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  • 今知りたい!林 正儀のオーディオ講座 第11回
    「アンプの基本的な役割」
    音声信号の増幅とコントロールを担う

    取材・執筆 / 林 正儀
    2023年9月4日更新

    • VGP審査員
      林 正儀

前回の記事>>>第10回「スピーカーのスペックの読み方」

アンプの種類も回路構成も多種多様

前回まででスピーカーについてのおさらいはひと区切り。今回からは、アンプについて見ていきましょう。さて、アンプとはどういうもので、どんな役目をするのでしょう? 「CDプレーヤーやFMチューナーから音楽信号を受けとり、それを必要なレベルまで大きくしてスピーカーをドライブする」。そう、正解です! でも、つまみのたくさんついたアンプがどうやってその役目をしているのか、もっとくわしく知りたいとは思いませんか。アンプはどんな電子部品で構成されているのでしょう。

またアンプにもいろんな種類があります。プリメインアンプに、プリとパワーをセパレートしたもの。またA級、B級って何のこと? アナログアンプとデジタルアンプの違いとは何か。なぜ熱はでるのか。どう使いこなせばよいのだろうか。アンプのスペックや用語をもっと知りたい。次々に疑問が湧いてきますね。それを順序よく、わかりやすく解説していきましょう。

増幅/選択/調整の3つがアンプの役目

オーディオ機器でアンプが一番わかりづらいといいます。なるほどプレーヤー、デッキやスピーカーなどのメカと違って、電気は目で見ることができません。入口から入った電気がどうやって大きくなるのか…。そう、電気が大きくなることを増幅というのです。

アンプとはアンプリファイヤー(Amplifier)の略で、日本語では増幅器です。例えばCDプレーヤーからの信号をそのままスピーカーにつないでも、ウンともスンともいいませんね。プレーヤーの出力は数百ミリボルト。そんな小さいエネルギーではスピーカーを動かしたり鳴らしたりはできないのです。その間にあって、電気の働きで信号のエネルギーをうんと強くしてスピーカーに送り出す。それがアンプの基本機能というわけです。

アンプには、小さい信号を大きくする「増幅」のほかに、もうふたつ大事な役目があります。「プログラムソースの選択」と、「音量の調節および各種のコントロール機能」。これがオーディオ製品としての、アンプの3つの役目なのです。

アンプにはCDプレーヤーやチューナー、デッキなどさまざまな機器がつながれますが、その中から好みの音楽ソースを選びだすことが必要でしょう。またボリュームがなければ音量の加減もできず、いつも一定の大きさでしか聞けないことになります。さらに低音や高音のバランスも変えて、好きな音で楽しみたい。そんな希望をかなえてくれるのがアンプなのです。

  • オーディオ機器としてのアンプの役目は、左記の3つです。システム上の電気信号を制御し、スピーカーから正しい音が鳴るよう適切なコントロールを行なっています。

増幅のエネルギー補給はAC電源から

さて増幅作用をもう少し見てみましょう。アンプに小さい信号が入るとき、入力が5倍10倍になれば、それに比例して出力の方も5倍10倍と同じ波形のまま大きくなっていきます。形が崩れては正しい増幅とはいえませんね。それが歪みというものです。

ちょっと待ってください。何もしないで、信号が成長でもするように大きくなる? ほっといたお金が増えている? そんなうまい話はありません。どこかでエネルギーの補強が必要なはずですね。そう、必要なエネルギーはAC電源からもらう。そのエネルギーの一部が増幅のために使われ、残りが熱となって失われるのです。アンプが熱くなるのはそのため。だからもらった電気エネルギー以上の働きをすることはありません。これを基本的な増幅のメカニズムだと覚えましょう。

アンプはブラックボックスといわれるのですが、それは中で起きているしくみがよくわからないからでしょう。トランジスタや真空管が入っていて、それらの増幅素子がアンプの機能を持つ、ということはおぼろげながら分かっていても、素子が1個ではアンプになりませんし、増幅回路という苦手な電子回路の話になっていくと、話がとても難しくなってしまいます。

  • 左図の、長方形に三角が入れ子になったようなマークがアンプを表しています。左から小さい信号が入り、アンプを経由することで、出力信号が増幅されていることがわかります。増幅に必要なエネルギーは、AC電源からもらう必要があります。

トランジスタが音楽信号を調整する鍵

では、たとえ話でアンプのしくみを解説しましょう。増幅の原理を説明するとき、電源は水を蓄えた貯水タンクにたとえられます。エネルギーのダムというわけです。水道はACコンセントで、蛇口から電気が次々に供給され、ダムの水位が減っても枯れてしまうことはありませんね。

さて、その貯水タンクから下のパイプを通って水が流れていくのですが、途中のバルブ(弁)がなければ水量は一定で、増えたり減ったりすることはありません。これは無信号で増幅をしていない状態です。そこにトランジスタという素子をもってきて、バルブの役割をさせたらどうでしょう。トランジスタは働きもので、音楽信号の大小によって、バルブを根気よくあけたりしめたりするのです。

  • 増幅の原理を模した図です。コンセントの電気は100VのAC(交流)で、トランジスタのアンプ回路をはたらかせるにはDC(直流)に直すために、アンプ内部に電源トランスや整流回路を搭載する必要があります。

ポップス音楽のようにリズムが一定で大きさがあまり変化しない曲であれば、バルブの開け閉めはラクですが、クラシックの管弦楽のように楽器の数が多くスコアも複雑で、ダイナミックレンジの広い演奏の場合は、とてつもなく大変な作業とわかるでしょう。その複雑な動きにバルブが追いついていかないと、音に遅れやズレが生じてしまう。これでは音楽になりませんね。ハイスピードで優秀な素子が好まれるのはそのためなのです。

このように音楽信号の大きさに比例して、トランジスタという弁を上下させ、電源から供給される電流を加減しながら、大きな信号を得るのが増幅なのです。電源なしに増幅は成り立ちませんね。アンプは電源だ! というマニアもいますが、まったくその通りなのです。

またひとくちにトランジスタといっても、前段では微小な信号を軽く増幅するだけでよいのですが、最終段でスピーカーを駆動するパワートランジスタは発熱も多く、その熱を逃がすためのヒートシンク(放熱板)なども欠かせませんね。

標準的なプリメインアンプの内部構造

では今回の最後に、アンプの内部をご覧にいれましょう。標準的なプリメインアンプの天板を開けてみると、電子パーツがぎっしり。見てすぐにわかるのが電源ブロックです。重量のある電源トランスとその周辺はダイオード、コンデンサなどの整流回路で構成。羽のようなヒートシンクにはパワー素子が取りつけられているし、前段のプリアンプ部分を受け持つ基板なども見えるでしょう。こちらは小さなトランジスタやCR抵抗器やコンデンサーパーツが実装されていますね。

よくみると背面のスピーカー端子につながれているケーブルも確認できます。信号の流れも何となくわかって、「ああ、こうなっているんだ!」とアンプに親しみが持てたらしめたものです。

  • 標準的なプリメインアンプの天板を開けた模式図です。電源なしに増幅は成り立たないと前述した通り、電源ブロックは内部でも大きな割合を占めています。高級アンプではボディの大半を電源部が占めるというケースもあります。

背面には電源ケーブルがついています。またフロントパネルをみると、主役のボリュームやソースセレクター、トーンコントロールなども仲良くならんでいますね。これらの機能や使いこなしについてや、背面にある端子の役目と使い方などは、また次回以降に解説していきましょう。

次回の記事>>>第12回「アンプに求められる機能」を読む

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