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  • 「基礎から学ぶ、1歩先のホームシアター」第6回 シアターファンが知っておきたい
    「メタバース」の基礎
    シアターとの連動にも期待したい仮想空間での新体験

    取材・執筆 / 鴻池賢三
    2022年7月28日更新

    • VGP審査副委員長
      鴻池賢三

仮想空間での相互コミュニケーション

「もっと深くホームシアターを楽しみたい」、「映像と音響の技術を知りたい」、そんな声に鴻池賢三氏が応える連載「基礎から学ぶ、1歩先のホームシアター」。今回はさまざまな分野で注目を集めている「メタバース」について解説していきます。

何かと話題の「メタバース」。AV機器とも密接な関係があります。今回は「メタバース」の基本を解説しつつ、ホームシアターおよびオーディオビジュアルの視点で将来像を読み解きます。我々の暮らしや趣味は、どのように進化するのでしょうか? そもそも「メタバース」とは、Meta(メタ/超越)とUniverse(ユニバース/宇宙)を組み合わせた造語。1992年にアメリカのSF作家ニール・スティーブンソンが、著作『Snow Crash』で仮想空間の名称としたのが始まりとされています。広さ、時間や距離の制約が皆無に等しいという点では、確かに宇宙をも超越した存在に思えます。

近年、コンピューターやインターネット技術の発達で現実味を帯びてきましたが、特に、旧フェイスブックが社名を「メタ」に変更して話題になり、一気に盛り上がりを見せています。現在の実情に照らすと、クラウドを含むコンピューター内に構築された仮想空間にアバターを用いて参加し、相互コミュニケーションが可能なサービスと捉えると理解しやすいでしょう。

  • META「Horizon Workrooms」
    メタが開発した「Horizon Workrooms」は、利用者が物理的にどこにいても、同じバーチャルルームに集まって仕事ができるビジネス向けVRプラットフォーム。VR空間を活かした便利な機能はもちろん、Oculusアバターや空間オーディオを活用することで、より現実に近い感覚で会話が可能です。
  • Microsoft「Mesh for Microsoft Teams」
    マイクロソフトが提案する「Mesh for Microsoft Teams」は、Teamsの既存機能を基盤に、よりチームのコミュニケーションを重視して設計された仮想キャンパスです。自身でカスタマイズしたアバターで自由に交流することができ、またイマーシブ空間を独自に構築可能です。
    ※正式版リリース未定(2022年3月時点)

第7回はこちら>>>シアターファンが知っておきたい「HDRと視聴環境最適化」の基礎

第5回はこちら>>>シアターファンが知っておきたい!「mini LED」の基礎

VRゴーグルでさらにリアルに体感できる

ゲームは既にメタバースが常識。前作でも人気を博したSIEの最新アドベンチャーゲーム『Horizon Call of the Mountain』も、メタバースの要素を備えています。また、ビジネスやコミュニケーションの場も自身に似たアバターを用いればよりリアルに。メタやマイクロソフトが覇権争いに躍起になっているのは、日々報道の通りです。ほか、リアルな街を模したショッピングエリアやエンターテイメントにも広がりを見せ、注目を集めています。

  • 「バーチャル渋谷 au 5G シブハル祭 2022」
    都市連動型メタバース「バーチャル渋谷」と「バーチャル大阪」を舞台に、人気アーティストたちが出演する音楽ライブや特別イベントも開催されます。
  • ソニー・インタラクティブエンタテインメントPlayStation®4用ソフトウェア
    ※PS4版のアップグレードとしてVRに対応
    『Dreams Universe』
    ©️ 2020 Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Media Molecule.

こうしたメタバース空間によりリアルに没入するには、視覚、聴覚、嗅覚、温度や振動といった情報を、実際の感覚として与える必要があります。そのためのデバイスとして注目を集めている筆頭が、VRゴーグルです。ヒトが得る情報の約80%は視覚からといわれていて、まず視覚を掌握するのは合理的といえます。VRゴーグルは、コンテンツが対応していれば立体映像に加え、見たい方向を自由に見ることができます。装着による負担感は少なくありませんが、自身を取り囲む大きなスクリーン映像が不要と考えれば、現時点で現実解といえるでしょう。

VRゴーグルの映像をよりリアルに感じるには、やはり高画質であることが重要。超高精細で画素の粗が見えず、充分な輝度とコントラスト、残像の少なさが決め手といえ、映像装置で技術を高めてきた日本企業の活躍が期待できます。ハードウェアとしては、メガネのような軽量化を目指すシフトールの「MeganeX」、プラットフォームも提供しているソニー・インタラクティブ「PlayStation VR2」ほか、世界に10億人を超えるユーザーを持つメタの「Meta Quest2」などが話題です。

  • Shiftall(Panasonicとの共同開発)
    「MeganeX」
    ユーザーの声に応えて軽量化を追求したVRヘッドセット「MeganeX」は、2K/10bitとHDRのOLEDディスプレイを搭載し、世界最高水準の超高解像度を誇ります。長時間プレイでも快適に楽しめる装着感を実現。
  • ソニー・インタラクティブエンタテインメント
    PlayStation VR2
    「PlayStation VR2」は、トラッキング機能やPS VR2 senseコントローラーなど、より直感的操作に富んだ新機能も多数実装されます。
    ©️ 2022 Sony Interactive Entertainment Inc. All Rights Reserved.

自由な視点移動など新しい体験が可能

以上の通り「メタバース=VRゴーグル」ではありません。合理的な手段の一つに過ぎず、オーディオビジュアル関連技術の進化によって、カタチは代わって行くでしょう。ホームシアターにおいては、8K映像が身近になってきました。

そもそも8Kは「超臨場」としてNHKが行き着いた解像度。言い換えると、ヒトが映像を見てリアルに感じる終着点。放送やネットなどで8K映像を目にする機会も増えてきましたが、被写体が実寸を超えたり、画面の中で自由に視点を移動できるなど、新しい体験が可能です。前者は美術館での絵画鑑賞、後者は演劇やコンサートなどの舞台が好例で、ホームシアター環境が整えばVRゴーグルよりも快適、イマーシブサウンドも伴った、より高度な「メタバース」体験が期待できます。将来的には裸眼3Dも登場するでしょう。ホームシアターに興味を持つ本誌の読者にとっても、メタバースは、きっと新しい楽しみになるでしょう。

  • 高解像度やイマーシブサウンドでリアリティと没入感を追求するホームシアターは、広大な仮想空間を主観で体験するメタバースの受け皿として大きなポテンシャルを秘めています。新たな楽しみと、オーディオビジュアル関連技術の進化に今後も期待大です。