ホームシアターにおけるビジュアル機器の花形は、なんといってもプロジェクター。近年、国内ブランドからハイエンドやミドルクラスのモデルがリリースされるだけでなく、リビングにも導入しやすい明るくカジュアルなプロジェクターが海外ブランドから多数登場するなど、プロジェクターのシーンが大いに盛り上がっています。そこで本稿では、4K/HDR対応モデルはもちろん8Kモデルまで、今注目すべきプロジェクターを一挙にクオリティチェック。ホームシアターライフをさらに豊かにしてくれるモデルを見極めます。
CONTENTS
・パネルもレンズもこだわり画質を重視
・EPSON「EH-LS12000」
・SONY「VPL-XW5000」
・VICTOR「DLA-V50」
・コストパフォーマンスが高く画質も本格派
・測定から見るプロジェクターの特徴
・SPEC
・REFERENCE
PART2はこちら>>>プロジェクター・クオリティレビュー[2022]今見逃せない4K超えモデルを横並び PART2
パネルもレンズもこだわり画質を重視
エントリーからミドルクラスまでは、リビングでの視聴を想定した比較的にカジュアルなシアターをねらった製品が多かったため、映像は明るさ重視で、スピーカーの搭載、動画配信サービスへの対応やゲーミングに適した機能の搭載など、ユーザービリティも備えた点が特徴でした。
一方、ここで「ハイミドルクラス」とした50~100万円の価格帯になってくると様相は一変します。リビングだけでなく暗室に近い専用室シアターでの、高画質体験を重視した製品が大半を占めるようになってきます。スペックとしては、パネル解像度がネイティブ4Kの製品も選択できるようになるのも大きな違いです。
ここで紹介する3モデルは、各社独自の映像デバイスを用い、いずれも3板式で、カラーブレーキングと無縁になるのも共通する特長といえます。また、画質を大きく左右するレンズの作り込みにもこだわりを持ってコストが割かれているため、各社の設計思想や技術詳細に注目するのもよいでしょう。HDR10+への対応や、フレームを分析してのマッピングなど、映像処理機能も充実しています。
- PART3「ハイミドルクラス(50万円以上100万円未満)」では、エプソン、ソニー、ビクターのプロジェクター3機種のクオリティレビューを実施しました。リビングだけでなく、本格的な専用室シアターにも導入したいモデルが並びます。
EPSON「EH-LS12000」
- EPSON
「EH-LS12000」
¥OPEN(実勢価格¥548,700前後)
独自の3LCD方式とレーザー光源を兼備
高純度な青色レーザー光源を採用。独自の3LCD方式で、全白だけでなくカラー映像も最大2700ルーメン(ANSI)の明るさを実現しています。1ピクセルを上下左右4方向にずらして生成する「2軸シフトテクノロジー」で4K表現を実現。従来の1軸(斜めシフト)よりも高密度な表現が期待できます。レンズは7群16枚構成で4Kプロジェクター専用の高性能レンズを採用しています。HDMI入力はHDCP2.3に対応し、4K/120p/最大40Gbps、HDR10/HLGに加えHDR10+とHDRフォーマットもプロジェクターにおけるフルスペックに対応しているのも特長です。
- EH-LS12000の映像モードは、「カラーモード」から選択できます。HDRフォーマットが入力されている状態でもモードを選択することができ、「ダイナミック」「ビビット」「ブライトシネマ」「シネマ」「ナチュラル」から選べます。今回の取材では、「シネマ」でチェックしました。
- 最新世代のHDRフォーマットであるHDR10+にも対応していることも特長で、映像調整項目の「ダイナミックレンジ」では、「オート」「SDR」「HDR10/HDR10+」「HLG」などの設定を揃えています。同社の推奨は「オート」で、SDR、HDRフォーマットの各種を自動判別してPQカーブを調整します。
