VGP phileweb

レビュー

  • 「生形三郎のSPEAKER JOURNEY」 世界のスピーカーブランド 連載第1回
    FOCAL(フォーカル)
    Aria 926

    取材・執筆 / 生形三郎
    2019年4月24日更新

    • VGP審査員
      生形三郎

フランスの粋が伝わる老舗ブランド

演奏を聴いて、思わず涙が溢れ出る。そんな信じがたい体験を生まれてはじめて味わった場所は、パリのシャンゼリゼ劇場でした。そこでのパリ管弦楽団の演奏は、思春期だった私の音楽観を一瞬で崩壊させました。

ステージ入場の歩き方や着衣している正装がバラバラで、まずは、その自由さに心底驚きました。肝心の演奏は、弦楽セクションからして音程やボウイングが精緻に統制され、一糸の乱れもない。だが、奏でられる音楽は実に伸びやかで、奏者各々のキャラクターがそこかしこからほとばしる、独自の色彩が見事に醸成されたもの。思わず目眩がしたくらいです。同じように、彼らの街や音楽も、表面は感性を刺激する自由さに満ちていながらも、いざ中身を紐解いてみると、目的を達成するための綿密かつ高度な技術が詰まっている。フランスの粋とは、そんな両面性にあると私は感じています。

フォーカルスピーカーも、まさにそんなイメージがピッタリ。外見は優美でエスプリが感じられます。出音も、エントリーモデルであっても、颯爽かつ凜としたエレガンスを忘れない。だが、それを実現するテクニックは、あくまで先鋭的です。

  • 2002年の開発以降、改良を重ね続ける「インバーテッド・ドーム・トゥイーター」。ボイスコイルを縮小化できる構造であるため、俊敏性に優れ応答能力も高いことが特長。入力信号に対して忠実な反応が得意であるため、歪みのない、繊細な表現力を可能にしています。

ユニークな発想と高い開発力

同社の顔とも言える、厚さ20ミクロンのピュア・ベリリウム製インバーテッド・ドームトゥイーター、グラスファイバーを多層化した“W”サンドイッチコーンの実現。そして、電磁石を使用したウーファーユニットや、その他多くの独創的なアイデアの数々。これらは、音への感性だけでなく、ユニークな発想力と高い開発力を持つことの証左でもあります。

現に、同社のユニットはハイエンドスピーカーに重用され、カーオーディオ分野でも根強い支持を誇る。近年では、小型のアクティブ型スタジオモニタースピーカーやヘッドホン分野でも成功を収めるなど、もはや説明不要の老舗スピーカーメーカーなのです。

  • フランス産のFlax(麻)に特殊加工を施し、高い剛性を誇る「フラックス・サンドイッチ・コーン」を採用。麻は中空構造の軽量で、サンドイッチ構造の曲げ剛性の強化にも適している天然素材です。長年ドライブユニットの素材研究をしてきたフォーカルの代名詞となりつつあります。

振動板素材を新規に開発

そんなフランスに、フォーカルに、筆者はまたしても心を掴まれました。それは、麻を用いた新たなサンドイッチ・コーンを搭載する、Ariaシリーズです。同シリーズは、フォーカルのミドルクラスを新たに担います。

ミッドレンジやウーファーの振動板に、フラックス素材を採用したそのサウンドは、爽快感に満ちた、実に溌剌としたレスポンスを堪能できるもの。スピーカー設計にとって振動板素材の変更は、それだけでも非常に大きなことですが、さらに素材自体を新規に開発するとなると、並大抵の事ではありません。しかしながら、これまでに無い素材を用いつつも、それを製品として魅力溢れる個性へと確実に落とし込んでいる点が、流石老舗メーカーといえます。

  • 「フレックス・サンドイッチ・コーン」は、0.4mm厚のFlaxコーンを、0.4mm厚のグラスファイバー製シートで挟み込む構造を採用しています。長年の研究開発により、幾度もブラッシュアップを図り、Ariaシリーズでは最新世代の素材を使用しています。

高い解像感と俊敏な低域反応が融合

特に素晴らしいのは、瑞々しく立体的な描写力。音色はナチュラルで鮮度が高く、楽器本来のリアリティを味わえるが、質感が良好で音の品位が高い。低域再現は、重低域までの深い沈み込みこそ控えめなものの、その反面、とにかく反応が良く、響きに付帯感がない事が何よりも心地よいです。軽やかさに満ちた、爽やかなサウンドが満喫できます。

