センタースピーカーって、絶対に必要ですか?
ホームシアターの基本ともいえるスピーカー構成「5.1ch」。フロント(前方)の左右、センター、リア(後方)の左右のスピーカー、そしてサブウーファー(0.1ch)。合計6つのスピーカーで構成されます。
しかし、これは絶対ではありません。設置の都合などにより、センタースピーカー、リア左右スピーカー、サブウーファーのいずれか、あるいは全部がなくても、コンテンツを再生する際に音が出ない、といった致命的な問題は起こらない仕組みになっています。AVアンプには、スピーカーコンフィギュレーション(構成)を設定する項目が搭載されていて、たとえば、センタースピーカーを「なし」に設定、あるいは自動的に「なし」と判定されると、センタースピーカーから出力されるべき音の成分が、他のスピーカーに適宜振り分ける機能があるためです。センターなしのケースは、「ファントム再生」とも呼ばれ、ホームシアターの世界では珍しいことではありません。
- 5.1chのサラウンドを効果的に楽しめるスピーカーレイアウトとして、ITU-Rが推奨するのが左図のような円形配置です。高さや距離については同心円状がベストですが、こうした配置が難しい場合、AVアンプの音場補正機能で補正することができます。
こうなると、設置スペースや費用の観点から、「センタースピーカーをなしにしたい!」と思う方もいるかもしれません。ここでは、センタースピーカーの有無によるメリットとデメリットをご紹介しましょう。
映画鑑賞の没入感をアップするセリフ表現
まず映画コンテンツでは、セリフは主にセンターチャンネルに収録されていて、ホームシアターシステムではセンタースピーカーが再生を担います。センタースピーカーが存在しない場合は、主にフロント左右に振り分けられますので、セリフが聞こえなくなることはありません。インテリアを重視する方にとっては、設置性の面でメリットがあります。
しかし、問題は定位です。フロントスピーカーから音が均等に鳴ると、あたかも真ん中から音が聞こえる「ファントム定位」が成立しますが、これは、視聴者がフロントスピーカーの中心線上で聞く場合に限られます。たとえば複数人が横一列になって視聴する場合、定位は近い方のスピーカーに寄ったように感じられ、映像と位置のズレを感じやすくなります。そう、センタースピーカーがあれば、視聴位置に左右されず、セリフが「ド真ん中」から聞こえる様子をご想像いただけけるでしょう。
なお、映画鑑賞で最も大切といわれるのが「セリフ」。映画コンテンツでは収録されている音の70%がセンターチャンネルといわれていて、センタースピーカーが重要な役割を果たします。
まとめると、センタースピーカーは無くても致命的な問題は起こりません。しかし、ホームシアターのクオリティを司る重要なスピーカーと考え、可能であればフロント左右スピーカーと同等レベルのグレードの製品を導入することをお薦めします。
- ちなみにソニーの有機ELテレビ「A95K」シリーズなどは、画面そのものから音が出る仕組みを生かして、テレビから発する音をセンターチャンネルに割り当てられる便利機能を持っています。大画面テレビでホームシアターを目指すなら、選択肢に加えてみても面白いかも?!
アドバイスしてくれた専門家
- 鴻池賢三 氏
VGP審査副委員長 オーディオビジュアル評論家
メーカーにてAV機器の商品企画職、アメリカ・シリコンバレーのデジタルAV機器用ICを手掛けるベンチャー企業を経て独立。THX/ISF認定のホームシアターデザイナーとしても活躍する。