- HDMIの入力端子を2基搭載しており、両方ともHDCP2.3に対応、HDMI2はeARCにも対応しています。またHDMI端子の付近にUSB-A端子も装備しており、メディアストリーミング端末の電源供給にも活用しやすくなっています。
透明感のある色彩が好ましい
映画映像は、マッピングが適正で飽和なく、空の微妙な色合いも再現。朝または夕方といった時間や情景が正しく描写され、映画のストーリーの理解も助けてくれます。建物の内部といった暗部も見通しがよく、肌の色も明部から暗部までグラデーションがスムーズで透明感のある色彩が好ましいです。HDR10+の映像は、マッピングと階調が適正で、夜景はビルの隙間の暗い空間も潰れず情報量豊か。そこから立体感が湧き出て来ます。スカイツリーを望む遠景の空撮シーンでは、街の光りの移動や明滅が鮮明。レンズも含めて高解像度かつ高コントラストで、高速道路やビルの隙間を縫う車の動きも60pのよさが活きてリアルに感じられます。真正4Kモデルと呼べる風格といえるでしょう。
- EH-LS12000の画質傾向/映像コンテンツの相性
- EH-LS12000の測定による傾向
青色の山が針のように鋭く、光源の純度の高さが読み取れます。ちなみに明るさはこの山の高さだけではなく面積によるので、映像の色味が青に寄る訳ではありません。RGBの間の谷もしっかり深く、色の繊細なコントロールが、スムーズなグラデーション表現にも繋がっているようです。
SONY「VPL-XW5000」
- SONY
VPL-XW5000」
¥OPEN(実勢価格¥880,000前後)
ネイティブ4Kを誇る中核モデル
ソニー・プロジェクターの中核といえる「VPL-VW575」の後継に当たるネイティブ4Kモデルです。「Z-Phosphor」と呼ぶレーザー光源と、画素間の隙間を従来の0.74型から0.61型に狭めた新型SXRDデバイスを新しく採用しており、明るさは最大2000ルーメン(ANSI)を実現しています。同社のテレビ・ブラビアで培った技術をベースとする映像プロセッサー「X1 Ultimate forプロジェクター」の搭載や、広色域「トリルミナス プロ」、IMAX Enhanced対応なども新しい取り組み。ネイティブ4Kでレーザー光源を採用したモデルとして、意欲的な価格設定といえます。
- VPL-XW5000の映像モードは「ピクチャープリセット」から選ぶことでき、HDR信号が入力されている場合は、(HDR)と表示されます。搭載されているモードも豊富で、「シネマ フィルム1/2」をはじめ、「リファレンス」や「ブライトシネマ/TV」、そして新対応の「IMAX Enhanced」など揃えています。
- 超解像機能である「リアリティークリエーション」の映像調整項目では、質感やディテール感に関連する「精細度」、映像のザラつきなどに効果が表れる「ノイズ処理」、画面の隅々まで精細感のある映像に調整する「DFオプティマイザ」といった調整項目を備えています。
- HDMI入力端子を2基搭載し、またプロジェクターのソフトウェアアップデートで使用できるUSB-A端子や、ブラウザコントロールが可能なLAN端子なども搭載しています。
高コントラストで立体感も豊か
映画映像は、ひと目で高コントラストかつキレのよさが映えて好印象。オンフォーカス部はディテールを抉り出すように高解像度で、また、オフフォーカス部はノイズが少なく被写界深度によるボヤケが適切で、オブジェクト単体も全体も立体感が豊富です。高度かつ適正な映像処理とレンズの良さを実感させられます。色彩は濃厚ながらくどくならず、映画の高品位な映像をリッチに楽しめるのも魅力。夜景映像は黒が充分に沈んで高コントラストで、窓ガラスを反射する光の艶やかさが感じ取れるほどです。音楽ライブは、スポットライトが当たる部分も飽和感なく色数が豊富で、ダンサーのひとりひとりに立体感が感じられるのがこのクラスの特権と思えるものでした。
- VPL-XW5000の画質傾向/映像コンテンツの相性
