後悔しないプロジェクター選びのために必読! スペックが同じでも、実際に映像を観たら、「明るさ」「解像度」「色」の表現が、まったくイメージと違うものが届いてしまうかも?! 店頭になかなか足を運べない今、ネット通販でプロジェクターを探しているみなさんに、ぜひご一読いただきたい内容です。(編集部)
■はじめに
実際に購入してみました
HOMPOWのプロジェクター6,999円(税込)
ステイホームでホームエンターテイメントへの注目が一段と高まり、オーディオビジュアルの世界でも、プロジェクターが製品ジャンルとして盛り上がりを見せています。自宅時間が増えた今、自宅でじっくり大画面を楽しむというのはピッタリに思えます。また、プロジェクター製品が多様化し、低価格品から高画質な製品まで選択の幅が広がっているのも一因でしょう。
特に最近は、中国など海外メーカーの製品がAmazonなどのECサイトで日本の消費者に販売できるようになり、大手専業メーカー売れ筋製品と同等以上のスペックを標榜する製品が、驚くほど安い価格で販売されているのを目にすることも多いです。常識で考えれば実に怪しいのですが、本当にスペック通りなら恐ろしくお買い得です。そこで今回は、実際にAmazonで購入して検証することにしました。果たして、その実態はいかに?!
Amazonではたくさんの格安プロジェクターが見つかりますが、評価が1,000超えと多く、しかも星評価が4.5と高い「HOMPOW T20」に注目しました。(注:この時点で怪しい…)
- こちらが実際の販売画面。4ケタ価格にも関わらず「フルHD」、「4000ルーメン」、「HDMIケーブル」つきなど魅力的な文句が並ぶ。本当ならば、これは買い。1,000件を超える好意的な口コミがあるが、果たしてその実力は?
“1,920×1,080フルHD対応”と“4,000ルーメン”のスペックが目を惹きます。大手メーカー製品の同等スペック製品なら10万円級のところ、HOMPOW は何と6,999円(税込)と桁違いの安さです。
商品詳細をよくよく読んでいくと、“ネイティブ解像度は800×480”の記載があり、入力は1080p対応、表示は800×480ということで、紛らわしいのですが、嘘はありません。明るさは、業界標準の「ANSIルーメン」とは言っておらず、また、4000ルーメンと言っておきながら、読み進めていくと3600ルーメンと記載されている部分があったりと怪しげではありますが、消費者から見れば「ANSI3600ルーメン」以上と期待してしまうかもしません。
他、中途半端な「176インチ大画面」も妙だし、「2000:1高コントラスト」も気になります。
とは言え、見てもいないモノを怪しいと決めつけるのは失礼というもの。
実情を把握すべく、実際に購入して確認することにしました。
■検証その1
大手メーカー製品と比較。実際に映像を投写してみました
実際にフルHDで4,000ルーメンとはどの程度かを確認するために、比較用としてエプソンのプロジェクター「EH-TW750」を用意しました。
AmazonでEH-TW750を検索すると、型番の続きに“Full HD”と“3,400lm”の記載があり、消費者から見れば、HOMPOWとEH-TW750は同等のスペックに見えるでしょう。
しかし、実際に横並び投写してみると、まず、映像の明るさが全く異なりました。
EH-TW750は眩しい程に明るいですが、HOMPOWは非常に暗い…。また、レンズケラレが生じて、映像の四隅はさらに暗いです。
次に「解像度」。EH-TW750は画素の格子が目立ちませんが、HOMPOWは格子がはっきりと見え、目を凝らすとRGBのサブピクセルも認識できます。この点、購入時によく読めば“800×480”の記載があるので、紛らわしいながら、妥当な結果と考えることもできます。
そのほか、テスト映像をさらにチェックしていくと、HOMPOWはEH-TW750と比較して「色」の薄さが顕著であることなど、見た目ですぐに性能差があることがわかりました。
■検証その2 明るさや色など、実際の性能は?
