ホームシアターの総合誌「ホームシアターファイルPLUS」でも執筆されている伊尾喜大祐さんが、夢の映画館「シン・イオキネマ」づくりを決意! 本連載では、映画館づくりを決意したきっかけから完成するまでの模様を完全密着ドキュメントでお送りします。どのタイミングでどんなことが進行するのか? 映画館づくりにどんな想いがあったのか? 読んだらホームシアターを作りたくなること間違いなし!
限りなく“本物の映画”に触れられる場所へ
さて。シン・イオキネマの大きなテーマは、「シアタールーム」であり「仕事部屋」であり、それ以上に「家族の団欒の中心」です。僕も妻も無類の映画好きであり、そんな両親を見て育った息子も、映画館やホームシアターでの鑑賞に喜びを感じはじめたようです。『となりのトトロ』や『仮面ライダー』の映画など、「パパの部屋の大きな画面で一緒に見たい!」ということも多くなってきました。妻からも「マイ・ファースト・ムービー」という面白いアイディアが出ています。友人家族たちを招いて、大人たちが子どもの頃に観た思い出深い映画を上映した後、たとえば劇中の食事をキッチンで再現してみたりする、映画体感イベントです。
僕は1978年の夏の日、東京・京橋にあったシネラマ大劇場・テアトル東京で観た『スター・ウォーズ』に衝撃を受け、その映像と音響を家庭で再現すべくオーディオビジュアルにのめり込み、遂にはパッケージソフト制作を生業にしてしまいました。長年にわたって映画のつくり手たちの思いやこだわりを見つめてきたからこそ、画面の隅々までつくり込まれた映像や、サラウンド上映を前提につくられた音…、可能な限り「本物」に近い映画に触れることで、感性を豊かに養ってほしいと願うようになりました。また、作曲家だった叔父が1982年10月1日の発売初日に買い込んだ、ソニーの世界初のCDプレーヤー+真空管アンプ+アルテックのスピーカーから鳴り響いたビリー・ジョエルの『ニューヨーク52番街』の音も強烈に印象に残っています。
映画や音楽鑑賞をスマホで完結させるのはあまりにも寂しい。ファスト映画なんて冗談じゃないのです。こうしたオーディオビジュアル体験を子供たちが重ねていく、そんなホームシアターであってほしい。願わくば父の手がけた映画ソフトも楽しんでくれたら、これに勝る幸せはないのです。
次回はこちら>>>第20回「再生の軸となるメインスピーカー」
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旧イオキネマとの別れに零れる涙と誓い
2021年1月、いよいよ旧宅の解体がはじまることになりました。仮住まいへの引越で映像機材やパッケージソフトの山もすべて運び出され、旧イオキネマもとうとう空っぽに。そして解体工事の前日に、長年住み続けた家に、家族みんなで別れを告げに来ました。がらんとしたシアタールームを娘が大喜びで走り回るのを見ながら、「一体ここで何本の映画を観たことだろう?」と、この四半世紀の思い出が走馬灯のように駆け巡って胸がいっぱいになったその時…。息子が「寂しい」と泣きはじめました。
すでに彼はホームシアターを愛してくれていたのだなあと、思わぬリアクションに僕も妻ももらい泣きしてしまいました。そして決意を新たにしました。これまで以上に素晴らしい家を、ホームシアターを、時間を、家族とともにつくり上げていこうと。その後、諸事情で着工が遅くなったものの、4月には地鎮祭を行い、いよいよ本格的に工事がスタートしました。7月には上棟式も行い、11月末の完成に向けて今日も急ピッチで工事が進んでいます。
- 2021年1月、旧伊尾喜邸の解体がはじまりました。伊尾喜さんは約24年間住んでいたというから、住まいが壊される様子に感慨もひとしお。
- 旧居が解体される様子に、お子さんの陽太君も一抹の寂しさを覚えているようです。
- 長い時間を過ごしてきた愛着のあるホームシアターもあっという間に解体され、瓦礫の山に。
- 2021年4月、着工に先立ち、土地を守る神様に工事の安全を祈願する地鎮祭を開催。写真は地鎮の儀式(鍬入れの儀)の様子。
- いよいよ基礎工事開始。コンクリートを打設した後、固定するための型枠を設置。その後、一定の養生期間を設けてから型枠を取り外し、基礎工事が完了。
- 脱型後の基礎。シアタールームはこの写真の辺りにつくられる予定です。
- 建物の骨組み(躯体)を組み上げる工程、上棟がスタート。土台に柱や梁、母屋などの構造材を組み上げていきます。
- 7月には上棟式を行なった。上棟式とは、無事に棟が上がったことを喜び、感謝する儀式のこと。工事に関わった人が一堂に会し、今後の工事の安全を祈願しました。