- VPL-XW5000の測定による傾向
青色の山が鋭く、青色レーザー光源特有のスペクトル。山谷の形を比較すると、本特集のPART4で登場する上位機「VPL-XW7000」と相似形で、ビクターのレーザーモデルとは少し異なります。上位機と同様に独自のZ-Phosphorを採用し、光学系の設計方針も近いと考えられます。
VICTOR「DLA-V50」
- VICTOR
「DLA-V50」
¥800,000(税込)
UHE光源と高効率な光学エンジンを組む
先行して発売された上位モデル群の「DLA-V90R/V80R/V70R」から基本性能を引き継ぎ、UHE光源で4K/120p入力に対応したネイティブ4Kモデルです。DLA-V70Rに迫る最大1900ルーメン(ANSI)の明るさとネイティブコントラスト性能を備えながらも、本格的なホームプロジェクターとして比較的導入しやすい価格帯にしている点にも注目です。265Wの超高圧水銀ランプで、高効率な光学エンジンとの組み合わせによる明るい映像が、レーザー光源を採用する上位モデルとどのような違いがあるのか、またネイティブ4Kモデルならではの実力も興味深いポイントです。
- 「映像タイプ」を「オート」に設定しておけば、入力された映像信号に応じて、「HDR10」「HDR10+」「HLG」「SDR」の映像タイプに、自動的に切り替わります。最新のHDRフォーマットであるHDR10+にも対応しており、上位機から受け継いでいます。
- 中間フレーム生成して映像補間を行う高精細画像補間技術である「Clear Motion Drive」を搭載しています。「オフ」「低」「高」、そして放送番組やDVDなど60i/60pの映像で、元の映像が24コマの映像作品に適している「Film Motion」の調整項目を選べます。
- 48Gbps伝送、HDCP 2.3に対応したHDMI入力端子を2基搭載しています。電源ケーブルは3ピンタイプに対応しており、操作パネルも背面部に設置しています。
暗部から明部まで色乗りがリッチ
映画映像は、D-ILAパネルならではのネイティブコントラストの高さが活き、暗部の沈みは上位モデルと同等に抜群です。暗部階調が豊富で、例えばタキシードは黒に感じられ、ビロードのような柔らかな質感も手に取るように分かります。暗部から明部まで色乗りがリッチかつスムーズで、重厚で安定感のある映像は、高品位シアターに相応しい風格といえます。瞳の輝きが俳優の存在感を高めるのも印象的です。紀行夜景映像は、遠景で小さく映る川面に反射する光まで存在感があり、実際に高い所から見下ろしているような錯覚を覚えるほどです。音楽ライブは、ピークの光にも強弱があり、例えば髪飾りの輝きもキラキラと目を惹くほどで、ステージの華やかさが印象的です。
- DLA-V50の画質傾向/映像コンテンツの相性
- DLA-V50の測定による傾向
UHE光源ですが、RGB間の谷間がしっかりと深く、明るさを多少犠牲にしても、高色域表現を狙っていることが分かります。特に赤色の成分が豊富で緑色との分離が明瞭。緑と赤を加法混色して再現する黄色のコントロールにも有利です。実際の映像では、表情もナチュラルかつ立体的に描かれることと一致します。
コストパフォーマンスが高く画質も本格派
専用室シアターや完全暗室での使用を前提とすると、「DLA-V50」のネイティブコントラストの高さは非常に魅力的。映画映像は平均輝度が低く、多くのシーンで、階調の滑らかさと色乗りの豊かさを実感できます。上位モデルから多くの高画質技術を引き継ぎ、安価ではありませんが、お買い得感の高いモデルといえます。
「VPL-XW5000」は新しい画作りで、少し明かりが残るリビングシアターでも、明瞭感あるの映像を楽しめる従来機とは一線を画す画が印象的です。「EH-LS12000」はレーザー光源を活かした明るい映像と本格的なホームプロジェクターながら手が届きやすく、コストパフォーマンスに優れるモデルです。HDMI入力など機能面でも不足なく、高品位なリビングシアター用途としてお薦めです。
