パナソニックから“究極の4K録画再生機”のコンセプトのもと、遂にフラグシップ・ディーガ「DMR-ZR1」が誕生しました。高き目標を成し得た実力は、どれほどの高画質・高音質を実現したのか。本稿ではUB9000との比較をはじめZR1ならではのクオリティと機能性を大橋伸太郎が徹底レビュー!
- 4Kチューナー内蔵ビデオレコーダー
PANASONIC
「DMR-ZR1」
¥OPEN(実勢価格¥360,000前後)
CONTENTS
・オール・イン・ワンモデルでNo.1の画質・音質を
・デジタル/ドライブ系強力な電源回路を投入
・ジッターやノイズの徹底対策でS/N感を飛躍的に向上
・ドルビービジョンに初対応&HDR調整機能も強化
・22.2ch音声をドルビーアトモスで楽しめる
・ZR1とUB9000のクオリティを徹底比較
・SPEC
オール・イン・ワンモデルでNo.1の画質・音質を
満を持して登場した「DMR-ZR1」は、最上位プレーヤーの「DP-UB9000」を超えるモデルとして誕生しました。DP-UB9000の筐体を踏襲していますが、再生専用機と同じ筐体にデジタル放送チューナーとHDDを詰め込めば、同等の画質・音質を担保するのが精一杯のはずです。
しかし、パナソニック開発陣の目指すものは違いました。オール・イン・ワンでありながら3年間の研究成果と技術の進歩を盛り込みDP-UB9000を超える画質と音質を、レコーダーとして実現させたのです。常識的な考えでは有り得ないのですが、両機の比較視聴でそれは現実に達成されていました。大いなる矛盾をたずさえてDMR-ZR1は私達の前にやって来たのです。
- 画質と音質を徹底的に追求した「DMR-UBZ1」の登場後、4K Ultra HDブルーレイに対応したプレーヤー「DP-UB9000」で“再生”のクオリティを極めたモデルが誕生。DMR-ZR1は、UBZ1のコンセプトに近似した、“録画と再生”のクオリティの徹底追求を4Kチューナー内蔵モデルで実現しました。録画機としての機能面も、2021年に登場した「DMR-4T402」から継承する部分も多く、隙のない作り込みが施されています。
まず、4Kディーガの系譜を辿ってみましょう。ブルーレイディーガの歴史を紐解くと2006年の「DMR-BW200」が初号機であり、それから16年間、技術の流れが一度も途絶えていません。4K Ultra HDブルーレイの再生に初対応したのは2015年のプレミアムモデル「DMR-UBZ1」。新4K衛星放送の録画に初対応したのは2018年登場の「DMR-SUZ2060」であり、さらにフラグシップの4K UHD BDプレーヤー「DP-UB9000」も登場します。
4Kコンテンツの再生機/録画機の先駆的モデルから、クオリティを徹底的に追求したモデルまで、決定版を打ち出し続けてきました。そして遂に4Kコンテンツの再生と録画の両方を兼ね、最高峰のモデルとして誕生したのがDMR-ZR1なのです。
デジタル/ドライブ系強力な電源回路を投入
DMR-ZR1はDP-UB9000にあったアナログ回路やアナログ音声出力端子を持たず、新4K衛星放送のチューナーを3基搭載しHDDを6TB内蔵した“デジタルトランスポート”と呼べます。2層構造トップパネル、センタードライブ構成、7mm厚フロントパネル、さらに4層構造ベースシャーシなど、高剛性で低重心、振動対策をしっかりと施した筐体は、DP-UB9000から継承しました。
- 写真上:DMR-ZR1の筐体内部/写真下:DP-UB9000の筐体内部
基本的な筐体構造やベースシャーシ、4ブロック独立構成などはDP-UB9000から踏襲。DMR-ZR1ではアナログ出力部を廃したため、電源基板、HDD、ドライブ、デジタル基板の4ブロック構成となっています。HDDの振動を抑制するため、3.2mm厚+0.8mm厚の2種類の鋼板を貼り合わせたHDD専用ベースを新搭載しています。
本機の最大の特長は、デジタル/ドライブ系に向けて技術を集中投下したことです。DP-UB9000はアナログ専用電源を搭載していたため、デジタル系の電源とドライブ系の電源を兼用した回路になっていましたが、DMR-ZR1ではそれを分離。その結果、光ディスクやHDDの回転系からのノイズがデジタル系に入ってくることを防止でき、各々がしっかりとした電源設計を確保できることで余裕度が圧倒的に上昇しました。電源回路を見直したことは、画質と音質の双方のクオリティアップに確実に繋がっています。それは“UB9000超え”のスタートとなりました。
- 写真上:DMR-ZR1の背面端子/写真下:DP-UB9000の背面端子
