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レビュー

  • JBL「HDI-3600」「HDI-1600」 現代のリビングにもマッチする意匠
    新時代のJBLスピーカー
    新世代スタジオモニターの音響技術を取り入れた新定番

    VGP 取材・執筆 / 大橋伸太郎
    2021年6月30日更新

    • VGP審査委員長
      大橋 伸太郎

映画の文化を長年支えてきたJBLの現代版スピーカー

たとえオーディオファンでなくても、JBLは知っているでしょうか。1946年に天才エンジニア、ジェームス・バロウ・ランシングが設立。早過ぎる逝去の後、サムライのような男達が会社を引き継ぎ、ジムの遺したアイデアを次々に具現化し、世界で最も有名なスピーカーメーカーとなりました。家庭用からプロユースまで、レコード産業、楽器、PA、放送に新時代の扉を開きますが、映画産業への貢献はとりわけ輝かしいものがあります。1970年代まで映画館のスクリーン裏にはマルチセルラホーンのヴォイスオブシアターが陣取っていましたが、JBLがバイラジアルホーンの高性能なシステムを完成、映画音響の表現力は飛躍的に向上しました。おりしもルーカス・フィルムがTHXを提唱した時期、『スター・ウォーズ』、『インディ・ジョーンズ』など、ヒーローたちの活躍は、JBLの劇場システムが影で支えたのです。

そんなJBLのアニバーサリーイヤーは、オーディオの過去現在未来が出会い、切り結ぶ場として、オーディオファンすべてが熱い視線を注ぐイベントです。2001年の55周年は「Project K2 S9800」、2006年の60周年は「Project EVEREST DD66000」という新たな伝説が加わりました。そして創立75周年の今年、スピーカー「L100 Classic75」とプリメイン「SA750」もうれしいサプライズでしたが、本稿では、新たなスピーカー、「HDIシリーズ」に注目したいです。

  • フロア型スピーカー
    JBL
    「HDI-3600」
    ¥396,000(税込・ペア)
  • ブックシェルフ型スピーカー
    JBL
    「HDI-1600」
    ¥220,000(税込・ペア)
    ※写真の専用スタンド「HDI-FS」は¥55,000(税込・ペア)

新開発のドライバーと独自のHDIホーン技術を採用

JBLのレガシーと21世紀への視線が融合したアイテムで、コンプレッションドライバー+ホーンシステムはJBLの矜持。JBLプロフェッショナル最新鋭ユニット「2410H-2」にHDI Xウェーブガイドホーンを組み合わせ、High Definition Imagingの名の通り、立体イメージで音場を描き出します。低域は軽量で高剛性のアルミマトリクスコーンユニットをスタガー駆動し、JBLらしい量感と現代的な解像感を両立して、シリーズ全体として企画賞、「HDI-3600」は金賞を受賞しています。

  • 中高域用には、JBLスタジオモニター最新&最上位の系譜にある、ネオジウム・リングマグネットとTeonex®製リングダイアフラムを用いた新開発コンプレッションドライバー「2410H-2」を採用。先進のウェーブガイドホーン技術との組み合わせによって、クリアかつ立体的な音像イメージの再現を目指しました。
  • 低域用には、軽量高剛性のアルミ・マトリックスコーンを採用した、歪みが少ない高出力ウーファーを搭載。HDI-3600は165mm径ウーファー「JW165AL-12」を3基、HDI-1600は「JW165AL-4」を1基搭載します。

テレビシアターにもマッチする巧みな空間表現

今回のテストでは、165mm2.5ウェイのフロア型「HDI-3600」をメインに、同一ユニットの2ウェイのブックシェルフ型「HDI-1600」をリアに配置した、大画面テレビを中心においたホームシアターを仮想して各種ソフトを視聴してみました。AVアンプにはマランツ「NR1711」を使用しています。