測定から見るプロジェクターの特徴
今回のクオリティチェックでは、映画作品『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(4K Ultra HDブルーレイ)、紀行映像『『8K空撮夜景 SKY WALK』(4K Ultra HDブルーレイ)、音楽ライブ『アリアナ・グランデ:excuse me, i love you』(Netflix)の視聴と並行して、スペクトルと輝度の測定も実施しました。
映像はKIKUCHIのスクリーン「SES-120HDSG/K」に投写し、反射光をコニカミノルタの業務用の分光放射輝度計「CS-2000A」で測定。これにより、光源に含まれるRGB成分が分析でき、UHE光源/LED光源/レーザー光源といった光源の違い、そしてより繊細な設計意図も理解できる場合があります。
レーザー光源モデルの特長は、青色レーザー(単波長とも呼ばれる純度が高い青色)を用い、緑色と赤色は蛍光剤で変換することから、青色に針のような鋭いピークが見られることです。ただし山の幅は細く面積としては小さいので、映像の色味が青色に偏る訳ではありません。色純度の高さ、言い換えると色域の広さと、明るさを両立できる方式です。
ほか、グラフの読み方としては、RGBの山がくっきりしていると色域が広いことを表します。RGBが独立したLEDモデルは、実際の映像もそうした特徴がみられます。UHEモデルなど、山谷がなだらかな波形は、色純度やコントロールが不利な反面、映像が明るく感じます。光源による特性を知っておくと、用途に応じた製品の選び方にも役立つはずです。
- 今回取材したプロジェクターのなかで、UHE光源を採用しているモデルのスペクトラム。
- 今回取材したプロジェクターのなかで、LED光源を採用しているモデルのスペクトラム。
- 今回取材したプロジェクターのなかで、レーザー光源を採用しているモデルのスペクトラム。
SPEC
EPSON「EH-LS12000」
●投写形式:透過型液晶 ●投写デバイス:0.74型ワイドポリシリコンTFT ●表示解像度:3840×2160 ●レンズ:2.1倍電動ズームフォーカスレンズ ●光源:レーザーダイオード ●投写サイズ:50~300型 ●明るさ:2,700lm ●騒音:22dB ●消費電力(待機時):311W(0,4W) ●主な入力端子:HDMI×2、USB-A×1 他 ●外形寸法:520.0W×169.0H×447.0Dmm ●質量:約12.7kg
SPNY「VPL-XW5000」
●投写形式:反射型液晶 ●投写デバイス:0.61型 4K SXRD×3 ●表示解像度:4096×2160 ●レンズ:1.6倍マニュアルズームフォーカスレンズ ●光源:レーザーダイオード ●投写サイズ:40~300型 ●明るさ:2,000lm ●騒音:約24dB ●消費電力(待機時):約295W(約0.3W) ●主な入力端子:HDMI×2、LAN×1、USB-A×1 他 ●外形寸法:460W×200H×472Dmm ●質量:約13.0kg
VICTOR「DLA-V50」
●投写形式:反射型液晶 ●投写デバイス:0.69型 4K D-ILA×3 ●表示解像度:4096×2160 ●レンズ:2倍ズームフォーカスレンズ ●光源:UHEランプ ●投写サイズ:60~200型 ●明るさ:1,900lm ●騒音:24dB ●消費電力(待機時):420W(0.3W) ●主な入力端子:HDMI×2、LAN×1、USB-A×1 他 ●外形寸法:500.0W×234.0H×495.0Dmm ●質量:19.2kg
REFERENCE
- レコーダー
PANASONIC
「DMR-ZR1」
- スクリーン
KIKUCHI
「SES-120HDSG/K」
- 分光放射輝度計
KONICA MINOLTA
「CS-2000A」