VGP phileweb

レビュー

  • 「生形三郎のSPEAKER JOURNEY」 世界のスピーカーブランド 連載第8回
    ELAC(エラック)
    UFR52

    VGP 取材・執筆 / 生形三郎
    2022年7月18日更新

    • VGP審査員
      生形三郎

名エンジニアが手掛けるラストモデル

古くはレコードプレーヤーやMM型カートリッジの開発特許などでも名を馳せた、ドイツの名門スピーカーブランド「エラック」。ハイルドライバー型の「JETトゥイーター」やアルミとクルトミューラー製ペーパーのハイブリッドコーンドライバーを用いるなどして、常に伝統的でかつ魅力的なサウンドを提供し続ける人気ブランドです。

そんな同社に新たな血として加わったのが、KEFやTADなどの名門ブランドで長年にわたって活躍してきた名エンジニアのアンドリュー・ジョーンズ。2015年に同社に入社したアンドリューは、ドームトゥイーターやアラミドファイバー・コーンによる「Debutシリーズ」や、JETトゥイーターを採用した「Carinaシリーズ」などを手掛けてきました。本機は、アンドリューの十八番ともいえる同軸ユニットを搭載した「Uni-Fiシリーズ」のリファインモデルで、奇しくも彼がエラックで手掛けた最後のモデルとなりました。

  • フロア型スピーカー
    ELAC
    「UFR52」
    ¥297,000(税込/ペア)
  • スピーカー界の巨匠と謳われるアンドリュー・ジョーンズが手掛けるエラックの「Uni-Fi Referenceシリーズ」。エンジニアの十八番の同軸ユニットを搭載したフロア型スピーカーである「UFR52」を中心に、生形氏がクオリティをチェックしていきます。

第7回「POLK AUDIO(ポークオーディオ)」

大幅に帯域幅を広げた同軸ドライバー

Uni-Fi Referenceシリーズのフロア型スピーカー「UFR52」の特長は先述の通り、同軸配置されたトゥイーターとミッドレンジを備えることです。「ユニファイ・コアキシャル・ドライバー」と呼ばれる同軸ドライバーは、25mmソフトドーム・トゥイーターと100mm径 アルミ振動板ミッドレンジで構成され、オリジナルのUni-Fiに比べ、トゥイーター部は動板外周のエッジ部分を改良し高域方向に10,000Hzも伸長されたほか、低域側の再生能力を向上させたことによって、ミッドレンジ・ドライバーとのクロスオーバー周波数が2,700Hzから1,800Hzにシフトされ、大幅に担当帯域を広げることに成功しています。

また、コーン自体の刷新に加えて、ボイスコイルの大型化に伴ってより強力なマグネットを搭載するほか、ミッドレンジやウーファーは高剛性なアルミ・ダイキャスト製のフレームに収められているなど、ドライバー周りに大幅なアープデートが施されています。

  • 25mm クロスドーム トゥイーターと100mm モールド・アルミニウム・コーン ミッドレンジによる同軸ドライバー「ユニファイ・コアキシャル・ドライバー」は、トゥイーターの振動板外周エッジの改良、ミッドレンジは大型化したボイスコイルを強力なネオジウム・マグネットでドライブするなど、大幅な改善が図られています。
  • UFR52には、新開発の130mm アルミニウム・コーン ウーファーを3基搭載。ニュー・ディッシュ形状の高剛性アルミ単板の採用、マグネットとボイスコイルの大型化、アルミ・ダイキャスト性のバスケット・フレームへの取り付けなど、細部までブラッシュアップされています。

キャビネットの設計から強度まで刷新

さらに、大きな特長として、それらドライバーの性能を十全に引き出すキャビネット自体の刷新も注目のポイントだ。本シリーズのエンクロージャーは、「Debut Referenceシリーズ」で採用された技術が踏襲されており、バスレフポートに「デュアルフレア・スロットポート」を搭載。これは、分厚い底板を円筒状に刳り貫き、そこから貫通させたダクトをフロント・バッフル下部にあるフレア型ポートに繋げたもので、ポートノイズの抑制しつつ高い剛性を実現します。加えて、トップパネルとサイドパネルを強固に接合する「フル・ペリメター・ブレース」工法を用いることによって、キャビネットの強度を大幅に引き上げています。

実際にスピーカーの重量も、スピーカー自体の若干サイズアップはあるものの、オリジナルの「FS U5 SLIM」の16.8kgに対して今回の「UFR52」では重量23.8kgと、大幅な重量アップが実現されています。見た目的にもスマートなスリム設計や、ユニットフレームを縁取るリングやフットのネジ部分にあしらわれたシルバー素材やラウンドエッジ・ボディが、上質な佇まいを演出している点も見逃せません。