DP-UB9000で搭載されていたアナログ音声出力部(RCA×1、XLR×1、7.1ch×1)の搭載を、DMR-ZR1では搭載せず、デジタル部とチューナー部のみの入出力端子のみになっているため、非常にシンプルな背面端子構造となっています。電源部は変わらず着脱が可能な3芯タイプを採用しています。
アナログ音声出力を排除したスペースに、デジタル系の電源やデジタル音声出力などの回路を置き、電源回路のパターンを太くして全体のインピーダンスを下げることで、全体的にS/Nを高めてあります。デジタル系はクロックも重要であり、システム用クロックにDP-UB9000より位相ノイズへの性能が15dB程高い超低位相ノイズ水晶発振器を採用しました。あまりに性能がよく、軍事転用可能の扱いのため輸出規制の対象ということで躊躇いもあったと聞きましたが、クオリティアップの成果を体感すると、その決断にも納得がいきます。周りにチップフィルムコンデンサー、ローカルレギュレーターを施し、さらに電源対策しました。
- 写真左:DP-UB9000のデジタル/ドライブ基盤
写真右:DMR-ZR1のデジタル/ドライブ基盤
DP-UB9000ではアナログ専用電源部があり、デジタルとドライブの電源は兼用している基板構成でした。DMR-ZR1ではアナログ専用電源部のスペースを活かし、デジタル専用電源とドライブ専用電源(光ディスク/HDD)電源回路を分離しています。ノイズの相互干渉を防ぎ、さらに電源の余裕度も大幅に向上させています。
ジッターやノイズの徹底対策でS/N感を飛躍的に向上
AV用クロックに対しても、超低ジッターPLLを新規採用。従来のPLLの性能はpsオーダー(10の-12乗)ですが、今回それよりも性能を高めたfsオーダー(10の-15乗)のジッタースペックを持ったものを投入しました。電源関係もローカルレギュレーターやチップフィルムコンデンサーで対策しています。また、ルビーマイカコンデンサーと炭素被膜抵抗を合わせたUSBパワーコンディショナー回路を、USBのフロントはもちろん、USBのリア、HDMI映像・音声用、HDMI音声用、合計4個を搭載したことで、回路自体のS/Nを飛躍的に向上させています。
- システム用クロックには、DP-UB9000に採用したものから約15dB改善した、超低位相ノイズ水晶発振器を採用。併せてローカルレギュレーターとチップフィルムコンデンサーも、最適なパーツを導入しています。AVクロック用には超低ジッターPLLを採用し、ノイズ発生を徹底的に防いでいます。
- DP-UB9000では1個採用していたUSBパワーコンディショナー回路(ルビーマイカコンデンサー+炭素被膜抵抗)を、DMR-ZR1では4個に増やしています。HDMI映像・音声用、HDMI音声用、USBリア用、USBフロント用に設置することでS/Nを高めています。
HDMI端子は、映像機器からのデジタル系ノイズが入り込むことで音声用に乗ってしまう問題点がありますが、回路構成を見直し高周波対策パーツのチップビーズやチップフィルムコンデンサーを入れて回路系のノイズを取りS/N感と力強さのバランスを取れるように最適化されました。他にもLAN端子に低ジッタークロックを入れ、デジタル同軸出力にテクニクスのレファレンスシリーズ「SU-R1」と同等の出力トランスを用いてカスタマイズすることで、音質強化も成功させました。
- HDMI出力のノイズ対策を強化するため、HDMI映像・音声用端子とHDMI音声用端子の両方に、チップビーズとチップフィルムコンデンサーを追加。電源の高周波ノイズを低減し、映像・音声用端子から音声用端子へのノイズの回り込みを抑制しています。
- 水晶振動子と高性能発信ICを併せもった超低ジッター水晶発振器をギガビットイーサネット用ICの外部に設け、さらに電源ノイズの低減のためローカルレギュレーター+チップフィルムコンデンサーを追加することでVODやお部屋ジャンプリンク等に関わるノイズも除去しています。
- パナソニックのオーディオブランドであるテクニクスのReference Class「SU-R1」と同等の出力トランス、さらに真鍮削り出し端子を採用。シャーシグランドから分離させることで、ノイズの影響を受けない設計へと強化しています。
HDDはAV機器用に最適化したアクセス制御を導入したものが採用されており、パナソニック独自の出荷検査をクリアしたものだけを使用しています。併せて低回転タイプで振動が少なく、複数メーカーから吟味して音質的によいものに厳選HDDの回転で生じる振動を抑える専用のドライブベースも注目です。3.2mmと0.8mmの鋼板を貼り合わせて共振周波数を散らし、振動しにくい三層構造のドライブベースにがっちりと固定しました。HDDが動いているときに触ってみても微かにしかわからないくらいの低振動を実現しています。