測定してみました
上述の通り、比較投写で状況は掴めましたが、正確な情報共有と観点で定量的に示すため、測定を実施しました。測定器は業務用の高精度な色彩輝度計、コニカミノルタ「CS-200」(https://www.konicaminolta.jp/instruments/products/light/cs200/index.html)を使用しています。
まずは表記スペックと大きな落差を感じた映像の「明るさ」です。
エプソンとHOMPOW、どちらも60型相当の画面サイズで投写して、スクリーン面上の輝度を測定しています。あくまでも今回の視聴環境下での結果という条件付きの数字ですが、両者とも同一条件という点では比較に役立てることができます。
EH-TW750が映像モード「シネマブライト」で1095cd/㎡(色温度は約6500K)だったのに対し、HOMPOWは「ダイナミック」で色温度がおおよそ10,000Kと高い状態ながらも、中央付近でも35cd/㎡とEH-TW750の1/30程度、四隅付近は25cd/㎡とさらに暗いです。
加えて、プロジェクターのスペックとして業界標準である「ANSIルーメン」の規定(40~70インチに投写した画面を9分割し、それぞれの中心照度(Lux)の平均値に面積を掛けた値)に沿ってHOMPOWを測定および計算すると、35ANSIルーメンでした。こちらは簡易的な測定器を用いての参考値ですが、上記の輝度測定や目視の印象とも一致するので、概ね間違いないでしょう。
因みにコントラスト比もANSIの条件では43:1でした。迷光により数値が低く出がちとはいえ、記載の2000:1とはかけ離れている点で注意が必要と感じました。
次に「色」についての比較です。CIE1931色度図に測定結果をプロットしました。馬蹄形は目で見える色の範囲、その中の明るい三角形はBT.709(HDTV)で規定された範囲で、大手メーカー製プロジェクターは最小限満たしているものです。さらにその内側の黒四角を頂点にした三角形が、HOMPOWの測定結果です。
こちらを見ると、赤色の彩度が大幅に不足していることがわかります。これは、光源に青色発光をベースとする白色LEDを用い、明るさを稼ぐために赤色の色純度を犠牲にしたと思われます。実際の映像を見ても、全体的に色が薄く、特に赤色の彩度不足は映像の生気を低下させるので気になります。
■さいごに
格安プロジェクターをどう考えるか
実際に、HOMPOWをあれこれ使ってみました。映像の明るさはバッテリー駆動のモバイルプロジェクターにも及びませんが、暗室で目が慣れてくると、120インチサイズでも映像の内容は把握できます。800×480なので大画面になると画素のひとつひとつ、RGBのサブピクセルまで見えますが、たった数千円で視野を覆う大画面映像をたしかに投写できるという点では、面白い存在といえます。また、レンズはズーム機能を搭載し、光学的な台形補正も可能、さらに電源も本体に内蔵していてAC/DCアダプターがなく配線がスッキリできるなど、よい点もたくさんあります。
つまるところ、販売ページにスペックが正確に記載されていれば、それなりに存在価値があると思える製品です。
メーカーが消費者の目を惹く為にスペック値を盛ったのか、あるいは単なる認識不足かは不明ですが、Amazonのような販売者も、消費者に情報を正しく届ける責任はあるでしょう。現在、不適切な高評価や投稿なされないよう監視を強めていると聞きますが、もう一歩踏み込んだ対策を期待したいところです。
一方、改善が実現するまでは、消費者が気をつけるしかありません。格安製品にはそれなりの理由があると疑ってみるべきです。また、相対的に大手メーカー製品の価格が高く感じがちですが、それなりの理由があるということでもあります。
また、実際に数多くの製品をテストしている専門家による、見識に基づいた評価やレビューを参考にすることもオススメしたいところです。手前味噌ですが、筆者が審査員を務めるVGPアワードは、内覧会などで視聴したうえでの評価になっているので、その審査結果は大いに役立つはずです。
プロジェクター選びの際には、情報を正しく把握して、どうか後悔のないお買い物を!(鴻池賢三)