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レビュー

  • 「生形三郎のSPEAKER JOURNEY」 世界のスピーカーブランド 連載第3回
    VIENNA ACOUSTICS(ウィーンアコースティクス)
    Haydn Grand
    Symphony Edition

    VGP 取材・執筆 / 生形三郎
    2019年8月28日更新

    • VGP審査員
      生形三郎

音楽の都ウィーンで誕生した伝統のサウンド

音楽の都、オーストリアはウィーン。170年以上の伝統を持つウィーンフィルやその本拠であるウィーン楽友協会ホールの存在はもはや言うまでもなく、世界三大ピアノのひとつベーゼンドルファー、そしてお馴染みモーツァルトやシューベルト、ヨハン・シュトラウスファミリーなどの作曲家まで、西洋クラシック音楽を語る上で欠かすことが出来ない国です。今回はそんなウィーンを代表するスピーカーブランド、ウィーンアコースティクス「Concert Grandシリーズ」へ旅立ちましょう。

  • Concert Grandシリーズは、左から最上位モデルのトールボーイスピーカー「Beethoven Concert Grand Symphony Edition」、スリムタイプの「Beethoven Baby Grand Symphony Edition」、モーツァルトの名を受け継ぐ3代目のモデル「Mozart Grand Symphony Edition」、ブックシェルフスピーカー「Haydn Grand Symphony Edition」をラインアップします。

ウィーンというと、安易ながら、やはりウィーンフィルやベーゼンドルファーの醸す独特のウィンナトーン、そしてウィンナワルツなどの優美な拍節やリズム感が頭をよぎります。そして、それらのサウンドにも通ずるような、濃厚な甘みの菓子や生クリームを併せたコーヒーの飲み方など、上質な甘味を想起させます。特に、使用楽器自体や家系にまで跨がって引き継がれるというウィーンフィルの音は、決して他では聴くことが出来ません。また、偶然にもベーゼンドルファーピアノの演奏を収録する機会が多かった筆者は、そのピアノが持つ音色に、強い親近感を抱きながら魅せられ続けていました。そんな、ウィーンといえばこんな音、というイメージの期待を裏切らずアイコニックに実現しているのが、ウィーンアコースティクスのスピーカー群であると私は理解しています。

第4回「Bluesound(ブルーサウンド)」

第2回「SONUS FABER(ソナス・ファベール)」

ブランドのエッセンスをコンパクトに凝縮

同社は、1989年にピーター・ガンシュテラー氏が創業したハイエンドスピーカーメーカーで、サウンドチューニングは、創設者であり開発・設計の総責任者でもある同氏によって全て管理されています。どのモデルもその特徴的なサウンドが明解に貫かれており、「スパイダーコーン」と呼ばれる放射状に補強リブが入った独自開発の透明なコーンウーファーは、同社スピーカーのトレードマークと言えるものです。

  • 今年で創業30周年を迎えたウィーンアコースティクス。創設者のピーター・ガンシュテラー氏は、スピーカーの開発から設計までも手掛ける総責任者でもあります。

「Haydn Grand Symphony Edition」は、同社の主力ラインであるConcert Grandシリーズの中で、そのエッセンスを最もコンパクトに凝縮したモデル。実物を前にすると、まずはその仕上げの優美さに目を引かれます。深みある黒と茶色の対比を持ったローズウッドは、つや消しのマットな質感に仕上げられており、落ち着いた佇まい。スピーカー自体は、シンプルな立方体のフォルムですが、トゥイーター裏側部分へと巧みに収められたバスレフポートや、透明なスパイダーコーン自体が、本機独特の端正なルックスを形成しています。

  • クモの巣状のリブで補強された、独自デザインのオリジナルドライバー「スパイダーコーンウーファー」を採用。コーン部分には3種類のポリプロピレンを合成した高機能樹脂「X3P」により、高い制動性を実現しています。
  • ネオジウムを採用した3層のシルクドームトゥイーターは、ScanSpeak社と共同で開発。職人により手作業で仕上げられています。トゥイーターの両サイドにはウェッジバスレフポート構造を採用し、ポートノイズの減少を図っています。

クラシックを快適に美しく楽しめる!