- DP-UB9000で投入されていた高品位パーツをDMR-ZR1でも変わらず多数取り入れています。大容量電源用/音響用電解コンデンサーや銅箔巻きフィルムコンデンサー、高耐圧ショットキーバリアダイオードなど。
ドルビービジョンに初対応&HDR調整機能も強化
DMR-ZR1は、ホームシアターのいま、そしてこれからに機能面でも寄り添います。4Kディーガでは初となるHDR10+、さらにドルビービジョンのHDRフォーマットに対応。ドルビービジョン再生しながら同時に録画もでき、従来機では不可能であったマルチタスク性能も叶えました。新規設計したシステムのために増設したメモリーの活用で、機能面はさらに向上しています。
- リモコンの「i」ボタンを押す回数で表示内容を変更可能。1回目は再生時間などの簡易情報、2回目は再生ソフトの情報からHDMI出力の信号情報などの詳細表示、3回目はHDRの最大輝度や最大フレーム平均輝度などメタデータを表示することができます。
新4K衛星放送の基準である4K/60pから、映画の24pやドラマの30pといったコンテンツ本来のフレーム数に変換して出力が可能。4K/60pは、18GbpsのHDMI伝送では4:2:2でしか伝送できないのですが、これを24p・30pに変換することで4:4:4出力できるため、クロマアップサンプリング処理がフル活用できます。ディスプレイにもよりますが、色階調に富んだ映像を表現できる好結果が生まれました。
- 映画作品もドラマ作品も4K/60p(4:2:0)で放送されている新4K衛星放送の信号をDMR-ZR1で映画は4K/24p(4:4:4)、ドラマは4K/30p(4:4:4)に変換することで、放送局側の基のフレームレートに戻した映像を楽しめます。画質設定の「24p/30p変換出力」の項目から設定が可能です。
- HDMI接続設定のなかにある「24p出力」の項目で「テレビでネット」をオートに設定すれば、4K/24pで制作・配信されているAmazonプライム・ビデオの映画作品を、オリジナルと同様の4K/24p出力で再生することができます。
4Kディーガには「ダイナミックレンジ調整」と「システムガンマ調整」のHDR調整機能があります。両方を組み合わせると効果が大きいですが、2つのパラメーターを調整するのは難しく、今回新たに連動モードを作りました。ダイナミックレンジを動かすと、自動的にシステムガンマがついて来ます。システムガンマ機能は従来±6段階でしたが、12段階になり1/2ピッチで微調整が可能となりました。録画機能に目を向けると、今回から長時間1.3倍録画モードを搭載しているのでBD-R・一層ディスクにちょうど2時間で収録できます。
- HDR映像の調整は難しく、通常の場合はダイナミックレンジ調整とシステムガンマ調整を組み合わせて、かつ別々で調整しなければなりませんでした。「ダイナミックレンジ/システムガンマ連動調整モード」を新採用したことで、ダイナミックレンジ調整だけを設定するだけで自動的にシステムガンマ調整の数値も自動的に連動するようになりました。
- HDR調整の項目にある「ダイナミックレンジ/システムガンマ連動」を入にすることで「ダイナミックレンジ調整」と「システムガンマ」が連動して調整できるようになります。システムガンマの調整精度もDP-UB9000から2倍に向上しています。
22.2ch音声をドルビーアトモスで楽しめる
ドルビー社との共同開発で、新4K衛星放送のMPEG4-AACの22.2chの音声信号を、DMR-ZR1でドルビーアトモス方式に変換する機能を実装しました。22.2chをフルデコード、リニアPCMの22.2chを作り出し、ドルビーアトモスのメタデータを送れるため、ドルビーアトモス対応のAVアンプなどがあれば22.2ch音声の番組をイマーシブサウンドで体感できます。
- 新4K衛星放送で採用されている22.2ch音声を、ドルビーアトモス信号に変換して出力する機能を搭載。ドルビー社と共同開発した機能であり、DMR-ZR1が業界初搭載となりました。ドルビーアトモスで出力できるようになったことで、ドルビーアトモス対応のAVアンプなどで再生可能となります。
他にも放送録画の映像に焼き込まれた字幕にも輝度低減機能が使えたり、GUIをブラックベースにすることで見やすさを追求。レコーダーでは初となる自照型リモコンは、ディスク再生中や録画番組の編集中の誤作動を防ぐ工夫も盛り込まれています。生活家電から住宅設備まで広大な守備範囲を持つ世界最大級の企業の深奥で、これだけマニアックで濃密な映像音響機器が3年にわたって粛々と育っていたことに鳥肌が立つ思いです。しかしDMR-ZR1の真の凄さが、その画と音にあるのはいうまでもありません。
