのインストールやダウンロードは、事前にWi-fi環境の整った場所で済ませておきます。映画館周辺の通信環境は、万全かどうか分かりませんし、鑑賞直前の準備はあまりにも慌ただしい。あたりまえですが、鑑賞当日はスマホとイヤホンを忘れないように。そして“満充電”にしておきましょう。取材で使用したスマホのバッテリー容量は鑑賞後に96%→67%になりました。ワイヤレスイヤホンの充電チェックも重要です。鑑賞中のバッテリー切れは悲しすぎます。
スマホ画面は明るいので、映画館内では周りの人に迷惑にならないように注意が必要です。ただし「HELLO! MOVIE」は、映画本編の音声をパターンマッチして同期データを再生する仕組みなので、スマホのマイクが塞がれるとうまく同期できなくなってしまいます。筆者はスマホ画面を裏側にしてドリンクホルダーに立ててみました。画面はすぐに光が漏れないように黒くなるので、問題なく「HELLO! MOVIE」を使用できました。また、スマホを“機内モード”にしておくことが推奨されています。ほかの常駐アプリのお知らせ設定がされていると、「HELLO! MOVIE」が止まってしまうことがあるので気を付けましょう。