  • ユニットドライバーの性能を最大限に発揮させるため、デュアルフレア・スロットポートを搭載。底板を円筒状にくり抜き、そこから貫通させたエアダクトをフロントバッフルの下部に設けたフレア型ポートに繋げることで、ダイナミクスとS/Nの向上に寄与しています。

クリアな音色と全帯域で密度の高い表現

今回、試聴は通常の2ch再生に加えて、シリーズラインアップをフル活用して、サラウンド(5.1ch/7.1ch)及び3Dサウンド(ドルビーアトモス)を試聴しました。 一聴して感じるのは、突出した空間描写能力の高さによる、立体的な音像と広大な音場表現です。スピーカーの後ろ側に各楽器がしっかりと定位するほか、オーケストラなどでは、現実空間で感じるような極めて深い奥行き表現までもが実現されており、思わず舌を巻いてしまいます。音色表現も、無用な脚色がなくクリアなだけではなく、どの音域もしっかりとした密度があり、身の詰まった充実味のある音で音楽を楽しませてくれます。また、先述の剛性確保やポート技術の恩恵か、スリムタイプのフロア型とは思えぬ剛性感の高い低域再生が実に快い。駆動に関しても、プレーヤーアンプの能力をしっかりと受け止めてその魅力を引き出しているばかりか、まだ余力さえ感じさせる鳴りです。音楽のどこかが突出するのではなく、全体を客観的に俯瞰させるその采配は、まさに“リファレンス”たる性能で、同社の新たな中核シリーズを担うにふさわしいものと実感しました。

  • フロア型スピーカーのUFR52のステレオ再生による基本的なクオリティチェックを行うだけでなく、ブックシェルフ型「UBR62」とセンタースピーカー「UCR52」を追加した5.1chシステムによるサラウンド音声も確認しました。
  • 「UFR52」の音質傾向

推薦ソフト3選で聴く!

  • <ロック>
    『The Steven Wilson Remixes』
    Yes
    Rhino Atlantic
    2018年作品
    ハイレゾ音源で試聴

定位が極めて明瞭で実態感に富む

定位感が良好で、楽器の音が分離よく立体的に描写されます。3D的な世界観で音が立ち現れるので、音が迫るというよりも、両スピーカーの間に展開されるようなイメージ。低域方向も十全な反応があります。冒頭のアコースティックギターの定位から極めて明瞭で実体感に富み、ドラムスのハイハットも立体的なサウンド。エレクトリック・ベースやキックドラムのサウンドも充実しつつアタックや余韻が濁らず明瞭で、完成度の高い音楽再生が堪能できます。

  • <ロック>
    『HEART(Remastered 2022)』
    L’Arc~en~Ciel
    Sony Music Labels Inc.
    2022年作品
    ハイレゾ音源で試聴

楽器の分離と音色の瑞々しさ

この楽曲でも、やはり楽器ごとがよく分離しているとともに、歌声やアコースティックギターの音色に瑞々しさがよく出てきて、音源の魅力が引き出されています。とりわけドラムスは、様々な音色のシンバルが勢いよく叩き分けられている様や、タイトでピッチの高いスネアドラムやタムタムといった、ドラマーによる個性が生き生きと再現。また、歌声だけでなく歪まされたエレクトリックギターが湛える湿度感などまでもが瑞々しく心地よいです。

  • <クラシック>
    『MAGNIFICAT』
    Nidarosdomens jentekor & TrondheimSolistene
    2L
    2014年作品
    BDミュージックで試聴

歌声のレイヤーもわかるリアルさ

コーラスの音色がなんとも美しく、まるでスピーカーの少し奥に演者が広がって歌っているかのような描写が絶品。それらは、まるで青白い光の束が差すかのような、天上的な清々しさを纏っています。ハーモニーを形成している歌声のレイヤーがよく分かるほどリアリティが高く、透明感に満ちたサウンドを楽しませてくれます。低域の厚みも十二分でとにかく心地が良いサウンド。3D再生も試しましたが、2Dの5.1chでも非常に充実感があり立体的な再現が楽しめました。

SPEC

[UFR52]
●形式:3ウェイ・バスレフ型 ●ユニット:25mm クロスドーム トゥイーター×1、100mm モールド・アルミニウム・コーン ミッドレンジ×1、130mm アルミニウム・コーン ウーファー×3 ●再生周波数帯域:40~35,000Hz ●クロスオーバー周波数:220Hz、1,800Hz ●能率:86dB ●インピーダンス:6Ω ●外形寸法:234W×995H×338Dmm ●質量:23.8kg