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  • 「基礎から学ぶ、1歩先のホームシアター」第7回 シアターファンが知っておきたい
    「HDRと視聴環境最適化」の基礎
    着実に進化していくHDRフォーマット

    VGP 取材・執筆 / 鴻池賢三
    2022年8月1日更新

    • VGP審査副委員長
      鴻池賢三

実景を見ているかのような視聴体験

オーディオ・ビジュアル関連で出てくる「HDR」(High Dynamic Range)とは、明暗の表現をよりダイナミックに表示しようとする技術です。そもそもテレビのデバイスがブラウン管から液晶や有機ELへと移行したことで、その明るさ性能を高画質に繋げようという流れが生まれ、これまでの非HDR(SDR/Standard Dynamic Range)映像と大きく異なる映像表現を実現しました。陽光の力強さ、星空や夜景のキラキラ感なども肉眼で実際の風景を見たかのように表現することができ、リアルで感動的な視聴体験をもたらしてくれます。

ちなみに、スマホの写真撮影で出てくるHDRは、空の雲など明るい部分が白飛びせず、また日陰など暗い部分が黒潰れしないよう、複数枚の画像を合成し、結果ダイナミックレンジを「圧縮」するもの。同じHDRでも、似て非なるものなのでご注意。ここで解説する、テレビやプロジェクターで利用する「HDR」については、いくつかの方式があり、それぞれの特徴を整理しましょう。

  • ●HDRフォーマット
    HDRフォーマットはUltra HDブルーレイなどのパッケージメディアから、動画配信サービスまで広く採用されています。HDR10を基本として、HLGは放送用の規格です。またHDR10+とDolby Visionは動的メタデータを持つフォーマットで、再生機器がそれぞれの規格に対応していれば、映像作品のシーン/フレーム単位に含まれるメタデータを読みとって映像を出力側の映像機器がマッピングできます。
  • ●関連機能
    「Dolby Vision IQ」と「HDR10+ Adaptive」とはHDR規格そのものではなく、視聴環境に合わせて映像の画質を調整するテレビ側の機能です。2022年3月に「Dolby Vision IQ」対応テレビ向けの新機能として「Dolby Vision IQ Precision Detail」が発表されるなど、アップデートされています。

第8回はこちら>>>シアターファンが知っておきたい!「量子ドット」の基礎

第6回はこちら>>>シアターファンが知っておきたい「メタバース」の基礎

HDR方式には各々の特性がある

比較的早い段階で規格化され、基本フォーマットといえるのが「HDR10」です。「HDR対応テレビ」といえば通常この「HDR10」に対応していることを意味します。明暗は10ビット(最大1024段階)で表現され、最大輝度(Max CLL)はコンテンツ毎に制作者が1000~10000ニットの間で一定の値を静的に指定します。この値はメタデータ(付加情報)として再生装置に伝えられ、テレビやプロジェクターの輝度表示能力に応じて定めたEOTF(Electro-Optical Transfer Function)という、データとしての輝度情報と画面で表示する明るさの関係に沿ってマッピングします。

「Dolby Vision」は最大12ビットで階調も最大4096段階と多く、さらにフレーム毎でメタデータを動的に扱えるのでHDR10よりも明暗がダイナミックかつ、暗いシーンでは暗部に多くの階調を配分でき、よりなめらかな階調表現が可能な仕組みといえます。ただし、プレーヤーや映像装置も同方式に対応している必要があり、少し高度なものといえます。「HDR10+」は、HDR10をベースに動的なメタデータが扱えるようにしたものです。

「HLG」は放送用途HDRフォーマットで、NHKとBBCが共同開発したものです。従来のSDRとの互換性を重視した設計で、スポーツ中継などのライブコンテンツのように、リアルタイムでエンコードおよび伝送するのに適した特性を備えています。

  • 4K有機ELテレビ
    PANASONIC
    「LZ2000シリーズ」
  • 4K液晶テレビ
    PANASONIC
    「LX950シリーズ」

視聴環境に合わせて映像を“最適化”する

テレビの輝度表示性能が向上し、HDRの明暗がよりダイナミックに表示できるようになったのは大きな進歩といえますが、視聴環境によっては眩しく感じることもあり得ます。せっかくの高性能も、度が過ぎて目が疲れれば本末転倒。

そこで注目したいのが「Dolby Vision IQ」や「HDR10+ Adaptive」といった、いわば映像の自動調整機能です。テレビに搭載されたセンサーで視聴環境の明るさを、またコンテンツの映像の明るさをメタデータなどから推定。暗い部屋では画面全体が明るく、眩しく感じるシーンは輝度を控えめに、逆に明るい部屋なら夜景などの暗いシーンは、埋もれがちな暗部の階調がきちんと見えるように補正するといった具合です。視聴者は調整の手間なく、また刻々と変化する光環境を意識することなく、制作者の意図した映像が見られるという訳です。

ちなみに対応機種はハイエンドモデルを中心に拡大中。パナソニックと東芝は両対応、LGエレクトロニクスはDolby Vision IQ対応モデルを発売中。2022年度はさらに増える見込みです。

  • 「暗い部屋では画面全体が明るく、眩しく感じるシーンは輝度を控えめに」
  • 「明るい部屋なら夜景などの暗いシーンは、埋もれがちな暗部の階調がきちんと見えるように」
  • 主なブランドの視聴環境最適化の対応表
    調整機能に対応したテレビは、ハイエンドモデルを中心に拡大しています。テレビの輝度表現の性能の向上はもとより、制作者の意図に忠実な映像表現を実現させるためにも、高精度なトーンマッピングの重要性が増しています。
    ※2022年6月24日時点、SAMSUNG、TCLは海外モデル