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  • FOSTEX「TH616」「TH808」 フォステクスの開放型ヘッドホン×大画面でちょっとリッチな深夜のシアター鑑賞はいかが? ヘッドホンアンプとのバランス接続で映像と音楽をチェック

    取材・執筆 / 遠藤義人
    2024年7月26日更新

    • ホームシアター・コンシェルジュ
      遠藤義人

ツヤのある声とたっぷりの臨場感を深夜でも

大画面ホームシアターを完全防音の専用室に持てる人はなかなかいません。居住空間と兼用のリビングシアターを構築して、家族みんなでライブやスポーツ観戦などで共有するのがトレンドといえるでしょう。

もっとも、映画とは本来パーソナルなもの。家族が寝静まってからこっそりひっそりひとりで楽しみたい作品だってあります。音楽鑑賞だって「うるさい!」などと言われることなく大音量で浸りたいことも・・・。

そんなときはヘッドホン! 以前Bluetoothヘッドホンと超短焦点プロジェクターを使ったパーソナルシアターを提案しましたが、今回はバランス接続できるヘッドホンとヘッドホンアンプの有線接続で楽しんでみたいと思います。

「深夜に自宅でひとり映画館&音楽ライブ! LDACで楽しむ高音質ヘッドホン・シアター」を読む

ヘッドホンはフォステクスの限定モデル2機種「TH616」と「TH808」を取り上げます。どちらもグンと奥行き感が出てちょっとリッチな、2chステレオ再生ながらスケール豊かな印象が強いモデルです。

試聴にあたり、ヘッドホンアンプは独Accustic Artsプリメインアンプ「POWER1 MK3」のアンバランス出力、ティアック「UDー507」(バランス/アンバランス)、FIIO「K19」(バランス/アンバランス)を使い分けています。いずれもナチュラルでなめらかなトーンが共通しています。

ソース機器は、LINNのネットワークプレーヤー「SELEKT-DSM-K」(DLNA)、パソコン「MacBook Air」(M2、2022、Audirvana Studio、USB-DAC)、ソニーのブルーレイプレーヤー「UBP-X800M2」(Ultra HDブルーレイ、DLNA)を適宜切り替えて聴きました。

  • 左上からAccustic Arts「POWER1 MK3」、左下がティアック「UDー507」、右がFIIO「K19

映像コンテンツはセリフの定位と音場感を両立

  • 開放型オーバーヘッド型ヘッドホン
    フォステクス「TH616
    ¥OPEN(直販サイト価格¥154,000/税込)

「TH616」は、黒胡桃無垢材を用いたフォステクス50周年モデル。「VGP 2024」でも金賞を受賞しています。奥行き感も出る音場型で、音色も僅かに演色が付き中低域はたっぷり。もっとも、ドンシャリになったり低音域の見通しが悪くなったりすることはなく、むしろ彩りが増す印象です。

音楽ライブBD『SOUND STAGEピーター・セテラwith エイミー・グラント』を「TH616」で聴いてみると、エイミーの声が少し艶やかで、ベースもボディ感があります。いつも聴いているスピーカー再生の印象よりも響きが少し長い分、リラックスして聴けそう。かといって楽器の音同士が混濁しない、絶妙なチューニングです。

4K Ultra HDブルーレイ『トップガン・マーヴェリック』でも、「TH616」では冒頭おなじみの「デンジャー・ゾーン」に煽られてのタッチ&ゴーやヘリのホバーリング、戦闘シーンなどは中低域厚めで、サブウーファー的快感も味わえます。

  • 開放型オーバーヘッド型ヘッドホン
    フォステクス
    TH808
    ¥OPEN(直販サイト価格¥187,000/税込)

一方の「TH808」は2月発売の新製品。黒胡桃無垢材削り出しハウジングにアルミニウム製エッチングパーツを二重に配置したところが特徴で、より響きが加わりクラシック中心の人にぜひオススメしたい逸品です。

「TH808」でこれらを聴くと、アンバランス接続でも男声が隈取られたようにカッチリ定位し、オーケストラの劇伴になるとスピーカー再生のようにぐんとサウンドステージが広がります。マルチチャンネルでのスピーカー再生のように、各場面で、その空間の特徴や広さを、反射音や残響の長さできっちり描き分けてくれ、ゆったりと映画鑑賞するには最適です。

音楽コンテンツで2機種の音色の違いもチェック

音楽コンテンツではどうでしょうか?