まずステレオから。カラブリア・フォーティ「プレリュード・トゥ・ア・キス」は近年の女性ボーカル優秀録音。カラフルで温かい音色です。完成度の高いホーンシステムがボーカルをしっかり前に送り届け、吐息が顔にかかるようです。英語の子音や母音の発音がくもりなく鮮明です。「伝える」ことが使命のスピーカーとして、劇場や放送始め数々の現場で育ち、母国語の特徴を大切にする伝統が生きています。こんなリビングで音楽を聴いていれば、きっと耳のいい子供に育つに違いありません。

そしてJBLで聴くクラシックが素敵です。曲との距離が近くなります。広い帯域をスタガーでカバーするトリプルウーファーの厚い支えが音楽の確かな土台を生みます。弦楽の生気に満ちた溌剌としたリズムのきれ、倍音を発散する弦楽、明るい艶の金管楽器、三拍子のテンポのゆれが心地よいです。今回一番の収穫が、モーツァルトのオペラでした。両スピーカー間を大画面テレビという巨大な反射体が占拠しているのにそれを感じさせません。テレビの存在が消えています。かわりに劇場の舞台の奥行きがあります。回析効果を抑えたエンクロージャーが、巧みに音を制御して、テレビに音を反射させません。その結果、歌声やオケが前に出る一方、深い奥行きを損なわず、立体的な描写が生まれます。あらかじめ、薄型テレビの存在など織り込み済みなのでしょう。

次に4.0ch構成でサラウンドを聴いていきましょう。日本映画「スパイの妻」はセンターがない痛痒を感じさせません。隅々の客席までセリフが飛んでくることが映画の音の基本ですが、日本語のやりとりが目前の中央にくっきり定位しドラマの進行を落としません。ノイズフロアが低く音場が広々としサスペンス演出の不安を盛り上げる細かいSEや暗騒音の扱いが丁寧です。がらんと空虚な空間は、開戦直前の社会で主人公夫妻の置かれた状況のアナロジーで重要。センターなしの構成でも、サウンドデザインの真意と工夫を明瞭に伝えるあたりさすがに劇場育ちです。

『ワンダーウーマン1984』では、移動表現を確認しました。スピーカーはたったの4本。しかし、オブジェクトの前後左右の動線が鮮明です。感心したのは、競技会のシーンで天へ向けて射られた矢がスピーカーのはるか上方へ舞い上がります。ハイト、イネーブルドがないのに、です。音場情報を遺漏なく出し切れば、4本でこれだけの空間描写が生まれるのです。徒にモアチャンネルを推奨したことに一考の余地があったかもしれません。しかし、その前提はあくまで、解像力と正確な音場表現力を持つスピーカーの統一システムの存在。HDIシリーズには映画業界、エンターテインメント業界と歩み続けるJBLのシアターへの確かな知見と技術が息づいています。行動様式変容でホームエンターテインメントの役割が増している今、全世界が待望したスピーカーです。

SPEC

JBL「HDI-3600
●型式:2.5ウェイ・バスレフ型 ●ユニット:25mm径Teonex製Vシェイプ・リングダイアフラム・コンプレッションドライバー(2410H-2)+HDI-Xウェーブガイドホーン、165mmアルミ・マトリックスコーン(JW165AL-12)×3 ●再生周波数帯域:38〜30,000Hz ●感度:90dB ●インピーダンス:4Ω ●外形寸法:255W×1026Hx342Dmm ●質量:28kg

JBL「HDI-1600
●型式:2ウェイ・バスレフ型 ●ユニット:25mm径Teonex製Vシェイプ・リングダイアフラム・コンプレッションドライバー(2410H-2)+HDI-Xウェーブガイドホーン、165mmアルミ・マトリックスコーン(JW165AL-4) ●再生周波数帯域:40〜30,000Hz ●感度:85dB ●インピーダンス:4Ω ●外形寸法:230W×384H293Dmm ●質量:10kg

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