- 画質調整メニューなどのGUIをDP-UB9000からブラッシュアップ。眩しさを抑えた配色でシアターユースにも最適で、映像の邪魔をしないデザインに変更しています。また「HDRディスプレイタイプ」の設定変更もスムーズになりました。
- 「映像字幕の輝度低減」で、新4K衛星放送やHD放送の映像と一体化している字幕に対しても調整が可能となりました。映像シーンをリアルタイムに分析し、暗いシーンでは字幕の眩しさを抑えて表示でき、効果は強/弱/切から選択できます。
- 暗室でも使いやすい、同社初の自照型リモコンを採用。再生キー近辺から再生停止に繋がってしまうボタンの配置を止め「音声」「再生設定」「字幕」といった再生関連のボタンを配置。また、ディスク再生/番組編集中は、「ホーム」「番組表」のボタンを無効にしています。
ZR1とUB9000のクオリティを徹底比較
残存ノイズが一掃され高純度 音質も鮮鋭感と量感が豊かに
4K UHD BD発売から6年、新4K衛星放送の開始から4年、そしていまVOD全盛時代、4Kコンテンツのマルチプレックス時代を体現する、待望の映像音響機器の画質・音質を検証してみましょう。
全コンテンツに共通して印象付けられるのは、残存していた映像ノイズが一掃されたことです。慈雨が降り注いで去った朝のように汚れや曇りが洗い流され、みずみずしく澄み切った映像です。DP-UB9000と比較してみましょう。最大の差はコントラストレンジ、本機は明暗のレンジがより大きく伸びやかです。『8K空撮夜景 SKY WALK』の明部は輝きを増し汚れがなく純度が高く、暗部は黒が澄んで落ち着いています。夜闇に埋もれた部分の抜けがよくなり透明感が豊か。遠景の灯火が滲んで甘くならず地平線へ自然に遠ざかっていきます。実景を肉眼視したようです。
『DUNE/デューン 砂の惑星』は、引き算の寒色系色彩の硬質な映像美学が特徴。一段と黒が引き締まり暗部階調がなめらかで、明部の霧や砂の粒状感が細やかさを増しています。大画面効果を狙った雄大な構図が頻出する一方、細部を疎かにしない表現が問われますが、大画面になるほど本機の情報量とコントラストレンジ、豊かな階調がものをいいます。音質も鮮鋭感豊かな印象だったDP-UB9000が、重厚なバランスに聴こえるほどオブジェクトの鮮度と量感、移動のスピードが切れ味を増しています。従来のVOD視聴はどこか色彩に混濁感、階調に粗さがありもどかしかったのですがDMR-ZR1でNetflix『チック、チック…ブーン!』を再生すると、ダイレクト感が豊かでVODであることを忘れさせるほどです。音質もタイトで鮮度が豊か。本機の進境が大きく感じられました。
新4K衛星放送『スパイの妻』は、ディスクに収録された録画番組で検証。DMR-ZR1は、ダイナミックレンジと特に明部表現に優れ、蒼井優の瞳に宿る輝きが美しいです。22.2ch/ドルビーアトモス変換の音質は、蒼井優が船底に潜むシーンの不気味な暗騒音が、イマーシブ化で遠近高低差をもって聴き手を包囲しひたひたと迫ります。DMR-ZR1の同軸デジタル出力も聴いてみましょう。諏訪内晶子のバッハは中央定位が確かで、音のふくらみが美しく、残響成分が豊かな劇場的で伸びやかな演奏です。ボーダーレス再生機として、現在最高性能ぶりを発揮してくれました。
- DMR-ZR1画質・音質傾向表
- DP-UB9000画質・音質傾向表
SPEC
[DMR-ZR1]
●デジタルチューナー:地上×3、BS/CS110度×3、4KBS/CS110度×3 ●内蔵HDD:6TB ●主な録画可能メディア:BD-R/-RE、DVD-R/-RW/-R DL/-RAM 他 ●主な再生可能メディア:Ultra HD Blu-ray、BD-Video、BD-R/-RE、DVD-Video、DVD-RAM、DVD-R/-RW、DVD+R/+RW、CD、CD-R/-RW 他 ●最大サンプリン周波数/量子化bit数:PCM 384KHz/32bit、DSD 11.2MHz/1bit ●主な入出力端子:HDMI出力×2、光デジタル音声出力×1、同軸デジタル音声出力×1、USB入力×2(3.0/2.0)、LAN入力×1 ●ワイヤレス機能:IEEE802.11a/b/g/n/ac ●消費電力(待機時):約30W(約0.9W クイックスタート切時) ●外形寸法:430W×87H×300Dmm(突起部含まず) ●質量:約13.6kg