実際、ベース楽器の帯域は、驚くほど快活な勢いで音が繰り出され、トゥイーターによる透度の高い解像に加え、麻を使用した軽質量の新振動板を採用したウーファーから得られる俊敏な低域反応が巧みに融合しています。これはまさに、Ariaシリーズだけの持ち味と言っても過言ではありません。このバランスは、上位シリーズでも得られないもの。つまり、フォーカルの新たな顔となるシリーズだと筆者は感じました。

このスピーカーで特にオススメなのは、やはりアコースティック楽器をベースとするソースでしょう。勿論、ジャンルを選ばないバランスの良さを持っていることは間違いありませんが、先に述べた魅力を最も美味しく味わえるのは、クラシック全般は勿論、ヴォーカルや生楽器などを、自然な音色とダイナミクスで収録しているソースです。なお、ブックシェルフ型のAria 906との大きな違いは、スケール感の差異。低音楽器の入ったソースを量感よく再生したい場合、やはり低域帯の充実ぶりはAria 926に分があります。厚みがある分、高域表現も若干潤いが増しているように感じられるでしょう。

  • Aria 926の音質傾向

推薦ソフト3選で聴く

  • <アンビエント>
    『Ambient 2:Plateaux of Mirror』
    Harold Budd、Brian Eno
    1980年作品
    Virgin
    ¥2,427(税抜)

アコースティックなアンビエント作品とのマッチングも恐ろしく絶妙。長い余韻で鳴らされるピアノ和音の響きが、ゆっくりと美しく移ろっていくさまが、なんとも心地よいです。ブライトかつ健康的で、開放的。まさしくイーノとバッドが目指した音の世界観と、極上にマッチしていると感じられました。アナログ録音による手触りよい質感と、シンセサイザーの浮遊感溢れる有機的な音色。それを明朗かつ柔和に描き出す本機との相性が一際です。

  • <クラシック>
    『Mozart:Mass in C minor & Masonic Funeral Music』
    Natalie Dessay、Véronique Gens他
    2006年作品
    Virgin Classics
    輸入盤

フランス人コロラトゥーラの名手の演奏を一枚。まるで血肉の通った木管楽器のように、饒舌かつ高度な技巧に満ちた歌唱を楽しめます。特に「Credo: Et Incarnatus Est」での、華やかながら知性味を帯びたデセイの声が白眉。Aria926は、まさにそんな歌声を、瑞々しく色彩豊かに聴かせてくれます。木管楽器の円やかな音色や、弦楽器の繊細な擦弦にも、本機の特色が遺憾なく発揮。同様に、ピリオド楽器系のソースもかなり饒舌に再現するので、ぜひとも聴いて頂きたいです。

  • <ジャズ>
    『Same Girl』
    Youn Sun Nah
    88.2kHz/24bit
    2010年作品
    ¥2,500
    ACT Music and Vision

フランスにゆかりのあるジャズシンガー。記憶へと静かにこだましていくような、力強くも繊細な響きを擁する歌声が、美しく歌い上げられます。リップの質感がリアリティ高くセンターに浮かび上がる。発声する瞬間の切れ味が抜群で、独特の透明感を湛えるユンサンナの声を麗しく再現されます。同時に、ぬくもりある質感表現も素晴らしく、喉元の温かみを心地よく描写。このソースに限らず、女性ヴォーカルは、是非ともこのスピーカーで聴きたい音源の筆頭です。

LINEUP

Aria 926
Black High Gloss ¥420,000(税抜/ペア)
Noyer ¥380,000(税抜/ペア)

SPEC

[Aria 926]
●形式:3ウェイ・バスレフ型 ●ユニット:25mm TNF Al/Mg インバーテッド・ドーム・トゥイーター×1、165mm Flaxミッドレンジ×1、165mm Flaxウーファー×2 ●周波数帯域:45~28,000Hz ●クロスオーバー周波数:290Hz、2,400Hz ●能率:91.5dB ●インピーダンス:8Ω ●外形寸法(W×H×D):294×1035×371mm ●質量:25kg

アプリ