まずは「TH808」から。たとえば、プログレッシブロックYES『Roundabout』はギターやベースの倍音が豊かで音域も広く感じますし、ワイドレンジないわゆるハイレゾっぽいイメージの香りがします。シティポップ大貫妙子『PURISSIMA』も、大貫の声が眼前にポッと浮かび上がって艶も載り、ニュアンスも美しい。パーカッションとピアノの掛け合いがスリリングな富樫昌彦・鈴木勲の『陽光』も、日の昇るさまがドラマチックです。

アルベルト・ギノバルトの『自作自演協奏曲第1番』は、7N高純度配線のおかげかアンバランス接続でもどこまでも優しく、スピーカーでゆったり鳴らしているかのよう。空間の表現力も豊かで、シルキーなタッチが印象的です。サラウンドでのスピーカー再生の代わりに、夜ひとり静かに映像コンテンツを楽しむならベストチョイスかも。

クラシックのほか「TH808」にピッタリなのは、AORのボビー・コールドウェル、ボズ・スキャッグス『All Alone』、カール・アンダーソン『Pieces Of A Heart』、デニス・デヤング『Desert Moon』、ジェイムス・イングラム『I Don’t Have The Heart』、スティクス『Show Me The Way』の類い。

スポッと頭に被った瞬間、一気に80年代末から90年初頭に引き戻されてしまい、えも言われぬ甘酸っぱい感傷に浸れます。と同時に「CD(リッピング)ってこんなにいい音だったのね」と、その艶っぽいサウンド、ロマンチックでメロウな世界観にキュンとしちゃいます。

「TH616」で聴くAORもなかなか。ビバリー・クレヴァンを聴くと、夜景に揺らめくネオンのようなシンセサイザーの煌めきや、泣きのヴァイオリンが切なさたっぷり。金管やドラムスのシンバルがキラリとしたアクセントになり、中低域はドラムスやベースが豊かに響き渡ります。もしかすると輸入物なら定価で30万円以上の値付けでもおかしくない代物だと思いました。

オーケストラでも、もともと低音控えめなCharles Dutoit指揮のオーケストラやYuja Wangピアノ協奏曲のCD(リッピング)などは、華やかで色彩感豊かなニュアンスがよく出ていますし、ジャズボーカルEva Cassidyもギターの響きや女声の質感が、物思う心情をしっとり表現します。「TH616」も「TH808」も同じような傾向ですが、後者のほうがさらにノイズを抑え、響きが上品で、低音たっぷりな分、雰囲気が強く出るように感じました。

深夜に大画面でのスポーツ観戦を楽しむにも!

ところで、日本とは時差があり夜中に放送されるスポーツイベントはたくさんあります。家族が寝静まってからひとり起き出して深夜早朝にスポーツ観戦するなら、ヘッドホンは有効です。

そんなシーンを想定し、DLNA経由でレコーダーから配信された生放送をソニーのディスクプレーヤーで再生(DTCP IP)。横浜球場開催のプロ野球「広島×横浜戦」を楽しみました。

「TH616」は音場型と申し上げましたが、それでもアナウンサーの男声は精確にセンター定位し、打球音もパチンと芯があって心地いい。一方で、観客の声援や球場のざわめきといった音場の広がりも自然で、実際に球場に行ってアウトドアでのスポーツ観戦をしているかのようなエア感も味わえます。

いちばん違いが分かりやすいと思うのは、ライブ音源。たとえば、Chaka Khan『Many Faces of Prince』収録の『I Feel For You』は、正直録音クオリティ的には微妙です。しかし「TH808」で聴くと、観客の歓声とともに、もちろん音階は聴き取れますが、ある意味もっこもこの低音が熱気ムンムンな会場の様子を生々しく伝えてくれます。

  • 本体端子にはいずれも両耳着脱式2ピンコネクタを採用。純正の別売XLR端子ケーブル「ET-H3.0N7BL」(¥33,000/税込)でバランス接続にも対応できます

リラックスしてマルチチャンネルスピーカー再生のように音場感豊かに聴きたい、映画もキッチリした男声とともに背景まで音場感豊かに聴きたいなら、「TH808」「TH616」はよい選択肢だと思いました。両者は予想していたほどの上下関係ではなく、クラシックや甘いボーカルなら「TH808」ですが、ロックなどはむしろ「TH616」がいいかも。やせ我慢ではなく「TH616」の方が好き! という人もいると思いました。

このように、声がしっかり定位して、しかも音場型の要素も兼ね備えるヘッドホンを、最先端のDACやバランスヘッドホンアンプと組み合わせて、スピーカーで大音量が出せない夜中にひとりひっそりシアターのために追加するのは、アリだと思いました。