早速その「甘味」を味わってみましょう。まず出音は、とにかくマットでシルキーな中域表現が白眉。弦楽器の流麗かつ滑らかな音色がこの上なく美しく、それがまるで本体の艶消し塗装のように落ち着いた表情なのです。トランペットやチェンバロなど、ともすれば刺激的になりがちな楽器の音色も、華美にならずに柔らかい質感を湛えています。声の表現もとりわけ甘くて美味ですが、それはたっぷりとした余韻を持った低域表現が支えています。低音楽器をふっくらとした余韻で描き、リッチで温かみある空気感を伴う。それでいて、名門スキャンスピーク社との共同開発のトゥイーターが描く音像は、定位やディテールが瞭然。アコースティック楽器を円やかな質感で描き出す様は、まさにウィーン伝統の濃厚な甘みを持つ糖菓子のようです。一方でそれらの特徴は、ロックやポップスでも顕著に現れます。とにかく、エレクトリックベースやウッドベースが豊富な量感と余韻でもって張り出します。よって、スピード感やシャープなエネルギー感を前に押し出すと言うよりは、滑らかでゆったりとした音楽再現を楽しませてくれるのです。

様々なソースを鳴らしてみましたが、「Haydn Grand Symphony Edition」は、やはりクラシックソースとのマッチングが優れています。また、ボーカルなどメロディ帯域の輪郭の明瞭度が高いので、そこまで音量を上げずとも音楽を楽しむことができるのも特徴的です。設置スペースや再生音量に制約がある環境でも、快適かつ美しく音楽再生を楽しめるスピーカーと言えるでしょう。

  • Haydn Grand Symphony Editionの音質傾向

推薦ソフト3選で聴く

  • <クラシック>
    『ハイドン:弦楽四重奏曲全集』
    フェシュテティーチ弦楽四重奏団
    2014年作品
    Aecana
    輸入盤

スピーカーの名前にちなんで、ハイドンから一作。弦楽四重奏曲が網羅されていること、オリジナル楽器を用いながら極めて規範的な演奏が収められていることから、ハイドンの弦四入門としてもオススメの作品です。近接録音によって楽器の旨味を間近で味わうことができ、オーディオ的にも美しい音源となっています。ファイル版はそのプライスも破格。本機がその響きを優美かつ旨味たっぷりに再現してくれます。艶々としながらも瑞々しい弦の響きを堪能してほしいです。

  • <クラシック>
    『モーツァルト:ピアノ協奏曲第19番&第23番』
    マウリツィオ・ポリーニ
    2012年作品
    ユニバーサルミュージック
    ¥4,629

カール・ベーム時代のウィーンフィルから一作、1976年録音作品のハイレゾリマスタリング版をご紹介。モーツァルトの優雅な楽曲が、麗しい弦の響きと耽美的かつ円やかなピアノの音で再現します。アナログ録音ならではの、ふくよかで明快な輪郭を持ったピアノが奏でる旋律が心に刺さります。弦楽器の甘味溢れる響きが実に耳に心地がいいです。トゥイーター両サイドに配されたウェッジバスレフポートの恩恵か、低域から高域まで、音像を纏まりよく再現します。

  • <クラシック>
    『モーツァルト:レクイエム、アヴェ・ヴェルむ・コルプス』
    指揮:ウィリアム・クリスティ
    2011年作品
    ワーナーミュージック
    ¥1,080

せっかくなので、声が楽しめるタイトルもモーツァルトで。ウィリアム・クリスティ率いるオリジナル楽器オーケストラ&合唱団による、実に明晰かつ透き通った音楽性を味わえる、モツレクファン必聴の一枚。入祭誦のソプラノソロからして澄み渡っており、その美声に痺れます。本機は、その歌声を実に滑らかな質感と豊かな余韻で描き上げます。とにかく合唱の歌声や弦楽器のサウンドがシルキー。音が鋭くならず、音像定位も実に明瞭に描写します。

LINEUP

Haydn Grand Symphony Edition
Cherry/Rosewood/PianoBlack/PianoWhite
¥280,000(税抜/ペア)

SPEC

[Haydn Grand Symphony Edition]
●形式:2ウェイ・バスレフ型 ●使用ユニット:25mmカスタムメイド3層コーティングネオジウムシルクドームトゥイーター×1、152mmX3Pスパイダーコーンウーファー×1 ●周波数帯域:40〜20,000Hz ●クロスオーバー周波数:2,800Hz ●能率:88.5dB ●外形寸法:174W×361H×265Dmm ●質量:8.2kg/1本